第五章第四節
「夏への扉」を読み終わってからSF熱が高まってます。今日本屋で「虐殺器官」が目に入って買う事にしました。アイディアが色々湧いてきてます。医療の発達で長寿になった結果、精神的な老害が蔓延って社会のアップデートが遅れた世界とか、AIよりも仕事出来るか、出来ないかで職業階層が分けられた世界とか、AIと人間の違いをテーマにして書いてみたいとか。基本オチが思いつかなくて書かないんですけどね。
大音量のアラームが鳴って数分も経たぬうちに昇華課警備部の黒いユニフォームが数人、ブーツの音を響かせながら素早く店内に走りこんだ。近くのパトロールをしていたのだろうが、大抵警備部の到着は警察よりも早い。
その光景を見てスーパーの中にいた客たちも、黒いユニフォームの人間ゴキブリが飛び込んでいった店内のトイレ付近に輪を作って集まっていた。オイノモリ達三人は、その人混みよりも少し後ろから騒動を見ていた。
しばらくして警備部に引きずり出されてきたのは、背の低い中年男性だった。髪には白いものが目立ち、彼の表情は、襟を黒ユニフォームに掴まれていることもあって、今から首を括ろうという優柔不断な自殺志願者のようだった。
「性自認女性用トイレに入ろうとする不埒な輩め!非進歩的性犯罪者め!」
黒ユニフォームの男がそう言うと、口々に他の警備部員たちも男を蔑み始める。
「待ってください、これは何かの間違いです!きっと夫はどちらが性自認男性用トイレか分からなかっただけなんです!」
髪を団子に結った、ほうれい線のある中年女性が警備部に縋りついた。
「黙れ!」「非進歩的犯罪を庇う気か!」
黒ユニフォームの他にも、今度は見物客からも罵声が上がった。
男はそのまま警備課の黒い車に乗せられ、駆け付けたパトカーの警備を受けながら霊柩車めいて送られていった。
「…怖い世の中になったものですね、性犯罪が白昼堂々行われるとは」
ウシロヤチは目を閉じて悲痛な表情で首を横に振った。
「折角トイレの標識は非進歩的なピクトグラムを克服し、平等な意匠になったというのに」
「平等になりすぎて、どっちがどっちだか分かんなくなったんじゃないです?」
龍飛崎が横から口をはさんだ。
「龍飛崎さん、非進歩的性犯罪者を庇う気ですか?」
「庇うも貶すも事情次第でしょう。お上がどういう結論を下すか、ですよ」
またこうなったか…とオイノモリは心の中で嘆息した。
結局オイノモリが張り詰めた気まずい空気から逃れられたのは結局十分にも満たなかった。
「あ、僕はもう買うものが揃ったので会計に行きますね…。タツさん、ほら」
オイノモリは多少強引でもこの場から離れたかった。
龍飛崎の腕を引いてセルフレジに向かったオイノモリには、背後から冷たい視線の刃が突き刺さるのが良く分かった。
トイレのピクトグラムにさえも「女性が赤色でスカートを履いたピクトグラムは性的差別!」とか言う奴居りますよね。あれは自分がどっちに入ればいいのか分かればそれでいいものなのに。
今回でオイノモリの胃が痛むような回は終わりです。ウシロヤチも龍飛崎も悪気はないでしょうがオイノモリの立場からしたらたまったもんじゃありませんよね。
どうでもいいんですが「性自認バッジ」とかあったらディストピアっぽいですよね。入れればよかったかなと今更後悔してます。やっぱ完結させてから投稿した方がいいですね。今年中には完結するんじゃないかと思ってますが、次作があれば完結してから投稿するかもです。




