第28話 役者は揃い、舞台も整う?
悪夢級ダンジョンにて、トップアイドルの白金悠可ちゃんと連絡先を交換して、数日。
ありのまま起こった事を話すと……すんげーいっぱいメッセージがくる。
しかも長文。で、それに返信をするために俺が長文を打ってると、またその間に別の話題で長文がくる。だから全っ然、話が終わらない。
以下、その一例。
『お疲れ様です! 何度も言いますが、新卒メットさんとこうして連絡が取れるなんて、本当に夢みたいです! うれしすぎて、さっきからずっと立ったままで文章をうってます! 立ったままっていうので思い出したんですけど、ダンジョン配信のために筋トレをはじめました! ふくらはぎを鍛えると持久力アップ効果も期待できるらしくて、今のわたしにはぴったりかもなって思います!』
お疲れ様です。いやいや、むしろ俺みたいなのがトップアイドルと連絡を取ってることが夢みたいな話で――
『あ、もし差し支えなければ、新卒メットさんが持っているダンジョンスキル、いくつか教えていただいてもいいですか? わたしはよく使っているのが《隠密》と《気配感知》と《超速行動》、あとはマストで《暗視》なんですけど、この辺はやっぱり基本ですかね? もし他にもこれ鍛えると便利だよーとか、こんなことしたらこういうの覚えたよーとかあれば、たくさん教えてほしいです!』
あれ、さっきの話は? ふくらはぎの話はいいの? えっと、俺もだいたいはそんな感じのスキルを使ってますけど――
『そういえば新卒メットさんって、サッカーお好きなんですか? わたしも父の影響でサッカーが大好きで、ホワイトボードで戦術分析とかしてる時間がもう最高に楽しいです。あ、でも最近思うのは、サッカーの戦術ってもしかしたらダンジョン攻略とかに応用できるんじゃないかなぁとか、そんなことも考えたりしてます! ただその場合はボス攻略をメインに考えるわけだから、そうなると相手チームが――』
「いったん止まってぇぇ!?」
『わぁぁ! いけない、わたしったら! すみません!!』
止まらないので思わず電話しちゃったもの。
てかトップアイドルと通話できちゃうって、俺は前世でどんな徳を積んだんだろう?
「「いい加減、スマホ置け(し)?」」
「はひっ!?」
と。
俺が白金悠可ちゃんへの返信メッセージを一生懸命に作っていると、あからさまブチギレ気味の楓乃さん、シルヴァちゃんがこちらを睨みつけていた。
うん、顔怖すぎ。
「今日は社長への“やり返し”前の、最後の話し合いなんですから、ちゃんと集中してください! いくら相手が白金悠可ちゃんだからって、鼻の下伸ばしすぎです!」
「す、すいません……」
「つかなんで急にアイドルと仲良くなってんだし!? 社長と部長にハメられて出向させられて、なんでいきなりトップアイドルと連絡先交換することになんだっつの!? どういう流れだしそれ?!」
「な、なりゆきで……」
今日はシルヴァちゃんがいる都合で、そこそこ高級なお店の個室にて料理をつつきながら話し合いを行っている。議題は当然、『伊野部社長へのやり返し大作戦』について、だ。
ちなみに二人には白金悠可ちゃんと出会ったいきさつはすでに説明済みなのだが、あまり納得はしてくれていないようだ。なんで?
「でー、そのー、コラボなんですけどぉ……」
「「反対です(だし)」」
な、なんでぇ……?
数字的なことを考えたら、コラボ一択だと思うんだけどなぁ……?
「「変な枠が増えたら困る」」
「変な枠とは……?」
一糸乱れぬ同調ぶりで、楓乃さんとシルヴァちゃんは言い切る。
おかしいなー、コラボした方が絶対作戦もうまくいくと思うんだけど。
「ところで、退職届、受理されてましたよ。稟議も上まで通ったみたい」
「本当ですか? よかった」
「これで一社会人としての道理は通せましたね」
俺と楓乃さんは、すでに退職届を提出済みだ。有給の消化があるので、実質的にあと数週間で、俺たちのDイノベーションでの生活は幕を閉じることになる。
本当は月末になり、チャンネルの収益額がわかってからと思っていたけれど……仕方ない、もう覚悟はできている。
同時に、社長や佳賀里部長はきっと、俺たちがさしたる反抗を見せず、泣き寝入りを選択したと思っていることだろう。しかし、そう思ってくれている方が、いざ“やり返し”が成功したときのダメージは大きいので、良しとする。
「……マジで確認しとくけどさ。アンタらはマジでいいの? 会社辞めちゃって」
シルヴァちゃんが神妙な様子で聞いてくる。
俺は一度、楓乃さんの顔を見る。楓乃さんは、微笑みを返してくれた。
……うん、不安はない。
「大丈夫。もう“副業”でやっていくって決めたんだ」
「でも、配信者って不安定な職業よ? 炎上とかで簡単に数字も落ちるし、流行り廃りも激しいし……」
「それでも、いいんです。自分の人生を、ちゃんと自分で動かしていきたいって思ったから……ね、大地さん?」
「はい」
俺と楓乃さんは、心配してくれるシルヴァちゃんへと言葉を返す。
決して、一時の復讐心だけでDイノを辞めるわけではないのだ。
しっかり考えて、出した結論だ。
「……わかったわ、アタシももう何も言わないし、覚悟を決める。……白金悠可とのコラボも、やってやろうじゃない」
「シルヴァちゃん……」
「だってその方が、大地が考えてる“やり返し”、成功確率上がるんでしょ?」
「……うん」
「だったら、一択じゃん」
シルヴァちゃんの真剣な言葉に、楓乃さんも黙ってうなずいてくれる。
二人の許可を確認し、俺はスマホで悠可ちゃんへとメッセージを送る。
『コラボの方、よろしくお願いします』と。
月の最終週である来週に、伊野部社長と幹部数名が、新事業のために権利を買った『生きダンジョン』を下見に訪れる。その際、DGDが警備を一任されており、俺はそこに現場リーダーとして出勤する予定だった。
そのとき社長に――やり返す。
副業で、本業のボケどもをぶっ潰してやるのだ。
ヴヴヴ ヴヴヴ
と、そこで。
俺のスマホが震えた。
『はい! こちらこそよろしくお願いします! ――社長に、やり返してやりましょう!!』
すでに伊野部社長の所業を説明してある悠可ちゃんは、俺が提案していたコラボ企画に、快く応じてくれた。
これで役者は、揃った。
あとは――やり返すだけだ。
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