第三章第七節
次回ヒロインが出ます。そろそろ正月休みもお終いですが、あんまり書き溜めたり、積み小説のインプットとかは出来ませんでした…。
一週間後の朝、オイノモリは普段より遅めに起床していた。昨日の検査で特に問題なく身体機能が回復していることが確認され、晴れて退院という事になったオイノモリは、『団体』の制服に袖を通し、拳を何度か握り直した。『団体』経営の病院だけあって、制服ぐらいなら支給してくれる。
午前中に休みを取れたオイノモリが朝から準備をしているのはクグリザカに会いに行くためだった。昇華の後にデモ課に戻れるなら戻りたいのか、デモ課に戻れなくとも『団体』の仕事をしたいのか、それとも昇華をせず、光に怯えながらいつ終わるとも分からない辛い人生を送るのか。クグリザカに確認しなくてはいけない。
オイノモリはあらかじめウシロヤチに連絡を取って昇華後の現場復帰について科学管理課や昇華課に確認してくれるように頼んでいた。ありがたいことに返事はすでに届いていた。クグリザカは問題を起こしたわけではないので昇華後にデモ課に復帰が出来るのだそうだ。
クグリザカと話している間にソーシャル・ウォッチの着信が来れば、突然の光でクグリザカはパニックを起こすかもしれない。オイノモリはソーシャル・ウォッチの電源を切ってクグリザカの病室に向かった。真っ白な廊下の右の突き当りの白いドアが、オイノモリの視界に入ってきた。
三回のノックを白いドアの前で行ったオイノモリはクグリザカに声をかけた。
「入ってもいいかな」
「…どうぞ…」
弱々しい返事がクグリザカの声で聞こえてくる違和感を感じながら、オイノモリはドアの開閉ボタンを押した。クグリザカももう棺からは出たようで、ベッドは一般的なものになっていたが、棺に入っていた時よりも厳重に顔まで布団で覆って隠している。ドアを開けた時の光が嫌だったのだろう。
「今日で僕は退院するから、最後に話をしようと思ってね」
ドアの光を身体で遮りながら、オイノモリは言った。クグリザカは無言だった。
「もしかしたらクグリザカ君も『団体』に復帰出来るかもしれない」
「………………本当ですか」
クグリザカは反応を返してくれた。最初からはっきり本題を伝えたのは正解だったようだ。
「昇華すれば団体の仕事に復帰できるらしいんだ。クグリザカ君が戻りたいなら…」
「…どうすれば復帰できるんですか」
いつものクグリザカの、はきはきとした口調に戻ってきた。
「『昇華』を受ければ、復帰できるようになるそうだよ。元の課に戻れるかは」
「…『昇華』ってあの?」
「勿論、受けるかどうかはクグリザカ君に任せるよ。ただウシロヤチさんも言っての通り、会員が積極的に活動できるようになるための処置で、非進歩的な要素は全く無いんだ」
「そうですね、先入観にとらわれるなんて非進歩的でした」
「じゃあ…」
「ええ、受けようと思います。すぐにでも」
「分かった。日程は今日にでも決められると思うから、また仕事の後に寄るよ」
少しは元気になってくれたかな、オイノモリはそんなことを思いながら、またドアからの光を遮るように病室から出た。
オイノモリは午後からデモ課に出勤して、他課からのデモの要望をまとめていた。進歩的表現促進委員会が新しく非進歩的絵画撤去デモを起こすらしく盛り上がっていたが、流石のオイノモリもそんな気分にはなれなかった。
流石にここ最近色々なことが起こりすぎだ。精神的な疲労が多すぎる。
眉間をグリグリとつまんでそんなことを考えていると、ソーシャル・ウォッチの光が新しい連絡を伝えた。
ため息をつきながら確認すると、ウシロヤチからの連絡だった。昇華の日程が決まったのだろう。
連絡の内容を見て少しだけ気が楽になった。どうやらクグリザカの昇華は明日に決まったらしい。
これでまたクグリザカは明日から陽の光の下を歩けるようになる。
オイノモリは早くクグリザカに伝えてやりたかった。
昇華は全く詳細を書いてない(第二部第七節)んですが、しっかりろくでもないです。元ネタは『われら』の想像力摘出手術からです。クライマックスになるかもしれませんがそのうち詳細を書きたいと思います。
次回はヒロインが登場予定です。




