第65話 誕プレ大作戦 シルヴァ編 #シルヴァ視点
さて、どこから回ろう。
横浜駅の人混みを歩きながら、アタシは頭の中で店を回る順番を考えていた。
今日は珍しく、チャンネルの女子メンバーだけで横浜に来た。
楓乃と悠可と、アタシ。
目的は、大地の誕生日プレゼントを買うことだ。
でも、なんか話の流れから『各自で買ってどれが一番喜ばれるか勝負!』ってことになって、今は別行動。
大地の、記念すべき、三十路の誕生日。
変なプレゼントは、贈りたくない。
アタシはまだ二十歳にもなってないから、三十歳になる気持ちは、ぶっちゃけ全然わかんない。普通に考えればたぶん、三十歳って『おっさん』て思われる年齢なんだと思う。
「…………」
大地の、いつも自信なさげな顔を思い出してみる。
髪は短めに切り揃えられていて、目元はいつも穏やかで優しげ。
鼻は結構形がよくて、唇は少し厚ぼったい。
頼りなげな猫背で、すぐ照れて後頭部をポリポリかく。
でも実際、本当にいざってときは誰よりも頼りになって、それでいて年下のアタシらにも、全然偉ぶらない。
そういう、若い男にない落ち着きみたいなトコロは、確かに大人だなって思う。
だけど――
「……そんな、老けてないし」
ふと、口から言葉が出ていた。
まだまだ、大地は若いしっ、おっさんじゃないし!
「……こほん」
通行人がこっちを見て不思議そうな顔をしていたので、咳払いして誤魔化す。
ったく、チョロすぎだっつの、アタシ……。
なにおっさんかどうかぐらいで、ムキになってんだし。
別におっさんでもいいじゃん。
大地は大地なんだから……。
「……はず」
なんか、考えてたら顔が熱くなってきた……。
マジでアタシ、チョロインかよって。
「行かなきゃ。できるだけ店回らないと」
いつまでも一人でヤキモキしてらんない。
気を取り直して、アタシは目的地へと歩き出す。
大地に贈る誕生日プレゼントは、決まっている。
はじめて一緒に動画を撮って、助けてもらったときに約束したもの。
――スーツを、贈ろうと思う。
できれば一緒にお店に行って、大地の身体に合わせてちゃんと採寸して、アタシ好みに生地とか色とかデザインとか選んであげて、フルオーダーしたものを買ってあげたかったけど……こういう展開になったからには、四の五の言ってらんない。
大地の誕生日、喜んでほしいもん。
「大丈夫、準備万端だし」
こんなこともあろうかと、お気に入りのデカいショルダーバッグの中には、大地から取り上げたリクルートスーツの上下、ジャケットとスラックスが入ってる。
サイズを選ぶときに便利だからって持ってきたのもあるけど、大地のヤツ、これがあったらまた潜りに行くんじゃないかと思ったから、黙って持ってきてやった。
アイツ、直近でSEEKsと潜ったとき、スキルの多重使用を繰り返したせいで、気を失ったらしいから。
ったく、ちゃんと事前に言っときなさいっつの……めっちゃ心配したっつーの。
…………?
「べ、別にスーハーとかしてないしっ!?」
誰かに変な指摘をされたような気がして、思わず叫んでしまう。
またもや、何人かが目線を向けてきたので、咳払いして誤魔化す。
はぁ……なにやってんだ、アタシったら。
前はもっと、しっかりしてたはずなんだけどなぁ。
それもこれも、全部大地のせいだっつの!
「……楓乃と悠可は、なに贈るんだろ」
二人がなにを贈るつもりなのか、ふと気になってくる。
悠可の突飛な提案で、チャンネルメンバー全員で同居することになったけど……本当ここまで、毎日毎日笑ってばっかり。
大地を誰が振り向かせるか、みたいな感じになってるけど、楓乃と悠可とも仲良くなれて、一人で動画を撮っていた頃より、はるかに楽しい毎日を送れてる。
――二人にも、たまにはお礼しないとだし。
「……でも、それとこれとは別だし」
そう、それはまた別の話。
本来、誕生日プレゼントに勝ち負けなんてないのはわかってる。
大地は、アタシら全員のプレゼントを心から喜んでくれるだろうし。だって、そういうヤツだし。
……そうじゃなかったら、アタシ、こんなに好きになってない。
「でも、だからこそ……一番喜んでほしくなるんだし」
アタシのつぶやきは、人ごみの中でかき消される。
……でも、アイツのことを考えたときのあったかい気持ちは、ずっと心の中にある。
「大地のヤツ、覚悟しとけし。腰抜かすほど、喜ばせてやるんだから」
ショルダーバッグを背負い直して、アタシは気合を入れなおす。
待っとけ、大地!!
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