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第12話 マドンナと副業MTG(ミーティング)

誤字報告をはじめていただきました。すごくありがたい……っ!

報告してくださった方、ありがとうございます!


「勝負の内容は――ダンジョンRTAよ!」


 先日、人気配信者の紅坂こうさかシルヴァさんがけしかけてきたのは、ダンジョンRTAだった。

 RTAとは、RealリアルTimeタイムAttackアタックの略である。


 元々はゲーム用語で、要するにヨーイドン!からゴール!まで、どっちが早いかを競うということ。これをダンジョンでやろうぜ、というのが今回の勝負の内容だ。これ自体は結構流行っている企画で、色んな配信者が色んなダンジョンでRTAしている様子が、日々動画として『SeekTubeしーつべ』上にアップされている。


 俺もちょっとやってみたいなと思っていたので、願ってもない種目だとこのときは思った。

 しかし同時に、やっぱり配信デビューは楓乃さんと一緒に、とも思った。

 なのでこのとき、俺はシルヴァさんに提案をした。


「俺は楓乃さ……相棒をお姫様抱っこして挑戦します」


 ずっと楓乃さんをお姫様抱っこしながらダンジョン攻略をする、と宣言したのだ。

 正直、絵面がシュールすぎるとも思ったけれど、それしか思いつかなかった。


 俺としてはただ単純に、楓乃さんも一緒に、という気持ちから言っただけなのだが、どうやら紅坂こうさかシルヴァさんは、違う解釈をしてしまったみたいだった。


「……はああ!? アタシを舐めるのも、いい加減にしときなさいよっ! そんだけのハンデつけようってんなら、アタシだって同じぐらいの条件でやってやるんだからっ!! アタシは手錠を着けたまま、ゴスロリドレスでやってやるわよ! どう、両手が塞がってる上に動きづらい、これで同等でしょ!?」


 と眉間にシワを寄せ、キレ気味に言ってきた。

 なので、


「よし、乗った」

「いや重さが全然違くないですか!?」


 俺はこれで条件が対等になったな、と思って気持ちよく頷いたのだが、隣の楓乃さんがなぜか顔を赤くしてツッコミを入れてきた。

 え、楓乃さんは羽のように軽いから、むしろ俺の方が有利なぐらいだと思うよ?


「ふん、ただのRTAじゃ面白くないってことね。機転を利かせてさらにハネる企画にするなんて、アンタなかなかやるじゃない!」


 そう言って、紅坂シルヴァさんは俺の身勝手な提示条件を飲んでくれた。

 どうやら、お互いが普通に攻略のスピードを競うより、変な条件付けをしたうえで頑張る方が、企画としては盛り上がるらしい。さすが、プロの視点である。


 こんな感じで『俺と楓乃さん』対『紅坂シルヴァさん』による、ダンジョンRTA対決の開催が決定したのだった。


 で、だ。


「私たち、どういう感じの方向性でやっていきましょうか?」


 今、俺と楓乃さんは本業終わりにファミレスで打合せ中。

 そう、俺と楓乃さんの二人でダンジョン配信をしていく、という大まかな方向性は決まったのだが、いかんせんデビューも済ませていない段階から、怒涛の勢いでバズり、さらに紅坂シルヴァさんという人気配信者とコラボすることになってしまったので、まったくもって段取りが追い付いていないのだった。


 何事も見切り発車だと、動かしながらの柔軟な対応が必要になるなぁ。


「シルヴァさんが言っていたとおり、ちゃんとユーザーのことを考えると、男女でダンジョン配信、というのはあんまりよろしくないのかもしれません。大地さんの探索する姿を、カッコいいって思う人も、いるかもですし……」

「俺がですか? ないと思いますけど……スーツにフルフェイスですし」

「わ、私は思ったんですもんっ! 私が変だってことですか!?」

「いやいやいやいや、そういうわけでは……!」


 俺の謙遜に、楓乃さんはぷりぷりと怒る。うん、かわええ。

 ただちょっと変だとは思ってます!


「じゃあいっそのこと、カ、カップルチャンネルみたいに打ち出していくっていうのは……?」

「お、俺が恥ずかしすぎてちょっと無理っす……」

「わ、私もです……」


 カップルチャンネル、却下。

 んー、これはどうしたものか。なにか妙案が浮かばぬものだろうか。


「一旦休憩しましょうか。俺、ドリンクバー取ってきますね。楓乃さんなにがいいですか?」

「あ、じゃあオレンジジュースで」


 うなっていても仕方ないので、俺は一区切りつける意味で席を立った。

 楓乃さんのグラスを取り、ドリンクバーマシーンまで歩く。熱く語っていたせいか、少し肩の辺りが凝っている感じがした。


「楓乃さんは、オレンジジュース……と。俺はどれにしよっかなぁ」


 ここのファミレスのドリンクバーはなかなか豊富で、コーラやメロンソーダといったお決まりのものから、ドクペや野菜ジュース、リア○ゴールドまである。

 これだけ色んな種類のドリンクがあると、それだけでワクワクしてくる。案の定、子供が大喜びして色んなドリンクを混ぜて笑っていた。


「……ん?」


 そこで、俺の頭の中にふと、妙案が浮かびかける。んー、焦るな、丁寧に思考をまとめていこう。時にはしっかり考えることで、現状打破できる場合もある。

 俺はグラスにドリンクを注ぎながら、思考をまとめていく。


 席に戻り、メニューを眺めていた楓乃さんに提案する。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「楓乃さん、俺今ふと思いついたんですけど……徐々に人が増えていくチャンネルってのは、どうですか?」


 俺が閃いた妙案というのは、これだ。

 多種多様なドリンクバーが並ぶあのワクワク感を、動画チャンネルでもできないものかと思ったのだ。

 あと単純に人数が多い方が各自の負担が減って良い!


「……ありだと思います。それなら様々なファン層にリーチできますし。あとはなにより、画面が派手になります」


 楓乃さんも俺の提案に乗り気な様子だ。


「でも、それなら私たち以外に誰を配信メンバーにするんですか?」

「……すいません、考えてませんでした」


 俺以上に冷静で、かつ思考力もある楓乃さんが指摘する。

 うん、そこはまったく考えてなかった。


 と。

 そこで研究のためにと、テーブルに置いたスマホで流していた『SeekTube』が、自動再生をはじめた。

 映し出されたのは――銀髪ツインテールに安全第一のヘルメットをかぶった、ド派手な女の子である。


「…………いましたね、声かけれる人」


 俺と楓乃さんの、悪い笑みが重なった。



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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