epis45 : mnemonic lull
さぁさぁと、穏やかな潮騒の音が聞こえる。
たっぷりと干しても、明け方にはしんなりとなっている夏のシーツを、それでも手繰り寄せて頭を埋めた。
ケーン……と、遠くで名も知らぬ鳥が鳴く。それがきっかけとなったのか、応じる同種同様の声がしばらく合唱となって、やがて輪唱となって、そうしてから唐突にやんだ。
目覚めるその一瞬に、潮の匂いを嗅ぐ。
脳の覚醒が進めば馴れ、すぐに気にはならなくなってしまう香り。
目が覚めて、夢と現実がドロドロに混濁しているその間……それくらいの短い時間に、自分が誰で、どうしてここにいるのかという情報が頭を満たしていく。
私はどこから来たのか?
私は何者か?
私はどこへ行くのか?
漂う小船は、どこかへと辿り着くのか、それとも棺桶となるのか。
それは快でも不快でもなく、喜びでも悲しみでもなく、ただ私はまだここにいるんだと理解する、それだけのいわば準備期間。
もしかしたら今目覚めた私は、昨日眠りに付いた私とは別の人間なのかもしれない。
人は眠るたび死に、目覚めと共に生き返っているのかもしれない。
この私という存在は、昨日までのあたしが積み上げてきた記憶やらなにやらを元に、今ここで新生されたモノであるのかもしれない。
そんな他愛もない思考実験を、手首へナイフを押し当てるように少しだけ弄んで。
その冷たさに落ち着いて。
そうしてる内に、やがて現実感が戻ってくる。
まだ少しだけ暗いが、港町の朝は早い。
どこか遠くで、釣竿の振られた気配がある。網の手入れをする、荒れた漁師の手の蠢きを夢想する。何種類かの鳥が空を舞っている。その鳴き声が間歇的に聞えてくる。その声の主とは、見たことがあるような、無いような、その姿が想像できるような、できないような、そんな距離感。
「ん……」
シーツを被ったまま、もぞもぞと頭を動かして、そこにいる愛しい人の、確かな温度を嗅いだ。
香草と牧草を、何かしらの黄金比で混ぜたかのような匂い。
甘いというよりも、甘さを欲してる部分が、それよりも上質な何かで潤っていくかのような感じ。唇にリップをひくよりも、ずっとずっと気分が上がっていく何か。
その匂いを感じている内に、急速に、自分が何者であるかが理解できていく。
「ぷひゃ」「……ぅん」
だからシーツから頭を出した。
隣の、薄明に柔く輝く金髪が、私の頬と首筋を少しだけくすぐってくる。
筋肉がついたせいか、その身体は私よりも少しだけ暖かい。
かつて、不良少女のようにも見えたその顔は、少し穏やかになって、だけど男性性を増した。
今でも、おそらくは女装をすれば似合うだろう。
だけどもう、どこからどうみて見ても美少女という、その体を保つことは……きっともうできない。
今でも、動かず、喋らずにいれば深窓の令嬢をも模してみせるのだろう。でも、細いなりにしっかりとついた筋肉は、動くごとにその存在を主張してくるだろうし、声も深みを増して、もはや女性のそれとは思えない。
そこに寂しさを、感じる時もあるが、あの頃の思い出は……複雑なものに絡みつかれながらも……今でもこの胸の裡で輝いている。もう二度と戻れないけど、帰れないけれど、そこあった想いは今もここにある。私とレオとの中に、もしくは仲にある。
「ん……」
成長と共に、この胸に焼き付けてきた沢山の顔を、表情を、相貌を、いまだ眠る今のそれへと重ね合わせ、キスをした。唇だけのキス。
銀糸をひくことなく離れた唇は、けれどまだ繋がりを感じている。
熱を感じている。
幾度となく……昨日も……悦びを共有したふたつの身体は、その記憶を細胞の中に残し、温かさを残し、無数のそれが繋がったまま、結びついたまま、半身が傍らにあることを喜んでいる。歓喜している。
この感覚は、私だけのものなのだろうか?
火照る中に、燃えるように涼やかなその熱が心地良い。
シーツの下で、レオの右手を探り出し、自分の左手を絡めた。薬指だけを自由にしてその甲を撫でる。もうそこへ注目されたら簡単に男性であると見抜かれる、大きな手。手のひらの皮はだいぶ厚くなってしまったし、節のある長い指は、時にイジワルだ。
十三歳だった頃から私も、十センチくらい背が伸びた。期待していた部位も十分なほどに育った。これ以上はもういいかなって思う。
けど、レオの成長の具合は、私のそれなんかを遥かに凌駕していた。
身長は、おそらくもう百七十センチを超えている。メートル法の測定器があるわけじゃないから、正確なことはわからないけど、おそらくは百五十センチ台半ばであろう私よりも、ひとまわりは大きい。
肩幅など、横幅はあまり成長しなかったが、それでも、コンラディン叔父さんのような体型ではないというだけで、全身をしなやかな筋肉が覆ってるし、腹筋だって割れている。シックスパックもある。
レオは、凄く男らしくなった。
だけど私にとってレオは、変わらず「特別」のままだった。
今も男性は……怖い。
男性から放たれる「臭い」は、昔よりも濃く感じられるようになった。私が成長してしまったからか、それとも別の理由かは……気になるけれど……答えが欲しいとは思わない。
けれど、レオは怖くない。怖いはずがない。
懸念していた、レオに抱かれることだって、それはもう自然に受け入れられた。最初は、当然ながらとても痛かったけれど、そこに嫌悪は一切伴わず、悪夢の光景が頭をよぎることもなかった。安心して、リラックスして、レオを受け入れられる自分が、今はとても愛しいと思える。……誇らしいと思えるほどには、自信がないけれど。
「……ラナ?」
そうして、今日も最愛の人が自分の名を呼ぶ、その至上の音楽が流れ出す。
それだけで自分が自分であることを許せる、自分が自分であっていいことを実感できる。
私の現実感。
世界の全てよりも大切で、私が私であるために必要なものの凡て。
「おはよう、レオ」
だから私は、世界に微笑みかける。
レオという、私の凡てに微笑みかける。
「ん……おはよう、ラナ」
私の中で世界は、ただそれがレオと繋がっているというだけで、許し、愛せるものになっていた。
だけど、日常はいずれ終わる。
推定前世のあたしが、突然地獄へ呑み込まれたように。
永遠だと思っていた毎日は、唐突に終わることがある。
だけどそれは、けして唐突でも、突然でも、突発的でもなくて。
走る、列車のように。
過去の出来事に連結していて。
必然、いずれ辿り着いていたであろう必定であり。
あるいは積み上げてきた過去へ、業へ下された、非情な裁定でもあった。
「王都からの使者?」
レオが、頭を抱える私に聞き返してくる。
それは、コンラディン叔父さんからもたらされた情報だった。
より具体的には、叔父さんの意を汲んでやってきた、ユーフォミーからの情報だったが。
「英雄、レオポルドの正体を、いまだ探っている人がいるんだって」
「え?」
「その人が今度、私に聞きたいことがあるからって、ボユの港へやってくるんだって」
「それは……」
三年、あれからもう三年が過ぎている。
巷間噂される英雄「レオポルド」。その創出は、私が飛龍討伐にあたり、コンラディン叔父さんへ条件として突きつけたもののひとつだ。
それによって「創られた英雄」だ。
表舞台には出たくない。殺人の罪を、私の罪をも背負おうとしてくれたレオに、血で血を洗う世界には行ってほしくない。名声などほしくない。それはレオと私の総意だ。相違なき総意だ。
だからレオじゃない「英雄」が必要になった。
ワイバーンを討伐して、去っていく「英雄」が。
「今更、どうして?」
そんな英雄、レオポルドの正体を知る者はごく僅かだ。私の叔父さんふたり、背負子のユーフォミーとその保護者、冒険者ギルドのギルド長、ギルド長が信頼している側近の数人、それだけ。
マリマーネには、あとで「レオ君なんでしょう?」と聞かれたけど答えなかった。それを知ることは、お互いの「得」にはならないと説得した。それでもう、答えたようなものだったけれど、マリマーネは「わかった」とだけ言い、沈黙を約束してくれた。
漏洩があったとするなら、背負子のユーフォミーか、最後のマリマーネが怪しいが、そこから漏れるなら三年というタイムラグはおかしい。最初の一年は、すぐにでも南の大陸へ逃れられるよう、準備していたが、それももう不要と判断し、やめている。
「漏洩がなかったとすれば、考えられるのは、王国が新たな“魔法使い”を見つけた……とかかな。例えば、遠隔透視能力の魔法は、通常遠くを見るだけの魔法だけど、任意の探しモノを探知できる魔法、千里眼みたいな能力も、どこかには存在しているかもしれない」
英雄レオポルドなる人物は今どこで何をしているのか……そんな曖昧な探し方で正解へと辿り着く魔法が、ないとは言い切れない。
「まさか……そんな……」
魔法……未知の魔法を想定したらなんでもありになる。なんでも起こり得て、対策のしようがなくなる。最悪、精神感応の使い手、いわゆるテレパスの類がやってくるのだとしたら、秘密などはもう、無意味になってしまう。
「やってくるのは灼熱のフリード。有名人だね。今は王国軍のお偉いさん。なら……当然ひとりじゃないよね。私が“魔法使い”を警戒しているのは、そういう理由」
「……叔父さんはなんて?」
コンラディン叔父さん、リゥダルフ叔父さんは、私達とはもう運命共同体だ。リゥダルフ叔父さんは王国の騎士だから、巻き込むには不安も感じたが、その性格をよく知るコンラディン叔父さんが、恩や義理を忘れ、裏切るような奴じゃないから大丈夫と言って引き込んだ。公の中にもひとりくらい、味方がいた方が良いとも言っていた。
「リゥダルフ叔父さんは、楽観的。灼熱のフリードが、最初にコンタクトを取ったのがリゥダルフ叔父さんだったんだって。その時の感触だと、私に話を聞きたいというのは、あくまでも本当に“話を聞きたい”というだけで、何かを疑っている感じでもなかったとか」
ただ、リゥダルフ叔父さんは、コンラディン叔父さんほど世俗に塗れていない分、やはりどこか楽観的……というか、人の悪意というものへ鈍感な気がする。
「コンラディンさんは?」
「コンラディン叔父さんは、多少背景を探ってくれたみたい」
「なんて?」
「私達、三年前、一回ボユの港に逃れてから、王都に戻ったじゃない?」
あの時は、レオだけを貸してほしいという要請だったけど、私も王都へ行った。
レオの無敵と私の無敵、その両方が合わさってこそ、安全に飛龍が狩れたのだから、それは当然の選択だ。
私達は王都で、空からは遮蔽物で見えにくい位置に籠もり、罅割れ世界の統括者を発動して、そこからレオの「斬撃」を発射した。
私の魔法は、周囲にある程度の遮蔽物があっても問題なく使える。その向こうへ力を届かせることができる。そして罅割れ世界の統括者は結界そのものでもある。つまり、私とレオが協力すれば、安全圏からいくらでも「無敵」の剣を揮えるのだ。無敵の要塞から、無敵の斬撃がいくらでも飛んでくるようなイメージだ。
もちろん、特殊な魔法を使う相手と戦う場合は、この無敵が有効かどうかを見極める必要があるのだろうが……。
王都を襲った飛龍に、特殊な魔法の使用は認められなかった。ならば危険は何もなかった。物理的な意味では。
「そうだね。ラナのおかげで、僕は傷ひとつ付くことがなかった。……それで?」
「王都からここへは馬車だったけど、ここから王都への移動は、私がユーフォミーさん、レオがナッシュさんの馬へ乗って行ったじゃない?」
ちなみに、マイラはここに置いて行った。ついて行きたそうにはしてたけど、流石に連れてはいけなかった。
「そうだったね」
「英雄、レオポルドは、南の大陸から王都へやってきた、そういうことになっているでしょう?」
「西の同盟国出身ということにすると、調べられた時に嘘がバレる、だから南の大陸出身ということにしたんだっけ?」
「うん。南の大陸には統一国家がないから、調べようがないって」
その辺は、冒険者ギルドの、ギルド長さんの発案だったかな。
「南の大陸から来た英雄が王都リグラエルへ向かう場合、ボユの港からの道を通っている可能性が高い。戦時中、この街道は王都の兵站ラインだった。ボユの港からの物資を王都へと届ける補給線、生命線。ロレーヌ商会もその一部を担っていたし、中でも貢献は大きい方」
「なんとなく、話が見えてきた」
「うん。なら、英雄レオポルドについて何か知ってるか、目撃した可能性がある。三年前にも、これへ携わっていた商会には、英雄レオポルドについて何か知っていることがあれば、申し出よって通達が出ていたと思う。当然、私は無視したけど」
嘘を広める、嘘を伝えるというの(「南方系の、髪の黒い屈強な大人の男性なら見ましたよ」であるとか)も少し考えたが、それをしてしまうと、諸々で整合性が取れなくなった時に面倒そうだと思った。
だから完全に、調査に対しては黙殺することにしたのだ。
「それを、蒸し返された?」
「というより、灼熱のフリードさんが、最近になってまた調べているんだって」
「うん?」
「きっかけがなんだったのかは、叔父さんにもわからなかったみたい。色々調べていく中で、昔と同じように、ボユの港からの移動経路に注目したってこと……なのかなぁ……」
「なるほど」
いまだに、東の帝国との戦争状態は解除されてない。交戦状態にはないが、停戦したわけでもない。ヒーロリヒカ鋼の輸入が続いていたりして、経済面ではある意味国交継続中だが、緊張が解けたわけではない。
切り札となるような戦力は、是が非でも欲しいモノだろう。だから英雄レオポルドを調べること、探すこと自体は不思議じゃない。三年の経過は、この状況の打破を願う者にとっては、むしろより強い動因ともなり得るのだろう。
けど。
「あの時期、私とレオも、ユーフォミーさん達と一緒に王都の門をくぐった。それは公式の記録に残っている。私はロレーヌ商会の人間として、パパへ諸々の相談をするために王都へ行ったことになっている。レオはその護衛。そしてその日程は、英雄レオポルドが王都へと移動したと思われる時期と、一致している」
「まぁ……実際本人だしね」
「そーなのよ~」
そこが、頭の痛い部分だ。何も見てないし知らないと言い張るのは簡単だが、なんせ相手はお偉い魔法使いさん。嘘を見抜く、嘘発見器みたいなことをできる魔法使いがいたらそれでアウトだし、もっと直接的に秘密を暴く方法だって、無いとは言い切れない。
そしてこの嘘は、見抜かれたら、かなり面倒なことになる種類の嘘だ。
英雄レオポルドは、外国人であるという設定だからこそ、許されていた部分がある。
王都に多くの被害が出てからの参戦というのも、遠くから時間をかけ、やってきたのだとすれば、それは「仕方無い」。
ユーマ王国に、取り込まれるわけにはいかなかったから、だから何も言わず去って行ったことも「仕方無い」。
だけどこれが、そもそも王都民であったとなると、厄介なことになる。この「仕方無い」が反転してしまうからだ。どうしてすぐに戦おうとしなかったのか、国民の義務を果たそうとしなかったのか。
どうしてその力で祖国に貢献しようとしないのか。
それにレオは……スラム街出身だ。王都民は、多くがスラム街の住民へネガティブな感情を持っている。ゴミ漁り、窃盗等で迷惑をかけられているし、毎年何回かは臭嵐に襲われ、その対応にも追われるからだ。
英雄が、そこから現れたと聞いて、浮かぶ感情はポジティブなものばかりではないだろう。
最悪、「参戦が遅かった」ことを理由に、反逆罪であるとか、何かしらの理由をつけ処分される可能性まである。それは極端にしろ、軍へ徴用されることはほぼほぼ確実だ。
王国と帝国は戦争状態のまま、しかし具体的な争いは何もないまま三年が過ぎている。
通常は往復するだけで一年近くかかる距離を、何かしらの魔法で半年に縮め、何かしらの交渉を行っているらしいが、賠償金を支払えと要求する王国と、王国は帝国に臣従せよと説く帝国……話し合いになるはずもない。
王国には帝国へ攻め入る手段がない。同じ大陸にあって、地続きであることから道は繋がっているとも言えるが、東の森の大迷宮は、モンスター大襲撃事件時の比ではない数、モンスターが生息する深い森だ。おそらくは数千でも足らない。数万、数十万という規模の危険がそこにある。
帝国が、どうやって数百というモンスターを王都周辺に配置したのか、それも不明だ。だがその事実より確実となるのは、帝国の方が、王国よりも、モンスターの扱いに慣れているということだろう。そういう魔法……というか特殊技能の持ち主がいるのかもしれない。
王国が帝国に有利な点は少ない。だが三年前に、王国は帝国の卑怯なる襲撃を退けている。英雄レオポルドの力を借りて。
その力は、やはりまともな思考の持ち主であれば是が非でも、死に物狂いで、己の生存を賭け、取り込もうとするだろう。まともな思考の持ち主であれば。……この世にはゲリヴェルガ伯父さんのような人間もいるから、それも確実とは言えないけれど。
どちらにせよ、私はレオと離れたくない。
どちらにせよ、私はレオを軍人になどさせたくない。
だからこそこれは、頭の痛い問題だった。
「どうするの?」
「会わないわけにはいかないでしょ。お偉い軍人さんが、公務の範疇で行う、正式に依頼された面会だよ? 多少の遅延は認められるかもしれないけど、いつまでもというわけにはいかない。遅れれば遅れるほど心証も悪くなる」
「逃げる準備は?」
しておく? と、冗談めかすでもなく、レオが私へ聞いてくる。
最初の一年はしていた、南の大陸への逃亡の準備。不要と判断し、中断させていたそれを復活させるかどうか……レオが聞いているのはそれだ。
「必要……かもね」
「そう、わかった」
短い言葉、それだけで私達は決断する。
いつでも逃げられる準備を。
この国を捨てる準備を。
目を閉じ、求める。
何も言わず、意を汲んだレオの唇が、その温度が、私のそれへと重なる。
ふんわりとした優しいキス。溶けるような幸福感と安心感。
それだけで私は私を取り戻せる。
自暴自棄になるあたしではなく、幸せに生きたいと思える自分を。
戦いたくない。
戦いたくはない。
かつて守り、救ってあげたその国が、自分勝手な、だけど人間の心を考えればとても切実な理由から私達に敵対し、傷付くのを見たくない。マリマーネも、ユーフォミーも、殺したくはないから。それをして私自身が傷付きたくないから。
だから私達はそれから目を背け、離れる。
この世界が、壊してもいいモノだなんて、思いたくはない。
それができると、確信してしまった今。
私にはレオの存在が、心が、唇が……その離れることのない結びつきが、必要だった。
だけど、世界はいつか終わる。
王都が、三年前に、突然地獄へ呑み込まれたように。
永遠と思っていた世界は、唐突に崩壊することがある。
それはおそらく、唐突でも、突然でも、突発的でもなくて。
全てが連結していて、レールの上を進んで行けばいずれ辿り着く必然であり。
陳腐でチープな言葉を使えば。
それは、運命だった。




