第二章第一節
今回から第二章です。といってもやることは変わりません。最初はまだ世界観の掘り下げです。今回からは新人研修が始まりますが、その中で『団体』の気味の悪さみたいなのを上手く表現して単なる世界観の掘り下げにならないようにしたいですね…。多分更新はちょいちょい続けられると思います。
次の日、いつものデモ課の企画業務として、幼児のライオンの絵にたてがみのあるオスしか描かれていないのは差別的な教育のせいであり、非進歩的だという点を家庭教育反対デモのネタにしようと考えながら、『団体』産の白米や野菜を使った定食を食べていたところ、あからさまに緊張した『団体』支給の白の制服を着た会員が、オイノモリに近づいてきた。
脇を刈り上げた黒髪の男は、目の大きなあどけない顔をしていて一見少年のようにも見えるが、身長は180㎝以上あるようだ。身長177㎝のオイノモリよりも明らかに大きい。
「オイノモリさんですか?自分は今日付けで青少年健全育成委員会に配属になったクグリザカです。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。オイノモリです。クグリザカさんは元々デモ課志望の方でしたね。今回は志望者が少なかったので、元々志望してくれた方が来てくださると心強いです。」
オイノモリが笑いかけると、クグリザカは恐縮して頭を下げた。自分も新人の時はこう見えていたのかな、とオイノモリは思った。
「今日の研修はデモ課の仕事をまずおおよそ覚えてもらうことと、良く連携する部署の見学に行くこと。とりあえず今日は教育課の見学に行くことになってるけど、明日の午前中は調査課の見学に行くから、他の課の新人研修に混ぜてもらう手前、遅刻だけはしないように。持ち物は特にないけど、メモに使うソーシャル・ウォッチの充電は確認しておくこと。…ここまでは大丈夫かな?」
「はい!大丈夫です!」
クグリザカは大きな声で返事をした。
「じゃあデモ課の仕事を覚えてもらうけども、クグリザカさんは志望者だったから大体の内容は知ってるよね?実際に考えてみて欲しいことがあるんだけど」
これにもクグリザカは大きな声で返事をした。
「例えば今日は家庭教育反対デモを起こすために家庭教育の悪影響を考えていたんだけど、クグリザカさんは何か思いつくかな?」
教育課講師のように、目の前の新人に問いかけた。
「強いメッセージ性を持たせた方がいいから、何か強烈な非進歩性を挙げて欲しいんだよ!」
ここで初めてクグリザカの声が小さくなった。
「…そもそも家庭教育ってなんでデモ対象なんですか?」
オイノモリは面食らった。と同時にクグリザカが『団体』施設外で育ったという事を思い出した。
「『団体』施設内では、『家庭教育はばらつきがあって、ともすれば非進歩的な人間が生まれる土壌となりうる非進歩的環境』って考え方があるんだけどね。『団体』施設外だと、クグリザカさんの保護者さんみたいに進歩的な教育をしてくれるか分からないから、なるべく『団体』施設内での教育を推奨しているんだよ」
「そういうものですか」
「そういうものだよ」
少し考え込んだ後に、クグリザカは言った。
「自分はあまり思いつかないので、オイノモリ先輩はどういう点を挙げられたのか、参考までに聞かせてください」
「さっき思いついたのは家庭教育を受けた幼児のライオンの絵かな。大抵、たてがみのついたオスしか描かれないのは非進歩的だよね、メスが描かれないなんて」
「ライオン…ですか。幼児の絵の。…なるほど。そういうものですか」
メモを取る手が止まったクグリザカは言った。
「そういうものだよ」
これからはこんな感じでデモを起こす対象のセンセーショナルな非進歩性を探していくから、と伝えると、クグリザカは姿勢を正して返事をした。
オイノモリは、教育課の新人研修担当に連絡を取り、自分たちの参加時間の打ち合わせを済ませた。
今回はあんまりオマージュした部分は無いですね。初っ端のライオンの下りとかもオリジナルで、気味悪さと滑稽さを入れようとした結果なんですが現実世界でも起こったりなんかしないだろうな…と不安になってます。まぁ流石にフィクションらしくなってますよね…多分。「そういうものですか」、「そういうものだよ」の下りもオリジナルです。暗記オンリーで理由を考えなくなると怖いですからね…多分この表現はこの先も出てきます。あと次の教育課見学はオマージュ回だと思います。
これは内容とは全く関係ない話ですが、最近アクセスしてくれる方が増えて嬉しいです。最初から読んでくれている人も何人かいらっしゃるのかな?と思っています。この作品は正直尖りすぎてて人を選ぶと思っていたので、読んでくれている人には本当に感謝です。「色んな感想を持つ人がいるだろうけど、せめて何か考えるきっかけに」と思っていたのに前話に遡ってみて下さっている方もいらっしゃるようでありがたいです。