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3.転生悪役令嬢は受け入れる。

 『転レベ』の正式タイトルは『転生した悪役令嬢ですが、レベルを上げて最強を目指しますわ』。

 前世の私が好きだったらしいライトノベルのタイトルだ。


 『転レベ』のレイラはある日、自分が日本の女子高生だった記憶を思い出す。

 そして前世好きだったゲーム『flowering』の悪役令嬢レイラ・クランプトンに転生してしまった事を知る。


 まるで今の私そっくりだ。


 けれど『転レベ』のレイラと私では大きく違うところがある。


 『転レベ』のレイラは日本人である意識が強かったのに対して、私は自分をこの世界のレイラだと思っている。

 今の私はあくまでレイラで、日本人だった頃の記憶や知識も思い出せるよという程度に感じていた。


 小説の中、『転レベ』のレイラは『flowering』の世界にやって来たもののゲーム内でレイラが破滅することを知っていたため王子との婚約が成立する前に一念発起し、三歳にして公爵家を出奔する。

 『flowering』の登場キャラでありプレイ時に推しだった"暗殺者"を探し出して仲間にし、名を変え姿を変えて暗殺者と二人絆を深めながら冒険者として活躍していくのだ。


 私だって転レベレイラに習って破滅しないようになんとかしないといけないんだけど、ただの三歳な私には転レベレイラと同じことは出来そうもない。

 父さまや母さまが居ない生活も考えられないし、家の外どころかお庭も一人で歩いたこと無い私には絶対無理だ。


 だいたい、三歳の女の子が一人外へ出て冒険なんかできるはずないと思う。

 日本人の頃でさえ転レベレイラのようにスポーツやアウトドアの心得があったわけでもないみたいだし、魔物や野生動物だっているんだから怖すぎる。


 じゃあどうすればいいのかと考えるけど、それも私には分からない。

 ここが転レベレイラのいない『flowering』の世界だとして、『flowering』に関して私が知っているのは基本的な設定と断片的な各キャラクターの情報だけなのだ。


 『flowering』はあくまで『転レベ』に登場する架空のゲームだし、その設定や登場キャラについては転レベレイラが本来のレイラとは違う人生を歩んだために大きく変わってしまっている。

 『flowering』のキャラは『転レベ』にもたくさん出て来ていたけど、"暗殺者"キャラのように転レベレイラの行動によって人柄や境遇が大きく変化した者も多かったはずだ。




 私はそんなことを母さまに説明していった。

 ゲームについては上手く説明できる気がしなかったので説明はせず、別の世界の記憶があることと、そこで私じゃないレイラやセシルさまの未来を書いた物語を読んだという風に説明することにした。


「……まるで、天啓の乙女ですね」

「てんけいの乙女?」

「昔から伝わるおとぎ話よ。別の世界の記憶を持って現れ、この世界の未来の可能性を知っていると言われているんです」


 そこまで言った母さまは一瞬悩むように黙った後、それでも続けた。


「そして天啓の乙女は物語のお話だけじゃなく、むかしむかしに実在したの。王家を始めとした国の上層部しか知らないことだけれど」


 だから内緒ねと言って母さまは私の口にちょんと指先を当てた。

 唇がぷにりと押され、勢い込んで話していた私はそこで自分が随分前のめりになっていたことに気付いた。


 母さまは微笑んでいる。

 母さまの落ち着いた様子に、私もやっと少し安心する気持ちが沸いて小さく笑顔を返した。


「私、てんけいの乙女?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。レイラ、その記憶は大切にするんですよ。信用の出来る人にしか話しちゃ駄目」

「わかった」


 母さまの目は優しいけれど、真剣な色をしている気がする。

 私は前世の記憶については家族以外、しばらく誰にも言わないでおこうと決めた。





 母さまが部屋を出て行った後、今日一日は安静にするよう言われた私はメイドさんに頼んで新しい自由帳と細いクレヨンを持ってきてもらった。

 いつものお絵描きをすると思ったメイドさんは快く用意してくれる。


 私はもらったばかりの自由帳の表紙に大きく"秘"と書いて丸で囲んだ。

 マル秘のマークだ。


 三歳の私ではペンはまだ使いこなせない。

 握ったクレヨンで線を一本ずつ書いていった。

 完成したマル秘の文字は随分大きくなってしまったけれど、書ききれたことが嬉しい。


「お嬢様、それはなんの絵ですか?」

「ないちょ!」


 メイドさんが不思議そうに表紙のマル秘を見たけれど、私はおどけて答えた。

 嘘じゃないもん。

 秘密の秘だから内緒ってこと。

 そう、私は日本語の漢字でマル秘を書いた。


 母さまに言われた通り、私は思い出せた記憶を大切にするべく忘れないよう書き留める事にする。

 メイドさんたちが見ても分からないように日本語で書いてみた。


 記憶の中のひらがなや漢字なんかは書いてみれば不思議と手が動いて、こちらの世界の字と変わらず書けた。

 私はやっぱり日本人だったことがあるんだなって実感してしまう。

 

 三歳の手では漢字は難しくて、中を開いた自由帳に私はひらがなで『転レベ』と『flowering』について書き出していった。

 





 そのままノートに向かっていた私に夕方、母さまが可愛いお花のブーケを持って部屋へ来てくれた。


「お昼頃、セシル様からお手紙が届いたんです。使者の方には熱が出て休んでいるのですぐ読めないことを伝えたんですが、そしたら今度はこれを届けてくださったんですよ」


 そう言って母さまが持って来たブーケを渡してくれる。

 可愛いお花ばかりが色んな種類、小さくまとめられている。

 お庭でも見たことのあるお花から初めて見るお花までいっぱいで、昨日見たサラサラの綺麗な男の子の髪と同じ金のリボンが結ばれ飾られている。


 私は目を丸くしてそれを見ていたけど、あまりの可愛さにすごく嬉しくなって笑顔になった。


「かぁわいい!」

「お見舞いだそうですよ。優しい方ですね」

「うん!」


 母さまと笑顔を向け合う。

 昼に届いた手紙も母さまに読んでもらうと、私の失礼な態度を気にした様子も無く、会えてよかった、仲良くなりたいからまた会えると嬉しいと、優しい言葉が書かれていた。


 転レベレイラは破滅しないため、セシルさまと婚約しないことにこだわっていた。

 私はセシルさまと婚約したレイラだけど、それが駄目な事だなんてあまり思えない。


 綺麗で優しい男の子。

 私は破滅してしまうかもしれない未来が脳裏を掠めながらも、セシルさまと仲良くなりたいという気持ちを持ち始めていた。


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