epis39 : Rhyme Anima's Mixtape -YOKOYARI-
「ラディ叔父さ……ま、どういうつもりですか?」
「いやぁ……」
「黙れコンニャック! その躊躇いーは不ぅー要! だかっらアタッピの説明、聞け聞け必ぅ要!」
「いえあの……今は、部外者の人は……コンニャック?」
「あ、一応それ俺……僕のことらしい」
「はぁ」
コンしかあってないような。
というか、なんでラップ風に喋っているんですかね?
幸い「要不要」はこの国の言葉でも韻を踏んでいるけど。
「そこのロ~リガッキ! 聞けよ我の能書っき! ソミセッ!」
「ろ、ロリガキ?」
色々な悪口を叩かれてきた私だけど、それはさすがに初めてだなぁ。
キャラが濃すぎて、ディスられても、あまりムカッとはこないのが救いか。
「う、う~ん」
背負子のユーフォミー、ってこんなキャラだったの?
両足と、コンラディン叔父さんが名前を呼んでいたことで、まぁ誰なのかはすぐにわかったけど……要不要の暴走列車かぁ……。
「王都民! ならば成れよ証人! ケ・イ・カ・ン死んだ! アッ・カ・ンも死んだ! 今は秩序の回復が重要! 今のシーンにぃは調伏が必ぅ要!」
いやぁ……暴走の種類が、語のニュアンスからイメージできるモノと、だいぶ方向性違ってません?
あとラッパーなのに、言っている内容が権力側なのはどうにかなりませんかね。色々な意味で。
「あ、あの叔父様、この方はずっとこんな喋り方を?」
「いや? たまにだな。時々こうなる。何かの病気と思って諦めて聞いてあげて」
「いやいやいや」
病気なら治しましょうよ。適切な治療を施しましょうよ。
レオとマリマーネはともかく、猿轡をされ、ついでに手足も縛られ、床に転がったままのソレまでもがポカーンとしているのですよ? 両手両足骨折の痛み、大丈夫?
「おいこらコンニャック~! ァータシィが喋っているでしょうがぁ~」
「あ、ライム止まった」
あと、大口開けると八重歯が見える系の女子だということがわかりました。盛ったなぁ、だいぶ盛ったなぁ、属性山盛りテンコ盛りだなぁ。髪は別に盛ってない、完全ストレートの銀髪ロングなのに。
「つってもなぁ、ユーフォミーちゃんよぉ、昨日も言ったが、これは公務として協力してほしいって話じゃあないんだけどなぁ。なぁナッシュ?」
「んむ……」
盛ったといえば、その特盛りパフェみたいな女の子を「持っている」ナッシュと呼ばれた男性……たぶん彼女の相方であるところの、父親なのだろう……の、その筋肉も、だいぶ特盛りだ。私の肌感覚としては、特盛りパフェよりもそちらの方により強い圧を感じる。叔父さんはもとより、映画界のレジェンド、某アーノ●ドなシ●ワちゃんよりも更に筋肉の厚みが凄い。身長も、百九十センチくらいあるのではないだろうか? 体重百キロは下らなそうだ。ただ、足も長く太いから、全体のバランスは整っている。
「はいはーい! でもアタピィ! 軍属じゃないですかぁ! 国におんぶ抱っこさせてもらってるじゃないですかぁあ? 一番の背中はお父ちゃんのそれだっちー、でもだってー、ソレはソレでアレはアレじゃないですかー。人として! いち国民として! 守る義務はアリヤンセ! せめて出せよアリアワセ! それでピーポォシュアワッセ!!」
ここで彼女が父親に持たれたまま、シュババババっと取ったポーズの数、多分十五くらい。元気いいな、何かイイコトでもあったのかい?
「……ラナ、アレってこの国の言葉として正しいの?」
「正しいかどうかはともかく、レオは学習しなくていいからね?……そんなことよりラディ叔父様」
「だから叔父さんでいいって、かしこまられると、この場ではむしろ怖いから」
なんていうか、踊る特盛りパフェも、その無言過ぎる保護者も、話が通じる気がしない。なのでとりあえず叔父さんの方へと視線を移す。
「私を、捕まえに来たんですか?」
「やー、まー、それはそうとも言えるし、そうでないとも言えるかなぁ」
「はっきりしてくださいよ、叔父様」
「うわぁ、前よりアタリがきつい。ファーストキスでも済ませちゃった?」
「……」
「怖い怖い怖い、例のアレはよしてね、たぶん……色々面倒なことになるから」
ちらと、叔父さんは横のふたりを見てから言う。背負子のユーフォミーは魔法使いであるという話だ。私の魔法を知る叔父さんが連れてきた魔法使いだ、なにかしらの、私殺しの要素があるのかもしれない。
どちらにせよ、叔父さんの目的がわからなければ、動くに動けない。
「強制連行、する感じではないですね。任意ですか? なら、後日にしてもらえないでしょうか」
「ぴっぴー! 権利はなくとも義務はある! 正義はなくとも悪はある! 許すな! 悪を! 果たせよ! 義務を!」
「正義はなくとも悪はあるって、言ってること結構最悪ですね」
「いやぁ、ユーフォミーちゃんは口ではこんなこと言ってるけど、こんなのポーズだから……色んな意味で、ポーズ過多なんだよ、この子は……はぁ……昔はもっと素直ないい子だったのになぁ……」
「むむむ昔のアタシを思い出すなぁ!?」
「あ、これ作ったキャラでこうなんだ……少し安心した」
「つつつ作ってないしぃ!?」
うーん。
なんかこれ、根は結構純朴そうだぞ? お父ちゃん呼びの時点でも少し思ってたけど。
「(ラナ)」
ん?
そんなこんなで全く話が進まない中、なにかをレオが、視線で伝えてきている。
右?
右は……ああ、そこに誰かが気絶していたんだっけ?
起きそうってこと? もしくは起きたけど寝たふりをしている?
「(うん)」
言葉無く問い掛けると、頷きが返ってきた。
私はすこし考え、それは放置するようにと、(目線と表情だけで)伝える。
「(了解)」
そこの誰かが、この部屋からの逃亡を試みた場合、どうしたって部屋の入り口へと向かうことになる。私やマリマーネのいる側の窓という選択肢も、あるにはあるが、こちらへは鎖のカーテンが邪魔をしている。部屋の中央にはレオがいる。レオの強さを十分に味わった男なら、そこの突破は諦めるのではないだろうか?
機を見て逃げようとするのであれば、コンラディン叔父さんと、背負子のユーフォミー(と、その父親)が陣取る、この部屋の出入り口へ向かうしかない。
背負子のユーフォミーは魔法使い。もしかすればその力の一端を見ることが出来るのかもしれない。
そこに私殺し、レオ殺しの要素があるか、ないか、判断できるならしたい。
「おいそこ」
……と思っていたら、どうやらコンラディン叔父さんも、それにはすぐ気付いたようだ。さすが一流の冒険者。無念。
「起きてるな? 無駄な抵抗はするな、大人しくしてろ」
「えっ……レオ、あの人の機動力は?」
「ん……」
しょうがないので私も、今気付いた風を装って、レオに尋ねる。
「全員、片足は潰したはずだけど……」
と。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
もはやこれまでばかりに、ヤケクソな吶喊をあげながらの突貫を、男は試みたようだ。その向かう先は……やはり出入り口。片足骨折の状態でよく動けたなと思ったが、どうやら持っていた剣を杖代わりにして跳んだようだ。カーテンの端から見えた時にはそんな体勢だった。
……が。
「はい不要」「ごっ!?」
その突進は、途中で何かにぶつかったかのように、背負子のユーフォミー、その一メートル前くらいの空間において弾き返される。男が、反動でそのまま穴へ落ちそうになるのを、レオが襟首を掴んで引き戻した。衝撃で再び気を失ってしまったらしく、男は赤毛の女性の側へとそのまま倒れ込む。
「……」
しばし沈黙が流れる。それを作り出したユーフォミーも、ここまでずぅっとハイテンションであった割に、なんだか冷たい目で倒れた男を睨んでいるだけだ。睨むというか、見下してるというか、「白けるな~」って感じの冷たい目だけど。
「……今、いつ魔法を発動したの?」
しょうがないので、答えてくれたらありがたいなーって問いを投げかける。
けどそこは、秘密でもなんでもないようだった。
「ちっちー、甘いなぁ。アタシのこれは即発動型で隙なんかないんだからね!」
「即、発動……」
「あー、世界は広いってことよなぁ……」
コンラディン叔父さんが、妙な視線で私を見る。
なるほどなるほど……背負子のユーフォミーには、私にはない強みがある。おそらく今のは結界発動型の魔法。状況と、ふたつ名から判断して、「不要」と判断するものだけを弾く……おそらくはかなり小さな……結界を創る能力、そんなところだろうか。勿論、それひとつだけが彼女の使える魔法ということでもないのだろうが、己の代名詞となるくらいには、得意としている魔法なのだろう。
成程成程成程成程……前の時に、私の魔法を見て、叔父さんが彼女のことを思い出した理由もわかる。私の魔法も、結界を創る魔法であるといえばそうだ。もしかしたら魔法を科学的に解析、解明していったら、そのロジックには共通する部分があるのかもしれない。
空間支配系魔法となるほど、大規模な私のそれ。
おそらくはその、百分の一程度の規模だろう彼女のそれ。
どちらが便利か、突き詰めて考えれば、それは状況次第という結論に至るだろう。だけど護身の、あくまでも実用性の面だけでいえば、彼女の方が圧倒的に優れていると言わざるを得ない。護身用途に限定すれば、私のはオーバースペックもいいところだ。なんならオーバーキルであるとさえいえる。
咄嗟の危機からただ身を護るだけであれば、時間をかけなければ逃げ込むことも叶わない巨大要塞よりも、すぐに取り出せる軽い盾の方が圧倒的に便利だろう。彼女達は元冒険者、そのフィールドで必要になるのは、後者であることの方が圧倒的に多いだろう。
それに、警戒すべき点がもうひとつある。
私の魔法も、あの黒い線(正面から見た場合は面)を結界と見た場合、その結界を通過させるさせないは、自分の意思で、任意に選択できる。
けど、私の選択は、線で区切られた空間ごとであり、物質の種類ごとだ。つまり、「人間の通行」を許可する場合、空間ごとに、「人間という物質」の通過を許可しなければならない。しかも罅割れ世界の統括者は、私自身の肉体もまた、罅割れ空間に囚われてしまうことからも判る通り、「誰か」を指定して許可するというのは、できない仕組みになっている。
要は、レオは通すけど他の男性は全員シャットアウト、みたいなことができないということだ。
もし、彼女にそれができるのだとしたら。
こちらの攻撃だけを全て遮断し、あちらからの攻撃は全て結界を通過してくる……そういったことが、可能なのだとしたら。
それはある種の「無敵」に近い。
というか、その方が「要不要の」という称号に相応しい力だ。
そして……。
『ねぇラナ。こんな現象は、普通じゃ起こらない。まさに魔法の力だ。それを僕が壊そうとして斬撃を繰り出したら……予想もしないようなことが起こるかもしれないと……思わない?』
今の今まで忘れていたけど、レオは私の「結界」を自分が斬った場合、おそらくは自分の身が危ないのではないかと推察していた……しまったな……色々あったから、なぜそう思ったのかを、まだ聞いていない。
もし。
もしも彼女の「結界」が、私のそれと同じ属性のものだったならば……彼女とレオを戦わせるのは危険……ということになる。
「……ぅぅ」
なるほど、魔法……未知と戦うというのは、これくらい慎重にならざるを得ないものなのか。誘拐犯が、なかなか私達を襲ってこなかった理由が、その意味が、今にして実感できた。
私からすれば、私の魔法は弱点ありまくりのピーキーなモノなのに。
「どしたー? アタシィの可愛さにィ、嫉妬ォー?」
私は改めて背負子のユーフォミー、その姿を、その存在をつぶさに観察する。
銀色の長い髪が、雨の日の室内であるにもかかわらず、天使の輪を浮かべながらキラキラと輝いている。完全にしなやかなストレートのようで、前髪だけは髪と同色のヘアピンのようなモノでまとめ、横に流しているが、それ以外は彼女の動きに合わせ跳ね、自由に靡いている。だがそうした次の瞬間には一瞬でまとまり、落ち着くことから、随分と丁寧に梳られ、手入れされているとわかる。根元まで銀色であるため、それが地の色だとは思うが、美容院へ行ったばかりみたいなその完成度から、それすらも確信に至れない。
顔は……簡単にいえば小悪魔系だ。目は、まるで猫のよう……と言えるほどには大きくないが、形はやはり猫に近い。いい感じに丸く、目尻だけが吊り上がっている。ふっくらとした涙袋があり、まつげも長く、それもまた銀色であるため、目の輪郭が若干ぼやけて見える。瞳の色は……とりあえず右目は茶褐色だ。左目はよくわからない。
というのも、彼女はおかしな形の眼鏡をかけているのだが、それの左目部分が大部分、茶褐色のサングラスのようになっているのだ。
その眼鏡は、右目(私から見て左側の目)のフレーム部分が「☆」型で、左目のフレーム部分が「○」形なのだが……その「○」の中に、茶褐色の部分があって、それが彼女の左目を半分以上覆ってしまっている。
右が「☆」を模しているだとすれば、左はこれ、三日月を模していると言えばいいのかな?
ええと、三日月って、別に月が、本当に三日月形に削れてしまうわけじゃなくて、太陽の反射光が当たる、その部分だけが光り、三日月形に見えているだけなわけだけど……彼女の眼鏡、その左目のレンズ部分もそれと同じで、フレームもレンズも形は「○」、だけどその右端の方(私から見て左端、顔の外側の方)に、三日月形な透明の部分があり、それ以外は茶褐色のサングラスのようになっているから、だから三日月にも見えるというわけ。なんていうか、ものすごく凝った意匠の眼鏡だ。少なくとも私はこんなの、初めて見る。
ちなみに、この国において眼鏡はかなりの高級品で、度のバッチリあったものは魔法でしか生み出せないというから、造ることのできる人、商会はかなり限られる。スマホもパソコンもテレビゲームもないこの世界、近視の人は、あまり多くはないけれど、仮に一般市民が近視になったら、それはもうそのまま生きるしかないというのがこの国の現状だ。老眼鏡ならもう少し安いけど。
ただ、どうも彼女の、そこまで大きくはない目は、近視のレンズ越しだからということでもないような気がする。あのレンズは、伊達ではないだろうか? 度の入っていない、ただのサングラスであるというなら、それはさほど高価なものでもない。そうすると、右にもちゃんとレンズ(ではなくただの透明ガラス?)が入っていて、角度によってはキランと光るというのもおかしな話だが、まぁそもそもが全体的に奇抜な格好の中にあっては、そこだけが浮いて見えるということでもない。
先ほどからずっと、彼女は父親……ナッシュさん?……が「持っている」、「持たれている」と表現してきたが、それはそのままの意味だ。
彼女はその細い胴へ、黒いコルセットのようなものをつけている。どうもその後ろに、持ち手のようなものがあるようだ。コルセットを締める紐の色はピンク。そして彼女は全身を、そのコルセットをデザインの基調とした帯衣で覆っていて、コルセット以外は黒い布をピンクのリボン……のような見た目のベルト(所々、かなりの余りがあるから、それが背負い紐になるのかもしれない)が覆うという、大変に奇妙で奇抜な格好をしている。
肌を見せる気はないのか、長袖だし、腰周りもスカートではなく無骨な革のズボン(途中で切れていて、そこから彼女の、ピンクの布地に被われた足が見えている)だが、スレンダーで上品なその身体の割に、なんだか全体には微妙にフェティッシュな匂いが漂っている。コスプレっぽいと言い換えてもいいのかもしれない。アメコミにいそうだ、こんな格好の人。これがあちらさんのコンプラ的に、セーフなのかアウトなのかは知らないけど。
全体として、要約すると、彼女を構成する色は大別すると四種類、髪やまつげ、あとは眼鏡のフレームの銀色、瞳と左目を覆うサングラス部分の茶褐色、あとは身に着けているものの黒とピンクだ。顔の肌色までも、雪のように白いから銀色めいてみえる。
その四色が、すらっとしたその身体の、大仰な動きに跳ね、激動しまくるというのが、彼女という存在の在り方であるように見える。……外見上は。
「あー、あんまり見ないでやってくれ、意外とシャイだから、ユーフォミーちゃんは」
「だだだだだだだだ誰が奥ゆかしい美少女じゃい!?」
「美少女は言ってないぞ?」
いや美少女は美少女だけど……。大口を開けると八重歯がチャーミングな美少女だけど……。
まぁ、コンラディン叔父さんの好みではないのだろう。年齢の問題かな。言動のハイテンションなJKっぽさ(かなり特殊なそれだけど)を裏切らず、彼女はJK、女子高生くらいの年齢に見える。叔父さんは特殊な性癖の人ではないようだから、もっとちゃんと大人な、ぺぇのでけぇのが好みなのだろう。かつては家中でママと同じ派閥にいたわけだしね。え、そんな理由?
「それで、じゃあラディ叔父さんはこれからどうしたいんですか?」
「ん」
「こうして、被疑者を拘束したところで踏み込んできたわけですから、何かしらの目的があったんでしょう」
芋虫のように、縛られて床に転がる女性を見て言う……いい加減、そろそろ名前で呼んであげたいなぁ。
「あー、それはユーフォミーちゃんの独断専行なんだがー……」
「あ」
そこで、ふと気付く。
「もしかして、昨日の尾行って……」
「ん」
そういえば、昨日私達を尾行してきた人物は、これまでとはだいぶタイプが違っていた。
ま、そうは言ってもそこそこ怪しげな風体だったから、あまり深く考えもしなかったのだけど、こうしてみると「出所」自体が違っていたのだと言われても、納得できる。
「あー、なんだ気付いていたのか、そうだな、それは冒険者ギルドから出した人員だね」
それなりに、その道に長けたのを出したつもりなんだがなぁ……とボヤく叔父さんへ、私はなんの情報も差し出さず。
「冒険者ギルドが絡んでいる……ということですか?」
疑惑をただ叔父さんへ、向ける。
「ん?」
つい先ほど、そこの芋虫女は、冒険者ギルドに何かしらの秘密があるような反応を示していた。
まさか……。
「あー、違う違う、ってか、なんでソイツここにいるの? 顔は見覚えがあるというか、ちょっと前に俺へ……僕に接触を図ってきた気がするけど、なーんか怪しかったから門前払いしたんだよね」
「そんなことが?」
行動力のある悪党だな。パパにも接触してそう。それでやっぱり門前払いを喰らってそう。その中で引っかかったのがマリマーネだったってわけか。……そういうところだぞ、マリマーネ。
「コンニャック! でっしゃばぁるな!? ユーはお父ちゃんの格下ちゃん! 身長見てモノ言えやー!」
「あー、ナッシュ」
「んむ……」
「やー、あんっ、お父ちゃんやーめーてー、持ーちー上ーげーなーいーでー、こんな人前では恥ずかしいからぁ」
言葉では嫌という割に、隠しようもない喜色を声に混じえながら、幼子を高い高いする要領で持ち上げられる四色女。銀色の髪が、犬のしっぽみたいにぶんぶん振れている。
持ち上げられている間は、くねくねと身をよじっていたが、父親の頭よりも高く持ち上げられた瞬間に、なぜだか途端に大人しくなった。いわゆる(上半身だけ)飛行機のポーズみたいな格好で、幼児みたいに幸せそうな表情を浮かべ、マッチョな父親へひたむきな目を向けている。
「ん」
「あんっ」
そうして、しばらくしてから、肩車のような形で、彼女はその短い足を親の肩へと載せた。そうしてから短い銀髪が生えている親の頭を、細い手でポンポンと叩く。
「もー、お父ちゃんったら、ダイターン」
「ん……」
そうして、こんな人前では恥ずかしいからぁ……と言ったその舌の根も乾かぬうちに、彼女は満足そうに父親の頭を抱きしめる。短い足が、いかり肩の上でその太い首をきゅっと挟んでいた。頚動脈とか大丈夫なんだろうか、あれ。
「え、これ何の時間?」
「ま、何かの病気と思って諦めて大目に見てあげてよ」
「いやいやいや……」
病気なら治しましょうよぉ。適切な治療を施しましょうよぉ~。
「とにかく、ユーフォミーちゃんのことはあまり気にしなくていいから。ただ、ラナちゃんはさっきので気付いてしまったと思うけど、彼女らは君達のアレヤコレヤがアレした場合の対抗策だ。もっとも、それが功を奏すかどうかはわからないけどね。けどこうなった以上、ひとまずは僕の話を聞いてもらえないかな? 対抗手段が対抗手段足り得るか、試すのはその後でもいいだろう?」
ちらと、叔父さんはレオへ視線を送る。それにレオが、どんな表情で応えたかまではわからなかったが、叔父さんはすぐ満足そうな表情になった。
まぁ、私も、その提案に否はない。事態は既に私の手には余るものとなっている。私自身、叔父さん伯母さんに頼ろうと考えたばかりだ。叔父さんからその提案をしてくれるというならむしろありがたい。もっともそれは、叔父さんの立場次第でまったく別の意味に変わってしまうが。
「……マリマーネ」
「ひゃい!?」
マリマーネは、突然振られたことにビクンとなる。しっかりして、ここはマリマーネの店でしょ。
「どっか部屋借りたいんだけど、こういう変な仕掛けがある部屋じゃなくて、単にもう少し広い部屋ってないの? 最悪、前回試し切りに使った、あの地下室でもいいけど」
「え、あ」
「あー、そうだな、冒険者ギルドに人を遣って大きめの馬車を呼ぶから、待っている間にここで話せると助かるな」
「馬車?」
「すまないがラナちゃん、そいつらの身柄はこちらで預かりたい。理由は話す、君がどこまで知りたいかにもよるけど、全部聞けば納得してもらえると思っている」
「え……」
「先に少しだけ話そうか、僕は冒険者ギルドのギルド長に知己がある。懇意にさせてもらっている。昵懇の仲というには少し違う気もするが、まぁ気のおけない間柄であることは確かだよ。僕は、今は冒険者ギルドのギルド員として動いているが、僕が何を目的に動いているのか、それを知るのはギルド長と、ごく限られた信頼できるメンバーだけだ。それで」
僕が何を目的に動いているか、聞く?……と、叔父さんは私へ問い掛ける。
それは、詳しく聞けば聞くほど、面倒事に巻き込まれる種類の話なのだろう。
けど。
「……それを聞かないと話が続かないんでしょう?」
ここに至ってはもう仕方無い。
どちらにせよ、私達はもう面倒事に、全身浸かってしまっている。ならば不透明な部分を少しでも透明にする方が、まだ泳ぎ着くその先が、どこにあるか判るというものだ。
「そうだね、じゃ、言うけど、王都ヤバイ」
「……んぇ?」
「王都ヤバイ、気が付いたら沢山のヤベェモンスターに囲まれている。森の大迷宮は勿論、大山脈も、港町へ向かう街道も、穀倉地帯もだ」
「……んぇぇぇ?」
一瞬、叔父さんが高杉晋作オマージュでも始めたのかと思った。わけのわからないことを言って、こちらを混乱させる乱暴な話術。
それくらい、それは荒唐無稽な話だった。
「冒険者ギルドはこの解決のため、王国軍に協力している。モンスター相手であれば、俺達冒険者の方が軍の連中よりも場数と知見を積んでいるからな。それで……一昨日の事件、あれってラナちゃんが関わっているんだろう? 人型スライムを倒したっていう、金髪のメイドはレオ君だろう? そこまでは僕も推測できた。知りたいのは、だからそこから先なんだ、どうして今日、この商会で、君達はこんな大立ち回りを演じた? そこの連中はなんだ? 人型スライムとの関係は?」
けど、叔父さんの言葉に、嘘や誤魔化しの色はなかった。
ただ淡々と、それは真実のみを語っているように聞こえた。
「三下説明ゴックローチ! あとはアタピが頭上のここから三行半! つまり王都はDIEピ~ンチ! すわと危なくなったぜアタシ~ンチ! ならば重ぅ要! 参考ぉにぃ~んは! キリッとキラッと協・力・肝・要! 秘密主義それは不ぅ~要!」
あの……叔父様、私、色んな意味で眩暈がしてきました。
帰っていいですか?




