第二章第八節
ここで第二章は完結ですかね…一応。第三章からはヒロインが出るかと思います。次はまた週末更新になりそうですね…。ところで今回オイノモリのプライベートを書くとか言いながら殆ど書いてなかったです。でも後からオイノモリのプライベートを少し拾うかもです。
オイノモリは珍しく早い時間に帰れそうだった。クグリザカに仕事を教え終わり、早めに家に帰した時にはまだ定時前で、明日の仕事でも確認しようとソーシャル・ウォッチに届いたメールを確認していると、デモ課課長からのメールが届いていることに気が付いた。先日自身が提出していた「ライオンの絵」デモが正式に行われることになったらしい。明日は日程のすり合わせや、『団体』内への通知業務を行うことになるだろう。
そういえばクグリザカの言っていたタバコ関連のデモも何か良いキャッチフレーズを与えて企画としてまとめないといけないな、とオイノモリは思い返した。明日は自分の仕事の手伝いをして業務を実際に経験してもらうのと、自分で自分のデモ企画を一つ仕上げてもらうことにしようと思った。新人教育はオイノモリもほとんど経験がないが、今の段階で新人が自分の企画を仕上げるのはかなりのペースだろう。自分も手伝わなければいけないかもな、と思っていると『団体組曲』2番が流れた。終業の合図だ。
大分日が短くなってきたようで、外に出るともう暗くなり始めていた。天気予報では雨だったので自転車は家に置いて来ていたが、幸か不幸か雨は全く降っていなかった。おかげで歩いて帰らなくてはならない。
「あら、またも奇遇ですね。」と今日聞いたばかりの声がした。
「…今日はお疲れ様でした、ウシロヤチさん」
隣に立っていたウシロヤチに対し、オイノモリは形式的な挨拶を返した。幸い今日はソーシャル・ウォッチを外していない。プロラクチノイドは必要になればいつでも点滴できる。
「今日質問して頂いたのはオイノモリさんのとこの新人ですよね。おかげでただ一方的に話すだけにならずに済みました」
ウシロヤチは笑って言った。
「いや、彼が真面目なだけですから」
オイノモリはウシロヤチの笑顔を見て、質問を受けた時の嬉しそうな顔を思い出した。
笑うとますますきれいな人だ、と思いつつソーシャル・ウォッチのボタンに手を伸ばし、目を無理やりに死なせた。
…まだ数日だが、プロラクチノイドがもたらす進歩的文化人としての優越感は段々と少なくなってきた。この数日のうちに最初に感じた「自分はこれで犯罪者という非進歩的身分から遠ざかった存在になれるのだ」という優越感、特別意識は消え、プロラクチノイドの投与は単に性欲を抑えるためのものになってしまった。
それでも、今や〝性交〟などという女性を貶める旧時代的繁殖方法をとる必要が無くなった、この進歩的社会では重要な薬剤と言える。人工授精によって生まれてくる子供たちは、両親という害は勿論、自分が通ってきた母の産道を何人の男の生殖器が出入りしたのかという悍ましい疑問に悩まされることもない。そんな素晴らしい社会を我々『団体』の人間が築き上げてきたのだ。プロラクチノイドは社会を支える骨組みの…
「オイノモリさん?大丈夫ですか?」
あの低い声がオイノモリを現実に引き戻した。
「ああ、すいません。ぼーっとしてて。何です?」
「本当に大丈夫ですか?考え事が多いときは趣味で癒されることをお勧めします」
ありがとうございます、と返してウシロヤチと別れた。確かに最近は趣味の本も読んでいない。
たまにはシェイクスピアでも読もうか、とオイノモリは一人家路を急いだ。
帰宅して食事や入浴を済ませても、なお時計が天井を回るまでには数時間ほど余裕があった。久しぶりに本を読むことが出来そうだ。オイノモリは、シェイクスピアを読書用端末でタップし、画面に表示した。
ソーシャル・ウォッチでも電子書籍を読むことは出来るが、持ち運びのことなど一切考慮しない読書用端末の大画面で読むのはオイノモリのこだわりだった。かつては紙の束からなっていたというペラ、ペラっというスワイプ音が規則的に流れる。
オイノモリが気づいたときには、そろそろ日付が変わろうという頃だった。そろそろ寝ようと思ったオイノモリは、ベッドを睡眠導入モードにして暖めておいて、洗面所で歯磨きをすることにした。『ヴェニスの商人』の続きを読むのはまた今度にしよう。端末の電源を落とし、家具の少ない殺風景な部屋から綺麗に掃除された真っ白な洗面所へ向かった。
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何故かウシロヤチと変えるシーンをもう一回書きたくなったんですよね。プロラクチノイドとか『団体』内での出生についてオイノモリの見解も含めてちょっと深く書けたからまあよしという事で…
「母の産道を何人の男の生殖器が出入りしたのか」の下りは自分で書いててクソきっしょいなって思いました。僕の貞操観念が時代遅れなだけで意外と今時の人はそんなん当たり前ーって感じで平気なのかもしれませんが…
どうでもいいですけど産道って実際は結構広い範囲を指す言葉らしいですね。あんまりオイノモリにストレートに膣って言わせたくなかったのでこう書いたんですが誤用かもです。




