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石と誰かの物語

宅配便です

作者: 河 美子

石と誰かの物語が始まります。いろいろな人生があります。

 君といるだけで心が落ち着くと言われたけど、隣でいびきをかく姿はまるでおじさん。

 部屋に入れる方が悪いと言われればそうかもしれない。

 だけど、若くてギラギラしているタイプには見えないし、シンプルなV首セーターとカッターシャツ襟の似合う人だから…。部屋でお茶でも飲むって聞いた私がバカだったのか。

 二か月経つとと部屋でゲップはするし、トイレだって開放で。自然体なのがいいって言うけど違うんじゃないかな。これって安く見られてる気がしてならない。

 私ももうそろそろ結婚を考える31歳。親は大学在学中は仕事を手に付けて都会で働けと言っていたのに、最近はそんなことより孫が見たかったと過去形で話す始末。

 まだ31だってば。


 この彼と知り合ったのは二か月前の忘年会。

 隣のボックスにいた彼らは落研サークルだったメンバーで私たちのグループはフィットネスクラブ仲間。ヤンママもいればアラサーのスナック経営者。さらに熟年離婚した主婦。そして私。

 話が弾まない訳がない。笑い転げて飲みすぎてついつい意気投合した彼らと二次会、三次会、さらに彼を部屋へ招き入れた。

 寒い日には体を寄せ合うのも悪くはない。話は合うし年齢も一緒。都会育ちでないところまで同じ。だけど、今のこの姿ってどうよ。

 休みがなかったとかでいびきをかきながらよだれを垂らして寝ている彼を冷たく見下ろしてみる。眉毛が変、目はまあまあ、鼻はもっと高いといいのに。口はほくろがあるのが好き。

 とまあ、点数をつければ68点くらい。

 私はつけてほしくないけど、彼から見れば82点ぐらいはほしい。

 退屈しのぎにネットでショップを眺める。

 見つけた青い石のペンダント。

 細かな石がいくつもたわわになってるペンダント。昔からアクセサリーはシンプルなものばかりを選んでいた。でも、今心惹かれるこのペンダントは石がいろいろと自然な形で重なり合っている。

 今の仕事に携わって9年。人使いの荒い会社ではあるが、そこそこ認められてきた。

 なのに、おかしいじゃない。私でなくて同期の玲子が先に抜擢されるなんて。行きたかったあの部署。


「あ、このペンダント、買ったセーターにいいかも」

 

「何してるの」

 突然起きてきた彼。

「俺ね、明後日から名古屋に出向」

「聞いてない」

「だから、明後日からって、今言ってる」

「今度の日曜は私の誕生日よ」

「うん、めでたいな。女の厄年」

「何それ」

「だから、送別会ばっかし続いてるんだ」

「ふーん、これでお別れってわけね」

「なんでそうなるの」

 なんかつまんないって叫びたくなる。

 コートをひっかけて外に出る。


 二時間して部屋に戻ると彼はいなかった。メモには明日の準備があるから帰るって。


 別にいいもん。

 好きじゃなかったんだから。

 体だけの関係よ。

 と言い聞かせながら一週間。

 

 私の誕生日。

 女の厄年。嬉しいわ、涙が出るのはこんなに盛大に夢で祝ってもらったからなのね。

 コンビニでケーキを買ってきた。

 452円。

「おめでとう、私」

 涙が止まらない。

 子どものようにしゃくりあげてしまう。


 ピンポーン。

「宅配便です」

「はーい」

 開けると彼がいる。

 言葉が出ない。

「受け取りにハンコください」

「何、ふざけてるの」

「だから、宅配便です」

 小さな袋に入っているのはあのペンダント。

「あ、これ」

「うん、パソコンに残ってたページ見て」

 ほしかったブルーの石。

 アクアマリン。

 鎮静エネルギーがあるそうな…。私にぴったりの石。

「勇気の石なんだぞ。押してくれ」


 彼が突き出した婚姻届。

 私は真っ赤なハンコを押しました。

 

 

 

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