第七章第五節
一か月以内に更新予定でしたが少し遅れました。「アルジャーノンに花束を」は読み終えました。
何というか…あの最後を日誌形式で書くのは凄いなと思いました。物語の作りとして。
最近は「その他もろもろ ある予言譚」と「ポピュリズムの仕掛け人」を買いました。
アタシが自分の部屋に戻ってきたのは、その日の6時だった。
太陽もとっくに沈んでしまった暗い夜道を飛ばしてロビーに到着した時は、
いつものオバチャン…オーナーの姿は無かった。
オーナーとはかなり長い仲だけど、あの頃と同じく今でも忙しいのだろう。
アタシは358号室の電気を付け、着ていたジャケットを壁にかけた。
デスクの上にスラックスのポケットの中身を出していく。
取り出したモブ端末の液晶に誰からのものか、不在着信の文字が見えた。
結構な時間が空いていたが、番号は自分のもう一方のモブ。
アタシは早速かけ直した。
「…もしもし」
「あー、もし?今大丈夫?」
「ちょっと待ってください」
ゴソゴソと電話口の相手…オイノモリの方から何やら音が聞こえる。
「もう大丈夫です」
「何か昼ぐらいに電話くれたよね、なんかあった?」
「…なるほどね。あの美人さんがそんなことを」
「今はソーシャル・ウォッチは布でくるんで他の部屋に置いてますから」
電話口のオイノモリは監視されていても、そう深刻そうな感情は感じられない。
「勘違いなら悪いけどさ、話はそれだけ?」
「え?」
「対策出来てるし、何か他に言いたいことがあったんじゃないかな、って思っただけだよ」
それから少し沈黙を置いて、彼は話し出した。
それは、彼の話にちょくちょく登場する後輩クンが起こすというデモの話だった。
アタシの商売に障りが出るのが申し訳ないと、頭を下げているのが電話口でも分かった。
「タツさんと会ってから考えることが沢山ありました。煙草が非進歩的であるとしても、他者に気を遣っている人まで排除する必要があるのか、それは結局多様性を失わせて進歩を阻むようなものじゃないかと…」
「はいはい、言いたいことは分かったから」
こういう正直で純粋なところはオイノモリの美点だな、とアタシは思った。
一方で非常に危ういとも思う。
「…別にアタシはこの仕事が無理なら他の仕事を探すだけ。仮に自分と合わないことでも生活のためなら妥協できるのがオトナってもんだよ。オイノモリが気にかけるようなことじゃない」
「…」
「気遣ってくれてありがとね、おやすみ」
「はい、おやすみなさい…あ、この端末っていつ返したらいいですか?」
「当分預けとくよ、また話そうね」
「はい、ありがとうございます」
そう言って、受話器のアイコンを押した。
ちょっと前までは疚しいことが無いならプライベートを盗聴されても平気だ、って奴だった。
むしろそうやってプライベートを差し出すのが美徳であるかのように。
それが今じゃ自分の信じていた人たちに音を拾われないようにして通話してる。
信じるものに正直なのは悪い事じゃない。
けれど正直すぎると暴走してしまいがちだ。
「今の状態で『団体』に居て、大丈夫なのか?」
その疑問に対する答えは当然、通話が切れたモブからは帰ってこない。
また話す機会もあるか、とひとりごちてデスクの上のライターを手に喫煙所に向かった。
ストーリーをきな臭く、きな臭く…と進めていってます。
最近また読むフェーズに入っちゃったので、次の更新予定は分かりませんが1か月以内にしたいです。
この小説はSNSで人が狂った反省から生まれた国民相互監視ディストピアのつもりで書いた割に、今までSNS関連の記述をあまり入れられてなかったので、断章とかで少し触れていきたいです。
因みにツイッターは殆ど引退しました。更新ツイートだけしてほぼ見てないです。




