夜は終わりて
─戦争が終わった。
新たに独立した国では、ある人は喜びに舞い、ある人は終わりに泣き、そしてまたある人はかつての侵略者にさらなる報復を演説する。
ああ、何度見てきたことか、
私はもうこの場に必要ない。
この戦争は終結し、侵略者への責任の追及とそれを追い出した者たちによる復讐が始まり、それが終われば、その次の戦争への準備期間へと突入する。
結局争いは終わらず、循環するのみ。
愚かしい
この戦争の発端は長い目で見れば食糧危機らしかった。最終的に引き金を引いたのは種族の差別でもあるが。
元々は大昔に戦争を継続するため、または抑止力として人ではない種族が創られ、時が経つにつれ世界中に散らばり本来予定されていなかった人口爆発が起きて、そして結果食料が不足し、戦争のために創られた種族は本来の使われ方をする。
…最終的に戦場は自分が蒔いた種ではなく、過去に生きた何かが蒔いた種が成長して、その過程で互いに栄養を奪い合い、残ったヤツがまた種をまくことを繰り返す。
私はそれを愚かしいと思うからこそ、世界中の戦争を永久に消滅させるために傭兵としてこの身を戦乱の中へと放り込んでいる、はずなのに、
「そう気にすることはないですか?今まで何度も見てきた光景ですよ」
そう私に話しかけてくるのはいつも一緒に行動している同業者。
名前はシェーレン。
「…やっぱり羨ましいよ。シェーレンは自分の行動に自信を持てていて」
「私は目の前のことに手いっぱいで過去に目を向けられないだけ。だから私は未来のことを考えながら行動するアナタの方が羨ましいですよ」
彼女はいわゆる戦災孤児の一人。出身は東の大陸らしく、『獣人』の血を引いていることを除いてほかのことは本人も詳しいところは分からないらしい。
詳細は省くが彼女はある適性から西の帝国に保護され、長い期間をそこで過ごしたがある時発生した『半人革命』でなんやかんやあって今は私達と一緒に行動している。
「それにしても…今回は帝国側で参戦したけど、よかったの?」
「…まあ今の私には関係ないですから、なんとも思ってません。それに、私たちが望む平和の達成のためでもありますし」
彼女は少し間を開けてそう言った。
…冒頭に『戦争が終わった』と書いたが、正確に言えばそれは違う。
文字通りの戦争終結ではない。
正しく言えば『休戦』と言う形となっている。
「それにしても革命側には悪いことをしてしまったね」
「私が言えることではないですけど、一回目の蜂起の時、アナタも帝国側として参戦していましたよね?」
「だからこそ、だね。一応にも新たな国境が決まって形だけでも独立できたというのに、外部の敵を排除した彼らは今度は内部の“元”味方に攻撃を始めている。そんな彼らが帝国を滅ぼしたところでその後何年にもわたって新しく争いが起こるだけ。それは私の望むところじゃない。だから今は帝国に負けてもらうわけにはいかない…彼らの帝国から離れたいって気持ちは分からなくないけどね」
「そうですか」
何度も話した内容だったからか、予想していた返答だったのか反応は薄い。
そんな話をしていた。
それなりに近い距離から砲弾が地にあたり、炸裂する音が聞こえる。
そしてそれなりに遠くで発砲音と人々の争いあう声が聞こえる。
休戦前、私たちの所属していた部隊は強硬偵察を任務としていた。だからその性質上部隊は敵地のド真ん中に放り込まれがちだった。
今回も同じ
ちょうど敵戦線を突破して浸透している時に停戦からの休戦となった。当然、部隊は取り残されてしまい、どうにかして戻らなければならなかった。
—彼らは私たちを憎んでいる。人としてではなく、その所属を。
私は、死にたくない。
部隊に所属している隊員の多くも終わった戦争に巻き込まれて死にたくない。
何とかして帰らなければならない。
彼らの憎しみと報復を振り払い、過度に刺激することなく戻るだけ。
結果
損害は少なくなかった。否、非常に多かった。
付け加えて言うのならば、生き残れた者も多くは負傷しており、無傷の者は基本的に守られていた新兵が多く、疲労とストレスからか動けるものはいない。
私は変わらない。ああ、今回も生き残れた。それだけ
『世界から争いがなくなることは無い』と多くの人々は言う。
対抗して『そんなことは無い。我々は賢いのだから話し合いで何とかなるはずだ』とまた多くの人々は言う。
その言い争いのさまは理屈と理性と希望で構成されている。
どちらの意見も将来的には正しくなるのかもしれない。しかし、その結論が出るのはまだ先になりそうだと感じる。
今の世界には大人がいない。いるのは生まれたばかりの赤子と子供と成長した子供だけ。
大人が止めない子供の喧嘩はいつ終わるのか?終わり方は二通。
どちらかが喧嘩に負けるか
力が拮抗して殴り合いを続け、体力が尽きて終わるか
前者では負けた側の反感を買い、いつか何らかの方法で報復される。
それでは愚かだ
私はこう思う。
争いを止められる誰か、何かが居ないのならば、力を拮抗させていつまで殴り、殴られても終わらない戦いならば、ひとまず争いは起こらないのでは、と。
例え、それがどれだけ歪であっても、例え、それで深い溝ができても、全力で殴り合うよりも悲しむ人は少ないだろう。
そうして互いに睨みあいながら待っていればいつか、誰かが解決してくれる。
私は—大春葉月は—ベルナはそう思う。
歪で、歪んで、長く、苦しく、辛くとも
誰かがある日居なくなってしまい、歴史のかけらにもならず忘れ去られてしまうよりかは、悲しくない。
「おはよう、シェーレン」
「おはよう、ベルナ」
もう、かつてのように大切な仲間を失わないように、その悲しみを味合わせないために、今あるその悲しみの感情を連鎖させないように、昨日も今日も明日も過度に刺激せず、未来に賭ける。
前後はこれから書きますので待っていてください!