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第63話 束の間の休息と、動く女性陣


 ようやく暑さが落ち着き、過ごしやすくなってきた九月の末。

 俺は女性陣が出払った家のリビングで、ソファに寝転がり、まったりと小岩〇のカフェオレを飲んでダラダラしていた。


 あぁ、昼下がりのあんめぇカフェオレってなんでこんなに美味いんだろう。


 本来であれば『SeekTube(しーつべ)』の動画配信者『SeekTuber(シーチューバー)』として、コンテンツ制作に励んでいなければならないのだけれど、こんな怠惰な状況になっているのには、理由があった。


 端的に言うと。

 女性陣にダンジョンへの入ダン、並びに労働を一週間、禁止されてしまったのだった。


 無事に退院して体調もすこぶる良いと伝えたのだけれど、女性陣だけの話し合いが持たれた結果、『一週間は様子を見るべき』という結論に至ったそう。


 どういう基準と考えがあって一週間なのかはわからなかったが、多大なる心配をかけてしまった俺が反論できるわけもなく。

 大人しく言うことを聞き、家でまったり、ストレスフリーな時間を過ごしているというわけなのだった。


 はっきり言うと、かなり暇だ。

 会社に勤めていた頃は時間があればダンジョンに潜っていたので、それも禁止された今、そりゃ暇に感じるよな、という心境。カフェオレがグイグイとなくなっていく。


 とは言え約束を破ることはできないので、仕方なく本を読んだりアニメや映画、動画を観て時間を潰しているのだった。サブスク超便利。


 それと、もう一つ。

 前々からやらなければと思っていたことに、この際だからと手をつけはじめた。


 それは――他チャンネルの研究・分析である。


 これは当然、『新卒メットチャンネル』が今のまま永遠に安泰、なわけがないからに他ならない。


 フォローのつもりじゃないけど、俺以外のチャンネルメンバー、『キツネドレス』こと楓乃さん、『十三日の銀曜日(銀よーび)』ことシルヴァちゃん、そして『サッカー仮面』こと悠可ちゃんたち三人は、段違いの魅力を持っている。


 なので、各々の魅力がしっかり発信される形でノビノビとチャンネルをやっていけば、絶対に大丈夫なはず。異論は俺が認めない。


 だけど、凡人である俺には、三人のような人を無条件に惹きつける魅力はない。

 自己分析的に言うと、チャンネルがブレイクしたのも、たまたまダンジョン内で人より少し動けるというのがストロングポイントになっただけだと思っている。


 ゆえに、地道に流行の企画や、ライバルチャンネルの動向などを調べて今後に活かしていくことが必要なのだ。絶対、長く一線で活躍している人はそういうところを怠らないはず。


 ……あとやっぱり、先々、お金の不安もある。


 最近、海外旅行をはじめとして、結構お金を使うことが多かった。それで目に見えてチャンネルの共有口座の金額が減ったときはかなり不安を感じた。海外旅行ってなんであんなにお金かかるの?


 新しいビジネスに盲目的に必死だったのも、実はこんな切実な理由があったからだったり……本当、お金ってのは稼いでも稼いでも、あっと言う間になくなってしまうものだなぁ。


「どれどれ……へぇー、工夫してるなぁ」


 俺は腹の上に置いたデバイスを操作し、SeekTubeをまったり巡回していく。

 どのチャンネルも、キャラ性を全面に押し出した探索をしたり、ダンジョンにまつわる有益な情報をわかりやすく解説・要約しながらダンジョン攻略したりと、今日も様々なチャンネルが、趣向を凝らした動画をアップしていた。


「俺も負けてられないなぁ……くぁ」


 などと言いつつも。

 気持ちの良い陽に照らされて、思わずあくびが出てしまうのだった。


 ちょっとだけ、昼寝しようかな。


 動画を観ながら寝落ちできる生活……控えめに言って、かなりの贅沢でございます。


◇◇◇


 ソファの上で、大地がまどろみはじめた一方で。


 大都会、横浜に連れ立って出かけた、楓乃、シルヴァ、悠可の三名は、西口ロータリーの隅で輪になり、円陣のように肩を組んでいた。


 道ゆく人たちも何事かと、奇異の目を向けている。


「今週末、大地さんが三十歳の誕生日を迎えます」

「ええ」「はいっ」


 重々しく口を開いたのは、一番年上である楓乃だ。

 シルヴァ、悠可と順番に目配せしながら、ひそひそ声で語り掛けている。


「今日はその誕生日プレゼントを購入するために来ましたけど……確認しますが、各自で買う、ということでいいですね?」

「当然よ!」「はいですっ!」


 楓乃の言葉に、シルヴァと悠可は気合十分といった様子で返す。


「各自、『大地にはこれ!』って思うプレゼントを買って、誰が一番喜んでもらえるか、勝負よ!!」


 言い切ったのはシルヴァだ。ロータリーに差し込む日の光が、トレードマークの銀髪をキラキラと輝かせる。


「ですですっ! 誰が一番、大地さんが欲しいと思ってるものをわかっているか、それが試されますねっ!」


 続いては悠可が、飛び跳ねるようにウキウキで言う。いつものユニフォーム姿とは違い、今日はガーリーなワンピース姿だ。


「望むところです。Dイノの社員時代から、大地さんを見てきた“大地推し最古参”の実力、見せてあげましょう……!」


 二人の言葉を受け、楓乃が再び組んだ肩に力を込める。

 一度、三人の輪が少し沈み込む。


 それはまるで、スポーツなどの試合前、選手たちが円陣で掛け声を出す瞬間のようだった。


「「「いざ――勝負!!」」」


 そうして三人はそれぞれ、横浜の街に消えていった。


 何も知らない大地はすでに、夢の中だった。



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