第四章第一節
今回から第四章です。どこで区切ればいいか分かんなくて結構適当なとこで切っちゃっいました。
「まだ二週間経ってないぐらいだよな?今退院したのか?」
古臭い振動音とともに車体と女の顔が揺れる。
「そんなところです。この前はありがとうございました」
オイノモリは形式的に礼を言った。あの状況で自分を殺さなかったからと言って、この女があのテロと何も関係がないとは言い切れない。
「あの爆発って結局何だったんでしょうか?」
鎌をかけてみた。秘密の暴露があればあのテロに関わっているはずだ。
「さあ?スクリーンだと政府がどうの言ってたけど、アタシあんま見ないんだよな」
「そうですか」
しらばっくれているようには見えない。どう判断したものか…。
「そういやお前今帰り?送ってこっか?」
「えっ?」
「この寒い中で歩きはしんどいだろうからさ、乗りなよ」
女は暖房の温度や向きを変えたらしく、オイノモリの足元から暖かい風が吹いてきた。今更ながらに乗って大丈夫だったのかと不安が襲ってきたが、体に当たる暖かさが不安感を和らげていた。女が計器盤を操作すると、オイノモリが聞いたことの無い曲が流れ始めた。コーヒーと線香を混ぜたような、独特の香りが車内を覆っていた。
車の中はあまり整理されてはいなかった。ダッシュボードの上には一目見て古いと分かる紙製の雑誌や、何かドーナツ型の板が入ったケースが置かれている。極めつけは灰皿だ。茶色い筒のようなものが何本か入っていた。今、灰皿が付いた車など、この国には数えるほどだろう。相当長く乗っているのだろうか。
「それにしても良くあの腕が元に戻ったね」
「ええ、おかげさまで。今は人工神経がありますから」
「世の中は便利になっていくね」
「これも人間が進歩を目指すからですよ」
かもね、と苦笑して女は右手でステアリングを握り、左手でサイドブレーキを戻した。
「でもお前…いつまでもお前ってのもあれか、お名前なんてーの?」
「あなたは?」流石に自分から本名を明かす気にはなれなかった。
「アタシ?アタシは龍飛崎結華。龍が飛ぶ崎に結ぶ華って書いてね。皆タツって呼ぶよ」
「僕はオイノモリです」
「どんな字?」
「漢字表記は漢字文化の無い国の人に対して不平等なので」
「初めて会った時みたいなこと言い出したな?」
龍飛崎と名乗った女はステアリングを握ったままオイノモリに視線を向けてニヤッと笑った。
「まぁ細かいことは良いんだけどさ、他にもあそこには人がいたろ?大丈夫だったのかと思って」
オイノモリはそこで死傷者の数についてあまり知らないことに気が付いた。デモ課の人間もいたはずだが、次のデモを計画しているぐらいには平気な顔をしていた。
「さあ、後輩が一人怪我したぐらいですね、僕が知っているのは。今もお見舞いだったんです」
「へぇ、後輩クンがね」
オイノモリはクグリザカのことを話した。腕を失ったことや、それ以上に精神的なトラウマが大きいこと。しかし腕も心も『団体』の進歩的な働きで欠損を補えること。
車内のスピーカーからは、はるか昔に亡くなったロックスターが世界が平和だった頃の夢を見せようと歌っていた。
最後の車内スピーカーから流れる曲はしっかり元ネタがあります。歌詞が載せられないので知らない人は分からないかも知れないですね。
あと今更言うまでもなかったかもしれませんが、僕が付けたキャラクターの名前は全部青森の地名とか、ご当地の有名な名字からとってます。他の作品でも。苗字っぽい、良い地名が無くなり次第南下していく予定です。




