epis42 : Asylums ~ Almost nothing
<ラナ視点>
「港暮らしはどぉお?」
久しぶりに会った背負子のユーフォミーは、やつれたりなどはしていなかった。だけど、そこにはやはり微妙な変化が感じられた。彼女の父親のように、目で見てわかるようなモノではなかったが、雰囲気というか、勢いというか、そういうものが以前とは微妙に違って視えた。
「……私達の暮らしぶりを聞くために、来たんですか? 冒険者ギルドからの、正式な身分証明書まで持って」
ロレーヌ商会、そのボユの港支店は三つある。ドヤッセ商会は四つというから、数の面では負けている。
でも、規模と繁盛という点では、ロレーヌ商会の方に軍配があがる気がする。
ロレーヌ商会の建物はどこも立派だ、当然、来客をもてなす部屋に不足などはない。けど、来客をもてなす「時間」があるかというと、それはまた別の話だった。
私達が今いるこの部屋は、ここ最近、私が店の仕事を手伝っている部屋だ。
そう私は今、労働をしている。ひきこもりが社会復帰するという奇跡がここで起きていた。
店先には立たない。接客はしない。だけど書類仕事を手伝っている。この店には、それをやりたがる者が少なかったらしく、読み書きができ、四則演算ができ、だけど男性客への接客がどうしてもできない私には、そうした仕事が次から次へと舞い込むようになった。
この店の総責任者には、愛想は無いけど助かるよ、愛想は無いけど、と何度も言われた。うるせー。パパに言いつけんぞ。
レオは……基本私の護衛(会長の娘権限で納得させた)だけど、時々やむを得ずみたいな感じでお店のほうを手伝っている。荷物の整理だったり、仕分けだったり、清掃だったり、時に接客だったり、配達だったり、南の大陸から入ってくるカカオ豆を潰したり、だ。
今は私の後ろに控えているが、どうも最後のをしていた途中に召喚してしまったようで、独特の匂いが私の鼻にも届く。
「雑談不要!? すぐ入れ肝要!?」
「時間が無いですからね、激動の決死作戦が片付いたと思ったら、激務の日々が待っていたなんて、私の運命もどうなっているんだか。五年のブランク期間のツケかな」
「ん……手紙……コニーから」「コンニャックから!」
普段はツーマンセルのふたりだが、さすがに椅子へ座る時はバラバラに座るらしい。
もっとも父親のほう、ナッシュさんは身体が大きすぎる。娘のほうと同じ椅子へ座ってるようには、とても見えない。
ちなみに、ソファでなく木の椅子だ。ナッシュさんには少し……いやかなり狭そう。ユーフォミーさんには大きいくらいだけど、オーバーアクションなのは変わっていないので、彼女が喋るたびにギシギシミシミシいっている。
そんな中、ナッシュさんから差し出されたそれは、飾りっけのない一通の封筒だった。封蝋だけが仰々しい。
「手紙……冒険者である叔父さんの手紙を、軍属であるナッシュさんとユーフォミーさんが?」
「新しい! 担ぎ手不要! さらばオサラバ軍隊! 勇退!」
滅茶苦茶な勢いが、多少減ったとはいえ、ユーフォミーさんの独自言語はやっぱりよくわからない。
「ナッシュさんが……怪我をしたので、ユーフォミーさんは別の担ぎ手に背負われ、戦ってほしいと要請された。それを拒否したら軍隊を辞めさせられることになった……そういうことですか?」
「気遣い不要ぉ! 通読必要ぉ!」
「……手紙を読めってことですね」
「んむ」
これ……ふたりのどちらに対しても、会話が翻訳みたいになるな。ユーフォミーさんのこれは、造ったキャラっぽいけど、だからといって、それを指摘したとしても、まともに喋ってくれる気は全くしない。
もっとも……王都の今の様子を、悲壮な表情で語られるよりは、よほどマシなことなんだろうけど。
「えーと、では……」
仕方無いので、多少掴みどころのない性格だけれども、意思疎通は簡単だった叔父さん……の手紙へ視線を移す。
封筒を開けると……長いな、便箋が十枚くらいある。
一枚目から二枚目くらいの、挨拶であるとかは適当に読み飛ばす。三枚目から五枚目くらいの、叔父さんが何匹のモンスターを倒したであるとか、倒すまでに出た被害であるとか、そういうのが書いてある部分も読み飛ばす。
問題は、その先だった。
『……というわけで、僕達はまぁまぁ健闘していたんだ。多くは、冒険者ギルドがモンスター討伐のノウハウを軍に提供し、軍がそれを利用して討伐するという形だったが、僕達だって当然、命がけで戦った。それはここまでに書いた通りだ。そうして、戦果と戦禍が、少しづつ積み重なっていった』
『被害が、積み重なっていった』
『モンスターは、一度には襲ってこなかった。数十匹という単位で、あちこちから現れ、それを倒しきるとしばらくして次の数十匹が現れる、そんな感じだったんだ。その意図は、最初の内はよくわからなかったが、今にして思えばこれは僕達を疲弊させる策だったんだと解る』
『軍の魔法使いの力は強大だ。彼らが使える、大規模な魔法の長所は、それが範囲攻撃に適しているという点にある。だが彼らは数が限られる。一度に迎撃へ出れるのは一箇所までだ。当然、その他の場所では被害が広がってしまう』
『僕達はそうして削られていったんだ。少しづつ、少しづつ』
『状況が変わった、あるいは深刻化したのは、秋の終わりの臭嵐、その風が吹いてからだった』
『それは空からやってきた』
『ドラゴン……ではない。さすがの帝国も、ドラゴンは使役できないようだな。だがその近縁種ではあった』
『ワイバーン……飛龍だよ。森の大迷宮には生息していない、この辺りだと北の大山脈に生息が確認されている、この国にあっては無害であったはずのモンスターだ』
『ユーマ王国の冒険者ギルドにも、その知見はあまり蓄積されていなかった』
『対抗できる魔法使いも、ごく僅かだった』
『王宮には、大規模な結界魔法を使う魔法使いが詰めている。だからそこはまだ陥落していない。……というか陥落はしないだろう。中へスパイが入り込み、魔法使いらを殺しきらない限りは』
『王宮側もそれはわかっている。だからもう王宮へ出入りできるのは、古くから信頼篤い、ごく限られた人間だけになってしまった。これでは上申にも、直訴にも行けない』
『飛龍は確認された限り七匹、うち二匹は討伐が完了した。ごく僅かな、それに対応可能な魔法使いが魔法で撃ち落とし、落ちてきたモノを地上部隊が決死の覚悟で攻撃するという形でだ。代わりに支払った犠牲は、言いたくない』
『残念ながら、上空を飛ぶ飛龍を一撃で葬れるほどの火力、精密性を持った魔法使いは、もういない。戦端が開かれた頃には、数少ないながらにもいたはずなんだが、おそらくそれは、初期の段階で意図的に削られてしまった。不自然なほど、ひとりの魔法使いが集中砲火を浴びせられる場面が、何度かあった』
『飛龍投入前に、倒しきらなければならない魔法使いのリストでも、あったのかもしれない』
『そう、敵の本命は、飛龍だったんだろう。それに対応可能な魔法使いをとにかく殺す。緒戦からの波状攻撃、その真の目的は、そこにこそあったんだろう』
『残り五匹となった飛龍だが、僕の見立てでは、これはもう倒しきれる気がしない。あと一、二体が限界だと思う』
『王都はこのままだと、王宮を残して全滅する』
『どうやら同盟国である西国へ、援軍要請が出ているらしい。だがその到着は、早くとも来月、遅ければ年が明けてからになるだろう』
『つまり、王宮は僕達を見捨てるつもりなんだ』
『もはやその門を固く閉ざし、ごく僅かな例外以外は蟻一匹通さんとする構えだ』
『非戦闘員の被害も、日を追うごとに拡大している』
『このまま王宮が門を閉ざし続けるのであれば、その先に待っているのは確実な死だ。街の、都市機能の、そこに住まう全ての人々の』
『助けてくれ』
『恥を忍んで、あらゆる罵倒も受け入れる。だがその上で頼む、僕達を助けてくれ、協力してくれ』
『これは王宮からの嘆願書ではない。王宮からは、もう僕らへ期待するような命令は降りてこない。これは冒険者ギルドを通した、だけど僕個人からのお願いだ。ただの命乞いだ』
『レオ君を貸してくれ。君の護衛には、そのふたりを貸す。彼女らも想いは同じだ。王都を救いたい。ナッシュは、戦端が開かれてより十日で右手を失った。その時のユーフォミーちゃんの絶叫と絶望は、今も忘れられない。それから色々あったが、彼女らは立ち直り、今は自分達にできることをしようとしている。今は信用できないかもしれないが、僕が失礼のないよう、重々言い聞かせた。彼女らは命がけで、君を守ってくれるはずだ』
『だから頼む、レオ君を貸してくれ』
『飛龍は、地上に落ちてきても、すぐにまた空へと逃げてしまう。羽根が、ヒュドラと同じで再生するんだ。灼熱のフリード氏であっても、落ちてきた場所にたまたま居合わせない限りは間に合わないだろう。というより、そういう場面が実際に何度もあった』
『だから我々に必要なのはスピードだ。レオ君のスピードがほしい』
『報酬は何を用意すればいい? 僕は、あげられるものであればなんだって君にあげよう。いらないだろうが僕自身の命でもいい。それなりに蓄えはあるが、君に金銭はあまり通用しなさそうだ。僕は商人じゃないから直接、君に聞きたい。何であれば、納得してくれる?』
『生まれ育った街を助けてほしい……君に、響く言葉じゃないよね?』
『僕の下の姉さんは王都を離れられなかった。君の母親だ。今は君の父親の元で、匿われるように過ごしているという。両親の心配は、できないのかい?』
『わかってる、僕は卑怯なことをここに記している。君の価値観を、生き方を、自分らしく生きる権利を、侵害するつもりはない。だけど何であれば君は動いてくれる? どうすれば僕らを助けてくれる? もう、僕達は可能性に縋るしかないんだ。何も響かないというなら、忘れてくれ、戯言だ』
『だけど少しでも君に、その可能性があるというなら、どうか連絡をしてほしい。返信を、してほしい。王都は……おそらくあともう三十日ともたない。ユーフォミーちゃんはそう見えて実は乗馬の名手だ。二日あれば、そこから王都へ着くことができる。だがそれでも時間が無い。返信を、してくれるのであれば、一回で済むよう具体的なことを書いてほしい』
『君からの返信が無くても……僕達は戦い続ける。だけど、最後にひとつだけお願いがある』
『ナッシュとユーフォミーちゃんを、そちらで保護してやってくれないか』
『彼女達の人生は、結構大変なものだった。僕はそれを知っている。彼女達がそれを望まないだろうから、詳細は省くが、ふたりはもう、軍人であることからも、戦う人間であることからも、降りた方がいい』
『戦闘職の者が片腕を失くす、それは他人が想像するよりもずっと深刻な喪失だ。今まで頼ってきたモノがゴソッとなくなるんだからな。よく、頼れる相手のことを自分の右腕だなんていうが、たとえばだが、君がレオ君を失ったらどうなるかと、考えてみてくれ。戦士が片腕を失くすというのは、そういうことだ』
『僕は、彼女達にはもう、失ってもらいたくない』
『だから、僕らを見捨て、生きることを選ぼうとするのなら。そこに、僅かでも僕への罪悪感を感じてくれるのであれば、ふたりに命の心配をしなくてもいい、ふたりにもできる、そういう仕事を与えてやってくれ。それだけで僕は君に感謝する。あの世から、恨んで化けて出ることはないと約束するよ』
『最後になるが、これは僕のわがままを書き連ねた手紙だ。それ以外の何物でもない。繰り返しになるが、君の価値観を、生き方を、自分らしく生きる権利を、侵害するつもりはない。この全てを、救いようのない莫迦の戯言と、笑えるのなら笑ってくれてもいい。僕は、君の幸せも願っている。その気持ちは確かにある。王都が崩壊しても、君が幸せになるというのであれば、少しは救われる』
『だからよく考えて、結論付けてほしい』
『何をすれば君が幸せになるか、それをよく考え、決めてほしい』
『君の人生はまだまだ長い、レオ君もだ。僕から見れば、ユーフォミーちゃんもだが』
『その先を決めるのは君自身だ。世の中は色々と厳しくなったが、これからもなっていくのかもしれないが、僕は君が納得のいく人生を送れるよう、祈っているよ。どこから祈るかは、君次第になるのかもしれないけど』
『君の愉快な叔父さん、コンラディンより』
半分、真っ白になった頭の中で、ああ、なるほど、叔父さんってこういう人で、そういう人だったんだと、妙な納得感が醸成されていく。
「長文過ぎる……。もう少し簡潔にしてよ……」
笑えるなら笑えだって?……あのさぁ……。
笑えるわけ、ねーだろ!
なによこれ。
価値観を、生き方を、自分らしく生きる権利を、侵害するつもりはない?
侵害してるよ! めっちゃ情に訴えてきてるじゃない!? 色々な価値観が狂わされるわ! 生き方に影響するわ! 私らしくって何だっけって、自問自答させられるわ!!
「ラナ、興奮してるみたいだけど、マイラでも呼んでくる?」
「なんで私が興奮するとマイラの出番になるの!?」
マイラは、肌が真っ黒なここの総責任者に「店の中に犬はちょっと……」と言われ、裏口の方で飼われている。そしてまたなぜか人気者だ。最初は渋い顔をしていたその顔面チョコレートでさえ、カカオ九割から六割くらいにはなっている。
散歩は、基本レオがさせているが、どうやら近所の人が勝手に散歩させていることもあるようだ。港町怖い。そしてアイツ、老犬なんじゃなかったのか?
「……レオ、読む?」
どうにも、気持ちが整理しづらくて、自分ではない誰かの意見が欲しくなる。
それにこれは、私へ……というよりは、レオへの助力嘆願だ。レオの意見無しには、何も決められない。
「特殊文字は?」
「少し。今のレオなら読めると思う」
わかんなかったら聞いてと付け加えるのへ、わかったと答え、レオは私から便箋の束を受け取ると、そのままそれを読み始めた。
しばらく紙を繰る、その音だけが仕事場に響く。
すると沈黙に耐えられなかったのか、それとも何かの歩み寄りなのか、背負子のユーフォミーが私に話しかけてくる。
「父ちゃんとアタピィ、とりあえずあんた達のことォ、護れって言われてるんだけど。それ必要? それとも不要?」
「んー……この手紙の返信は、ユーフォミーさんにお願いしろって書いてあった。乗馬の名手なんだ?」
「アッターリメィ。でもコンニャック、多分返信はないだろうって、言ってたしぃ?」
「……」
それは……藁にも縋る想いでこの手紙を書いたって……こちらの情に訴えかけるため、そういう擬態をしたとも考えられるが、半分以上は本気なのかもしれない。叔父さんの目から見て、一応は安全圏にいる今のこの私が、レオを貸してくれるとは思えなかったのであろう。
だから最悪、目の前のふたりが生き延びられる道を残した。
パパとママが亡くなってしまった場合、例の丁稚の生死とかでも諸々のことが変わってしまうが、ロレーヌ商会を継ぐのは一応、私になる。当然、年齢的にも性別的にも……能力的にも……色々とゴタゴタはするだろう。けど最悪でも、いくつかの要求を通すくらいのことはできるはずだ。叔父さんは、それを使って欲しいと、暗に言っていそうな気がする。
例外を認めたらキリがない。だけどひとつやふたつの例外なら、なんとかなるかもしれない。そのひとつかふたつに、このふたりを潜り込ませてほしいと言っているのだ、叔父さんは。
買いかぶってくれたものだ。マリマーネとの交渉を見ての信頼なら、私が男性恐怖症であると知ってからまた判断してほしい。
「なるほど、ラナが面喰らうのもわかるな」
そうこうしている内に、レオが手紙を読み終えたようだ。
レオは、悩む風でもなく、あっさりと自分の考えを口にする。
「僕から言えることはひとつ、僕はラナの意思に従う。どんな決断にも、二度とラナの元へ帰れなくなったとしても」
ズキンと。
レオの仮定に、胸が痛む。
それは気のせいなどではなく、心臓らしき部分が本当にリアルな痛みを発していた。
「もちろん、行くなというなら行かない。そしてそのことを、僕はラナが望まない限り蒸し返さない。何事も無かったかのように振舞う。港町は、煩いし、せわしないけど、僕は嫌いじゃない。ここでの暮らしは、悪くない。働くってこんな風だったんだね。もちろん、ラナがここにいたくない、ここでもない、王都でもないどこか違う場所へ行きたいというなら、それだって構わない」
どちらでもいいは一番困る……なんてよく言うけれど、それはどちらでもいいと言うくせに、いざ決まってから文句を言う人が多いからなんだと思う。
けど……。
レオは……本当に何も、言わないだろう。
私がパパとママを見殺しにしたとしても、それへ、きっと、何も言わない。
なら、私は……どうすればいいのだろうか?
「ねーぇ? その手紙ィ、アタピも読んで良い?」
「え?」
「いい? ラナ」
ヒラヒラと、レオが便箋を揺らす。
私は……迷っている。他の人の意見も聞きたいという気持ちはある。けど、あの中には彼女らの、進退に関することが書かれていた。……身体に関することも、少し。
叔父さんの情けなど、受けたくはないんじゃないか?
「……その前に、ナッシュさんとユーフォミーさんは、私を護れと言われているんですよね? その理由についてはなんと?」
「んぴ? 救援物資、必要ぉ! ロレーヌ商会、重要ぉ! 海も狙われる!? マサカアリエーナイ! だけど何かあったら連絡! それで見張ることを承諾!」
「地上、地下、そして上空からも襲われた以上、海からの敵も警戒する? ロレーヌ商会の救援物資が滞ると戦線が崩壊するから私を護れと?」
「キェピン!!」「んむ……」
叔父さーん。
書いてなーい。
そんなことヒトコトも手紙に書いてないよー。
それに、今回の敵の手口は、貴族層へスパイを送り込み、その地盤から様々な準備が進めるというものだった。ボユの港は公爵領。つまり、公爵ただひとりが治める都市ということだ。同じ手は、公爵本人が腐ってない限りは使えない。
ここを狙われる可能性は、だいぶ少ないのではないかと思う。
「ごめんなさい。であるなら、私達を護ることに専念していただけませんか? 手紙は見せられません」
この支店から、王都へ救援物資を送っているというのは本当だ。私が死ぬほど忙しいのは、そうした書類の処理にも追われているからだ。幸い、金銭的には、この地を治める公爵様が全面的なバックアップをしてくれている。いずれ無意味になるかもしれない証文を書き続けるという、賽の河原地獄みたいなことにはなっていない。だけどその分、品目も多いし、細かな点で目を光らせなければいけないことが多い。これ以上は愚痴になるからもう言わないけど。
「そのヒミッツ主義は必要? アタッピのこのオツムは不要?」
「そういうわけではありませんが……」
「知ってピッピ。アタピ、戦力外通知……なんぉね?」
「え」
ユーフォミーさんの言葉が、突然別の色を持つ。
「コンニャック、お父ちゃんの腕を見て真っ青なブルー。謝ったりはしなかったけど、軍と揉めるアタシを、味方してぇの、怖いくらいにぃ」
言葉には、所々今までと同様の独自言語が残っていたが、そこにはもうJKなポージングであるとか、オーバーアクションであるとか、そういったものは、すべてまるっと消え失せてしまっている。
俯いたまま、椅子の上で背を丸めたまま、ユーフォミーさんは続ける。
「コンニャックには、感謝してる。ありピッピ。昔ちょーっと助けてやってん、義理がてぇん。でもアタシも、アタシだって、義理くらい、果たせるん」
「助けられた、俺達も、同じ。パーティは、相互協力……」
「アタピの方がいっぱい助けた! アイツはお父ちゃんより格下ちゃん!!」
「んむ……」
「理解、しているということですか?」
ふたりを、ここへ叔父さんが送った意味を。
これが既に、叔父さんの情けであるということを。
「コンラディン、イーヤツ。お父ちゃんの三億分の一くらッピーにゃ」
「……せめて三百分の一くらいにしませんか?」
「お父ちゃんは三千億倍イーヤツ! コンラディンが十億倍イーヤツはナイナイナイ!!」
「いやそれは比較対象がおかしい」
つまり叔父さんは千倍くらいイーヤツってことなのね?
何と比較して? オケラ? アメンボ? トモダチ?
「うーん」
まぁでも、それなら……この手紙を、読んでもらってもいいか。
正直もう、自分だけでは判断できない、これは。
正直もう、自分だけでは受け止めきれない、これは。
何をどう選んでも、後悔することはありそうな気がする。
なら、無関係とはいえない、この目の前の女性にも、その保護者にも、意見を聞くべきだ。
もっとも。
彼女は王都を守りたいと思っているはずだ。
だから、下手に意見が割れると戦闘になる可能性がある。
彼女達と争うのは、色々な意味で避けたい。
だけど彼女達との、最初の出会いからは時が流れ、状況もまた変わってきている。
どうしてレオが、私の魔法を斬ろうとすると危険なのかという点についてはもう理解している。そしてそれは、おそらくユーフォミーの結界魔法には適応されないのではないかという仮説もできた。戦闘になったらなったで、その証明ができる。
それはそれで、レオの「無敵」の正体を、ひとつ解明したことになるから、有益と言えば有益だ。
危険はある。
仮説は間違っているのかもしれない。
だけど、どうすればいいか決められなくなった時、行き止まりで立ち往生している時、一か八かの賭けに出るというのは、私が今までにもずっとやってきたことだ。勝算が高い分、今回のそれはまだマシであるとも言える。
「わかりました。レオ、手紙をユーフォミーさんへ」
「……いいんだね?」
躊躇を含む言葉に、私は勇気付けられる。
それは、レオもまた、これが賭けであると理解してのモノなのだから。
だから私は、万感の思いを込めてただ一言、心から信頼できる人の、その名前を呼ぶ。
「レオ」
「うん」
それだけで伝わる関係が、今はとても心地良かった。




