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第16話 俺、バズる(ピンチ!!)


「本当、ご迷惑おかけしてすいません……」


 ダンジョンRTAの翌日。日曜日。

 俺は今、横浜駅近くのレンタルスペースで誰にともなく謝っていた。

 同じ空間には、楓乃さん、シルヴァちゃん、さらにそのマネージャーであるツッチーこと土田つちだ紗香さやかさんらが、配信の反省会と撮影、という名目で集まっていた。

 

 そして俺は、落ち込んでいる。

 なぜならば。

 昨日のラスト、俺が自ら名前を名乗ってしまったためだった。

 これじゃ会社に副業がバレてしまう! 動画のリスクヘッジって大変!!


「あれはほら、名前聞いちゃったアタシも悪かったし……」

「私がもっと事前に、動画配信中のタブーを周知徹底しておけばよかったのですが……」

「いや、なによりも俺自身の軽率さが問題かと……」


 俺を気づかってくれる、シルヴァちゃんとツッチーさん。二人の優しさが心に染みすぎてツラい。こんなところで自分の至らなさを思い知らされるとは……悔しいです。


「起こってしまったことは仕方ないですから、前を向きましょ。それで実際のところ、動画にはどのくらいのアクセスがあったんですか?」


 正確な現状を把握しようと、楓乃さんがツッチーさんに話を振る。

 あぁ、こういう切り替えが早くて前向きなところも、楓乃さんの魅力の一つだよなぁ。


「とんでもない数でしたよ。聞きたいですか……?」

「は、はい……」


 ツッチーさんの思わせぶりな言い方に、息を飲む。

 そして。


「同接……一千万人です」

「「い、いっせんまん!?」」


 聞かされた馴染みのない数字に、俺と楓乃さんの驚きがハモってしまう。

 一千万!? M-1の賞金じゃんそれもう!?


「そんなにいったのね……アタシのマックスの、軽く三倍じゃん。なんか悔しい通り越して、もはや嬉しいんだけど」


 開き直ったみたいに、満面の笑みを浮かべるシルヴァちゃん。


「シルヴァの最高同接数は三百万ちょっとだったので、京田さんたちと組んだことで、三倍以上の数字が出たことになります……」

「い、いやいやっ、これはシルヴァちゃんの人気と、ツッチーさんの準備ありきの数字ですからっ! あと、強いて言うなら楓乃さんのセクシーなドレス姿が数字を集めたんじゃないかとっ!!」

「だ、大地さん、恥ずかしいです……」


 謙遜するシルヴァちゃん、ツッチーさんに対して、俺は必死に説明する。楓乃さんは少し照れている。かわええ。

 いやでもだって、俺は何度も言ってるように、ただのスーツにフルフェイスヘルメットの変態ですから! 数字持ってるわけないですからっ!!


 ……と、そこで我に返る。


「しかしなんにせよ、それだけの人数に俺の本名がバレたって……ことですよね?」


 一千万人に、本名がバレる。

 まだ実感はないが、想像するだけでゾッとする。

 もう満員電車とか怖くて乗れない……。


「いえ、正確に言うなら本名自体が視聴者全員にバレたかは疑わしいです。京田さんはヘルメットをかぶっていて、ただでさえ声がくぐもっていましたから。動画も確認しましたけど、ボス部屋のせいかかなりノイズも入っていましたし……」

「アタシも確認したけど、アンタがしゃべってるとこだけをかなり念入りに見ない限り、大丈夫だと思うわ」


 血の気が引いていた俺に、ツッチーさんとシルヴァちゃんは冷静に言う。

 そうなのか……そうだとしたら、少し安心だ。


「でも万が一のリスクヘッジはしておいた方がいいかもしれません。もし京田さんたちのお勤めになっている会社にバレてしまって問題がある場合、私どもの方から折り入ってお願いした、という風にしましょう……」

「そうね。実際アタシらからのアプローチだし、その方が大地的にも助かるっしょ?」

「え……い、いいんですか?」


 今後を見据えて、そんな提案までしてくれるシルヴァちゃんとツッチーさん。

 おいおい、これは俺、お二人にもう足を向けて寝られんぞ。

 感謝感激である。


「はい、問題ありません。それじゃさっそく、私はちょっと関係各所に根回しの電話をかけてきますので……」


 言って、ツッチーさんは部屋を出て行った。

 本当、多忙を極めるとはああいう人を言うのだろう。まだ目の下のクマが濃かったし、体調が心配だ。


「「「…………」」」


 と、そこで気付く。

 今、八畳程度のレンタルスペース内にいるのは、俺、楓乃さん、シルヴァちゃん。

 さらによくよく部屋を見回すと、どこかホテルを思わせるような一面の白い壁に、横になれるほど大きなソファ、無駄にムーディーな照明、どこか卑猥さすら感じさせる裸の天使の謎のオブジェ……あれ、なんかここ、いかがわしくね?


「こ、こんなときに、聞くことじゃないとは思うんだけどさ……」


 妙に重たい沈黙を破ったのは、シルヴァさんだった。

 なにやら、ためらうように唇をわなわなさせている。


「……アンタたちって、付き合ってるのよね?」

「「え?」」


 唐突に、シルヴァさんはそんな質問をしてきた。

 ……あれ、そう言えば俺と楓乃さんって、付き合ってるんだっけ?

 会社での『楓乃の乱』における発言でそういう『テイ』にはなったけど、実際のところはどうなんだっけ?


 告白とかもしてないから……あれ、まだ付き合えてないんじゃ!?


「あ、えと、実は告白とかはまだ――」

「こんなときだからこそっ!!」

「はひっ!?」


 うわ、びっくりした。

 急に楓乃さんが、大きな声を出した。


「こんなときだからこそ――ハッキリさせましょう、私たちの関係を」

「……え、えぇ?」


 自分から出た声が、同意なのか疑問形なのか。

 俺にはよくわからなかった。


 ……なに、この空気?



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