LXI [rumpled template] : Beautiful Dreamer
<ユーフォミー視点/相対時間軸:ナッシュ死亡直後>
「なんだ、オマエ?」
目の前におかしな色の女がいる。
青い。
不気味なまでに青い。
「ふふふっ」
瞳は少し濃い青、髪は少し薄い青。
それはまだイイ。青い瞳は王国にも多い、青い髪も、東の帝国には割といるってキイタコトガアル。
真っ青なローブも、少し前を開いて、おっぺーの谷間を見せつけるようにしてることを除けば、特段目を引くような点もナイ。
「なんだナンだ、なんなんだ? オマエ?」
「何だと、思います?」
「あァ?」
デモケドソレデモ、目の前の女は不審者。ドコカラドウミテモ怪しいヤツ。
まず、肌が青白すぎ。いっそ真っ青な肌だったらそーゆー種族かなって納得できるケド、女のはギリギリ、そーゆー不治の病にでもなったらナルノカ、ナラナイノカってライン。
「ここは、ナニ?」
そうしてソンデそれでもって、ナンナンダこの真っ青な世界は。
「なんでしょう/ね?」
「ぁア?」
青いのに空じゃナイ。ドコにだって雲ひとつナイ。
大地がナイ。重力を感じナイ、ダケド浮かんでる気もシナイ。
お尻の下に腰掛けがあるわけじゃナイ。
それなのにアタシと青い女との間に身長差もナイ。
アタピとこの女は、同じ目線で話している。
でも、アタピとこの女に面識はナイ。
親しみもナイ。
ナイナイナイナイなにもナイ。
お父ちゃんの広い背中もナイ。
お父ちゃんの太い腕もナイ。
頼れるその存在感も、どこにもナイ。イナイナイナイなんにもナイ。
……お父ちゃーん……どこなーん?
寒いモノが、心の真っ黒なアナの中に、吸い込まれていく。
「これは、世界改変魔法、という/らしいよー」
「ン?」
ナンダ? 声が途中で、全然別の声に変わったみたいな。
思い出すのは、アタシ達より強い格下ちゃんの魔法。
アイツも、あの魔法を使った後に、時々こんな風に複数の声でシャベッテタァ。
「オマエ、アイツの仲間?」
「んー?」
「アイツはアタピの格下ちゃん、オマエ、アイツの飼い犬?」
「妾を犬とな/んだとコラァ?」
「……声、野太ッ」
どーゆー声帯? 前のほーは低めだけど女の声、後ろのほーは酒焼けしたチンピラみてーな男声、それが途中でくるっとまるっと、変わったん。
アイツでさえ、大体は息継ぎしてからーの、ゆるっとチェンジだったノニ。
「こほん、/妾はどこの紐付きでもないわ/そのようなこと、あるはずもないではないかぁ~/妾は女神、そなたに福音をもたらす者」
「……気持ち悪ッ」
ワラワラゆー自称女神は、喋りながらくねくねくねくね、身体を捻る、捻る、捩る。
色も相まって人間には見えないしぃ、昆虫みたぁぃ。頭に浮かんだのはカマキリ。メスのカマキリ、真っ青な女郎のカマキリ。気色悪ーッ。
「オマエお邪魔虫? アタシ、お父ちゃんと合流したい。オマエ、アタピのお邪魔する?」
「ふふっ、そんな風に/蓑を剥がされた蓑虫みたいにさー?/そわそわしていないで/少しは落ち着いたらどうかね?」
……そんな風に見えるノカ? 今のアタシは。
「アタシが落ち着ける場所は、お父ちゃんの傍だけだから」
「……あなたも、唐突に/喋りのテンションが変わるじゃない」
「んぅ?」
なに言ってんだコイツ?
「無自覚、なのね/たったひとりにだけ向ける自分と/それ以外に見せる自分が/そこまで大きく乖離してしまうくらいに/ずっとふたりだけで生きてきたのね」
「あン?」
「可哀想」
「ああン!?」
なに言ってんだコイツ!?
「心をひとつに、って言葉が/あるじゃないですかぁ?」
「知るか! 邪魔! そこドケェ!」
アタシは重力を感じない世界で、だけど動こうとした。
でもここにはお父ちゃんがいない。アタシには足がない。だから動けない。
お父ちゃんなら絶対に意図を読んでくれるジャスチャーが、空しく空を切った。
「妾はアレにの/それはどうなんだって思ってしまうのですよ」
青い女がそんなアタシを愉快そうに見下ろしながら、気色悪い言葉を重ねていく。
「虹は七色だから/美しいのだと、思いませんか?」
動けないアタシを前に、踊るピエロみてぇに。
「全部混ざってしまったら/それはもう、茶色か黒か、あるいは白にしか/ならねぇってことよ」
ワケのワカンナイ言葉を連ねていく。
「人間の世界はいつだってそんな風に/ひとつになってしまった心でいっぱい/だから愚かで、争いは絶えず/観える悲劇に向かって突進する盲目の羊達ばかり/……いえ、どうせならここではこう表現しましょうか」
その姿は、言葉トモドモ本当に気色悪かった。
「真っ白な心の、【idiot】達、ばかり。ふふっ、/この【日本語】訳は、差別用語となっているようなので/口にするのはやめましょうねぇ~/【英語】の語源共々、とっても皮肉が利いていて/ゾクゾクするほどに魂が震えちゃうっ/【坂口安吾】に乾杯!/【親方! 押入れに女の子? が!】」
「お邪魔虫! アタシに何の用!?」
ベラベラとベラベラと、トメドナク喋りやがって。
「ふふふ」
デモ青い女は、アタシの逆上を待っていたミタイに、ふっと手を上げる。
「用は、あなたが妾にあるんですよ/ユーフォミー」
すると空中に、四角い鏡のような何かがニョキッと現れた。
横幅はアタシ(が足を伸ばした時)の身長より少し大きいくらい、縦の高さはその半分より少し大きいくらい。それに遮られて女の顔は、胸から上が見えなくなった。
「ナニ? コレ?」
「これは少し前にぃ~/実際に起きた出来事です」
鏡面(?)に、ぼやけた像が見えてくる。
質の悪いガラス窓の、そのムコウの景色ミタイなナニカ、像……画像?
「!?」
お父ちゃん!?
アタシは思わず後ろを見てしまう。
鏡にお父ちゃんが映っているなら、後ろにお父ちゃんがいるかもしれなかったから。
「これは鏡ではありませんよ~」
だけど後ろには何もナイ、やっぱりここにはナニモナイ、ただ青いだけの空間がどこまでも、どこまでもどこまでも広がっている。
「お父ちゃんはどこ!?」
頭を前に戻すと、鏡(?)は水みたいに、少し透明になっていた。
目を瞑るお父ちゃんの、顔のその向こうに青い女の無個性な、だけど意外に整った顔が少しだけ見える。
「な~るほど、未開の星に生まれると/ディスプレイもモニターも理解できないようですね/この映像は録画ですから/今現在のどこかを映してるってわけでもありませんよ~/ラナンキュロアのそれとは違って、ね」
「ラナ? やっぱりオマエ! アイツを知ってるノカ!?」
「ああ、この技術は見せませんでしたか/あなたには」
まぁまぁまぁ、と、莫迦にするみたいに女は言って、とにかくアタシに、画面を見るようにと促す。促されずとも目の前にあるから、どうしたって見えるってノニ。
「簡単に説明しますね/この映像は、一時間と少し前くらいの状況を映し出したモノ/既に終わったその状況を/【リプレイ】しているだけなんだぁよ~」
「リプ、レイ?……えっ?」
青い女の顔が薄く重なる、お父ちゃんの顔に、大きな変化が起こる。
ドスンと、画面には映ってはいない場所でナニカの変化、ナンカの衝撃があったかような揺れ、振動が起きる。
直後、お父ちゃんの眉が歪んで……。
「お父、ちゃん?……」
「おっとぉ、大事な部分を/顔のアップだけで通過してしまいましたぁ」
画像? 画面は、絵画のようにその動きを止めてしまった。
「……お父ちゃん?」
「ズームアウト、っとぉ」
青い女がまた手をかざすと、画面に映ってるお父ちゃんがニュッと小さくなる……いや、遠くなった?
「あれは……アタピ?……え、あ? ええ!?」
そこからの映像は、信じられないモノだった。
コンラディンが現れ、黒いバケモノと闘った後、アタピを白い犬の背中に載せる。
アタシはそのまま鏡面……画面から消えて、コンニャックも消えてしまう。
「……お父ちゃん!!」
それからしばらくして後に、お父ちゃんは胸を何かで撃ち抜かれる。
「お父ちゃん! お父ちゃん! お父ちゃん!」
アタシは画面にかじり付こうと、それへ掴みかかるが、その手はスカスカと空を切るばかりで何も掴めない。
お父ちゃんの胸からボウと炎があがり、お父ちゃんの身体が燃える。アタシの目の前で! お父ちゃんが燃えていってしまう!!
「これが、一時間と少し前の出来事です。あなたの父親、ナッシュ・リアゴルダは既に死者……つまり……亡くなられているのですよ」
「……オマエが殺したのか!?」
「……ち着いてください」
「……を聞いてくださいってば/も~」
「ほっ、はっ、とぉ/えいやぁ/ほりゃあ」
「この状態であっても/ある程度魔法は使えるんですね/まぁ一応は固有結節点を維持したまま/仮の魂の座に座る情報誘導体ですからね/それはそうなのでしょうが/この身体を傷付けたところで妾は死なない/ってのにな~、わっかんないかな~」
「うひっ!?/結界をそんな風に使いますか!?/まさかのシールドバッシュ戦法!」
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
「落ち着かれました?」
気が付くとアタシは、仰向けになっていた。
身体は疲れてる気がしないのに、動ける気もしない。
全身が鉛みたいに重い。汗なんかかいていないのに、身体の表面が酷く冷たかった。
「仮の魂の座が疲労するまで/リアル時間にすると三分ってところですか/ボクサーですかあなたは」
「オマエ、殺す……殺す……絶対に、殺す……」
「だ~か~ら~、この個性であるところの/この妾は殺してないっつーの/そう、何回も言ったでしょうに/聞いていなかったのですか?」
「嘘、吐け……オマエ、お父ちゃんが、死んだ、時、楽しそう、な顔、していた……」
「んー、務めて神妙な顔をしていた/つもりだったんですけどねぇ~/ま、この顔は生まれつきってことで/許してはもらえませんか」
「う、うう……」
何かが、心の奥底から湧いてくる。
生きているなら、お父ちゃんがこんな状態のアタシをほっとくなんてありえない。
生きているなら、あの大きな手がアタピを、優しく、包んでくれないはずがない。
「お父ちゃん……死んだの?……お父ちゃん……」
そんなこと、改めて確認しなくても、目覚めたその時から、答えは今までずっとアタシの中にあった、お父ちゃんとの繋がりが無くなってしまったことには、消えてしまったことには、ずっと前から気付いていた。
心の中に真っ黒なアナが空いていた。
そのアナに不安を投げ捨てながら、見て見ないフリをしていた。
気付いていたけど、ゼンゼンナニモ気付かないフリをしていた。
「ええ、それも掛け値なしに本当のことですよ?/お気持ちはわかりますが……/その鬱憤を妾にぶつけられてものぉ/困るんですよねぇ~」
だってアタシは、お父ちゃんの子供だったから。
「う……」
お父ちゃんが死んだら、それに気付かないハズがナイ。
「う?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!! お父ちゃん!! お父ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「うわぁ……」
涙が出てくる。
「汗は出ずとも涙は出る/大変に不思議な/システムですね、これ」
後から後から、噴水のように大粒の涙が流れていく。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁ! お父ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
心が壊れて、そこから噴水みたいな血が溢れてくるみたいに。
「死んじゃやだよぉぉぉ! お父ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
涙が涙腺から噴きだしていた。
「アタシを置いて行かないデェェェェェェェ!!」
そのままだと両方の耳の穴に入っていくから、首を右に傾けた。
それでもソウシテモどんどんとドンドンと涙は溢れ出てくる。
「いやいやいや、出すぎ出すぎ/地面なんかないのに水溜りができてる/色々あり得ない」
もうそこで、溺れ死んでしまいたいくらいに。
「なんなんだよぉ! オマエは……ホッといてよぉ……」
「妾は! 父親に依存しすぎたせいで!/依存相手がいなければ生きていけなくなってしまった少女を救う!/女神様です!」
「……」
「なんですか/その莫迦が莫迦なことやってるけど/今はそれどころでない/放っておこう……って顔はぁ~」
……胡散臭いのが胡散臭いことやってるから無視無視……としか、思ってナイ。
「ああ成程……この世界には/テンプレが無いのでしたね」
「……」
「まぁまぁまぁ/とりあえず話は聞いてくださいよ/あなたにも有益な話、なんですからぁ~」
「……ハァ?」
「不思議だったでしょう/殴っても殴っても/結界を押し当ててもぉ~/ナイナイナイナイなんにもない、ナシのつぶてで手応えはぁ、まるでナシ」
「……オマエ、その声」
さっきから、トコロドコロどこかで聞いた声が混じっていた。
ノアステリアのそれだったり、ジュベミューワだったり、フリードのクソヤロウだったり、コンニャックだったり、したケド。
少し違うからすぐには気付かなかったけど、その中にアタシの声も混じっている。混じっていた。
格下ちゃんに乞われ、何度か付き合ったラナンキュロアの実験、その時に聞いたアタシ自身の声。嘘だ、アタピはそんな声じゃないと言っても、他人にはこう聞こえているんだって返された。お父ちゃんでさえそれに頷いた……その声。
今の、最後の部分はわかりやすかった。わかりやすいよう、少しモノマネもされていたヨーナ気がする。
「うむ、妾のこの姿は仮のモノ/声もあなたの記憶にあるモノから、ええ、/借りているだけですよ?」
今のは、「借りて~」の部分がジュベミューワの声だった。「うむ、妾の~」がジュベミューワの声に似ているけど知らない声、「声もあなたの記憶~」は、ホットミルクみたいに甘いケド、やっぱり知らない、キイタコトガナイ妙な声。
「畢竟、この身体は/実体のあるモノなんかじゃないってことですよ/殴ろうが蹴ろうが/……その身体じゃ蹴りはできないだろぅけどぉ~/妾を傷付けることなどできぬわ」
遭ったことはないが、人の声を真似て鳴く化け物もいるって聞く。
つまり、これは、そのタグイか?
「……オマエが人外だってのはワカッタ。でも人外に用はないから、アッチイケ」
お父ちゃんの仇、じゃないんなら、思うところもなんもナイ。
もうどうでもいい、もうアタシのことはホットケ。
「……希死念慮が感じられますね」
「ハ?」
「なるほど、深く繋がっていたからこそ/片割れの死をスグサマ察してしまう/深く繋がっていたからこそ/もうそれ無しでは生きていけない」
「……」
「ならばあなたはもう死者だ/真っ白で真っ黒な、死者だ」
ウルサイ。
「オマエには関係ない。もうオマエの話は聞きたくない。有益な話ィ? キキタクナイ。お邪魔虫はお邪魔だから無視!!」
「これでも?」
「……エ?」
女の声が、ここにきて初めての色を見せた。
それは、その声は……。
「お、お父ちゃん!?」
「お、おう、コメツキムシみたいに/元に戻った/だんだんと、物理法則を無視するのに躊躇が無くなってきましたね」
「今のナニ!? お父ちゃんの声がした!!」
青い女は、出しっぱなしだった画面をブゥンとしまい、青白いテノヒラの上にボウと白い球を出す。
「!?」
「感じるでしょう?/あなたには、あなたならわかるはずだ/そう、これはあなたの父親、ナッシュ・リアゴルダの魂/多少、傷付いてはいるケド/固有結節点は保持されたままですよ?/故人が死んだその直後にホールドした/新鮮なモノです」
「お父ちゃんの魂!?」
「はい/ええ/ふふふ」
「お父ちゃんは生きてる!?」
「肉の身体は/燃えて真っ黒になって滅びましたがぁ/魂はええ/まだここに、この様に」
「ッ!」
女は、犬がボールでそうするように、お父ちゃんの魂(?)を自分の鼻先で弾ませる。
「ヤメロォ!!」
「いやだからね?/これは実体じゃないから/この空間にある限りは多少荒く扱っても平気なんですってば」
またも女は、生まれつきだとかいうニヤケ顔を見せながら、アタシが伸ばす手を軽快に躱していく。アタシに機動力はナイ、ソンナノは知ってる。ケド、相手にもソレがあるようには見えナイ。魔法使いらしい、ローブを着込んだキャシャな身体。ナノニ、全力で行ったアタピの突進を、余裕そうに躱すのはなんかオカシイジャナイカ。ヒドイジャナイカ。
「理解してくれないなぁ/そんなに頭が悪い個性ではなかったはずなのですが/……ああ、特定の条件下で/極端に知能指数が下がる系?/マリマーネ系?」
「ア゛ァ゛!?」
今ナンツッタ!?
「一応は一味の一味なのですから/そんなに怒らずとも……」
「一味じゃナイ、アレはバカ女」
「それには同意です/ま、どうでもいいですが……」
「アッ」
それはさておき、と青い女はお父ちゃんの魂(?)をポーンと一旦上に投げ。
「ナッシュ・リアゴルダは死んでいる/そしてこの魂はここにある/ここまでは理解できましたか?」
しかる後にソレをキャッチして話を続けようとする。
「……アァ」
お父ちゃんの魂(?)を人質(?)に捕られたアタシは、それを聞くことしかできない。
「だからこそ妾は女神!/あなたにとっての女神!/このワタクシが!/あなたに、転生のチャンスをあげましょう!」
「……ハァ?」
まったく、これだからお約束がわからない相手は付き合いきれない、とかなんとか呟きながら、女は、アタシの周りを、ぐるぐると回りだす。気持ち悪い、気色悪い、鬱陶しい、ウザイ。
「人は死ねばそれで一巻の終わり!/一生の終わり!/後には何も残らない!/それは慈悲か!/悲劇なのか!」
「……」
「けれどあなたがそれを望むなら!/あなたがまだこの世界にあり続けたいと願うなら!/妾はそれに応えましょう!」
「……あっ!」
ぐるぐる回っていた女の手の上から、お父ちゃんの魂(?)がまふわり、浮き上がり、今度は女とは逆方向に回りだす。
「あっ、あっ、お父ちゃん!」
アタシはぴょんぴょんと跳ねながらソレへ手を伸ばすけれど、やっぱりソレはどうしても掴むことができない。
「ユーフォミー・リアゴルダ!/その魂は本来強く“自由”を希求するモノであったというのに/障害を持って生まれてきてしまったがゆえに歪んでしまった/悲しき魂よ!/その悲劇を許せるのか!/運命に反逆したいとは思わないのか!/あなたという間違った存在を生んでしまった世界に報いを!/その罪を!/償わせたいとは思わないのか!」
「うるさい! お父ちゃんを返せ!!」
「ソレを捕まえられたとて、そなたの父が生き返ることはない/そなたに残された道はそう、転生/それだけなんだよ~」
「うるさい! 五月蝿い! ウルサイ!!」
「まったくもう……あなたは新たなる人生を/父親の魂と/共に歩みたいとは思わないのか?」
「……エ?」
「ナッシュ・リアゴルダは既に答えましたよ?/生まれ変わっても、娘と共に生きたいと」
そうしてもう、そこからはもう、青い女の独壇場だった。
アタシはそれに、もはやなんの言葉を返すこともできなかった。
だけど相手は、言葉を発さずともアタシの考えを読めるようで、どんどんとこっちの意図を読んでヤツギバヤに言葉を連ねてイク。
「そんなあなた達ふたりには!/【地球】という異世界を用意しました!」
「そこであなた達ふたりは!/どのような存在にも生まれ変われます!」
「さあ選びましょう!/薔薇色の異世界ライフを!/次こそは楽しく生きれるように!」
「まずは距離感!」
「そう! お父様との!/次の関係性から選びましょうか!」
「なんにでもなれます!/どのような関係性のふたりにも!」
「おや、来世で恋人になるという方向は望みませんか!?/なら幼馴染はどうです!?/定番の負けヒロインポジションですから、結ばれることはないでしょう!!/え!? 負けるのは嫌い!?/んー、では兄弟、などは?」
「いいですね!/実の兄と妹!/その方向性で行きましょう!/では国は?/あー、あなたはユーマ王国しか知らない人でしたね/えーと、ではまず、地球には先進国と発展途上国という分類の国があって、ですね……」
「……当然先進国? ああ、水洗のトイレが決め手ですか/そうですね、ユーマ王国育ちならそうなるでしょうね/人は、一度上げた生活の質は落とせないと言いますけど/その中でもトイレの質だけは本当に/なかなか落とせないって言いますからね~」
「それなら先進国の中でも/特にトイレの質の高さではピカイチな/【日本】という国はいかがですか?」
「いやぁ、本当はオススメしないんですけどね/少し前までならともかく/今ではもう経済大国とはとても言えない有様ですし/搾取されることに慣れすぎてしまい/過労死するまで働いたり/外交に弱く不平等な条約なり条件を飲まされてばかりいたり/排他的で/すーぐ村社会に閉じこもってウチはウチなローカルルール、同調圧力の押し付け合いをしだすし/流されやすくて、熱しやすくて、冷めやすくて/だから何度でも同じ過ちを繰り返すし」
「【和】を大事にすると言いながら/その【輪】に入れなかった人間には酷く冷酷ですしねぇ~/そりゃあ、作詞シラー先生、作曲ベートーベン先生の第九が大好きになりますよね!/【和】に入れなかった者は泣きながら【輪】を大人しく去るのだ!/異端は排除せよ! 追放しろ! いじめてしまえ! 村八分こそが正義!」
「あー、いえいえ/だからもっといい国があるってことでもないです/全然ないです/人間の国家なんてどこもそんなモノ/どこもかしこも問題を抱え/どの国にも良い所と悪い所がありますから/厳しいと言われている自然災害だって/地震等特定のモノに限定しなければ/どこだって起こりえることですからね/地震雷火事オヤジ/老害って自然災害?」
「良い所ですか、そうですねぇ~/【日本】は、相対的には清潔な国ですから/綺麗好きな人には悪くないと思いますよ/食べ物もまぁまぁ美味しいものが多いです/サブカル界隈の発展度は世界有数のものですし/ある程度裕福な家庭に生まれれば/なんだかんだで楽しい人生を送れるでしょう/そうじゃない家庭がどんどんと増えているのが/問題と言えば問題なんですけどね」
「なら、【日本】の、裕福な家庭に生まれたい/ですか?」
「そうですね、ええ、いいですよ/それくらいの望みなら全然、叶えられます」
「というか、なんらかのチートも差し上げるつもりでいたのですが/要りませんか?/ま、アチラの世界では/魔法など使おうものなら即、異形扱いですから/魔法の才能などは無い方が幸せかと」
「ああいえいえ/そこはやはり、人間の世界ですから/世界のどこかで絶えず戦争は起きていますし/それよりももっと小規模な争いは/どこにだってあらぁな/ですが……ええ/魔法の無い世界ですからね/いくらチートとは言っても/“要不要”みたいなものを持ち込まれちゃぁね/それこそ【輪】から弾かれてしまいますよって/諦めていただいた方が賢明かと」
「じゃあ、なんならいいか? ですか?/そっすね~/【日本】では腕力、武力の類は活躍の場が限られてしまいます/ああ、お父上、来世の兄上殿には多少武力系のチートを付けるつもりっス/頭脳の方、頭の良さ、知力関連ですと……ん~/正直、“自由”を希求する魂の場合/あんまり頭が良すぎると、これも【和】からは外れがちになるんですよねぇ~/“自由”に、なれちゃいますからね/頭がいいから、望む通りに」
「ルックス、見た目?/いやぁ、【日本】はそこに関してはかなり特殊な国でして/美人だから、美しいからもてはやされるというのは/あるにはあるんですが/正直、一定の水準を満たしてれば、チート級の美しさはいらないというか/むしろそこそこ可愛いくらいが一番得だったりします/それに搾取、するのもされるのも大好きなお国柄ですからね/チート級の美少女だろうかなんだろうが/遠慮なく搾取しようとする者がどんどんと寄ってきますよ?/ま、搾取してくれーって寄って来る人も一定数いるでしょうから/そこで割り切れるならがっぽがっぽ稼げるかもしれませんが/え? ナニソレ気持ち悪い? ですか?/そういうお国なんですよ、【日本】は」
「あ、そこそこ可愛いルックスはデフォルトで付いていますよ?/可愛らしい声もオマケで/可愛いがご不満なら綺麗系、または同性にウケそうな王子様系、などにも変えられます/某歌劇団で男役をやりたいなら後者がオススメ/声は現状、岡咲●保と沢城み●きを足して二で割ったっぽい感じを予定していますが/別に花澤●菜でも、水瀬い●りでも、早見●織でも/釘宮●恵でもファイ●ーズ●いでも/兎田ぺ●らでも壱百●天原サ●メでも電脳●女●ロでも/そこの変更は結構簡単なのでいくらでもどうぞ/え? 固有名詞で言われてもわからない?/つまりリ●ルと峰不●子……いやそういうことじゃない? もういい?」
「そうですね、【日本】でチートってのも/色々面倒ですよね/出る杭は打たれるお国柄ですから/一番良いのは……なんらかの“職人”になることですかね/ひとつの道に特化するというのは/それがダメになった時に潰しがきかないということでもあり/ピーキーな生き方ともいえます/ですが、【日本】は、一生懸命、一所懸命に励むことを美学とするお国柄でもありますからね/“職人”さんには一定のリスペクトが向けられるものです」
「鍛冶なんかしたくない? 焼き物なんか造りたくない?/ああいえいえ、ここでいう“職人”はそういうことではなくて、ですね/何かの道を究め、ひとつのモノを作り続けるストイックな人間/みたいな意味ですかね/お菓子を作り続けるならお菓子職人/ラーメンを作り続けるならラーメン職人/動画を作り続けるなら動画職人/みたいな?」
「そうですよねぇ、そうですよねぇ/“自由”を希求される魂ですもの/そんなことやってられませんよねぇ/ですが【日本】で、一定以上のリスペクトを向けられる生き方は/他にないのも事実なんですよねぇ~」
「やりたいことって、なにかありませんか?/お金儲けがしたいとか/政治家になってみたいとか/料理がしたいとか/歌が歌いたいとか、踊ってみたいとか/マンガを描いてみたいとか、小説を書いてみたいとか/声優になりたいとか/VTuberになりたいとか……/それが何かわからナイ?/まぁそうですよねぇ……」
「わかりました。ではこうしましょう/とにかくはまず健康で丈夫な身体/それから集中力と土壇場で発揮できる発想の閃き、機転/この辺りをチート級にしましょう/その辺りさえあれば/どのような生き方になったとしても/ピンチをチャンスに変える力となりますからね/後はお生まれになってから/ご自分の足でゆっくりと、自分らしい幸せをお探しになればよろしいのではないかと」
「え? ええ、はい/次の人生では、可哀想ぉ~なユーフォミー・リアゴルダとは違い/ちゃあんと五体満足に生まれ変わりますよ?/歩いたり走ったり/ご自分の足で旅をしたり/そんな風に、地に足をつけて生きて行ってくださいね/ファイト!」
「……はい、ええ/……はい、そうです/ユーフォミー・リアゴルダの人生は、終わりました/そりゃあそうでしょう/あなたは、ナッシュ・リアゴルダを失ってなお、生き続けたいのですか?/ええ、はい、わかってます/わかっています/あなたの幸せはもう、未来にしかありませんね/転生し、その先で幸せになる未来しか、ナイ/そうでしょう?」
「コングラッチレーションンンンンンン!!」
「ご納得いただけたようで、幸いです/どうか【日本】でお幸せに/ご安心下さい。記憶は、失われてしまいますから/妙な記憶を残す兄と妹にはなりません/それなりに裕福な家庭の/才能豊かな兄と妹になります/ええ、普通に生きるだけで幸せになれるくらいに、ね」
「普通に、生きれれば、ね」
「はい/それでは……」
「とうとう、お別れの時がやってきてしまいました/ユーフォミー・リアゴルダとナッシュ・リアゴルダの魂は/これより太陽系第三惑星【地球】の【日本】という国に生まれ変わります」
「どうかその人生に幸せあれ/その旅に幸あれ」
「さようなら、もう二度と会うことはないでしょうが/今度こそその魂が安らかなる/満たされた楽園に導かれるよう/心より祈っています」
「感謝なんかしない?/オマエが女神様なら/アタシとお父ちゃんを見捨てた時点で大罪人だ?/ええ、ええ、そう思っていただいて、一向に構いませんとも」
「むしろ、ね/妾こそ感謝せねばの」
「ええ、この星にあっても稀有な魔法使い/ユーフォミー・リアゴルダ」
「その方と、こうして穏便に/有益な契約を交わせたのですから、ね」
「いやぁ/なんでもありません」
「あなたにはもう/なぁんにも関係のない事柄です」
「ソレよりもホラ/時間ですよ」
「起きる時間です/目覚めの時間です」
「あなたには次の/幸せな人生が待っているのですから」
「こんなところで留まっている時間はない/そうでしょう?」
「まだまだ全然生存可能な/活動可能な/ユーフォミー・リアゴルダの肉体は/身体は、妾が有効利用してやるとも」
「だからあなたはあなたで/幸せになってください」
「それは本当に/心よりお祈り申し上げていますからね?」
「では、さよ~/なら~」
「元気で/ね~/達者でねぇ~」
そうして、アタシの意識は途切れ。
<青髪の悪魔視点>
こうして、ユーフォミー・リアゴルダとナッシュ・リアゴルダの魂は、太陽系第三惑星地球の日本という国に転生し、千速長生、千速継笑という兄と妹に生まれ変わったのです。
「……なぁんて」
「最後にひとつ、なぁんにも意味のない嘘は/如何でしょうか?」
ちゃんちゃん。
……あ、最後のは本当に嘘です。ユーフォミーとナッシュは千速家でなく、どこか別の裕福な家の子供に生まれ、兄の方は柔道か剣道か、その辺りの武道家として大成する人間になるでしょう。妹の方がどうなるのかは知りません。考えてないです。
青髪の悪魔は、意味のない嘘なら吐きます。また、曖昧な言い方で、嘘を話しているわけではないのだが、聞いている方が間違った情報を信じてしまうよう誘導する話術……のようなものも使います。意味のある嘘は吐きませんが、そういう悪魔です。




