第五章第六節
最近出た新しい日本酒を昨日今日と飲んでいたんですが、めちゃくちゃフルーティで気に入りました。桃とか葡萄っぽい味がする。
ここ最近帰るとすでに日付が変わってたりして全然書けてないんですが次の更新は意外と早そうです。
全然書けないとか言ってこの前短編一本投稿してたりするんですがそれはそれです。
陽が落ちて暗くなりつつある世界にはぽつぽつとオレンジの街灯が儚く灯り始めていた。
オイノモリは車の心地よい揺れも相まって、うつらうつらと舟を漕ぎ始めたところで、大きな揺れで目を覚ました。
龍飛崎がフッと噴き出した。恥ずかしくなって外に目をそらしたオイノモリは、自分たちの車が目にしたことの無い景色の中を走っていることに気が付いた。
やけに舗装が荒れている道路を登っていく。少なくともオイノモリの生活圏内にこんな道は無い。
オイノモリは少し戸惑って運転席を見たが、龍飛崎は車内の音楽に合わせて「こんなもんじゃない」と呟いている。
一体タツさんはどんなとこに住んでいるんだ、と思ったオイノモリだったが、車が止まったのは、坂の上に立つグレーの箱の前だった。
薄暗く、窓からの光も指していないその建物は、暗闇の中ではまさしく箱そのもので、かろうじてガラス張りの入り口から光が指しているので何とか建物と分かるというような具合だった。
龍飛崎は「着いたよ」と一言言うと後部座席からオイノモリの荷物を引っ張り出してくれた。
「ありがとうございます。…ここに住んでるんですか?」
「まっさか、こんなでかい建物に住めるほど稼いじゃいないよ。ここはアタシの泊ってる宿。郊外で雑音も無いから気に入ってるんだ」
宿の中に入ると50過ぎぐらいの女がロビーに立っていた。目じりにカラスの足跡が入った丸っこい顔の女は、龍飛崎を見つけると、ぺらぺらと喋りだした。
「あらタツちゃん今日はちょっと早いんじゃないの?そっちの男のコは?どっかで引っ掛けてでもきたの?あーた美人だからって初心な男の子を釣って遊んじゃだめよお嫁に行く時になって困るわよ遊んでると婚期が遅れちゃうのよアタシなんかさぁ…」
こちらに一切の発言の隙を与えないマシンガン連射を龍飛崎は上手くかわした。
「あー、あー、勘違いだってオーナー。こっちは最近つるんでるツレで、オイノモリって言うの。今日泊めるから、後で二人分食事用意出来たりする?」
「そのくらい聞かなくてもオーケーよ。いつも通り7時半でいいの?」
「今日はアタシがコールしてからでいいよ」
ずいぶんタツさんはここの馴染みらしい。
常連客でも、勝手に人を連れ込むのを許してくれる宿はそうそうないだろう。
「あの…タツさん、泊りでいいんですか?」
廊下を歩きながらオイノモリは聞いた。
「もうこんな時間だし、泊っていきなよ。明日仕事なら送るからさ」
「明日は特に急ぎの仕事はないですけど、そういう問題では…」
「大丈夫だよ、アタシの取ってる部屋ベッドツインだし。それとも同じ部屋に泊まるだけで意識しちゃうワケ?」
「…そういうことじゃありませんから」
オイノモリはソーシャル・ウォッチの電子決済画面を表示し、見せつけるように龍飛崎の前に突き出し、
「自分の分の宿泊費は払いますから後でe-moneyのアドレス教えてください」と言った。
龍飛崎は笑って「はいよー」と返事をした。
オーナーの言ってることは勘違いとも言い切れないな、とオイノモリは思った。
ただ、そんな非進歩的な男女関係があっても軽蔑出来ない程に親しみを持っていることを、オイノモリはまだ自覚していなかった。
最近伊藤計劃の『ハーモニー』を読み終わりました。話が単純な健康系ディストピアじゃなく、後半からは意識に関する考察とかに繋がっていきますが、すごく面白かったです。月並みな感想ですけど、すごく良かった。本当にいいものは面倒な修飾なんか要らないってやつですね。
本当に夭折が悔やまれる作家だと思います。
最近の僕はそういう読書の甲斐あってモチベーションが上がって、新しいアイディアがかなり湧いてくるんですがそのせいでこっちの執筆が疎かになってる気がします。良くない。




