第26話 まさかの天職発見?
ダンジョン警備の会社DGDに出向して、はや二週間。
俺は控えめに言って――無双していた。
剣と魔法の代わりに、《ダンジョンスキル》と《警棒》で!
「これ、俺の天職かもしんないっ!」
興奮から、思わず独り言が漏れる。
今俺は、警備契約を交わしている上級ダンジョンにて、両手に警棒を装備して大暴れしていた。これはDGDがビジネスの付加価値として行っている『魔物駆除』の業務である。これを警備と兼務し、仕事に当たっている状態だ。
通常、警備と駆除は別々のスタッフがそれぞれ行う。それもそのはず、両方を同時にこなすなど、本来は不可能なことだからだ。
しかし今の俺にとっては、副業で馴れ親しんだダンジョンが、本業の職場になった状況。例えるならカードゲームで、フィールド効果で常に超強化されているような感じ。
当然、向かうところ敵なしだった。
「ヌハハハ! どけどけ魔物ども! 押し通る!!」
上級ダンジョンに頻繁に出現する凶暴なDジカ(鹿)を屠り、一気に最奥部まで突っ走る。ボスを倒して、ここを『死にダンジョン』にするためだ。そうなれば魔物はほぼ出なくなり、警備費用も半分以下に抑えられる。ワンオペなども可能になり、従業員の皆さんにとってもいいことづくめ。
聞くところによると、最近では確実にボスを倒せる状況なのにもかかわらず、わざと『生きダンジョン』のままにしておく事例があるらしい。
これはダンジョンビジネスの闇と言われていて、要するにダンジョンを管理する企業的に、自社のダンジョンが死ぬとビジネス的なうまみが減ってしまう場合など、暗黙の了解のうちに“生かして”おくらしい。
当然これは、一般人や探索者の安全性よりも、企業の利益を優先した考え方だ。
しかし、今の俺としては……そんなの関係ねぇ。
お金がどうとか社長の意向的にどうとか、そういうことの前に大事なものがあるんじゃい。
ちなみにこのダンジョンの権利を持っている企業様には、事前に許可をいただいている。「月々の管理費が格安になるんですが」『それならもう喜んで! ソッコーやっちゃってください!』
これはきっと上からの指示で、あえてちゃんとヒアリングをせず、売上を維持するためにそのままにしていた、ということだろう。改めて伊野部社長の汚いやり方に腹が立つ。
「ボス部屋あったぁぁ!」
突っ走る勢いのまま、ボス部屋の扉を蹴り破る。
部屋にいたのは、巨大なダンジョンベアー(熊)だった。
「グオワアアアアァァァァ――」
「ふんぬっ」
「ッギャ?!」
自らの強さを見せつけようと、雄叫びをあげながら立ち上がったDベアーの腹部に、俺は勢いそのまま、警棒を突き出した。警棒版ガ○チュゼロスタァイルッ(普通の壱式だけど)!!
一撃で、巨大なDベアーは崩れ落ちる。
ダンジョン内から、不穏な雰囲気が消えていくのが《気配感知》でよくわかる。
「よし、いっしょあがり」
つぶやいて、俺は思いっきり息をはき出した。ため息ではなく、やりきったというホッと一息だ。
「うおぃ、マジかっ!」
そこで、気づく。
先程までダンジョンベアーが仁王立ちしていた場所に、金色に光り輝くカタマリが一つ転がっていた。すかさず拾い上げる。
金である。
この重さなら、売ればざっと見積もっても五百万円はくだらないだろう。今まで俺が行ったアイテム売買では、一番の高値だ。
ダンジョンがくれた、退職祝いか――そんな風に思った。
◇◇◇
「京田、戻りましたぁー」
担当のダンジョンから戻り、俺はDGDの事務所の扉を開けた。
すると。
「京田くんっ! お疲れ様っ!!」
「う、うおわっ!?」
生気を取り戻した様子の警備部長が、飛び込むように近寄ってきた。いや、近い近い。
「京田くん、君にはなんとお礼を言ったらいいのか……おかげ様で、約一年半ぶりに家族で出かけられてねぇ……うぅ……娘なんてずっとべったりで『パパ楽しいね!』なんてさぁ……ううぅ、うぅ! ……あんなに大きくなってたんだなぁ……」
「よかった……よかったですね、部長」
部長の次は、小説家を目指しているというアルバイトの子が、エナドリを差し出しながら近寄ってきた。
「俺、夢持って上京したのに、気づけば暮らしていくためのバイトが生活のメインになって……本当にやるべきことがあるのに。大地さんのおかげで、目が覚めました。今なら俺、書けるような気がします!」
「がんばってね! 無理だけはしないように」
疲れていないのでエナドリは必要なかったが、気持ちが嬉しかったので受け取っておく。エナドリ、味が好きだからつい飲んじゃうんだよね……。
「京田君。もし今後君がなにかあれば、我々は必ず君を助ける。だからいつでも頼ってくれ」
「ありがとうございます」
警備部長の声に合わせて、DGDの人たちはうなずいてくれた。
俺は今日までの二週間、ずっと一人で警備のシフトを回していた。その間、劣悪な労働環境で会社のためにがんばってくれていた社員、アルバイトの皆さん全員に、一週間以上の有休消化をしてもらったのだ。
皆、元気を取り戻したみたいでよかった。
人は二、三日、心の底から休むだけで、生まれ変われる。思考もリフレッシュして、自分の人生を自分らしく生きられる。
そんな時間や権利、機会すらを奪ってきた社長に――やり返してやるのだ。
まずは第一段階、やり返すためのダンジョンの警備はなんとかなりそう。さらに、期せずして資金面も整った。
計画は、順調そのものだ。
「そういえば京田さんって、どうやって出入口警備をしていたんですか? ワンオペが禁止されているわけだから、どうがんばっても一人じゃ無理なはずなのに……」
「あー、それですか。もしかして、クレームとかありましたか?」
「いえ、まったくそういうのがなかったから、逆にどうしていたのか気になって。体力的にも、どう考えたって二週間ぶっ続けなんて無理なはずなのに……」
そこで、事務員の方が声をかけてきた。
勤怠などを管理していくれている人なので、やはり俺の“異常な働き方”が怪しまれているみたいだ。
……こればっかりは、あまり言いたくなかったけど、仕方ない。
俺を信頼してくれた人たちだ。俺も彼らを信頼しなければ。
「使い過ぎると人間的感覚がバグってくるんで、実は、あんまり使いたくないスキルなんですけど――」
そこで言葉を区切り、息を吸う。
実は――
「――《超回復》と《分身》を使って、対応してました」
「「「……は?」」」
DGDの皆さんの目が、点になっていた。
……そうなりますよねー。
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