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第38話 自己紹介動画、撮影す


「こ、こんにちは。『新卒メットチャンネル』へようこそ。今日は遅ればせながら、チャンネルメンバーの紹介をしていきたいと思っています。最後に重大発表もあるので……あ、いや? 新メンバーの発表もあるので……え、それ先に言っちゃダメ? す、すいませんっ!」


 フルフェイスヘルメットの中、俺のもみあげ辺りを冷や汗が流れる。拭うこともできず、落ち着かない。

 新居のリビングに設置したカメラの前、今は新しい動画を撮影中である。レンズを向けられた状態でしゃべるのは、未だ慣れない。


 今回俺たちは、今さらながら各自の自己紹介動画を撮ろうということになった。


 悠可ちゃんが加入したこともあるが、そもそもきちんとしたメンバー紹介をしていないということに気付き、カメラを回しているのだった。ユーザーにもっと各々のキャラを印象付けるため、という意味合いもある。


「えー、すでにグダグダではありますが、ぜひ皆さん楽しんでいってください。……ふぅ、やり切った」

「全然やり切ってないし! 先に重大発表の内容バラすヤツがどこにいるし!!」


 俺のつぶやきに、隣のシルヴァちゃんが激しくツッコむ。ライブ配信ではなく編集して動画にする予定なので、失言もオーケーなのだ(開き直り)。


 シルヴァちゃんの今の服装は、いわばチャンネル用の正装である。

 ピンク色のジャージ上下に、ホッケーマスク。頭には安全第一ヘルメット。


「ったく……いくらダンジョンのときと平時のときのギャップがウケてるとは言え、段取りとか台本作るぐらいは多少できるようになりなさいよね? いつもド緊張してクソしゃべりしかできないくせに、事前に準備しないでやるから、アンタ一人の動画つまんないのよ」

「す、すいません……」


 シルヴァちゃんにガチめのトーンで説教される俺。十代の子に説教される三十路男の図、である。

 うん、若い女の子に怒られるの、キライじゃないゼ。


「はい次、楓乃。できる?」

「は、はい!」


 次にカメラの正面に移動したのは楓乃さんだ。

 彼女も今はチャンネル用の正装と言える、キツネのお面を被った状態だ。サラサラのボブヘアーが、照明の光でキラキラ輝いている。


「こ、このチャンネルのセクシー担当、『キツネドレス』と申します。皆さんに楽しんでもらえるように、どんどん色んなことにチャレンジしていこうと思っているので、応援よろしくお願いします」


 ペコリ、と楓乃さんは上半身を深く折った。あぁ、相変わらずいい声だなぁ。

 ちなみに『キツネドレス』というのは、最近決定した楓乃さんのチャンネル内での名前だ。

 今やトレードマークになったキツネのお面と、初回からゴージャスなドレスを着ていたキャラを生かし、キツネ面に様々なドレスを合わせるキャラ、ということで着地したらしい。


 今は肩が出ているチューブトップの青いパーティードレスを着ているが、少し恥ずかしいのか、露出している首筋から肩にかけてがほんのり赤く染まっている。うん、そこはかとなくエロい。


「はい、台本読めてるわね。あとその服であの角度でお辞儀すると、たぶん存分に胸チラしてると思うのでマジ撮れ高」

「え、えぇッ?! け、消して!」

「なに言ってんのよ、自分でセクシー担当って言ってんじゃん。なのに胸チラ消すとかキャラ付け意味なくなるし」


 手早くカメラを操作しながら言うシルヴァちゃんと、アタフタする楓乃さん。

 ……胸チラしている、だと? 通称OPAチラ(俺しか言ってない)。これはあとで確実に映像チェックをしておく必要があるな。できればDVD、いやブルーレイにして永久保存しておかないと。忙しくなるぜ……。


「はい、じゃあ最後は悠可」

「かしこまりましたっ! がんばりますっ!!」


 締めくくりは新メンバーの悠可ちゃん。

 今の格好は、最新のサッカー日本代表ユニフォームに黒いフェイスガードを着用し、艶やかなポニーテールをふわりと揺らしている。本人の天性の愛嬌と相まって、見ているだけで笑顔になってくる。


「どうも皆さんっ、あなたのすべてをシルキートラップっ、わたしが『新卒メットチャンネル』の新メンバー、『サッカー仮面』ですっ!」

「コラ悠可! アンタの代名詞のキャッチコピー言ったら、顔隠してる意味なくなるでしょうが!?」

「あ、そうでした! わたしったら、もうっ!」

「『サッカー仮面』としてのキャッチコピーを考えときなさいって言ったっしょ!? そっち言いなさいっつの!!」


 シルヴァちゃんと悠可ちゃんの恒例のきゃぴきゃぴやり取りが繰り広げられ、俺は平和な気持ちになる。あぁ、鼻の下がぶん伸びる感じがするぜ……。


「ったく、どいつもこいつも好き勝手やるんだから……」


 つぶやきながらシルヴァちゃんは、再びカメラを操作した。

 今現状、配信者として一日いちじつちょうがあるシルヴァちゃんが、俺たちのブレインであり、まとめ役となってくれていた。


「最後はアタシね…………どもーっ! アタシが『十三日の銀曜日』、略して『ぎんよーび』だい! どこぞの大人気配信者、銀髪ツインテの超絶美少女が正体とかって言われてるけど、さあどうかな? 視聴者のみんなは色々と妄想をふくらませて、思う存分楽しんでくれればいいっしょっ! それじゃ、今日も『新卒メットチャンネル』、元気出していくぞぉぉ!!…………とまぁ、こんなもんね」

「「おおぉぉ……」」


 声を張り、一音一音を聞き取りやすく、さらに視聴者を引き付けるような文言をそえて自己紹介をするシルヴァちゃん。さすがだなぁ、と感心した俺と楓乃さんの声が重なった。

 ちなみに呼び名はホッケーマスクと銀髪をかけて『十三日の銀曜日』としたらしい。略して『銀よーび』。なんのこっちゃ。だがそれがいい。


「あとはテロップつけたり音入れたり、編集しておっけーね。はい、お疲れさまー」

「「「お疲れ様です!」」」


 こんな感じで。

 新居での初動画撮影は、つつがなく進んだ。


 そして、後日。

 自己紹介動画は――かなりバズった。

 やはりシルヴァちゃん、悠可ちゃんの二大人気配信者が揃って出演しているのでは?という話題性が、かなり視聴者の興味を引いたらしかった。


 さらに、極めつけは。

 抜群のプロポーションを誇るキツネドレス(つまり楓乃さん)のOPAチラシーンが、一部で熱狂的なファンを生み、かなりの再生数を叩き出した。


 そう、ついに楓乃さんの魅力に世界が気付きはじめたのだった……!



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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