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第13話 人気配信者とマネージャー


 紅坂シルヴァさんとのダンジョンRTA対決、当日。


 俺はリクルートスーツ(自宅で洗えるやつ)に漆黒のフルフェイスヘルメットを装備し、万全の状態でダンジョン入り口手前でストレッチをしていた。

 傍らには、チャイナドレスに狐のお面をかぶった、楓乃さん。


 ……え、なんでチャイナドレス?

 狐のお面は顔を隠すためって、わかるけど……なんでチャイナドレス?


 さすがにエロすぎだろオイ。


「緊張しますね……」


 狐面の下から、楓乃さんの声が聞こえる。

 声が少しくぐもっているせいか、なんか普段より声の水気が多い気がする。

 うん、やっぱりエロすぎだろ。


 赤いチャイナドレスには深くスリットも入っているので、楓乃さんの美脚が動く度ちらちらと覗いている。これね、なんかもうエロテロリストと言って過言ではないと思うんだ。


「待たせたわね!」


 と。

 俺が楓乃さんのエロテロリストっぷりに理性を失いそうになっていたとき、紅坂シルヴァさんが現れた。宣言通り、高そうなゴシックドレスが嫌味なぐらい似合っている。

 周囲にはスタッフさんなのか、お揃いのTシャツを着た人を何名かはべらせている。さすが一流配信者、まるで大御所芸能人のような登場だ。


「え、アンタらなにそれ? 二人して顔隠すの? ヤバ。てかなんでチャイナドレス?」

「あ、あの、シルヴァさんがゴシックドレスということだったので、一応こちらもドレスで揃えた方がいいかな、なんて思いましてっ」


 絡んできたシルヴァさんに、楓乃さんはちょっと緊張したような感じで受け答えする。もしかしたら、憧れのシルヴァさんに会えて嬉しいのかもしれない。俺は知らなかったので全然緊張しないけど。


 それにしても、楓乃さんとシルヴァさんが揃うと、空間が段違いに華やかになる。


 百七十近い長身で、かなりスタイルの良い楓乃さんと、小さくて可愛らしいがとんでもない破壊力を持つおっぱ……OPAを誇っているシルヴァさん。

 それぞれが別々の強烈な魅力を持っている上、超美形。さらに今は二人ともド派手なドレス姿だ。いやが応でも注目が集まる。


「ふん、絵的にはかなり映えるわね、いいじゃない。それじゃあ、今日のゴール設定と、ダンジョンの難易度を説明するわ。ツッチー、こっち」

「はい……」

「この子はアタシのマネージャーの土田つちだ紗香さやか、ツッチーって呼んで」

「土田です。以後、お見知りおきを……」


 シルヴァさんの言葉を受けて前に出てきたのは『インパクトスターズ:スタッフ』と書かれたTシャツを着た女性だ。インパクトスターズというのは、おそらく事務所の名前だろう。

 普通にしていれば目鼻立ちの整った美人さんっぽいが、今は目の下に漆黒のクマができており、すべてを台無しにしている。


「今回、RTAのステージとして選んだのは『ボス未討伐』、『生きダンジョン』、『洞窟型』、難易度『上級ハード』になります。ダンジョン自体の攻略条件はボス討伐ですが、相応の危険がありますので、今回はインフラが行き届いている地点、最奥部手前で折り返し戻ってくるというタイムアタックです……」


 丁寧に、ツッチーと呼ばれた女性は説明してくれる。物腰も柔らかく、俺らのような一般人に対しても礼儀正しい。書類を読み上げながら目配せしてくれるところなど、小さい仕草の端々に真っ当な人間性が垣間見えた。

 が、かなり疲れているのか、どこかツラそう。


「ゴール地点には目印があるので、そこまで行って折り返してください……」


 ちなみに、ダンジョンでいうところのゴール――つまり完全攻略というのは、基本的に最奥部にいるボス魔物モンスターを討伐した場合を言う。

 しかし、こういった企画の場合は、先ほどツッチーさんが話したように、探索者独自でゴールを設定する場合も多々ある。


 探索者界隈では、ボスが討伐されたダンジョンを『死にダンジョン』と呼び、まだ誰にもボスが倒されておらず、攻略されていないダンジョンを『生きダンジョン』と呼び分けている。

 これは、ボスが討伐されるとダンジョン内のモンスター出現率が著しく低下し、アイテムなどもほとんど発生しなくなるため、死んでしまったも同然、と言われているためだ。これらのダンジョンは探索利用などではなく、不動産物件として扱われることが多い。


 というか。


「……あの、マネージャーさん、寝れてます?」

「私は大丈夫です。昨日は三時間ほど横になれましたんで……」

「いや少なっ、睡眠時間少なっ」


 未だ芸能系の会社は暗黒なブラック気質が抜けていないらしい。これは早急な働き方改革が望まれるなぁ。


「あの、ちょっとご相談なんですけど」

「はい、なんでしょう……?」


 俺はここぞとばかりに、シルヴァさんのマネージャーであるツッチーさんに、折り入って相談がある、と切り込む。


「もし今回のRTAで俺が勝ったら……今後、シルヴァさんとずっと一緒に動画配信していく、とか可能ですかね?」



◇◇◇



 ダンジョンRTAの、スタート地点。

 周囲では撮影用のドローンが飛び交っている。


「い、いよいよですね……」


 俺にお姫様抱っこされたチャイナドレスの楓乃さんが、気恥ずかしそうに言う。なかなか顔が近いので、ちょっと恥ずかしい。


「楓乃さん、もしその体勢でツラくなったら言ってくださいね」

「絶対大丈夫です! むしろ一生このままでもっ!」

「そ、それはちょっと」


 がし、と俺のスーツの襟をつかんで「離しませんっ」と言う楓乃さん。

 カンガルーの子供みたいでカワイイ。でもスリットから見える生足がエロい。

 あぁーこれは楓乃さんしか勝たんなぁ。


「スタート前にイチャつくなっつの! 集中しろしっ!!」


 横に並んでいた紅坂シルヴァさんが、装着した手錠をジャラジャラ鳴らしながら言う。

 ……な、なんだっ、この超絶に背徳な感じはっ!?


 まるでドールのような造形美を誇るその美顔に、神々しさすら漂わせる輝く銀髪。そんな彼女がまとうのは、シックなデザインで高級感を漂わせる本格的なゴシックドレス。そしておそらく楓乃さんをも超えるであろう、ハイパービッグサイズOPA。最後の極めつけは、そんな彼女の両手首に光る、銀色のTEJYO(手錠)ッッ!! 背徳感がハンパじゃないぃぜぇぇぇ!! 同人誌にしたいっっ!!


 ……は。今俺、数秒間か意識がトんでいた。

 変なこと言ってなかったかな?


「よろしくお願いします、シルヴァさん」

「よろ。新卒メット!」

「あのー、もし、俺がこのダンジョンRTAに勝ったら……」

「え、なによ?」


 そこで一度区切り、俺は大きく息を吸う。


「今後、一緒に動画配信してもらいますんで」

「は、はぁぁぁ!?」


 銀髪のツインテールが激しく揺れる。


「よーい――どんっ!!」


 スタッフさんの声で、いよいよダンジョンRTAがスタートした。



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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