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第10話 マドンナとダンジョンデート


 帰り道の途中にある、潜り慣れたダンジョン。その出入口。

 俺と楓乃さんは、いくつか並べて設置されている簡易更衣室で『にゅうダン』(ダンジョンに入ること)の準備を整えていた。


 ここの洞窟型ダンジョンは難易度が『中級ノーマル』で、下層まで警備ドローンが配備されているため、もし万一のことがあっても安心だ。

 あと俺も百回近く潜っているので、目をつぶっていても最下層まで行って戻ってこれる自信がある。だからこそ、なにがあろうと楓乃さんを守り切れるという確信もあった。


「装備、ありがとうございます」


 隣の更衣室から、楓乃さんの声がする。

 楓乃さんは本格的な探索は未経験だそうで、俺のヘルメット以外の装備を貸すことにした。装着中なのか、衣擦れの音もする。

 なんかエロい。


「サイズとか、大丈夫そうですか? 」

「はい。少し大きいけど、服の上からだから丁度いいです……大地さんの匂いがするし」


 俺が貸し出したのは、あくまでも携帯性を重視した小型のプロテクター等なので、女性にしては身長が高めの楓乃さんにはちょうどいいのかもしれなかった。

 言葉の後半は独り言のようにゴニョゴニョしていたので、聞き取れなかった。なにを言ったんだろう?


 ちなみにヘルメットはサイズが合わない物をつけて激しく動くと、首に負担がかかって危険なので、後日買おうということになった。


「じゃーん。こんな感じでどうですか?」


 と。

 更衣室のカーテンを開き、楓乃さんは装備を終えた姿を自慢げに見せてきた。

 ジャケットを脱ぎ、パンツスーツにブラウスのまま、楓乃さんは肘と膝にプロテクターを着け、革靴からスニーカーにチェンジしていた。


 なんというか、コーディネートもへったくれもない感じだけれど、いつものボブヘアーを結わえてサイドにまとめているところとか、ちょっとスポーティな印象がプラスされているところとか、スポーティなのにタイトめなブラウスがその立派なOPAを強調していて揺れてる感じとか、うん、なんだろう……エロカオスカワイイ!


 俺はなにを言っているんだ?


「……っ、か、可愛いです」


 端的に、言うべきことだけ伝えた。

 分別のある大人として、間違っても女性の前でOPAがどうとか言ってはいけない。


「ふふ、ありがとうございますっ。嬉しいなっ」


 茶目っ気たっぷりに、楓乃さんは笑う。かわええ。

 うん、いつもの調子が戻ってきたみたいだ。


 ちなみに俺の装備はと言うと、ネクタイを外してジャケットを脱ぎ、ポケッタブルのウインドブレーカーを羽織って、頭にはヘルメットをかぶった状態。

 武器は折りたたみ式の警棒のみ。灯り等は楓乃さんに持たせている。


 ウインドブレーカーにヘルメットなので、変質者感が消えた代わりに銀行強盗感が三割増しだった。どうやったら見た目の印象を堅気にできるのか誰か教えてほしい。


「私、なんかワクワクしてます!」


 元気よく屈伸運動しながら、楓乃さんは笑みを見せる。

 良かった、少しは楽しんでくれているみたいだ。


「それじゃ行きましょうか」

「はい! 今後の副業に向けて、私も熟練度上げなくっちゃ!」


 楓乃さんの可愛い決意表明から、俺たちは探索を開始した。


◇◇◇


「ひゃっ!?」

「楓乃さん、だ、大丈夫ですか?」

「ご、ごめんなさい……虫とか、苦手で」


 何匹目かのDバエ(要するにはえだ)が出現したとき、楓乃さんに抱きつかれた。もうこれも何度目かわからないけれど、いい匂いがするし、OPAのぽよふわが毎回最高すぎるし、何度味わってもとにかく至福だった。

 俺は楓乃さんを抱き留めたまま片手を振り上げ、警棒でDバエを叩き落した。ハエの死骸が、鉄の塊に変わる。売買のためアイテム入れにしまっておく。


「もしキツかったら、いつでも言ってくださいね。最短ルートで戻りますから」

「……いえ、私もこれからダンジョン配信するわけだし、今のうちに耐性つけておかないと!」


 ちなみに今の楓乃さんは、持っていたスカーフで口元を隠している。途中、ドローンがこちらにカメラを向けていたためだ。……うん、どう見ても二人組の銀行強盗です本当にありがとうございました。


「ちなみに大地さんって、どのくらい《ダンジョンスキル》持ってるんですか?」

「あー、数えたことないですね」

「それって……え、数えられないほどあるってことですか?」

「んー……どうなんでしょう」


 自分の健康状態を維持しておく、などは別として、ダンジョン内での探索効率の向上や、魔物モンスターとの戦闘を有利に進められるようになるためには《ダンジョンスキル》とその《熟練度》を高めること以外に方法はない。


 いくらダンジョンの存在が当たり前になったとは言え、現実がゲームのように楽しめるものになったかと言えば、まだまだそうでないのがツラいところ。

 俺たちにはレベルアップやステータスという概念はなく、あくまでも日常の延長線上にダンジョンがある、というだけ。


 結局、職場でも学校でもどこでも、ツラく面倒な人間関係に疲弊しながら生きていかなきゃならないのである。あぁ、世知辛い世知辛い……。


 ゲームのような特殊な現象は、先程も言った通り《ダンジョンスキル》ぐらいだ。

 ただその存在は確認されているものの、ダンジョンの中だけでしか発動・発現しないとされているため、結局俺たちの日常はダンジョンが登場する前とさほど変わっていないのだった。


 あぁ、俺も剣と魔法を振りかざして無双してぇ……。


「私ネットで見たんですけど、未認証の《ダンジョンスキル》の発現を申請すれば、すんごいお金もらえるって聞きましたよ?」

「え、本当ですか?」

「本当だと思いますよ。そのままちょっと調べてみたんですけど、申請して政府機関による生態研究・分析に協力したうえでスキルが認められると、ウン千万円はくだらいって」

「んな!? ウン千万円!?」


 マ、マジか……。

《ダンジョンスキル》を利用して、金を稼ぐ方法があっただなんて。ふむ、それを副業にするのもアリな気がする。

 ただちょっと『生態研究・分析』が怖い。ショッ○ーに改造されて仮面ラ○ダーみたくなったりしないかな? いやそれむしろご褒美じゃね?


「はぇぇ……そりゃ稼げそうですね。副業一本でも食っていけそう」

「ふふ、大地さん副業一本って。それもう本業じゃないですか」

「あ、確かに」


 そんな感じで、俺と楓乃さんは笑い合った。

 ホンマ、カワエェ。


 と。


「ついに見つけたわよっ、この新卒メット野郎!!」


 突如、俺たちがたどってきたルートの方から、とんでもない暴言が響いてきた。

 振り向くと、そこにいたのは。


 ――銀髪ツインテールに安全第一のヘルメットをかぶった、ド派手な探索者。


「大地さん……っ! あれ、超人気配信者の『紅坂こうさかシルヴァ』ちゃんですよっ!!」


 隣の楓乃さんが、俺の背に隠れながら、耳元で密やかにつぶやいた。

 いやマジ、声エんロ。なんかもう耳から脳汁出ちゃいそうだもん。


 というか。

 ……え、誰それ?



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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