第59話 生き残れ、対Dゴーレム
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
地割れのような地響きを起こしながら、巨大なダンジョン・ゴーレムが動き出した。
ヤツの動きで、ダンジョン内に軽い地震が発生したような錯覚が起こる。
大怪獣かよ!?
「お、大きすぎる……!」
「ええ……!」
隣の小淵沢さんが、呆然としたような声で言う。
俺もただただ、それに返答することしかできない。
「馬鹿野郎どもがっ! 一度散開して、隊列を組み直せっ!!」
「は、はいっ!」
Dゴーレムのあまりの大きさに、ほぼSEEKs隊員全員が棒立ちとなってしまっていた。
それを、鴨川さんの怒声が解いた。各自、素早くゴーレムを囲むように散る。
鴨川さんだけは、自分が今するべき行動を見失っていなかった。引き続きドリルの音を響かせ、隊長の救出作業を続行している。
「私のことはいいっ! 早く離脱しろっ!!」
しかし、危機的状況を見て取った寺田総隊長が、鴨川さんを怒鳴りつける。
「アンタ……何度言えばわかるんスか!? んなこと、オレらができるわけねぇでしょう!?」
「全滅したいのか!?」
「寺田さん、アンタを犠牲にして生き残ってまで、SEEKsにいたいヤツなんていねぇんスよ!?」
鴨川さんは岩にドリルを突き立てながら叫ぶ。
その熱量に圧され、さすがの総隊長も押し黙る。
「この隊にいるメンバーは、全員アンタに拾ってもらった連中だ。外野からはエリートだなんだと言われてるが、縦割り組織に馴染めねぇ協調性ゼロの鼻つまみ者ばっかりだ。官僚の方から引っ張られたマジもんのエリートは、小淵沢ぐらいのもんだろ」
ドリルを忙しなく動かしながら、鴨川さんは言う。
それを聞いた小淵沢さんの眉間に、シワが寄るのがわかった。
「……心外です。わたくしも、官僚時代は窮屈な思いで働いていました。女だからとか女のくせにとか、不当にしか評価されませんでした。でも……隊長にお声がけをいただいて、このチームに入ることができて、どれだけ救われたことかっ!」
怒気をはらんだ小淵沢さんの声が、岩々の中、反響する。
それに反応したのか、ゴーレムが鈍い動きで腕を振りかざした。
来るッ!!
「小淵沢さんっ! 危ないっ!!」
「っ?!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!
巨大な拳が、振り下ろされる。
それはまるで、大きな岩石が高所から落下してきたかのような威力だった。さっきまで自分が立っていた岩肌が、クレーターのように落ちくぼんでいる。
なんて膂力だ……!
スキルの《筋力増強》で、アレに歯が立つのか?
「小淵沢さん、大丈夫ですか……?」
「た、助かりました、ありがとうございます……それより、隊長たちは!?」
たち込める砂埃が、《暗視》の視界を曇らせる。慌てて、俺は《視覚鋭敏化》を発動させる。
「あっ!」
見ると。
どうやら今しがたの攻撃の影響で、寺田総隊長に突き刺さっていた岩が分離できたようだった。
地表側の根本に、ドリルでいくつも穴を開けていたのだ、あれだけの振動があれば上手い具合に分離したのもうなずける。ブレずに動き続けた鴨川さんのファインプレーだ。
「がぁ……っ!」
「隊長! しっかりしろ!!」
が、総隊長は激痛に顔を歪めている。
そう、壁から離れたからと言ってまだ油断はできない。いまだ鋭利な岩が寺田総隊長の肩に刺さったままなのだ。急ぎ脱出し、病院へ搬送しなければ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
が、またもゴーレムがその巨腕を振り上げる。
まずい!
あの攻撃をかわしたとしても、攻撃による地響きで今度こそ総隊長の身体が危うい!
「ゴオオオオオオオオオオオ!!」
耳障りな轟音を辺りに響かせながら、ゴーレムの腕が振り下ろされた。
――間に合え!!
ドオオオオオオオオオ――――
「…………だ、大丈夫、ですか?! 総隊長、鴨川さん!」
「きょ、京田くん!?」
総隊長の、声がする。よかった、無事みたいだ。
俺は、咄嗟に。
振り下ろされたゴーレムの拳を、背中で受け止めた。
感じたことのない大質量に、全身の骨が軋むのがわかる。
「ぐ、ぐぅぅ……っ!」
「馬鹿野郎っ! 無茶しやがって!!」
俺を叩き潰そうと、ゴーレムの拳に力が漲っているのが背中越しに伝わる。
このままじゃ、本気でミンチになってしまう。
「鴨川さん! 早く隊長を連れて離脱してくださいっ!!」
「な、お前こそ民間人なんだからはやく――」
「いいからっ! SEEKs全員を無事生還させるのが、今の俺の仕事なんですっ! 行ってください!!」
鴨川さんの声を、怒鳴り声で打ち消す。
ゴーレムに殴られたおかげか、一つの“妙案”を思いついた。
「ぐぬぬ……《分身》っ! ……出ろぉぉ!!」
精神力を振り絞り、俺は《分身》を作り出す。
ぬっと、自分の隣に《分身》が出現する。
背中の痛みも、肺が圧迫されたような苦しさも、踏ん張っている両足の重みも、あらゆる感覚が二倍になる。
いつもなら、そんな異常は慣れっこだ――が。
今回ばかりは、違っていた。
「がっ、がは!」
頭の奥の奥、脳が握り潰されたような激痛が走る。
思わず、吐く。
口から足元へ、血が滴っていた。
目の前が、ぐらりと揺れた。
この作品をお読みいただき、ありがとうございます。
皆さんの応援が励みになっております!
ありがとうございます!!




