第49話 金髪お姉さん、暴れる
悠可ちゃんの元マネージャーである灰村千紗都さんに案内され、俺たちは上級ダンジョンにやってきていた。
はじめて入ダンするアメリカのダンジョンは、入り口もかなり大きく、ダイナミックを絵に描いたような姿をしていた。
しかし、それ以上に。
「じゃかぁしぃんじゃボケぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ひぃぃ!?」
灰村さんが一番、ダイナミックだった。
気合いの乗った一撃が、これまたアメリカンサイズのDラットを撃破する。俺は灰村さんの豪快すぎる姿に、思わず委縮してしまう。
この人、マジでパワー系です。
:金髪のお姉さんマジ強
:動くたびお胸がバインバインしてるお
:ファンになりました
灰村さんの暴れっぷりを見た視聴者から、思い思いのコメントが届く。
潜るならせっかくだからということで、探索の様子を生配信をすることになったのだった。
「どや、アメリカのダンジョンは? 新卒はんは日本以外で潜るん、はじめてなんやろ?」
「え、ええ。まぁ……」
「なんや、あんまり楽しそうちゃうやん」
派手な金髪をかき上げながら、汗を拭う灰村さん。
空港で会った際には、一応ビジネスという体だったのか、スーツの上着を羽織っていたのだけれど、身体を動かすということで、今はタンクトップ一枚になっている。
もう賢明な男性諸氏ならお気づきのことと思うが、OPAがハンパなく主張しているのです。
タンクトップ、はち切れそうだもの。胸の谷間がグランドキャニオンのごとくだもの。
ジャケット姿でもまったく隠し切れていなかったのだから、こうなるのは当然と言えば当然なのだが、さっきからまったく探索に集中できません。
「千紗都さんもダンジョン探索してたんですねっ! わたし、なんだか以心伝心みたいで嬉しいですっ!!」
「お、悠可……ちゃうちゃう、サッカー仮面ちゃん。ホンマ、自分は素直でかわええなぁ」
「わわ、くすぐったいですよぉ」
煩悩にまみれて集中できない俺に変わり、反応を返してくれる悠可ちゃん。それを嬉しがり、悠可ちゃんの身体をわしわしといじくりだす灰村さん。
……金髪豪快お姉さんに、キラキラな子犬系女子がイジイジされている図。なんかエロいな。
ちなみに俺たちは配信中と言うことで、それぞれキャラ名で呼んでもらっている。千紗都さんに限っては「めんどいしそのままでええよ」とのこと。豪快。
『……なんかゲストの灰村さん、豪快ですね』
『そうね……あんな感じで魔物ほふっちゃうとか、マジやば』
イヤホンから聴こえてくるのは、楓乃さんとシルヴァちゃんの困惑した声。二人は前回のように実況と解説を担当してくれている。
ちなみにだが、ツッチーさんも解説者として出てみては?と提案したのだけれど、『私は裏方を極めたいと思っているので』と丁重にお断りされた。プロ意識がハンパじゃない。
:日本とアメリカのダンジョンで違いってあるの?
:さっきから見てると魔物がデカい?
と、そこで質問のようなコメントが流れてくる。
『今コメントでもありましたけど、実際潜ってみて違いってありますか?』
「んー、そうですねぇ……」
質問コメントを確認した楓乃さんに振られ、俺は周囲を見回してみる。
見てすぐに感じるのは、アメリカのダンジョンはなにもかものスケールがデカいということだ。
ダンジョン自体の大きさもハンパじゃないし、出現する魔物も一回りから二回り大きい。
「そうそう、アメリカのダンジョンはどれもめちゃくちゃ広大なんや。一日だけで踏破は基本できひんのよ」
「じゃあ、もし完全攻略するとなった場合は数日かかる感じですか?」
「せや。だからキャンプするレベルの装備とかして入ダンすんねん。荷物も必然的に多なるから、めちゃくちゃ大変やねんで」
:数日ダンジョン内にいるとかコワスギ
:キャンプの装備背負って魔物でたらヤバイだろ
灰村さんの言葉で、コメント欄がにわかに盛り上がる。
それにしても、踏破するまでに数日かかるのが普通だなんて、やっぱりスケールが違うな。
「コメントの通り、魔物もおるわけやし、できる限り動きやすい方がええから、どうやって荷物を減らそうかいうとこで、探索者はみんな頭を悩ませてきたんや。で、最近は食料を持たんで行くっちゅーんが一つの選択肢になってきとるんよ」
会話の流れで、何気なく灰村さんは言う。
しかし……食料なしで、ダンジョン内に数日?
そんなことが、可能なのだろうか?
「食料なしで……いったいどうやってダンジョンを探索するんですか? それこそ、インフラが整っていたとしても、普通に危険なんじゃ……」
「ですですっ! わたしも気になりますっ!!」
俺は思わず、気になったことをそのまま聞いてしまっていた。悠可ちゃんも同じく気になっている様子だ。
「あー、そかそか。日本ではまだサービス開始してへんもんな。知るわけあらへんよな」
と、そこで灰村さんはもったいぶるような表情で、俺と悠可ちゃんを交互に見つめた。なんだなんだ、すっごく気になるぞ。
もしかしてアメリカには、俺たちがまだ知らない、新しいダンジョンビジネスがあるのだろうか?
「食料はな――『SeekerEats』を使うんや」
「シ……シーカー、イーツ?」
聞き慣れているような、はじめて聞いたような、そんな名前を聞いた俺と悠可ちゃんは。
目を見開いたまま、顔を見合わせるしかなかった。
……それって、誰でもできるんですかね?
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