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第55話 打開策、見つかる?


「よし、この辺りでいったん休憩にしよう」


 新宿駅地下に現れた、新生の深淵級アビスダンジョン。

 はじめての安全地帯セイフティポイントに入ったところで、総隊長の声が響いた。


「ふぅ」


 隊列の最後尾、フードデリバリー用の四角いリュックを下ろしながら、俺も一息つく。

 まだ序盤戦だが、ここまでの探索で俺はすでに『SEEKsシークス』の実力に度肝を抜かれっぱなしだった。


 第一に、一人一人の戦闘力と対応力の高さ。

 まずそもそもの身体能力が、俺のような一般人とは段違いなのだ。キレが違うし、パワーもとんでもない。

 先ほど、岩に埋もれて通れない横道があったのだけれど、力自慢のSEEKs隊員数名が、スキルなしでガラパゴスゾウガメぐらいの岩っころをぶん投げていた。すんご。


 第二に、素人には到底真似できない統制の取れた行軍。

 常に背後、側面に注意を払いつつ、隊員同志お互いに守りながら進んでいた。そうして、隊の側面、後方が危険にさらされないよう常時配慮しつつ、一つ一つの箇所、魔物などを丁寧に検索・対処し、進んでいた。


 隊員各自の動きに一切の無駄も乱れもなく、練度の高さがうかがえた。


 何度か出現した魔物は、やはり深淵級だけあり、大型のものが多かった。

 上級ハード以下であればダンジョンボスの場合もある、大型のDベアーがさも当たり前のようにその辺をうろついていた。


 しかし、決して慌てることもなく陣形を作って囲い込み、ほふっていた。

 最新鋭の防護シールドで攻撃を無効化し、同じく最新鋭の電撃警棒を四方から浴びせ、撃滅する。

 その洗練された集団戦術は、無慈悲とさえ思えるほど。


『SEEKs』の隊員は、自衛隊や警察から集められた、選りすぐりのエリート集団らしいけど、こうして実際に目の当たりにすると、本当とんでもないレベルなのだとよくわかる。


 そりゃそうだ、彼らは“副業”としてダンジョンに入っていた俺なんかとは違い、れっきとした“本業”として、ダンジョン探索を行っているのだ。

 きっと日頃から、そのために心と身体を鍛錬し、《ダンジョンスキル》にも磨きをかけているに違いない。


「……俺もどんどん学んで成長しないとなぁ」


 誰にも聞こえないようにつぶやき、一つため息をつく。

 今回こうして、最高峰のSEEKsの探索に参加できたことは、ビジネスだけでなく俺自身にとっても有意義に感じられた。


 まだまだ、俺もダンジョンに関わるも者として成長していかなければと、改めて思わされた。会社辞めてからサボり気味だった、探索のための筋トレも再開しようかなぁ。


「あの、京田さん」

「あ、小淵沢さん」


 ちなみに、今回の主目的であるフードデリバリーはと言えば。


「もう一回、牛丼の特盛りをお願いしても……?」

「……はい。つゆだく卵付きですね」

「覚えてくださって、ありがとうございます」


 小淵沢さんがすでに、三回ほど注文してくれている。

 いやどんだけ食うんだいアンタ。


 しかし彼女からの度重なる注文のおかげで、効率の良い配達方法を編み出していた。

 以下が手順である。


①まずダンジョン入り口に本体(俺本人)が待機する。

②スキル《分身》を発動させ、SEEKsに同行させる。

③注文が入ったら《分身》を消し、入り口の俺が買い物へ走る。

※牛丼屋にて、タッチパネル式の注文に悪戦苦闘……。

④フードを受け取りダンジョンに戻る。再び《分身》。

⑤《分身》で《超速行動》を発動させ、迅速配達。

⑥アツアツの牛丼をかっ込み、小淵沢さんの笑顔満開!!←今ここ


 と、《ダンジョンスキル》の《分身》を発現済みなことが条件だが、かなり効率よく配達することができている。


 ……でもこれ、今現状だと俺しかできないかな。

 少なくともあの悠可ちゃんでも、《分身》は習得してないって言ってたし。

 ダンジョンで食事をするという需要もそうだが、これじゃまだまだ実用化・定着はほど遠いかも……。


《分身》なんてなくとも、誰でも注文を受け、ウー〇ーみたいに気軽に配達できるような形になって、はじめて普及したと言えるもんな。


 はぁ。道のりは遠いなぁ。


「それにしても、ダンジョンでこんな飯が食えるとはなぁ。嬉しいだろ、小淵沢」

「ふぁい、ほっへもおいひぃれす(はい、とっても美味しいです)」

「ははは、飲み込んでからしゃべれな。このダンジョンへのフードデリバリー、海外ではもうそれなりに定着しているサービスなんだって?」


 と、そこで水筒で水を飲んでいた隊長がたずねてくる。


「そうなんですよ。俺も少し前に知ったんですけど。同じような業態を、日本でもできないかなって思ったんです」

「うーん、しかし日本で日をまたいでまで潜るのは、我々ぐらいのものだ。そもそもの需要が、あんまりないんじゃないのかい?」

「そう、そこがネックなんですよねぇ」


 やはり、皆そこに着目する。

 この需要の問題を解消する、なにか画期的なアイデアが出れば絶対打開できると思うのだけれど……いくら頭を捻っても、ポンと絶妙なアイデアは出てこないでいた。


「隊長すみません、救急箱はございますか? わたくし、今手が離せないのもので」

「む、どうかしたのか?」


 と、そこで小淵沢さんが声をかけてきた。

 両手でガシっと牛丼を持ち、片方の肘を隊長へ向けて突き出している。


「今さっき牛丼をこぼしかけて、必死にどんぶりを守ったら肘をすりむいておりました。隊長、治療をお願いします」

「なにしてんだお前は」


 どうやら食事中、牛丼をこぼしかけて、それを守ろうと腕を伸ばした際、岩肌にこすって肘を擦りむいたらしい。なんという食への執念。


「ちょっと待ってろ。今消毒してやるからな」


 と、そこで隊長は懐から、携帯用の救急箱を取り出す。

 衛生兵の方も同行しているみたいだが、わざわざ呼び出すほどの傷じゃないという判断なのだろう。

 隊長なのに、なんとお優しい。


 さすが、我らが総隊長、寺田左近。


「……まずいな。救急箱はあるんだが、中身のチェックまではできていなかった。消毒液が空だ」


 言い、隊長は消毒液を逆さにして振った。

 容器からは一滴たりとも、液が出てこなかった。


「俺、持ってきましょうか? ……ん?」


 と。

 何気なく放った、自分のその言葉から。

 一つの妙案がむくむくと湧いてくる。


 日本では、ダンジョン内で食事をする文化がない。

 しかしこうして、ダンジョン内でなにかしら物が必要になったり、助けがほしい瞬間は必ずある。


 もしかしたらこれが、日本でダンジョンへのデリバリー(配達)を流行らせる糸口になるのでは?


「小淵沢さん、総隊長! ありがとうございます! アイデアが浮かびました! これならいけるかもしれません!」

「「は、はい?」」


 そう、俺は『食べ物を配達する』ことにこだわりすぎてしまっていた。

 もっと柔軟に、まずは《ダンジョン内へのなんでも配送》みたいなところから、はじめてみればいいんだ。


 その名も――『ダンジョンデリバリー』。


 今回の探索が終わったら、楓乃さんに相談してみよう。

 ……このアイデアでご褒美、もらえるといいなぁ。



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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