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今度こそ幸せに③

ついに、ついに……!


ゆるめのR15かもしれません

 私たちはまず城内にある教会に向かい、そこで改めて式を行った。


 といっても堅苦しい儀式を二度もするのは大変だし、代々のリーデルシュタイン辺境伯も「堅苦しくて小難しいのは嫌。ぱーっと華やかにしよう」という方針らしいので、結婚宣誓の間は参列者の皆から祝福されまくられて冷やかされもしたし、司教様もにこにこしていた。


 そうして、賑やかな式を終えて教会を出ると――そこでは既に、ガーデンパーティーの準備が整っていた。


 私たちが外に出た途端、アレクシス様は騎士団の部下に、私は経理部の同僚たちにがしっと捕まり、そのまま「本日の主役」席に連行。


「それでは! 我らが勇敢なる若獅子・アレクシス様と、可憐な女剣士・リーゼ様の結婚を祝って!」

「乾杯!」


 アレクシス様の部下の一人の掛け声により、晴れた秋の空に向かって何百もの祝杯が上げられた。


 今日は無礼講で、騎士も使用人も領民代表も皆、立場を忘れてご飯を食べて、踊って、お酒を飲む。

 給仕係の使用人たちも交代制なので、裏方として働くときはしっかり働き、交代の時間になるとお仕着せや料理服のまま出てきて、料理を食べていた。


 今日のために辺境伯様が王都でも有名な楽団を招いてくださっていたので、辺境伯城の庭には華やかな音楽と皆の笑い声が満ちていて……主役席に座る私も、ついつい笑顔になってしまった。











 賑やかな祝宴は夕方まで続き、最後に皆でダンスをしてお開きとなった。

 何十曲も奏でてくれた楽団は城の客室で丁重にもてなして、領民代表たちも宿に向かう。使用人と騎士たちはすぐに片づけをするけれど、そんな皆の顔もにこにこ笑顔だ。


 私たちは辺境伯様や家族に挨拶をすると、すぐに屋敷に向かった。


 アレクシス様は結婚を機に、城内にある小さめの屋敷を与えられていた。ここは代々の辺境伯子息が父の跡を継ぐまでの間、妻や子どもたちと暮らすための場所だ。


 この屋敷の中だけであらゆる設備が揃っていて、しかも子育ての場所としても使われるからか、子ども部屋用の明るいプレイルームや小さなピアノのある音楽室、子ども用の絵本を揃えた書庫なども併設されている。


 これから、ここが私とアレクシス様……そしていずれ生まれるだろう子どもたちが暮らす場所になる。


 私たちの世話係として、本城から二十名ほどの使用人が派遣されている。

 皆、私やアレクシス様の顔なじみで、使用人としてきびきび働くだけでなくて相談や頼みごともできる、気の置けない関係の人ばかりだから、安心して過ごせそうだ。







 ……そうして、夜。


「リーゼ様……いえ、奥様。ご準備はよろしいですか?」

「……ええ」


 メイドに尋ねられて、私はドキドキしながら頷いた。


 昼間は忙しいし楽しいしで忘れていたけれど、夜になると昨日、寝る前にアレクシス様と交わした会話がはっきりと蘇ってきた。


 明日、私もアレクシス様も外出する予定はない。

 私は……夫婦として、アレクシス様と夜を共にする。


【一度目の人生】のときはアレクシス様の精神状態が危うかったこともあり、営みは淡々としたものだったし、用が済んだらすぐに部屋を出てしまわれていた。


 あのときのアレクシス様は……本心はともかく、とにかく跡継ぎを作らなければならなかったから、私を抱いていた。

 そして私も、「こうするしかないんだ」と今の状況を受け入れて、少しでもアレクシス様の慰みになれば……という思いを胸に、身を預けていた。


 でも、今は違う。


 子どもはほしいけれど……それ以上に、愛する人と結ばれたい、という気持ちの方が強い。

 それはきっと、アレクシス様も同じだろう。


 メイドに見守られながら、主寝室に向かう。

 ドアをノックするとすぐに内側から開いて、アレクシス様に抱き寄せられた。


「……不安になっていた。このまま、リーゼが寝室に来てくれなかったらどうしようかと……」


 ドアを閉めて鍵も掛け、私をしっかり抱き込んだアレクシス様が、私の肩口に顔を埋めて小声で言った。


「色々、考えてしまって。……俺には覚えがないが、君は……かつて別の人生を歩んでいたとき、俺に手ひどく扱われた記憶があるのだろう? それでもし、君が逃げてしまったら……と考えて」

「アレクシス様……」


 アレクシス様には、【一度目の人生】の話をしている。

 アレクシス様は私が語る凄惨な内容に戸惑い、受け入れがたいと思いつつも――悩んだ末に私を信じてくださった。


 抱き込まれているので体が動かしにくいけれど、よいしょよいしょと腕を伸ばして、アレクシス様の大きな背中に触れる。


「私なら、大丈夫です。逃げたりしません」

「……怖くないのか? 去年の冬の事件を防げたとはいえ……俺は、【一度目の人生】の俺と同じ人間だ」

「ええ、同じ人間です。……同じ、私が子どもの頃からお慕いしている人です」


 確かに【一度目の人生】のアレクシス様からは、ひどいことをたくさんされた。

 目を合わせてくれなくて、距離を置かれて、閨では強引に抱かれて――最期には斬り殺されて。


 でも、怒りにまかせて殴ってきたりとか、暴言を吐いたりだとかはなさらなかった。

 どれも、当時のアレクシス様にとっては「仕方なく」したことで……お優しいアレクシス様が本心で行ったことではないと、分かっている。


 だから、大丈夫。


 ぽんぽんと背中を優しく叩くと、私を抱きしめる腕の力がぐっと強くなった。


「だからこそ、今度は幸せにしてほしいです。私の目を見て、名前を呼んで……あなたの声を聞かせてほしいです」

「リーゼ……」

「愛しています。……これまでもこれからも、ずっと」


 アレクシス様の背中が震えて、すん、と小さく鼻を鳴らす音が聞こえた。

 かと思ったら私の体は一瞬で持ち上げられ、そのままベッドへと連行されてしまう。


【一度目の人生】では、「今日はちょっと待ってほしい」と言ってもあっさり担がれて、ベッドに連行されたことがある。

 でも今のアレクシス様は私の体をそっと横たえて丁寧に靴も脱がし、恭しい所作で私の足の甲や太もも、手の甲に唇を落としていく。


「アレクシス様……」

「大切にする。……【一度目の人生】の俺ができなかった分も君を大切にして、幸せにする」


 薄闇の中で、私を見つめる緑色の目が淡く燃えている。

 どくん、どくん、と心臓が高鳴るそこに大きな手のひらが触れてきて、思わず小さな声を上げてしまう。


 私は、ずっと、この温もりを求めていた。

 私が贈る愛情と同じくらい、アレクシス様からも愛情を返してほしい、と心の奥底では願っていた。


 でも、もう大丈夫。


 私は、この人と幸せになれるのだから。











「愛しています」


 おぼろげな意識の中でそう囁くと、


「俺も。愛している、リーゼ」


 優しい声が返ってきて、そっと手を握られた。

















「すまなかった、本当に悪いことをした」

「……そうお思いなら、もうちょっと加減してください!」

「……それは、できない」

「も、もう! あと、下ろしてください! ゆっくりなら歩けますから!」

「それはだめだ。リーゼをここまで疲れさせたのは俺だから、責任をもって君を運ぼう。大丈夫。絶対に落としたりはしないから」

「……。……まさかですけれど、こうやって私を抱える口実ができたって喜んでいません?」

「そ、そんなことは!」

「さっき、顔がにこにこしていましたけれど?」

「……」

「……」

「……すまない。嫌だったか……?」

「い、嫌ではないです! 私も……その、アレクシス様のこと……好きですから」

「リーゼ……! ああ、ありがとう! 今夜もたっぷり可愛がってあげるからな!」

「なんでそうなるんですかっ!」


 あれこれ話しながら廊下を歩いていく――厳密には、歩いているのは夫の方だけだが――子爵夫妻を見守りながら、使用人たちはやれやれと笑顔で肩を落とした。


 この様子では屋敷に新たな住人、自分たちが新たに仕える方が現れるまで、そう長くは掛からなそうだ。

番外編もここで終わりとします

お読みくださりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 番外編シリーズ、ありがとうございました❤ 番外編最終話、寝室でアレクシス様がどんな気持ちでリーゼを待っていたのかを想像すると、胸が苦しくなってしまいましたが、 全体的に甘々ラブラブな番外…
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