第36話 歓迎会、盛り上がる
「シルヴァちゃぁん、私のキャラってどうしていくのが正解かなぁ?」
「知らないわよっ! 自分で考えなさいっ!!」
「シルヴァちゃんっ! 今度の企画、フットサルとかどうですか? みんなでやったらすごく楽しいと思うんですっ!」
「ヤだ! アタシ運動嫌いだしっ!!」
引き続き、楓乃さん宅。
正式に、トップアイドル白金悠可ちゃんのチャンネル加入が決まり、突如として歓迎会がはじまった。
口火を切るように、銀色のヤツを一息で飲み干した楓乃さん。それに負けじと、今年二十歳になったばかりだという悠可ちゃんが、カルアミルクで続いた。
シルヴァちゃんだけはまだ十代なので、コーラで付き合ってくれている。
俺はと言えば。
……酔いがひどくなったときの混沌を警戒し、泥酔してなるものかと冷静に状況を見守っていた。片手には水を常備し、決して一気はしない。
お酒は楽しくほどほどに! アルハラ断固反対!!
「はぁ……ねぇ大地。楓乃のヤツ、マジ酒乱じゃん」
「あ、お気づきになられましたか?」
「失礼なっ! 私は、ただの酒好きれす!!」
しらふで酔っ払いの対応を強いられているシルヴァちゃんが、コーラのグラスを傾けながら言った。俺は思わず同意する。
そこに顔を赤くした楓乃さんが、銀色のヤツを片手にダル絡みしてくる。
おや、もう呂律があやしい?
「お酒ってはじめて飲みましたけど、美味しいんですね! こう、甘ぁいカフェオレの味の後にポワーっとしてきて、ジワーっと温かくなる感じですっ!!」
「うん、それが酔うってことだから気をつけようね」
酔いからなのか、口角が上りっぱなしで上機嫌そうな悠可ちゃんが、えへらえへらと揺れながら笑っている。
楓乃さんも悠可ちゃんも、そこはかとなく衣服が乱れ、エロさが醸し出されてきている……ここが踏ん張りどころだ、大地よ!!
「それにしても……ハハ、マジにぎやかなメンツよね。ウケんだけど」
「……だね」
隣に来ていたシルヴァちゃんが、なんとなく微笑みながら言った。
本当に、その通りだと思った。
「つかさ、こんだけ引きあるメンバー揃えてるわけだから、別にダンジョン配信一本じゃなくてもよくない? アタシもたまに、家からライブ配信とかするし。こういう……家で楽しんでる感じとかも、動画にできるかも」
ふと、シルヴァちゃんが思いついたように言った。
確かに、俺がさっき一視聴者のような気分になったのも、それだけ彼女たち三人の魅力、引力があるからだ。需要はありそう。
ただ、俺はあまり顔を出したくない……だってお三方と違って、顔にまったく自信がないんだもの。
「俺、顔出しは……」
「仕事辞めたんだし、もうよくない? 大地、別に顔も悪くないんだし……」
「え?」
「……いや、ダメか。顔の良い悪いじゃなく、隠してるからバズったとこもあるし」
俺の言葉をきちんと受け止め、考え込むようにう~んと唸るシルヴァちゃん。こういうところが、いつもは毒舌な彼女の優しい一面だ。ごにょごにょ言った辺りは聞こえなかったけど。
「こらこらぁ、真面目に仕事の話してないで、もっと飲みましょ~。ほらほらぁ、大地さんもビール!」
「あ、ありがとうございます」
「はぁ~い、シルヴァちゃんにはキンキンに冷えたコーラぁ」
「ん、ありがと」
すでに酔っぱらって足にキテいる様子の楓乃さんが、冷蔵庫からドリンクを持ってきてくれる。というかこの家、飲料が充実しすぎだろ。
楓乃さんさては、マジのん兵衛だな?
「仕事のときは仕事ぉ、楽しむときは楽しむっ、これ鉄則れぇす!」
「すごいっ! 本当にその通りだと思いますっ!! その鉄則、わたしの格言にしてもよろしいですかっ?」
「いいれす! どんどん使ってくださいっ」
「尊敬です! 姉さまとお呼びしてもよろしいでしょうかっ!?」
目の前で、酔った楓乃さんと悠可ちゃんが謎の友情を育んでいく。
どうしてこうなった?
「それで楓乃姉さまっ! お聞きしたいことがっ!!」
「はぁい、お姉さん、なんれも答えますっ!!」
いきなり座布団を対面で並べて、なにやら問答をはじめる楓乃さんと悠可ちゃん。もはやゆるめの百合ドラマを見ている気分です。マジてーてー。
が。
「大地さんと楓乃姉さまはっ! どういったご関係なのでしょうかっ!?」
「「へ……?」」
元気よく放たれた悠可ちゃんの質問に、冷や汗が吹き出る。
これはたぶんあれだ、トップアイドルである悠可ちゃんに名前を呼ばれてしまったせいだよな、うんうん。
よーしさてさて、時間もアレだし俺はそろそろお暇を……
が。
「それ、アタシも聞きたぁい。もう楓乃は、シャナカノじゃなくなったわけだしぃ?」
「シャナカノっ! 社内の彼女というアレですねっ!」
立ち上がった俺の服の裾を、シルヴァちゃんががしっとつかんだ。そのまま引っ張られ座らされる。
というか、悠可ちゃんも事前に『シャナカノ』とか『ダンカノ』とかのワードを共有されていたらしい。いらんことを広めるない。
「私……私、は……」
楓乃さんは意を決したように、緩んでいた口元を引き締めた。
こういうとき、どうしているのが正解なんだ……?
「私からっ、提案ですっ!!」
と。
俺が内心で頭を抱えたタイミングで。
楓乃さんが立ち上がった。
「今日から! 全員同じスタートラインで、ヨーイドン、でっ! 大地さんにアピールして、シン・カノジョの座を争うというのはどうでしょう!?」
「は、はぃぃ!?」
「それなら全員、どうなっても恨みっ子なしだと思うんですけどっ? どうでしょうかッ!?」
全身を使い、そう言い切った楓乃さん。
え、ちょ、え。
待って待って待って。どゆこと?
「……いいじゃない、乗ってやるし。やってやろうじゃん! ダンカノがどうとかも、言わないでやるわよ!!」
「いいですねっ、フェアな勝負っ! わたしもこればっかりは譲れませんのでっ!!」
「ええぇぇぇぇ?!」
俺の悲鳴も虚しく、前のめりに盛り上がっていく女子三名。
既成事実になる前、今のうちに口を挟まなければ!
「あの! お、俺の意志は――」
「「「黙っててください」」」
「はい……」
わかってた、わかってたよ……俺に発言権はないんだって。
「あ、じゃあじゃあ、わたしからも提案、いいですかっ!?」
俺には人権がないということが明確に判明したところで、今度は悠可ちゃんが挙手した。あぁ、もうご自由にどうぞ……。
「公平を期す意味でも、みんなで同じ家に住むっていうのはどうでしょうかっ?」
「「それ採用」」
「え、ええぇぇ……」
悠可ちゃんの口から飛び出したのは。
さらにとんでもない提案だった。
俺が、この三人と……一つ屋根の下?
……マジで俺、前世で神様とか助けたんじゃなかろうか。
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