第二部第六節
最近忙しくて書く時間が中々取れないです。前回言ってた新しいショート・ショートはまだ一行も書いてません。次回分はもう書きあがってるので近くあがるかな…。申し訳程度の推敲があるので遅れるかも。次回で調査課研修は終わり、また一話挟んで次からはデモ編が始まる予定です。あ、どうでもいいことですけど「こいつら他課の見学にばっか研修して自分の課の新人にちゃんと仕事教えてんの?」って思うかもしれないですが、オイノモリ視点から外れたところでやってます。多分。
「すいません、その前に一つ質問を良いですか?」
クグリザカが手を挙げる。ウシロヤチはにこりと微笑んで答えた。意外にも顔に出るタイプらしい。
「何でしょうか?」
「先程の書き込みは非進歩的とのことですが、差別や偏見、誹謗中傷が文面から読み取れないのですがどうして『団体』のグローバルコミュニティの監視に引っかかるんでしょうか?」
良い質問だ、とオイノモリは思った。うとうとと話を聴いていた他の連中には出来ないだろう。生徒が優秀だと指導役も優越感を覚えるものだ。
「それは過去の歴史から理解できます。表現の過度な自由が認められた旧社会では、生活に余裕がなくなった人々は、自尊心を差別や中傷で満たすようになりました。そして差別や中傷をされた側が暴動を起こしたり、自衛のために差別をしていた側も暴力的な手段を使いました。それはご存じですね?」
ウシロヤチの問いかけにクグリザカはうなずく。
「つまり人々が暴発する前に我々がその芽を摘まなくてはいけないのです。だからこそ弱者の気持ちを積極的に代弁します。差別を見えるようにし、そこを徹底的に批判するのです!」
少し熱くなったウシロヤチは、一度クールダウンしてから話し出した。
「…本題に戻りますが、この書き込みはそういった差別や中傷が発生する可能性がある状況を容認している、十分に非進歩的なものです。二度と苦しむ人を生み出さないためには、苦しむ人が『いるかもしれない』の段階で叩かねばならないのです」
「なるほど…理解しました!」
クグリザカははきはきと返事をした。教育課の研修に居た質問の声が小さい新人と違い、明るい性格をしたクグリザカは誇らしい。
「他に質問はありませんか?……無いようでしたら昇華された会員のための施設に移動しましょう」
カツカツカツ…と小気味よい靴音が暗い廊下にいくつも響く。
「昇華された会員を見学する前に、まず見てもらうのは焼却炉です。ここで会員が持っていた退廃的な出版物の焼却などを行っています。例えば今焼却されているのは…小説ですね。」
ソーシャル・ウォッチには昇華訳対象となる本のリストでも入っているのだろう。ウシロヤチはソーシャル・ウォッチの緑色の画面を虚空に表示した。
赤く光っている焼却炉は焚火のようで、本が燃えていく様はロマンチックですらあった。柔らかい暖色の光が全員を赤く照らすが、ガラスを一枚挟んでいるので熱は全く感じられなかった。
「焼却対象になるのは人を不愉快な気持ちにさせたり、不安感を煽ったりするようなものです。また、青少年に不健全な内容が含まれる作品も含みます。例えばブラックジョークや残酷なシーンがあるディストピア作品や、悪事に対する憧れを抱かせかねないピカレスクロマンなど。あるいは『チャタレイ夫人の恋人』のような性的作品。もちろんこれは小説に限らずコミックブックにも適用されます」
焚火のような炎の前で、ウシロヤチはすらすらと焚書対象になっている本のリストをスワイプしていく。
「昔は子供の教育のための国語の教科書にすら、非進歩的な描写がありました。例えば昔は『影送り』という遊びがあったのですが…知っている方もいらっしゃれば知らない方もいるでしょうね。何秒も自分の影を見続けるという目に悪い非進歩的な遊びです。その話はかなり残酷で不安感を煽るので昨年廃版が決定していますが、タイトルは皆さんお分かりになると思いますよ。」
ウシロヤチは静かに炎を見つめている研修参加者たちに向かって笑って言った。しかし、彼らは目の前の文字が空を舞っている大きな焚火にくぎ付けになっていた。オイノモリはウシロヤチが場を盛り上げようとして言ったのだと分かったが、彼も初めて見る焚書の炎に圧倒されていた。
「…しかし、基本的にこれらの本の規制についてはデモ課の方が先導されていることですので、デモ課の方には釈迦に説法というものでしょうし。調査課や昇華課会員でも、これらの本の非進歩性が分からない人はいないでしょう。ですのでこちらの説明はほどほどに、このような本を持ち込んだ会員がどうなったかについて見てもらいましょうか」
またもカツカツと小気味良い音を立てて移動するウシロヤチに一同も続いた。暗い廊下はまだ続いている。昇華された人間がどうなるのかは、出世頭で他部署の仕事にも知識があるオイノモリですら知らない。今の焚書のインパクトと昇華への無知から、自然と一同のリズムはウシロヤチの歩みの音から遅れていった。
今回の話はオマージュしたと言えば『華氏451度』になるんでしょうけど、焚書は昔コミックブック有害論とかがあった時にPTAとかがやってたって聞きますし、そんなオマージュって程でもないか…。そういえば今回ウシロヤチに喋らせた「不快に思う人が『いるかもしれない』」っていう魔法の言葉。あれ凄い便利ですよね、色々と。ちょっと前、本(というか創作全般?)は、〝安全に傷つくことが出来る〟ものだという主張を見かけました。主人公が大きな失敗をするのを見て、自分はこうならんようにしとこって現実の僕たちが思えるようになる、みたいな。そう考えると一概に人に不快感を与えるだとかどうこうで規制してたらどうなるんでしょうね?どうでもいい話ですが最近新しい本を読んでます。『天使の蝶』って作品です。K文社の古典新訳です。




