第五章第五節
僕は今外に夜の海を感じながらこの前書きを書いています。お元気でしょうか。
とかなんとか言って久しぶりの更新ぶったりなんかしてみます。
大分酔いも醒めてきたのでこれから一杯日本酒をいくつもりです。
セルフレジで会計をそそくさと済ませたオイノモリと龍飛崎は車に戻っていた。
龍飛崎がエンジンをかけた後にオイノモリはため息をついた。
「勘弁してくださいよタツさん…。次に職場でどう接していいか分からなくなるじゃないですか」
「ごめんごめん、ちょっとムキになってたかも。なんかムッと来ちゃってさ、焚書とか」
「彼女は焚書担当の昇華課の仕事も担当してるんです。『非進歩的な書籍が健全な社会を害する』ってことで、『団体』内外で」
「…オイノモリもそう思う?」
広い後部座席に買い物袋を放り投げた龍飛崎は、オイノモリと目を合わせずにシートベルトをかけた。
「…僕は…分かりません。最近、非進歩的って言う言葉がどうもわからなくなってきたんです。抽象的…とも違う、曖昧というか、どう表現すればいいのか」
その時、オイノモリの腕に光が灯り、誰かからの着信を知らせた。
「人との付き合いは選ばないと『職務に対する犠牲的奉仕』がお粗末になりますよ」
届いたのはウシロヤチからのメッセージだった。
『進歩的社会はそれぞれの職務に対する犠牲的奉仕からなる』
『団体』での教育の中で暗記したフレーズがオイノモリの脳内を何度も木霊した。
進歩的な社会、それは素晴らしいはずだ。それを自分達が創っていることも誇らしい。だが、非進歩的なことは本当に悪い事なのか。
タツさんは非進歩的な喫煙者ではあるが、喫煙時に周りに迷惑をかけないよう気を遣っている。それでも、喫煙者である以上『団体』の目指す社会の障害として扱われる。その理由は?
『理由を考えている時間の長さだけ社会は停滞する』
別の格言が頭の隅から湧いてきた。理由を考えている間にも社会はどんどん悪くなっていく、すぐに行動するべきだ、と暗記させられた。そうだ、確かに考えている間に犠牲は出続ける。だからこそノロマで腰の重い政府の方針を『団体』がデモで正しているのだ。
「…大丈夫?なんか悪い知らせ?」
龍飛崎はソーシャル・ウォッチのメッセージを読んだきり黙りこくったオイノモリに声をかけた。
「あぁ、すいません。大丈夫です」
「そう?都合が悪いなら本は他の日でもいいけど」
「いや、大丈夫ですよ。タツさんの持ってる本に興味もありますし、早く読みたいです」
オイノモリは無理に笑ってみせた。
龍飛崎はオイノモリの空元気を知ってか知らずか、眉間にしわを寄せた、困ったような笑いを浮かべてアクセルを踏んだ。
古ぼけた龍飛崎の車は、東から夜が追いかけてくる世界の、未だ陽の沈み切らない西の空に向かって走っていった。
めっちゃ長くなりましたがこの二人、元々本屋で会ってそこから龍飛崎の持ってる昔の本を見に行くみたいな流れだったんですよ…。時間空きすぎてもう誰も覚えてないでしょうが…。そのうちちゃんと推敲してもう一回書きます。こっちはプロト版にして。
最近SF熱がまた高まってきていて、『虐殺器官』を一週間ほど前に読み切りました。今は『ハーモニー』を読んでるところです。今まで結構古典のSFばっかり読んでましたが、伊藤計劃作品は結構好きですね。




