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「ちょっと、前にも言ったじゃん。また忘れてるよ」
「……あぁ、ごめん」
「大丈夫? ほんとこういうの多いよ」
「……悪かった」
「もお……気を付けてよねーほんと」
結婚して三年になったが充の抜けっぷりは相変わらずだった。
いちいち目くじらを立てたくはないが、一つ一つが大きなものではなく些細なもので、その些細さが逆に目についた。
これだけの事。それだけの事。こんなにも簡単な事。ちょっと目を向ければ気が付いて動ける事なのに、どうしてそれが出来ないのだろう。
言えばやってくれるが、逆に言えば言われなければやらない。一緒に過ごしている内に寡黙で誠実な夫は、自分のない指示待ち人形のような不気味さすら少し感じるようになっていた。
充を不気味に感じるようになった点がもう一つある。こういった出来事があった時、充は黙って動いてはくれるのだが、
「ふぅー……」
必ずしばらくして息をつくのだ。最初気にはならなかったが、気付けば必ずこのため息のような息遣いをしている事に気付いた。こういうのも一度目につくと苛立ちの要因になる。そしてこれに気付いた時、注意して見ているとこの息をつく前に口元が動いている事にも気が付いた。言葉を発するわけではないが、何かを口ずさんでいるように僅かに動いているのだ。そしてその何かを言い終えたであろう後に息をつくのだ。
「ねぇ」
充に呼びかける。
「何か言ってる?」
そう言うと、
「いや、何も言ってないよ」
充はそう答えた。
確かに何も言ってない。でも確実に何かを言っているのだ。だが充は寡黙でありながらどこか心を完全に開ききらない頑固さのようなものもある。彼の返事は、何と言おうとその先を答える気はないといった頑なな空気を纏っていた。
「そう」
気にしても仕方ないか。
だがこういうのは一度気になるとダメだ。
ーー文句があるなら言えばいいのに。
そう思ったりもするが、これも言った所でなのだ。
充は付き合ってた頃から一度も私に文句や不満を言ったことはない。何かあるなら言ってという言葉を何度か使った事はあるが、それで彼が口を割った事はない。
本当に何もない、なんて事はないと思う。あるけど口に出来ない、したくない、する意味がない。そんな所なのだろうと思う。
ーー……まあ言わないならいいか。
そう気楽に構えてきたが、着実にその澱は溜まり積もり、無視できないレベルにまで来ているようだった。




