今度こそ幸せに②
翌日はよく晴れていただけでなく、暑すぎず寒すぎない最高の気候だった。
「素晴らしい天気だ。きっと、俺の花嫁は天からも愛されているのだな」
「いえ、私はどちらかというと雨女なので、ここまで晴れたのはきっとアレクシス様のおかげですよ」
天気一つでも私を褒め称える材料にするアレクシス様に苦笑してしまうけれど、実際私は天気には愛されないことが多いから、間違いなくアレクシス様がとてつもない晴れ男だからだろう。
たっぷり寝た私たちは朝から頭もすっきりしていて、朝食の後に時間を掛けて身だしなみを整えた。
大聖堂の式ではウエストをギリギリしぼられる白いドレスに、肩が凝りそうなほど重いマントを着て、複雑な形に結った髪に重厚なティアラも着けられて、とにかく動きにくくて重かった。
式の翌日は、馬車の中でほぼ一日伸びていたくらいだ。
ちなみに新郎であるアレクシス様は私以上に重厚な衣装だったけれど、ご本人はけろっとしていた。
本人曰く、「甲冑の方がずっと重い」らしいし私とは基礎体力が違うので、馬車の中ではかいがいしく私の世話を焼いてくださったくらいだ。
でも、城で挙げる式では好きな色、好きなデザインのドレスを着ればいい。
私が選んだのは、鮮やかな落ち葉のような淡いオレンジ色のドレス。
コルセットは不要で、太めのサッシュベルトで腰の形を整える。クリノリンも着けていないから、自然な形でドレスのスカートが広がっている。
髪も緩めに結っていて、繊細で可愛らしいティアラやペンダントにはリーデルシュタイン辺境伯家の家紋が刻まれていた。
準備を終えて合流したアレクシス様は、鮮やかな青色の軍服姿だった。
これはリーデルシュタイン騎士団の正装で、胸には階級章や家紋の入ったバッジが飾られていて、がっしりした腰には装飾剣も提げている。
……【一度目の人生】の式では、私もアレクシス様も衣装にこだわる暇がなかった。
私はひとまず白いシンプルなドレスで……アレクシス様は教会においでにならなかったから見られなかったけれど、黒いジャケット姿だったそうだ。
控え室に現れたアレクシス様は、ご自分が提げる剣よりもかなり小さな装飾剣を手にしていた。
アレクシス様は私を見ると微笑み、「とてもきれいだ」と囁いた。
「大聖堂で見たときの君は、女神の使徒かと思うほど神々しかったが……今のリーゼは、とても華やかで愛らしい。俺としては、こちらの方が好みだな」
「ふふ、ありがとうございます。アレクシス様も……あの白い衣装も似合ってらっしゃいましたが、やっぱり軍服姿が一番素敵です」
「そう言ってくれたら、俺も安心する」
アレクシス様はそう言ってから、持っていた小さな剣を差し出してきた。
「……花嫁が帯剣するなんて、よそではまずあり得ないだろうな」
「そうですね。……でも、これが私の覚悟でもあり、私たちらしい結婚式の形だと思うのです」
「ああ、俺もそう思う」
アレクシス様は微笑み、一言断ってから私の前に跪いた。
アレクシス様は身長が高くて脚も長いから、跪くことでちょうど目線が私の腰辺りに来る。
彼は持っていた剣のベルト部分を外すと、私のサッシュベルトに剣を取り付けた。
私とアレクシス様で相談して、私たちは二人とも帯剣して式に臨むすることになった。
男性なら帯剣するのもおかしくないけれど、女性がドレスで剣を提げるなんて普通ならあり得ない。
でも、これはリーデルシュタイン辺境伯家に嫁ぎ――夫と共に剣を取る覚悟をしているという、私の意志の表れだ。
アレクシス様や辺境伯様たちも私の提案を褒めてくださり、なんだかんだ言っていた父も最後には、「それがリーゼらしいかもしれないな」ということで認めてくれた。
軽めの装飾剣だから、サッシュベルトに取り付けてもドレスの布地がよれたりずれたりすることもない。
アレクシス様は剣の位置を調節してから立ち上がり――私を見下ろして、眩しそうに目を細めた。
「……本当に、こんな日を迎えられるなんて、昔の俺は思ってもいなかったな」
「……私もです。いつか、きれいなドレスを着た貴族のご令嬢があなたの隣に立つのだろう。だからこの恋は諦めなければならないんだ、とずっと自分に言い聞かせていました」
それに、あの悲劇から始まった【一度目の人生】でも。
愛を捧げてもそれが返されることはなくて、急ぎ執り行われた結婚式でもアレクシス様は式場に現れなかった。
仕方ない、と思っていても、胸の奥はしくしく痛んでいた、かつての私。
でも、今の私は、自分の好きな格好で、好きな人と一緒に結婚式に臨める。
皆に見守られて、祭壇で永遠の愛を誓うことができる。
「……愛しています、アレクシス様」
「俺も、愛している。一生掛けてリーゼを守り、一生君を愛するが……それだけではない。困難があろうと、君と力を合わせ、協力して乗り越えていきたい」
アレクシス様に力強く宣言してもらえて、胸が歓喜で震える。
愛し愛される日々を送るのはもちろん素敵なことだけど、もし大きな問題が発生したとしても、私はアレクシス様と一緒に戦える。
時にはアレクシス様の背中を守る盾になり、時には並んで敵に立ち向かう剣になる。
それが、私の誓い。
私が結婚式に剣を携えていく理由。
「……はい。共に、行かせてください」
もう、私たちが道を違えることは、ないのだから。




