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第58話 特殊部隊、全滅危機!?


 《迷宮変動ダンジョン・ドリフト》が発生した深淵級アビスダンジョン。その、中層辺り。


 巨大生物の牙のようにも見える尖った岩に、寺田総隊長の血がこびり付いている。その様は、目を背けたくなるほど痛々しい。俺は常用スキルの《暗視》を停止したくなるが、歯を食いしばり、耐える。


「隊長……っ! 自分が不甲斐ないばかりに……申し訳ありません……っ!」


 壁にもたれる総隊長の足元に、一名のSEEKs隊員がすがるように泣き崩れていた。


「いい、いいんだ佐藤……気に病むな。私が勝手に動いただけだ」

「でも……! 僕が、僕がきちんと動けていれば……!」

「お前は悪くない。変動ドリフトなんて、初任務ですぐに対処できるわけない現象だ。むしろ、私は上司として、部下を守れてよかった」

「隊長……!」


 会話の文脈を聞く限り、どうやら総隊長は部下を庇って負傷したようだった。自らの身体を盾にしてまで、部下を守るなんて……総隊長、なんて人だ。


 俺は思わず目頭が熱くなり、上を向く。周囲の隊員数名からも、やるせなさをまとった息が漏れていた。


 この人を、助けなければ。

 俺はその思いをさらに強くした。


「寺田さん。なにしてんスか……情けねぇ」

「鴨川か。はは、ぐうの音も出ないな……っ」

「もう若くないんだから、しゃしゃってんじゃねーんスよ。動かないでください」

「……すまん」


 鴨川さんが隊長の元に近寄り、その身体をあらためるように触った。

 言葉は乱暴で攻撃的だけれど、その迅速かつ慎重な手つきからは、隊長を助けたいという感情が見て取れた。


「……これは、刺さった岩ごと運ぶしかなさそうだな」


 隊長の状態と、状況を確認し終えると、ぼそりと鴨川さんが言った。


「そ、それって……?」

「岩を壁から切り離して、それごと隊長を運ぶってことだ」


 鴨川さんが冷や汗を拭いながら、重々しく言った。

 確かに、人体に刺さった物を抜いてしまうと大出血をするというのは、医療ドラマなどでもよく聞く話だった。


「寺田さん……いけますよね?」

「おいおい、総隊長を舐めるなよ?」

「はっ、強がっちゃって。まぁ、ダメでも勝手に連れて帰りますが」


 軽口を交わし合いながら、寺田総隊長と鴨川さん意思疎通する。

 こんな極限状態だと言うのに、両者の目には強い光が見えた。

 そう、決して悲観も、あきらめてもいないのだ。


「今手元には、採掘用の小型ドリルしかない。これで、徐々に岩の根本に穴を穿うがって分離させてくんで、振動でかなり痛むと思います。……覚悟、できてますか?」

「はは……名ばかりの総隊長でないところを、たまには見せなくちゃな」

「そんだけ減らず口が叩けんなら、大丈夫っスね」


 続けてやり取りをしながら、手際よく準備を進める鴨川さん。他の隊員も連携しはじめ、準備を手伝う人、周囲を警備・警戒してくれている人と、アイコンタクトだけで隊が円滑に動いていく。


「か、鴨川さん! 俺にもなにか、できることはないですか!?」


 いても立ってもいられなくなり、俺も声を上げる。

 俺も、少しぐらいは役に立たねば!


「アンタは……そうだな。小淵沢と協力して、周囲の警戒にあたってくれ。岩を壁から引き剥がすのに時間がかかる。その間、魔生物を近づけないように頼む」

「わ、わかりました!」


 鴨川さんから指示をもらい、俺は気合を入れ直す。


「じゃ、隊長。いきますよ……」

「ぐぅ……!」


 鴨川さんの声を合図に、ダンジョン内にドリルの音が鳴り響きはじめる。

 その高音で歪な機械音によって、幾多の魔物が目覚める気配が《気配感知》によって伝わってくる。


「京田さんがいらっしゃれば、百人力です。が……」

「小淵沢さん」


 話を聞いていた小淵沢さんが、周囲を警戒したままで声をかけてくれる。


「あくまでも、これは我々SEEKsの任務です。京田さんには、あまり背負い過ぎてほしくありません」

「……大丈夫です。しっかりと“発注”をいただいてますから。いただく料金分は、しっかり仕事をさせてください」

「京田さん……わかりました。よろしく頼みます」


 小淵沢さんの言葉を合図に、俺は使い古した警棒を伸ばして両手に装備した。

 一度大きく息を吸い、そして深く吐く。


 隊長のところには、虫一匹、近付けないぞ……!


◇◇◇


「はぁ……はぁ……」


 何匹目かわからない、巨大なDスコーピオンを倒したあと。

 ふらりと、軽いめまいを感じた。


 ……《超回復》で無理矢理に疲労を吹き飛ばす。一瞬、鈍い頭痛がするが、頭を振って紛らわす。

 まだまだ、ドリルの音が止まない限りは終わらない。


「……お腹、空きましたね」

「で、ですね」


 隣で奮戦していた小淵沢さんが、汗を拭いながら言った。

 こういう状況の今、美味しい食べ物がここに運ばれてきたら、さぞ嬉しく感じるだろう。


 この難局を乗り切れたら、思いっきり食べたいものを食べてやる。

 そして、楓乃さんのご褒美を……全身全霊で堪能してやるっ!


「…………ん?」


 と。

 一瞬、なにかの気配が伝わり、周囲を見渡してみると。

 なにやら、視界が微妙に揺れ動いているような気がした。


 いかん、めまいがひどくなったか?

 俺がそう思い、ヘルメットのバイザーを上げて眼をこすったとき。


 目前の岩壁が――動き出した。


「な、なんだよこれ……!?」


 巨大な岩壁が、辺りに地鳴りを響かせながら人の形へと変質していく。その様子はまるで、岩々が意志を持ち、生きているかのように見えた。


 もはや、疑う余地はない。

 ダンジョン掲示板でのみ語られていた、都市伝説級の巨大魔生物。


 ――ダンジョン・ゴーレム。


「ゴ、ゴーレムだと……!? 全員、私を置いて脱出しろッ!」

「んなこと、できるわけねぇでしょうが!?」


 鴨川さんのドリルの音に負けないほど、寺田総隊長が声を張り上げる。

 しかしその声に反応できる者は、ほぼいなかった。


 皆、目の前で起こっている異様な出来事に、呆然とするしかなかった。


「このままここにいては…………全滅するっ!!」



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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