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陽の当たる場所  作者: 十司新奈
余録
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余録

あんまりにも『団体』の核心に近づき過ぎるとラストが弱くなるので、そこは控えめに書きました。

先月投稿できずに申し訳なかったんですがタイミング的にはアリかなと思ってます。

今月中にもう一回、今度は本筋のストーリーを勧められたらと思います。


雲間から差し込んだ陽の光が、廃墟の天井から男を照らす。

男のウェーブのかかった白髪はその光の殆どを乱反射させて輝いていた。

一方で、輝きを失った男の双眸には、彼の腰かけるダイニングテーブルの対面、

彼の妻が座っているはずの、今は薄暗くなってしまった席が映っていた。


ブブッ、と皺だらけのワイシャツの胸ポケットに入れたままのモブが、点灯と共に振動した。

宗治郎からのメッセージだ。


「着いた。これからそっちへ行く」

仏ヶ浦は「了解」とだけ返した。


数分の後に、大釈迦宗治郎は足元に積もった瓦礫を越えて現れた。

彼が連れてきたのは、歪んだ、しかし知っている顔だった。

「新法師、如来瀬…」


新法師と呼ばれた男は、悲惨な空気を振り払うように右腕を挙げて会釈してみせた。

しかし、その腕の肘から先が木製になった男の会釈は、かえって雰囲気を重くしただけだった。

一方で如来瀬は俯いたまま一切会釈しない。

仏ヶ浦の聞いた話では、前歯を全て引き抜かれたらしい。


皆が、この「大暴動」で傷を負っていた。

宗治郎にしても、背中に大きな火傷を負っている。

自分はむしろ幸運だったのだ、と仏ヶ浦はウェーブした髪を針金で束ねながら思った。

彼自身の肉体には何の欠損も無い。

その束ねた髪が白く変わった他は。


「宗治郎に君らを呼んで貰ったのは、国の再設計のためだ」

仏ヶ浦は二人の傷ついた顔を見ながら言った。

「俺たちがこの国を灰の中からもう一度甦らせる」



「…どうやって?」

新法師が言った。

如来瀬も仏ヶ浦に怪訝そうな瞳を向けた。

「民主主義下に俺たちは居たはずだろう。最高の政治体制の中に。だが、国の基礎となる国民が今回の『暴動』を起こした。一度甦らせたとしても、また100年と経たず国は崩壊するんじゃないか?」


「…俺らは夢を見ていたんだよ。『国民』なんて居なかったんだよ」


新法師は仏ヶ浦の顔を見た。

その焦茶色の瞳には憂いと諦観が涙と共に浮いていた。


「あの程度の『大衆』に民主主義は…いや、選択の自由は分不相応だったんだ」


「…どういうことだ?政治家のお前が、仮にも国民を」





「奴等には自由に対する責任感がない!!」





仏ヶ浦はテーブルを叩いた。


「あの低能なブタどもの頭には快楽の追求と苦痛からの逃避しかない。あのブタどもはより皆が暮らしやすい社会には賛成だが、そのために税が必要だとなると一銭たりとも出したがらない。そして、具体的な数字を何も出さずに、税なくとも暮らしは楽になると謳う”政治屋”や、庶民人気目当てのタレントどもの根拠なき批判にハエのように群がるんだ、まともに努力して裕福な暮らしをしている奴を敵視してな」


「…誰かが言ってたな。末期の人間ってのは絶望を見て生きるより、希望を追って死にたがる、と。結局、心地よい言葉を言う奴に付いていっても何も変わらないのに」


大釈迦の顔は不動明王の顔だった。教員をしていた頃は決して見せなかった顔だ。

未来ある子供たちを優しく諭していたあの顔とは似ても似つかない。


「その時はまた既成の権力を批判して満足するんだろうさ。奴等は自分の努力不足を棚に上げて、ただ金を求めて這いずる干からびかけのナメクジだ。奴等など現実ではクソの訳にも立たない…が、『奴等を説得するのに正論がいらない』ならば、『奴等はただ負け犬根性で人を引きずり下ろしたいだけ』ならば」


「その数の多さを利用して扇動すれば、また国を立て直せるかも知れない、ってか」


新法師は、生身の左手を顎に当てて、考え込んだ。


「…ひいのか…ほ前は。ひまわでの理想を捨へても…」


前歯を引き抜かれた如来瀬は、憐れむような眼で仏ヶ浦に言った。


「…『国民』のためになることなら、話し合って理解してもらおうと思ったよ。だが、奴等は『大衆』だ…。話し合っても理解できないよ、あいつらには」


「協力してくれるか?俺たちに」


新法師と如来瀬は頷いた。彼らもまた、話し合いの通じない暴徒に癒えない傷を負わされた身だ。


「梵珠や阿弥陀川にも声をかけるつもりだ。大事なのはSNS上と現実世界の両方をまとめ上げることだ。如来瀬や新法師には現実を担当してもらう」


かつて、国民のためになることならば、たとえ最初は反対されても

話しあうことで理解されると考えた若手政治家は、消えた。


そこに居たのは、他人を説得することを諦めた、一人のリアリストだった。

僕の創作のテーマでもある「人間、努力が大事」の言わば裏の側面である、「何で大して努力してもないくせに要求だけ一丁前なんだお前は?」というところにも関わってくる話になったと思います。ちょっと行き過ぎた罵倒が多すぎたかもしれませんが、テイカーって嫌いなんですよね、本当に。

僕の正の面が龍飛崎、負の面が仏ヶ浦なので、どうしても仏ヶ浦を描く時は色々出ちゃいます。正の面の龍飛崎でさえあんな性格ですが…。

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