第50話 新しいダンジョンビジネスのアイデア、湧く
「ひゃっほぉぉいッ! 一番乗りじゃぁぁぁぁッ!!」
「あー! 千紗都さん素早いっ!」
ホテルの屋上にあるプールにて。
俺の目の前を灰村さんと悠可ちゃんのコンビが、駆け抜けていく。
俺たちはアメリカのダンジョンへの初入ダンを終え、宿泊するホテルにチェックインし、屋上に集合した。
今回ツッチーさんが予約してくれたホテルは、この屋上プールが目玉ということだったので、せっかくならみんなで遊ぼうとなり、こうして集まったのだった。
ただ、俺はあまりプールや海が得意ではない。
俺とは正反対の陽キャたちが生息しているから、ということもあるが、一番は中学生のときに海で溺れかけたせいである。誰だよ、俺に「あのブイ浮いてるとこまで行こうぜ」とか言ってきたの。おかげで死にかけたわ。
というわけで、俺はプールサイドによくある寝転がれるチェアに横たわっている。
そして水着のポケットに忍ばせていた、空港の売店で購入した安物のサングラスを、とびきりカッコつけて(すちゃ、という感じで)装着する。
あぁ、夕陽が眩しいゼ……という雰囲気を醸し出しつつ、水に入ってたわむれている女性陣へと視線を向ける。サングラスによって、俺の目線は誰にもバレないのである!
「…………」
一番はしゃいでいる灰村さんは、その爆裂ダイナマイトボディを存分に強調した黒いビキニ姿だ。ジャンプしたり、水面をバシャバシャと叩いたりするたび、激しく揺れるBIGOPAが下半身にダイレクトアタック。水着外れちゃいそうだもの。
「わっ、千紗都さん、危ないですってばっ!」
続いて、悠可ちゃん。
彼女の水着は、一切の穢れを知らないような純白のビキニ。腰にはミニ丈のパレオを巻いて、可憐さを演出している。胸は慎ましやかだけれど、水をはじく美しいウエストのくびれとおへそが、なんとも煽情的だ。
「ちょ、アンタたちっ! いい歳してはしゃいでんじゃないっつの!!」
「と言いつつ、シルヴァも混ざりたそうに見えますけどね」
「ち、違うっつの!」
今度は、女性陣で一番年下のシルヴァちゃん。
赤いフリルのついたビキニタイプの水着が、強気な彼女によく似合っている。ほどよい肉付きのお腹が非常にキュートだ。さらに、目立つ赤色のせいか、やけにOPAの谷間が目立っていて、どうしたって目がそこに吸い寄せられる。けしからん。
隣のツッチーさんは、ブラウンの大人っぽい水着だ。肩紐が片方だけ(オフショルダーって言うのかな?)のもので、デザイン性が高いもの。露出している片方の鎖骨から肩の滑らかなラインが、なんともセクシーで大人っぽい。
「大地さん」
呼ばれて、視線を向けると。
楓乃さんが立っていた。
「…………っ!」
夕映えの光を背に、その全身が輝いて見える。
な、なんとふつくしぃ……!
「大地さん。隣、いいですか?」
「え、あ。ええ、どうぞ」
楓乃さんは隣のチェアに横になると、「ん、ふぅ」と言って伸びをした。うん、声もエロい。
「…………」
楓乃さんの水着は、いたってシンプルなデザインの紺色の紐ビキニ。
しかし、そのスタイルの良さと肌艶の美しさがシンプルさと相まって、抜群の魅力を周囲に発散している。夕暮れの光を全身で反射し、この世のものではないかのような神々しさすら感じさせる。
サングラスの遮光性が無意味に感じられるレベルだ。まぶしすぎる。
さらに水着の生地が良いからなのか、OPAのふくらみを強調するような陰影が出ており、なんだろう、とんでもなくえっちぃ感じになっている。
うん、ちょっと男の子な事情で仰向けは危ない気がしてきたので、ちょっと横を向こうかな。
と。
「「…………」」
横になったせいで、期せずして楓乃さんと見つめ合うような状態になってしまう。
改めて見ると。
……マジで、なんでこんなに綺麗な人が、俺の目の前にいるんだろう?
「あの……水着、どうですかね?」
「へっ、へあ!?」
いきなり聞かれ、変な声が出てしまった。
ウルト〇マンみたくなっちゃったよ。
「さ、最高に似合ってます……髪も、か、可愛いです……」
「あ、ありがとうございます……嬉しい」
俺は反射的に、思っていることをそのまま言ってしまう。楓乃さんはと言えば、急に前髪を忙しなくいじりはじめた。
あれか、いつもと違ってちょっとヘアアレンジもしてるっぽいから、気になるんだろうな。
こほん、と一度咳ばらいをして。
楓乃さんは少し遠い目をした。
「……まさか自分がこんなところに泊れるなんて。少し前までは、まったく思わなかったですよね」
「楓乃さん……」
どこか懐かしむように、楓乃さんは言った。
確かに、Dイノベーションで働いているときなど、こんな場所でくつろげる自分なんて、想像すらできなかった。
「楓乃さん。俺、ちょっと考えていることがあって」
いいタイミングだと思い、俺は楓乃さんに声をかける。
「大地さん、なにか新しいことしようって、考えているんでしょ?」
「え、わかりますか?」
「はい。これでも私、Dイノの頃から大地さんウォッチャーですからね。当ててみましょうか?」
「ど、どうぞ」
可愛らしく、頬を指でポリポリしながら言う楓乃さん。
あぁ、かわええ……。
「あれですよね、ダンジョンで話を聞いた――『SeekerEats』でしょ?」
「す、すごい。正解です」
「ふふ、やった」
俺なんかの考えを当てられるところで、なんのメリットもないだろうに。
楓乃さんは本当に嬉しそうに、笑顔を見せてくれる。
……あぁ、可愛すぎる。
あーもう視界が暗いのうっとうしい!
俺はもうなんのために買ったのかわからないサングラスを外した。
「日本でも同じようなことって、できないのかなぁって思いまして。もしダンジョンの中に食べ物が配達できたら、今よりもっとダンジョンの楽しみ方が広がるんじゃないかなって、思ったんですよね」
頭の中でなんとなく考えていたことを、俺はゆっくりと言語化していく。
「俺が配達するとしたら、そこそこ速く、高難易度のダンジョンにも届けられるし」
「そこそこどころか、大地さんならどこのダンジョンへもあっという間に料理を届けられると思います」
「ありがとうございます。もし、それが定着したら、シルヴァちゃんの『ダンジョンの飲食店』へも、繋がっていくんじゃないかなって思ったんです」
「大地さん……」
そう、ダンジョンへのフードデリバリーが当たり前になり発展すれば、その先にはシルヴァちゃんの夢である『ダンジョン飲食店』が、できるようになる気がしたのだ。
そんな風にしてどんどん《ダンジョンビジネス》が発展していけば、今よりもっとダンジョンが盛り上がるような気がした。
「確かに、素敵な展望ですね。ただ……」
「ただ?」
楓乃さんは、真剣な表情でなにか考え込むようにした。
俺みたいなやつの、まだ全然具体的じゃない話を、真面目に、真摯に聞いて、自分なりに考えてくれている楓乃さん。
……つくづく、頭があがりません。
「ただ、日本のダンジョンはアメリカと違って、数日かけて攻略する、ということがほとんどないですよね? ということは、そもそもニーズがあまりない、ということになります」
「あ、確かに。ニーズがないと、ビジネスは成立しませんもんね。んー、そこまで考えてなかったなぁ……」
楓乃さんの冷静な分析から導き出された結論に、俺は自分の思考の甘さを痛感する。やっぱまだまだだな、俺……。
「……でも、明確に『SeekerEats』のニーズがある団体がありますよね。そこに売り込むことができれば、条件的には成立させられるかもしれません。しかも、知名度も高いので、そこから名前を売ることも可能です」
「明確にニーズがあって、知名度がある団体……え、まさか」
俺は楓乃さんの話を聞き、とある一つの団体を思い浮かべる。
日本でほぼ唯一、数日間にわたってダンジョンに潜り、さらに日本中がその動向に注目するほど、名を知られている団体。
それは――
「――ええ、『SEEKs』です」
楓乃さんが、俺が想像していた名前を言う。
「……彼らの、国家主導のダンジョン調査に協力できれば……!」
「ええ。上手くいけば、新しい《ダンジョンビジネス》として、成立させることができるかもしれません!」
冷静で、それでいて熱のこもった楓乃さんの言葉に、俺は。
力強く、背中を押してもらった気がした。
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