epis69 : My Dearest
その感情がいつ生まれ、どのように育っていったのか、自分でも判然とはしない。
「やめてよ! 僕はラナのいない世界で生きていたくなんかない!」
「……剣を下ろして、レオ」
それが本当に愛と呼んでいいモノだったのか、恋と呼んでいいモノだったのか、それすらもわからない。愛のカタチは人それぞれ、という言葉に共感のない人にとってそれは、愛の、恋のまがい物であると吐き捨てたくなる種類のモノなのかもしれない。
レオに抱かれるのは幸せだったし、荒くされるのも、自分が血も涙もあるイキモノなんだと実感できるようで心地良かった。もっとも、レオはかなり強く乞わなければ、そうしてはくれなかったけれど。
そんなのはただの性欲だろうと、肉欲だろうと断じられ、痛罵されてしまえば……それへ、明確に私が返せる言葉は……無い。
レオと本気で、一生を共に生きていきたいと思っていたし、レオのためなら私はなんだってできる。それが愛でも恋でもないというなら、ではこの気持ちの名前を、誰か私に教えて欲しい。性欲? 肉欲? 依存? 執着?
私にはわからない、ならば今、自分の命に代えてでもレオを助けたいと思っているこの感情が、本当はなんと呼ぶのが正確なモノなのか、それがどこから来たモノなのか、いつから始まったモノなのか、正しいモノなのか、間違っているモノなのか。
私には、本当にわからない。
「ツグミ!! あれから逃げることはできる!?」
「え、あ……も、申し訳ありません。たぶん、無理……ではないかと」
わかっているのは、最初、私がレオを、美しいと思ったということだ。
「ほら、ツグミもこう言ってる。駄目だよレオ」
「……ぐっ!?」
私はレオが剣で人を斬り、殺すところを見て美しいと感じた。
間違いなく、その段階では、それは恋でも愛でもなかった。
あの剣は一目惚れしてしまうほどに美しかったけれど、レオという人間を特別視するに足る異能だったけれど、あの時、私がレオを家へ誘ったのは、あくまで自分の未来を切り開く賭けの、そのコマとしてだ。それは、性欲で連れ込むよりも、なおタチが悪かったのかもしれない。その身体のみならず、命そのものを、存在そのものを自分の都合で利用しようとしたのだから。
「私を気絶させて、ツグミに託すつもりだった? 駄目だから。私が今、気絶したら、レオが死んでしまうんだよ?」
「息、が……」
でも、リストカットの真似事を止められ、守りたいと言われた。
「ごめんね、レオ。レオがそうであるように、私も、私の命よりレオの命の方が重いの。私達は同じことを考えている。だけど今、レオを征服しているのは私」
一緒に、間違ったことをして生きていこうよと誘われた。誘われた。
「だから私が勝つの。私が勝って、自分が死ぬ役をもぎ取るの」
たぶん、始まりは、その辺り。
「こ……こんなのって! こんなのっ……てなぃょ……っ」
母親の望まれぬ娘に生まれ、疎まれた私は、どうすれば自分がこの世界の中で正しく在れるかわからなくなっていた。
わからなくて、どうしようもなかったから、どうもしなかった。
どうして息子に生まれてこなかったのよと言われても、この世界に性転換技術があるわけでもない。二十一世紀の地球にだって、完全なそれはなかった。
私は何もせず自宅の自室へ引き籠り、そこで無為に溺れていた。
それに終止符を打ってくれたのがレオだ。断じて伯父なんかじゃない。
正しくないことでも、していいんだと思えたからこそ、私は漸く再始動をすることができた。
だからもう、私の人生は、レオとの出会いから始まったのだと言っても、けっして過言ではない。
「でも、気絶させるってのは、いい手かもね。ツグミ」
「……なんでしょうか?」
「レオを寝かしておくことって、できる? 私は、見ての通り、苦しめてしまうから」
「ゃめてっ……ラナっ!」
今ではもう、レオに出会う前の自分の方がよくわからない。本を読んだり、部屋の掃除をしたり、アイデアを出した商品の仕様書やサンプルを見たり、お風呂掃除をしたり、決済や稟議の判断をしたり、惰眠を貪ったり。……正直、その頃の自分が何を考えて生きていたのか、今の私にはよくわからなくなっている。
それくらい、レオに出会ってからの時間の方が濃厚で、充実していて。
それくらい、レオに出会う前の時間は稀薄で、伽藍堂だった。
「駄目です、それは、できません、ラナ様」
「……どうして? だったら、ツグミがアイツを倒してくれるの?」
あの頃の私は、人間じゃなかったのかもしれない。
控えめに言って、人間のような心があったとは自分でも思えない。
「……ラナンキュロア様が、それをしたいのであれば、レオ様にはそれを見届ける権利があります。断じて、それはレオ様が気を失ってる間に進行してしまって、いいものではありません」
「……なるほど。それがツグミの在り様で、優先順位なのね」
しかしそれも当然だ。
親に望まれた男の子で生まれることもなく。
長じては自らの意志で社会、人間の世界に背を向け、引き籠った私は、人と見れば逃げ出す、臆病な獣のようなものだったのかもしれない。
「やめてっ……ラナ……お願いだからっ」
「レオ、剣を鞘に戻して。そうしてくれないなら、ツグミがどう言おうと私はレオを気絶させるしかなくなる。願いだから……剣を収めて。……ああ、違うな、こうじゃない。……こうじゃない」
「ラナ様?」
レオを見た時、私は、生まれて初めて、自分と同じようなイキモノを見つけたような気持ちになっていたのかもしれない。
「私は嫌がるレオを無視して、私のしたいように、するの。そこに、もうレオの意志は関係ない」
レオもまた、親に望まれなかった子供だ。
生まれから正しくない子供だった。
「ラナ……」
だとしたら、私がレオを愛するのは必然だ。初めて、自分と同じイキモノの、その異性に出会ったのだから。
そうしてレオは私の「特別」になった。
「だったら、お願いなんて言葉、偽善にもほどがある。なら、無理矢理、その身体の自由、奪うから。ごめんね。本当にごめん。謝るのも酷い偽善なのかもしれないけど、でも、ごめん」
「ラ……ナ……」
私は。
罅割れ世界の統括者を更新して、罅割れ空間を作り直す。そうしてから今度はレオの周辺の空間を結合させずに、剣を握ってる方の手がある空間を操作する。
「うっ……」
剣を「握り続ける」という脳からの指令をカットする。当然、レオの手からは剣が離れる。すぐにその周辺の空間を結合して重力を通す。すると、剣は音も立てず地面へ落ち、転がった。
「ラ……ナ……ぷはぁっ」
酸素の供給を戻す。
レオはしばらく、ぜぇぜぇと苦しそうに息を吸っていた。
「ラナ……お願いだからやめてよ……」
滲んでいるその涙に、罪悪感が刺激される。あちら側にいるのが自分だったら、どんなにか良かっただろうと思う。私とレオは同じモノだけど、今はその立場が違う。違ってしまった。その哀しみをぐっと飲み込み、私は細く息を吐き、平静を装う。
そんな取り繕い、レオにはバレバレだろうけど……でもいいんだ、最後まで、私が取り乱したりせず、不安や怯えを見せることもなくコトを遂行したという、その姿が後に残ることこそ、大事なのだから。
「ラナンキュロア様の条件とは、あなたが恋人を強姦する、その様を見届けるということで、よろしいのですか?」
「……棒読みの癖に、強い言葉を使うじゃない」
「そうとでも表現するしかないような光景ですから」
……まぁ。
嫌がっている相手を力ずくで押さえ込み、自分の思いのたけを好き勝手にぶつける。
「確かにね、そう言ってしまえば、これは確かに強姦だけど」
「まったくもって度し難し、ですが、それで全てが丸く収まるなら構わないですよ」
「まるくなんかっ……収まるわけ……なぃ……だろっ!!……」
「レオ様……」
酸素の供給は戻してある。だけどレオはいまだ息を荒くしている。どうにかして身体を動かそうともしているが、当然ながらそれは叶わない。叶えてあげるわけにはいかない。鍛えた、細いけれどしなやかな身体が、しかし今は何もできずにいる。そうしたのは私だ。レオがどれだけ拒絶しても、私はこの意志を枉げない。
心が痛い。ズキズキする。しかし今は、それを表に出していい時ではない。
私は、低く抑えるというファンデーションで声に化粧をする。下地なんか作っていない肌に、それが上手くノったとも思えないけれど。
「レオ。私がレオの立場だったらこんなのに納得なんてできるはずがない。だけどレオ、レオが私の立場だったらどうすると思う?」
「それ、は……」
私達は同じイキモノだ。
同じように相手が大事で、それは自分の命よりもそうなのだ。
だからこそレオを……どうすればレオの暴走を防げるのかもわかる。どうすれば相手が「黙る」のかが、私達にはお互いにわかる。
だから、黙らせる。躊躇はしても、容赦なく。
「そう、レオが命を賭け私を守ろうとしてくれたように、私もまたそうするの。だったらこれは、お互い様。今回はたまたま、私の方に、そうする力があっただけ。……ね、あなたのこと、何で呼べば良いの?」
予想通り、返す言葉が無くなり、項垂れてしまったレオを、それでも見遣りながら私は、意識をまた例のモニターの方へと移す。
そこには、相変わらず空に浮いたままの青髪女が、相も変わらず無表情な顔でこちらを見下ろす姿が映っていた。
「……当方に言っていますか?」
ここから先は、必要な交渉をしていくターンだ。
「青髪女、でいいならそうするけど?」
「ふむ……では“鶫”で、どうですか?」
「……悪趣味な……いやそうでもないか?」
青髪女が口にした言葉は、この世界で鶫、スズメ目ヒタキ科ツグミ属に分類される鳥類を表す言葉だった。どことなく、ジュベミューワに近い音の響きがある。
ただ、ジュベミューワのジュベは、ユーマ王国において「宝石級」の意味を持つ、なめし革の最高級グレードのことで、ミューワが栗の樹の精霊の名前だ。日本名にするなら「珠樹」や「珠栗」のような名前になるだろう。だからミジュワとジュベミューワは全く違う名前だが、それでも「継笑」「ツグミ」に引っ掛け、敢えて似た響きの名前を持ってきたところに、コイツの在り様が見え隠れしている、そんな気がする。
「なら、ミジュワ、先にレオを治してもらえる?」
「ラナンキュロア様!?」
……どうしてオマエが驚く、ツグミよ。鶫ではないツグミよ。
「……また、それですか」
「また?……この状況は初めてじゃないのね。なら、わかるかもしれないけど、それを後回しにしたら、ロールバックマジックとやらで、元の状態に戻っちゃうんでしょ?」
私のしたことが無意味になってしまうなら、これは条件として成立しない。
ならこれは前提として必要な要素だ。
「いえ、だいぶ状況は違いました。何度かは、私とラナンキュロア様は一時的に協力するという状況もあったのです。巻き戻し魔法はその時に使い、同じことを言われたのです」
「……どうしてそうなるのか、全くわからないんだけど」
四十五回の間に、何があったんだ。
どうも私が幽河鉄道で時を遡り、彼女、ミジュワと戦うルートもあったようだが、その記憶も、私にはない。
「気にしないで下さい、遠に過ぎた道です。今のあなたには信じられないでしょうが、ジュベミューワと和解し、私へ立ち向かってくるというルートも、かなりの数あったのですよ?」
「ますます意味がわからない」
それはつまり、ルートがそちらへ分岐する前の状態から、ミジュワがやり直しをしているということになる。私に、そんな記憶がない地点からリスタートしているということだろう。
下手したら私が生まれた頃の、その地点まで戻り、やり直しをしているのかもしれない。
いや……もしかしたら私が千速継笑だった頃まで戻った可能性すらある? 千速継笑が酷い最期を迎えたの、お兄ちゃんが死んだのも……まさか。
「なぜジュベミューワが死ななければいけなかったか、わかりますか? あなたにコピー魔法を与えないためでもあるのですよ?」
「……ああ」
いや。
それは考えても仕方のないことだ。そうだったとしても、今の私は今の私にできることをするしかない。
今、私がするべきは、私が三年間を共に過ごした「このレオ」の命を救うことだ。
どこか別の世界にいる「別のレオ」ではなく、私は「この特別なレオ」の命を救いたい。
「ジュベミューワは、簡単にあなたの軍門へ下るのです。元々依存心の強い子でしたからね。ただ、性的なことには嫌悪が勝る性質でした。その点、友愛に性愛が伴うノアステリアとは相性が悪かったのです。あなたは、性愛は特別な相手と、特別な関係において満たされればいいという考えの人ですから、ジュベミューワとの相性は別に悪くないのですよ。彼女の価値を認め、価値観を認め、包み込んでやれば彼女はころっと転がりましたよ? 当方がそれで何度苦汁を舐めさせられたことか……」
別の世界のジュベミューワがどうとか、すこぶるどうでもいい、「この私」が知るジュベミューワは、レオを傷付けた張本人だ。殺しても、良心がまったく痛まない人だ。
「なるほどね。まぁ彼女が死んだ今となっては意味の無い話ね。それも時間稼ぎの一環? もう質問には答えてくれないの? その指に炎は、まだ灯っているけれど」
別の世界のレオを幸せにするために、「このレオ」を見捨てるということができないように、あったかもしれない可能性で、ジュベミューワを赦す気にもなれない。たとえそれが、ミジュワというこの女が仕組んだことであったとしても。
「違います。苦情です。嫌がらせです。最初の問いにお答えすれば、当方の巻き戻し魔法は、魂の一部……全部は無理ですが……大部分はそのままに肉体の状態だけ巻き戻すということも可能ですから、別にラナンキュロア様が条件を満たした後でも、前でも問題はありませんよ。レオ様がどうなろうとも、当方には関係のないことです。というより、レオ様が無関係でいてくれることも、当方の勝利条件には含まれますから」
「どうして?」
レオが死んだなら……別の世界のレオを幸せにするため、私は動くのだろうが……「このレオ」が生きている以上、私はそれを善しとしない。
「さぁ? ご自分の胸に聞いてみればいいのではないでしょうか?」
……なるほど、だからか。
だからミジュワにも、レオの生存が必要なんだ。
なら、ジュベミューワがレオを傷付けたのは、ミジュワのコントロール化には無かったことなのかもしれない。ジュベミューワはむしろツグミを敵視……もっと言えば特別視……していたように思える。レオはツグミへの攻撃に巻き込まれたカタチだった。ミジュワが企図した四十六回目の絵図は、もう少し違ったものだったのではないだろうか。
ただ……。
「状況を理解されたようですね。それで、先払いを望まれますか?」
ただ、私が納得する己の死は、レオのためになるものでしかありえない。
そう考えると、レオが瀕死になるというのは、私を排除する上では必須の条件だった筈だが……。
「そうね……」
……必須の条件って、何よ?
……ミジュワは、何の為にループしているのかと聞くと回答を拒否した。だが目的を問われるとこう答えた。
『当方の目的は、情報の収集と、当方が望む形にこの世界を落着させることです』
それは何の為だ? 情報の収集というのは、この状況がミジュワの望む形に落着すれば終わるのか? どういうことだ? ミジュワはいったい何の情報を収集している?
「……先払いでお願い」
「了解しました。ではレオ様の周囲の、罅割れ空間の解放をお願いします」
……逆か?
この状況が、ミジュワの望む形に落着することでしか得られない情報がある?
「ああ……あなたにも貫けないんだ? 罅割れ世界の統括者」
「貫けますが、コスパが悪いので、したくないだけです」
「コスパ、ね」
ここまでに判明しているミジュワの望みは……。
私が、納得して死ぬことが必要?
レオの生存は、私の納得に紐付いているため必須?
ジュベミューワ、ノアステリア、灼熱のフリードの死は必須。
……コンラディン叔父さん、ナッシュさん、ユーフォミーの扱いはよくわからない。街を焼いた(焼かせた?)理由もよくわからない。
「ほら、ゲート、じゃなくてポート? 開いてやったわよ」
「では……」
「やめてよ、やめてよラナ……」
……待って。
ジュベミューワ、ノアステリア、灼熱のフリードの死は必須?
ノアステリア、灼熱のフリードは白黒の巨人になった。ジュベミューワはユーフォミーの身体を奪い、更には白黒の巨人の死体(?)をブルーグレーの脚として取り込んだ。
そうして今、ミジュワは青髪のユーフォミーの姿で私達の目の前にいる。
「いきます」
「ああっ!……」
「レオ、生きて……」
……あ。
私はユーフォミーの姿になったジュベミューワを、その人格がクラッキング魔法なるものに取り込まれ、主従が既に逆転してしまった存在であると読んでいた。
ミジュワはつまり、だからそう……やはり、その主従の主、クラッキング魔法が「情報」を得て「人格」を獲得した姿なんじゃないか? 主は来ませり……だ。
ミジュワがそういう存在なのだとしたら、何を望む?
まずジュベミューワ、ノアステリア、灼熱のフリードの死が必須というのはその通りだろう。なぜならばミジュワは、それらの死によって誕生する存在だからだ。それら死のない世界を造る……と、ミジュワがどうなるのかはわからない……が、普通に考え、それが望ましいものであるはずもないだろう。
「すごい……見る見るうちに胸の傷が塞がっていく」
「ええ、ラナンキュロア様へ施したモノとは違い、時空間的に“近い”位置への巻き戻しですからね。効果はすぐに表れます」
「こんな、デタラメな魔法があるなんて……」
「……あなたがそれを言う? ツグミ」
……待って。
待って待って待って。
ラナンキュロアがジュベミューワを軍門に引き入れるのは簡単、とミジュワは言った。
簡単と言うからには、それはとても起こり易い流れということだ。今の私には想像も出来ないけれど。
ジュベミューワは、ノアステリアが私を殺す夢を見たと言った。
ツグミは、ジュベミューワがマイラを燃やす世界を見たのだと言った。
それら世界では私がジュベミューワと和解する道は無いように思う。でも四十六回だ、私が幽河鉄道を使ったパターンも含めれば、もっともっと色々な世界があったのだろう。
ミジュワは、ツグミの幽河鉄道、世界改変魔法等を取り込むことで生まれた存在だと思う。ならばミジュワは、ツグミが介入した以降の世界において発生した存在だ。
流れを整理する。
●本来の、元々の世界
千速継笑の記憶を持たないラナンキュロア達がジュベミューワ達を殺す。
だが、この世界においてはツグミもいないので、ミジュワは発生しない。
●ツグミ介入後、ミジュワ発生前
千速継笑の記憶を持ったラナンキュロア、ツグミ達がジュベミューワ達を殺す。
その結果ミジュワが発生する。
もしかすれば、ミジュワが発生するまではラナンキュロア、つまり私が幽河鉄道を使い、その状況を何度かやり直していたのかもしれない。
ミジュワはその中で、なんらかの条件が重なることで生まれた存在?
●ミジュワ発生後の初期
ラナンキュロア達が、なぜかジュベミューワ達と和解する道を行くようになる。この世界を望まないミジュワがやり直しを始める。
●ミジュワ発生後の中期
なにかしらで結果に満足しないミジュワがやり直しを続ける。時にラナンキュロアと共闘したり、時に歴史の改変合戦を始めたりする。ここを詳しく考えても仕方無い。歴史のIFは時の流れの中にただ消え去るのみだ。
●ミジュワ発生後の後期
ミジュワが、ラナンキュロア達のループを止めなければキリがないと悟る?
ラナンキュロアが納得して死ぬ道を探るようになる?
●イマココ
ラナンキュロア、つまり私は、ミジュワの望む通り納得して死のうとしている。
……ええと、つまり、こう、なるのか?
……なら、ミジュワは、発生後の中期に、何に納得できなかったんだ?
私達が生き残り、ジュベミューワ達が死ぬという世界も、発生しなかった訳がない。それは私達とミジュワが共闘をすれば、簡単にクリアできる条件のはずだ。ミジュワの望みが「自分の生まれる世界」だけだったならば、そこでこのループは終わっていたはずなのだ。
「巻き戻し、完了、しましたよ」
「ん……レオ、どう?」
「……気分は最悪だよ。身体は、気持ち悪いくらいに元通りだけど」
「……なら、まだ罅割れ空間から解放してあげるわけにはいかないね」
「……ラナ」
「だめ。死ぬのは私。レオじゃない」
……ん?
……あれ?
この想定が正しいのであれば、本来の、元々の世界には……ミジュワがいなかったということになる。なるの?
ならばミジュワは、レオに力を与えたのとは、別の存在だということになる……なるのか?
まぁそれはそれで構わないのだけど……。なんとなく、レオに力を与えた存在はミジュワの関係者だと思っていたのだが……。
……関係者?
関係者……。
いや違う、本当に、関係者なのだとしたら?
それは同一の存在という話ではない。いわばミジュワを主従の従とする「主」がまた別にいるという話だ。あるいは親子の「親」でもいい。
つまりミジュワ……あるいはもう少し間接的に「ミジュワのような存在」……を生みたい「主」、「親」がいて、それがレオに「無敵」の力を与えた。
……ミジュワはその結果生まれた存在?
これが、そういう構造なのだとしたら……。
青髪のユーフォミーを生み出した存在、それを仮に、青髪の母……いや、ここは超上位存在に肖ってそれを青髪の悪魔と呼ぼう。青髪の悪魔が欲したのはなんだ?
……たった今、私はこう考えたはずだ。ミジュワは、ジュベミューワがツグミの力をコピーしたことで生まれたのだと。
なら……ミジュワの発生を期待した存在が欲していたモノは。
青髪の悪魔が求めたものは。
……「ツグミの力をコピーした存在」なんじゃないか?
幽河鉄道を欲していたのか、世界改変魔法を欲していたのか、それは知らないが、ならばミジュワが目指すべきところは「より完璧なツグミのコピー」になることなんじゃないのか?
……いや因果がおかしいか?
レオが「無敵」だったからこそ、最初の世界で悲劇が起きた。
最初の世界で悲劇が起きたからこそ、お兄ちゃんによってツグミがここへ派遣された。
ツグミがここに来たからこそ、ミジュワは生まれた……のよね?
……いや。
違う違う違う。「本来の、元々の世界」は、私とレオの視点から見て、そうであるというだけだ。それは「既に青髪の悪魔が介入した世界」なんだ。
なら、青髪の悪魔は、なんのためにその介入を行ったんだ?
……お兄ちゃんを動かし、ツグミをここへ派遣させるためじゃないのか?
……ああっ!
Q:オマエはツグミに変身できるのか?
A:できます。
Q:なぜそんなことができる?
A:回答を拒否します。今回の件には関係の無いことです。
確かに、今回の件には関係ない。ああ確かに今回の件には関係ないな。
……確かに関係ない、チクショウダマサレタ。嘘は吐かないと言われた相手に、嘘は吐いていないけれど、本当のことも言っていないという態度でとぼけられたような気持ちだ。私が昔、お兄ちゃんによく使っていた手でもある。これは、お兄ちゃんのような(善良で理性的な)相手にはよく効く手なのだ。まさか自分が喰らうとは……。
ミジュワは、四十五回目までのどこかで、ツグミ自身をも騙せるほど、「ツグミのコピー」として完成した。そうか……ここはどのようにやったか?ではなく、やはりなぜやったのか?を重視するべきだったんだ。
二周目のツグミがツグミではないと確信した後に、それはもう一度考えなければいけないことだったんだ。回収済の伏線に油断してしまった。伏線は、一度回収されたとしても、後にまた再利用されることがよくあるというのに。
つまり、「どうすればツグミに化けられるようになるのか」が問題ではなかったのだ、「どうしてツグミに化けられるようになったのか」が問題だったのだ。
簡単とは思えないそれを、やらなければいけない理由があったんだ。
魔法は魂より出でるという。ならば魔法を完璧にコピーするなら、その魂までをもコピーできなければならないということになる。ジュベミューワがコピーした罅割れ世界の統括者は劣化していた。ミジュワの、青髪の悪魔の求むる到達点は、そのような劣化を許さない高みにあったのだろう。
そして、ツグミを騙せるまでに「ツグミのコピー」として完成した今だからこそ、「このミジュワ」はループの終わりを意識しているのだろう。後はほんの少しの「情報」を手に入れるだけで、ミッションクリアとなるのだろう。
理解する。膨大な数のIFを重ねた推測だが、これはもう確信していい、全部繋がっている。勿論、矛盾なく繋がる推測は他にもありそうだが、これはもう実証段階に上がっていい仮説だ。
ミジュワが欲しているのは、「完璧なツグミとして完成するための情報」。
その為に、何度も何度も、同じ世界を繰り返してきた。
色々な状況で、色々な反応を見せ、色々な魔法を使うツグミを観察するために。
ミジュワがやっていたのは、つまりツグミが抱えている全てのエピス、エピスデブリの収集だ。
ツグミのエピス、エピスデブリという情報を欲していたのだ。
なら。
Q:そのループはどうすれば止まる?
A:今回はここまで理想的な形で進んでいます。今回で、止まるかもしれませんね。
コイツは、私が納得して死ぬ、その世界におけるその後のツグミの反応を見たい……そういうことか? その世界でしかツグミが行わない何かがあるのだ、きっと。
だとするならば。
「じゃあ、次は私の番、私の恋心、レオを愛する気持ちをレオに捧げる」
「私が死んでも、レオが自殺をしないために」
「レオが、自分を愛せるように」
「ラナンキュロア様……ですが」
「黙ってツグミ。あなたの言いたいことはわかっている。わかっているなら黙って」
「え?……それはどういう……」
「ああ、そういう……」
「ミジュワ、あなたも黙って。文句があるなら、心話でもしてきて。できるんでしょう?」
「……ふむ? なるほど……流石はラナンキュロア様、当方が何回も何回も何回も何回も何回も何回も苦渋を舐めさせられた相手です。色々と察したようですね。ご自身を包む牢獄の、剛性に」
「……ここでさすラナとかされてもね。私は、戦術では何回も勝ったかもしれないけれど、戦略では最初から負けていた。そもそも、あなたは勝ち負けすらどうでもよかったんでしょ?」
「……え?」「ふむ」
「私は牢獄のピエロ。ツグミは悪魔からも求められ、何度も何度も奪われるお姫様ってところ? 美姫様は大変ね」
「な、何を言っているのですか? ラナ様」
「……ラナ?」
「ふむ。負け続けるというのは、それはそれで気の滅入ることなのですが」
「それで、どこかダルそうにしてるわけ? あなたも大変ね」
「ま、どうでもいいよ、あなたの人生……魔道?……が大変でも、大変じゃなくても」
「私は私のしたいことをする。本当にしたかったのはレオと一生を共に過ごすことだったけれど、それはピエロには身に余る夢だったみたい。私は欲深で罪深きピエロだった。けど、道化師は自分自身が王冠を擁くから誰の法にも従わないの。私は私自身で私を裁く」
「ツグミ。私は死ぬ。運命に納得して死ぬ。だからもうツグミはお兄ちゃんの元に帰っていい。私はあなたによる転生を拒絶する。記憶のない私がまた来世かどこかで悲劇に陥ろうとも、それは仕方のないことだから、それが私に科せられた罰というなら受け入れる。ツグミ、だからあなたはお兄ちゃんの元へと帰って」
「ラナ、様……」
「それから、レオ……」
「愛してる」
「本当に愛している」
「こんな、きっと物語の本当の主人公ですらなかった私を愛してくれてありがとう」
「これが本当の愛なのかはわからないけれど、私はそう思ってる。満足だよ、幸せだよ。だからレオは、満足できるまで生きて、幸せになって」
「愛してる」
「本当に、愛している」
「この気持ちは私の宝物だった」
「この気持ちだけが私の大切な大切な宝物だった」
「それだけで満足。それだけで幸せ。レオも、そうだったでしょう?」
「そうであってくれたならいいな。私との日々が、レオの幸せになっていたんだったら、私が生きてきたことも、無駄じゃ、なかったってことだから」
「……愛してる、愛してるってうるさい?」
「ごめんね。でも、そうして言葉にしなければ形にならない部分も、愛にはあるんだ。たぶん、あるんだ」
「私は、この気持ちを確かなものとしてレオに遺す。それが私の使命。私が私に科した責務。それだけは、絶対にやり通さなければいけないから」
「だから」
「レオの瞳を、愛している」
「レオの首筋を愛している」
「レオの視線を愛している」
「レオの両腕を愛している」
「レオの剣を、愛している」
「レオの愛情を愛している」
「レオの冷酷を愛している」
「レオの不器用な情熱を愛している」
「私のワガママを、大体は許してくれることを愛している」
「私のワガママを、時に断罪してくれることも愛している」
「私を抱きしめる時の必死な顔が好き」
「私にキスをする時の、許しを請うような顔が好き。つい薄目を開けて見たくなる」
「剣を振る時の、キリッとした顔が好き」
「起きたばかりのぼんやりした顔も好き」
「ダメな時の私に呆れる、やれやれって顔が好き」
「マイラと遊んだり、散歩へ連れて行く時の優しい顔が好き」
「私には凄く稀にしか見せてくれない、あったかな顔が好き」
「でも、いつもの冷たい顔も、本当に好きだから」
「レオの、表情の全てを愛している」
「声が好き」
「出会った頃の中性的だった声も好きだった」
「だけど、成長して落ち着いてきた声も好き」
「でも時々……今みたいに、時々中性的に戻っちゃう声は、やっぱりそれも好き」
「私が仕事をしている時は、そっとしておいてくれるのが好き」
「でも時に無言で、季節に応じた温度の飲み物を、差し入れてくれたことも好き」
「勇気を出して可愛い服を着ていると、似合っているよって言ってくれるのが好き」
「勇気を出して谷間が見える服を着ていると、似合わないよって言うのも結構好き」
「口数は少ないけれど、言う時はハッキリとモノを言う、その実直さを愛している」
「鍛えても細いままの身体が好き」
「身体を鍛えている時のひたむきな感じが好き」
「身体を洗っている時のなにげない感じも好き」
「私よりも背が低い頃のレオも好きだった」
「でも私を追い越して行ったレオも大好き」
「キラキラと光る髪が好き」
「細くて長いのに力強い指が好き」
「短くしてるのに艶やかな爪が好き」
「荒っぽくご飯を食べるのが好き」
「意外と甘口なのも好き」
「良いお肉は譲ってくれるのに、甘味の主役部分は譲ってくれないの、嫌いじゃない」
「綺麗に洗った後の、髪の匂いが好き」
「お風呂に入った後、汗をかくとじんわり薫ってくる混じりっ気のないレオの匂いが好き」
「私を大事にしてくれることが好き」
「荒っぽく扱ってくれることも好き」
「両利きの私が本気でくすぐると、憤慨したような顔になって逆襲してくるの、可愛い」
「レオがくれた感覚の全てを、愛している」
「結構、他の女の人に言い寄られてる、そのことは嫌い」
「でも、絶対に相手にしようとしないレオは、好きなの」
「私をすごーく特別視してくれることが好き」
「私の特別視を受け止めてくれることが好き」
「嘲笑われるためだけに生まれたような私を、ちゃんと扱ってくれたことに感謝している」
「嘲笑われても仕方無いような部分は、ちゃんと笑い飛ばしてくれたことに感謝している」
「ありのままの私を、ありのままのレオに断罪してもらえて、よかったと思っている」
「私以外で私の運命を決め、裁くのが、他の誰でもないレオでよかったと思っている」
「レオのために生きれてよかったと思っている」
「レオのために死ねて、よかったと思っている」
「私はレオのために生まれたの。そう思って、いい?」
「ママの為じゃなく、世界の為でもなく、レオ、ただひとりのために生まれたの」
「それはきっと間違いだけれど」
「間違いでもいいって教えてくれたのは、レオだから」
「間違って死ぬ私のことも、どうか許して」
「私のために泣いてくれるレオのこと、愛している」
「泣いてないレオの方が好きだけど、私のことを想って泣いてくれるなら、それも悪くないなって思える」
「ねぇレオ」
「心から、愛しているよ」
「この気持ちを、私にくれて、ありがとう」
「世界が滅びるその時まで、ずっと、この魂はレオを愛している」
<System log>
──エピスデブリ[I] 「親しき者の死に何もできなかった」 が昇華され 特性が変化しました──
──エピスデブリ[I] 「世界に愛されなかった者を愛したい」 が昇華され 特性が変化しました──
──これら の 毒性 が消失したようです──
──追跡対象 から外す 場合は 所定の操作を行ってください──
──複数のエピス および エピスデブリ の移動が確認されています──
──対象に 当システム以外 による シリアライズ処理が行われました──
──対象に ロック処理 が 行われたことを 確認しました──
──当システム は閲覧モードで動作中──
──エピスデブリ[III] 「世界への復讐心」 は存在意義を失ったようです──
──エピスデブリ[III] 「どうにもならない世界」 の特性が更に変化したようです──
──対象 に未知の エピス あるいは エピスデブリ の発生 を確認──
──推定される内容 は 以下 の通りです──
──「自分らしく生き、やり遂げて死んだ」──
──この名称で カテゴライズ処理 へ進みますか? [y/n]──
──では正しい名称を記述の上 カテゴライズ を行ってください──
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