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第17.5話 人気配信者のつぶやき#1(シルヴァ視点)

※シルヴァの心情を知りたい方はお読みください。


『マジでシクった……』


 ダンションRTAの企画後に、アタシはつぶやいた。

 みんなきっと、アタシがボス部屋に直行して、死にかけたことだと思ったはず。


 でも実際は、違う。

 このつぶやきは、アタシがあんなスーツにヘルメットの変態が気になりだすなんて、マジでしくじった、という意味だ。


 ……頭ん中、アイツのことばっか。

 アタシ、チョロっ。


 死にかけたところを助けられて、助けてくれた相手がカッコよく見えるとか、マンガとかアニメの中だけだと思ってた。

 だけど……本当に、マジで、カッコよかったんだもん……しゃーなくない?

 でもいくら配信中の事故のせいとは言え、アタシがチョロいみたいでマジ悔しい。


 これでも一応、アタシはトップ配信者の一人なわけだし。


 チャンネル登録者数は百五十万人を超えたし、大手の配信者事務所にも所属してるし、ぶっちゃけハンパない額、稼いでる。まだ今年で十八だけど、もうたぶん働かないで遊んで暮らしていけると思う。


 ……でも、ここまで来るのが楽勝だったなんて、これっぽっちも思わない。

 お金を稼ぐのは、本当に大変だし。


 高校とかで知り合った同年代の子は、みんなパパ活だとか兄活だとかでお金を稼いでイキってた。


『ご飯行ってブラブラしただけで三万だよ?』

『キスしただけで五万くれたww』

『気持ち良くなって十万だもん、最高じゃない?』


 ……正直、マジで不快だった。

 そんな汚い金で買った服とかバッグ身に着けて、なんで喜べるわけ?

 嫌悪感しかなかった。


 でもそうやって自慢してくる連中は、お金を持ってることが人間としての価値とイコールだって思ってた。バカだし、マジ失せろって思ったけど、そんなヤツらに見下されてるのもすんげーイライラした。

 だから実際に稼いで見せつけてやるって思って、アタシは『SeekTube』で、配信をはじめた。


 アイツらなんかより、何倍も稼いでやるんだって思った。


 アタシは日本人のパパと、オランダ人のママとのハーフだ。だから髪色は元々明るくて、自分で言うのもなんだけど、顔がメチャ可愛いし華もある(間違いない)。 

 だから絶対イケるっしょ!って、思ってたんだけど……。


 アタシは全然、バズらなかった。

 しかも――軽く炎上。

 はじめての配信を、安全な『死にダンジョン』で行ったからだ。

 ソッコーでディスられた。


『雑魚乙』

『これでダンジョン配信者とか笑うww』

『生きダンジョンで命かけてる奴ら見習えよ』


 ……悔しかった。マジで悔しかった。

『生きダンジョン』なんか潜ったら、本気で死ぬかもしれないのに!?

 アタシが潜った『死にダンジョン』だって、灯りとかない結構危ないトコだったのに……っ!


 それでアタシは思い知った。人って、そう簡単に信じちゃいけないんだって。大人も、子供も、みんな嫌い。アタシは人が、嫌いだ。

 ……でもそれじゃ、社会じゃ生きていけない。

 だったら、結局……配信をがんばるしか、ないんじゃん。


 気づいたとき、ホントみじめでしょーがなかった。マジで、お金を稼ぐのって大変なんだって、心底思い知らされた。


 だけどアタシは意地になって、ダンジョン配信を続けた。できる限りの準備をしてなるだけ『生きダンジョン』で配信した。最初は暗いのとか魔物モンスターとか怖くてヤバかったけど、自分で決めたことだから、納得いくまでやり切るって歯を食いしばった。


 動画研究もした。

 どうすれば観てる人に楽しんでもらえるのか、そもそも、どうすれば観てもらえるのかとか、めっちゃ考えた。いいと思ったことはすぐやったし、失敗してもめげずに別の方法を試した。


 楽しいなんて思わなかった。でも生きてくためだしっていう、そんな気持ちがあった。義務感みたいな?

 そしたらやっと数字も伸びてきて、収益もそこそこの額になった。

 本当に……嬉しかった。


 そんなときだ、今の事務所から声がかかったのは。

 アタシは自分がやってきたことが評価されたんだと思って、さらに嬉しくなった。

 でも……事務所の社長に言われたのは、屈辱的な言葉だった。


「キミさぁ、今のやり方じゃその辺の有象無象うぞうむぞうのままだよ? ルックスはいいんだから、ウチにマネジメント任せてもらえない? そうすれば絶対、もっとハネるよ」


 ……悔しかった。

 社会で生きてくのって、悔しいことしかないの?って感じ。

 マジ絶対こんなとこ入ってやるもんかって、思った。


 だけど……自分一人じゃ手詰まりなのも、痛いほどわかってた。

 悩んだ末、アタシのマネージャーになる予定だっていう人(ツッチーだ)と面談をする機会をもらった。

 そこで、ツッチーはアタシに言った。


「私は仕事とか事務所とか関係なく、シルヴァさんのひたむきな動画での姿を見て、本気で応援したいと思ったから、ここにいます」


 ……泣きそうだった。

 今思えばさ、ビジネスのためにこういうこと、思ってなくても言える大人もいるって、わかるんだけどさ。でもこんときは、めっちゃ嬉しくて。


 あーアタシ、やっぱチョロいのかもな。


 そこからはもう、ツッチーと一緒にとにかくがんばった。

 気がつけば《ダンジョンスキル》もいくつか発現して、かなりダンジョンの中で安全に、かつ無理できるようになった。そしたらどんどんアゲな動画が撮れて、ガンガン数字も出るようになった。


 マジで、ドヤァ!って感じだったっ、はは。


「……はぁ? なにコイツ」


 そんなとある日の、ライブ配信。

 久々にダンジョンじゃなくておうちからだったから、結構気合入ってたのに(ジェラピケの新品おろしたのにっ!)、途中からやけに数字の伸びが悪かった。


 で、なんだろうと思って検索かけてみたら……変な動画が出てきた。

 フルフェイスヘルメットに安そうなスーツを着た探索者が、ドラゴンをぶん投げてる動画。それがバズって、そっちに人が流れていたのだ。


 ……めっちゃムカついたけど、もう私はプロの配信者。これをネタにしない手はないと思った。


「……あぁ新卒メット野郎イイ! ウケる!」


 書き込みからアイツの呼び名を勝手に決めて、さっそくコラボの打診をするために、ツッチーへ連絡を入れた。


『どうやら、特に配信などはしていないようです』

「はぁぁ? こんだけバズってるのに、バカなの!?」


 驚愕の事実。

 でも、この“波”を捨てるなんて絶対あり得ない。事務所のスタッフ数名に頼んで、とにかく調べてもらった。数日間、動画のダンジョンに近いところにはり込んだりもしてもらった。


 そして――


「ついに見つけたわよっ、この新卒メット野郎!」


 アイツと、はじめてリアルで出会った。

 とんとん拍子でコラボが決まって、あっと言う間にダンジョンRTAの当日になった。


 そこで、アタシは驚く。

 まさか、アイツがあんなに速くて強いと思ってなかった。心のどこかで「アタシがリードしてやんなくちゃ」ぐらいに思っていたのに、大きな差をつけられて……正直、かなりアセった。


 そのせいで、いつもなら余裕で回避してるトラップを踏んじゃって、ボス部屋に直行。……マジ詰んだ、と思った。


 配信中に超危険なイレギュラーとかが起こった場合、ダンジョン配信者はほぼ百パー見捨てられる。それはどんなに大きな事務所だろうと影響力のある配信者であろうと、だ。

 そりゃそうだ、人間はみんな自分が可愛い。普通は危険を冒してまで、他人を救おうだなんて絶対に思わない。


 ただ、だからってあきらめきれなくて、アタシは見苦しく逃げ回ってた。

 助けて、助けてって、心の中でずっと叫びながら。

 そしたら――


「こっちだ、デカ蜘蛛グモ。こい!」


 ――アイツが、来てくれた。

 もう泣きそうで、泣いちゃいそうでダサくて、こんなの配信に乗せられないって思った。

 でもとにかく、助けに来てくれた。

 しかも、めっちゃ強い。あのデカ蜘蛛を、一瞬で倒しちゃったし。


 ……え、マジで強さバグってない?


「えぇーん、よかった、よかったよぉぉ! 生きてて良かったぁぁぁぁ!!」

「…………よしよし」


 我慢できなくて泣いたら、アイツは頭を撫でてくれた。

 いつもならパパにだって触らせないけど、そんときは、まぁ、特別っていうか……仕方なく?


 その日からだ、アタマの中がアイツばっかりになったのは。

 あぁもう、なんなのよこれっ!


「……じゃ、じゃあ大地、会社内じゃなくて、ダンジョン内では、その…………」


 後日の、反省会。

 ……あぁもう、あのときだってこんなこと言うつもりじゃ、全然なかったのに……アイツが『カノさん』て呼ぶときの幸せそうな顔見てたら、対抗心が燃えてきちゃってた。

 アタシはいつも、自分が興味を持ったものはとことん突き詰めてきた。

 だから、アイツ――大地のことだって。


「――アタシがカノジョ、ってことでいいっしょ?」


 納得いくまで、ぶつかってやる。

 覚悟、しときなさいよね!



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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ありがとうございます!!

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