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第57話 深淵級からの、救出任務へ


 迷宮変動ダンジョン・ドリフト

 これは深淵級アビスきゅうでのみ確認されている、超常現象の一つである。


 突如として、広大なダンジョン全体が蠢き、その形状を変える。

 いわば、地形の急変動だ。


 もし、その際にダンジョン内に人がいたら、どうなってしまうのか。

 俺には想像もつかない。


「鴨川さんっ! 危険です、離れてくださいっ!!」

「離せクソがっ! オレが行かないで誰が行くんだっつの!!」


 目の前で、『SEEKs(シークス)』の隊員二名が大声を張り上げている。

 小淵沢さんと、鴨川さんだ。


 今にもダンジョン内へ突撃しようとしている鴨川さんを、身体の小さい小淵沢さんが、必死に押し留めている。


変動ドリフトが起こってすぐにダンジョンに入るなんて、自殺行為ですっ! お願いですから、少しでいいですから、耐えてください……っ!」

「うるせぇんだよっ、止めるんじゃねぇ! だからお前みたいなエリートはイヤなんだよっ!!」

「……そうやって、勝手に決めつけて……! だから嫌いなんですよ、ヤンキーっぽい人というのはっ!!」

「っ、あんだとコラァ!?」


 隊員同士、部外者が入り込む余地がない問答が続く。

 俺と楓乃さんは身を寄せたままで、呆然と立ち尽くすしかない。


「わたくしだって……同じ気持ちです! 今すぐ、今すぐにっ! 助けに行きたい、助けに走りたいっ!!」

「だ、だったら……っ!」

「でもっ!!」


 そこで、小淵沢さんは鴨川さんの胸倉をつかんだ。

 頭一つぐらいの対格差がある鴨川さんに対して、小淵沢さんは一歩も退かない。


「なんの策も持たずに変動ドリフトしたばかりのダンジョンに入っても、いたずらに救助者数が増えるだけですっ! この状況では、まず冷静に“余震”の有無を見極めることが先決です! こんなの、初期教練の内容ですよっ? アンタクソ馬鹿なんですか!?」

「な、なにぃ!?」

「ということで、以後、わたくしの指示にしたがっていただきます。異論・反論は認めません」


 言い争いはどうやら、小淵沢さんの勝利で締めくくられたようだった。

 小淵沢さん、もぐもぐ中の齧歯げっし類みたいな可愛さは鳴りを潜め、今はまさに戦士の顔つきになっている。


 俺もその顔を見て、“覚悟”を決める。


「楓乃さん」

「……はい」

「行ってきても……いいですか?」


 聞くと、楓乃さんは一度俯き、唇を噛んだ。

 また顔を上げたとき、その瞳は潤んでいた。


「……はい、いってらっしゃい」


 楓乃さんはそう言い、笑ってくれた。

 あの、人懐っこい笑顔。


 ……百人力である。


「帰ってきたら、ご褒美、あげます。だから……」

「っ、はい! 必ず帰ってきます!!」


 楓乃さんの言葉に見送られ、ますます気合が高まる。

 俺はふんす、と鼻息荒く、小淵沢さんたちの元へ駆けた。


「……な、なにかご依頼っ、ありますか!? なんでも運ぶ、ダンジョン内のなんでも屋、《ダンジョンデリバリー》です!!」


 お二人に近付き、声をかける。

 ちなみに文言は今テキトーに考えたもの。


 今の状況、俺にもなにか、できることがあるはずだ。


「……京田さん。頼っても、いいのですか?」

「は、はい。ぜひお使いください! 今なら初回、格安料金で承ります!」


 うかがうような小淵沢さんの言葉に、俺は強くうなずく。


「では……寺田総隊長はじめ、SEEKs隊員のみんなの救出を、手伝っていただきたいです……っ!」


 深々と、小淵沢さんが頭を下げた。


「はい、承りました。……お手伝いさせて、いただきますっ!」


 こうして。

《ダンジョンデリバリー》、はじめての依頼がはじまった。


◇◇◇


 変動ドリフトしたばかりの深淵級は、ついさっきまで潜っていたダンジョンとは、まるで別物かのように内部構造が変化していた。


 入り口から続いていたなだらかな直進の道は、隆起した鍾乳洞のような岩肌によって、幾重にも曲がりくねった迷路のようになっていた。岩が突起した先端は鋭利で、かなり危険だ。


 俺は小淵沢さん、鴨川さんとスリーマンセルを組み、再び深淵級にアタックを仕掛けていた。懸念された余震もなく、今のところは問題なく行軍できている。


 この調子で、できる限り迅速に、寺田総隊長らが待機していた場所にたどり着きたかった。


 小淵沢さんが説明してくれたのだけれど、変動ドリフトによってダンジョン内の地形が大きく変わり、内部にいた人が閉じ込められてしまう事例が過去にあったらしい。そうなると洞内の酸素も減少し、命が危険だ。


 俺たちは退避路の確保を兼ねてマーキングをしつつ、魔物を瞬殺しながら、慎重かつ大胆に、ダンジョン内を進んでいった。


 と。


「――長! しっかり!!」

「っ!?」


 少し地形が開けた箇所に差し掛かったとき、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 SEEKs隊員の声だ!


 俺たちは声の方へ急ぐ。

 そして。


 こんもりとした丘のような岩を一つ越えると、SEEKsの皆さんがいた。一ヵ所に隊列を組み、周囲を警戒している様子だった。

 俺以上に気が急いていたであろう、小淵沢さんと鴨川さんが、一目散に駆け寄る。  


「皆さん、大丈夫ですか!?」「無事か!?」

「小淵沢さん! 鴨川さん!」


 隊員の数名が、お二人の姿を目視し声をあげる。

 ひとまず合流できた。よかった……。


「「……っ!」」


 が。

 隊員たちの人壁の向こう、一際岩が激しく隆起した岩肌に。


 寺田総隊長が――はりつけにされたようにもたれていた。


「「隊長っ!!」」


 小淵沢さんと鴨川さんの叫びが、重なる。


「は、はは……ちょっとしくじってしまったよ……」


 尖り、伸びた岩の先端が。

 総隊長の右肩を。


 ――刺し貫いていた。


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