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第21話 身バレを気にする探索者たち


「えっと……はい、たぶん、一応……本人です」


 新卒メットと自分で名乗ったことはないのでなんとも言えないが、おそらくは俺のことなんだろう。シルヴァちゃんのおかげ(せい?)でネット界隈では定着してるみたいだし。

 というわけで、首肯した。

 ……あれ、これって認めちゃってよかったんだっけ? まぁいいか。


「わたし、大ファンなんです! 握手してください!!」


 と、フェイスガードポニテ女子(勝手に命名)は、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように近づいて手を差し出してきた。大ファンになる要素どこにあった?

 ただまぁ、ぶっちゃけ悪い気はしない。鼻の下が伸びる、というのはこういう感情のときを言うのかもしれない。


「ど、どうも……」

「わぁ、手おっきい。男の人の手だぁ」


 片手を差し出した俺に対して、彼女は両手でギュ、と包み込むように握ってきた。

 む、むほっ。なんなんやこの気持ち……マジで鼻の下がテラフォー○ーズのゴキブリみたくなっちゃいそう。急に手汗が気になりだす。


「この手でつかんで、あの大きなドラゴンを投げたんですよねぇ。すごいなぁ……あ、ちなみにあのときって、発動させてるスキルは《筋力増強》だけですか? 他にもなにかマニアックなものとか使用していた感じですか?」

「あ、え、へ?」


 突如として食い気味に質問を重ねてくる彼女。近い近い、顔が近いッ。

 フェイスガードの奥でキラキラと光る瞳は、まるでスポットライトを一身に集めるアイドルのよう。目の中に流星群でもあるんかな?


 近すぎて目を見ていられず視線を下に逸らすと、モノトーンでデザインされたジャージが目に入る。胸元に特徴的な白黒のエンブレムがあり、おそらくはイタリアの貴婦人、ユベ○トスのトレーニングジャージだ。しかもエンブレム変更前のモデル。マニアックである。


 あぁなつかしい。ウイ○レにハマって海外サッカーの知識をかき集めていた時代があったなぁ。


「どうやったらあんな風に、ドラゴンを投げられるようになりますかね? やっぱり熟練度ってすっごく上げてらっしゃるんですよね? わたしも毎日自主練してはいるんですけど、やっぱり筋力的なところの伸びがあまり感じられなくって。これってやっぱり、本来のフィジカルをもっと向上させていった方がいいと思いますか?」


 ずいずずいぃ、と俺が後ずさった分まで距離を詰めてくる彼女。

 マシンガントークでガンガン言葉を連ねてくるので、こちらが言葉を差し挟む余地がない。しかし言葉使いの丁寧さや、自分で思考と試行をして上達のための追求をしている辺り、かなり地頭がいいのではなかろうか。


 あとたぶんこの子、凝り性な性格なんだろうな。俺が探索初心者の頃、ベテランの人にしてた質問攻めそのものだし。


「えっと……それは――」


 と。

 俺が質問に答えようとしたタイミングで。


 ヴーン ヴーン ヴーン


 独特な、撮影用ドローンの飛行音が聞こえた。

 ここは出入り口に監視用としてドローンが浮遊していたが、『悪夢級ナイトメア』でこれだけ内部に入り込んでくるのは珍しい。おそらくは月一に行われる点検日だったのかもしれない。


「……す、すみませんたくさんしゃべってしまって。それじゃ、わたしはこれで失礼いたします」

「え、あ。は、はい」


 ドローンの出現を確認した途端、そそくさとその場を立ち去ろうとするポニテ女子。よくよく考えたらフェイスガードで顔を隠しているわけだし、もしかしたら俺と同じように身バレしたくない人なのかもしれない。


「あ、あのっ」

「はい?」


 慌てて移動し、奥の闇へとその背中が消えかけたとき。

 彼女は一度、こちらを振り返った。


「また……ここに来れば、会えますか?」

「まぁ、ええ。悪夢級、この辺にはここしかないですし」


 言葉を返した途端、フェイスガードの下で喜色満面きしょくまんめんの笑みが咲いた。もうにぱー☆って感じ。瞳がキラキラして、歯が白く美しい。マジ芸能人みたいだ。


「じゃ、また!」


 元気よく振られた手に、俺も思わず手を振り返してしまう。

 はぁ、無敵の笑顔で荒らすメディアって感じだな……エモいってこの感情のことを言うのかな? はじめて自然と出たよ、この言葉。


「あ」


 と、そこで一つ思い出す。

 ……ストーカーなのか確認するの忘れた。


◇◇◇


「おはようございまー……ん?」


 翌日。出社。

 Dイノベーションのエントランス。以前、別所元部長の悪行を大々的に映し出していたモニター周辺が騒がしい。なにかあったのだろうか?


「えぇ、白金しろがね悠可ゆうか辞めちゃうのー? アイドルで唯一ちょっと好きだったのになー」

「悠可のプラチナスマイル……俺の心の支えがぁ……」

「僕、悠可ロスなんで早退します……」


 特に男性陣から、嘆きの悲鳴がいくつも上がっている。

 もしやあれか、人気アイドルの卒業、もしくは引退宣言かな?


「おはようございます、大地さん」

「あ、おはようございます、楓乃さん」


 後ろから声をかけてきたのは、今日もスーツ姿が見目麗しい楓乃さんである。


「悠可ちゃん、グループ卒業しちゃうんですもんね……」

「楓乃さん、あの子のことご存じなんですか?」

「当然じゃないですか! 今飛ぶ鳥を落とす勢いの、迷宮坂めいきゅうざか46の一番人気、アイドルの中のアイドル『白金悠可』ちゃんですよ!? 彼女のダンジョン配信だけは誰にも真似できないって言われてる、唯一無二のアイドルSeekTuberなんですから!!」

「な、なんかすいません……」


 勢いに気圧され、なぜか謝ってしまう俺。

 軽い気持ちで話を振ったことを後悔するほど、楓乃さんは高い熱量で言葉を返してきた。めっちゃ熱く語るやん……。


「んー……」


 俺はモニターへと視線を戻す。

 画面には、白金悠可ちゃんとやらの会見、話している顔がアップで映し出されている。


 ……どこかで、見たことがあるような。

 ……いや、気のせいだよな。

 平凡以下を絵に描いたような俺が、トップアイドルと会ったことなんてあるわけないんだから。


 俺は業務を開始するため、自席へと向かった。

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