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アレクシスのおねだり①

本編よりも少し後くらいの話

 私がアレクシス様と婚約して、しばらく経った。


 私たちの結婚式は今年の秋にしようということになり、色々と準備も進めている。

 普通の貴族としてはかなり早いペースなのだけれど、私たちの場合は貴族と平民の結婚で、妻である私は元々リーデルシュタインの領民だ。


 だから、貴族同士と違って色々省けるらしく……それに「早くリーゼと結婚したい!」というアレクシス様たってのお願いもあったからだ。


 ……【一度目の人生】のときはもっととんでもないスケジュールで、婚約期間がほぼない状態で結婚となったけれど、今回はそんなに焦る必要はない。


 私も……早くアレクシス様と結婚して、今度こそ幸せな夫婦になりたいと思っている。

 でも、婚約者としても充実した日々を送りたいと思っていたので、これくらいのスケジュールが丁度いい。


 ちなみに私たちは、デュルファー男爵が滞在している間だけアレクシス様の部屋で一緒に寝ていた。

 それに関しては辺境伯様も父も一応同意してくれたし、男爵を警戒するためという大きな理由があった。おまけに、ベッドに寝ている私たちの間には毛布製の要塞があったし。


 でも今はデュルファー男爵も断罪されて、警戒する必要がなくなった。

 そういうわけで自然と共寝状態も解消されて、私は城内にある自室で寝泊まりしている……のだけど。


 ある初夏の日、アレクシス様の方から驚きの申し出があった。












 アレクシス様は十日ほど前から、遠征に出られている。

 前々から警戒していたノルドラド山の山賊たちの被害が大きくなったので、いよいよリーデルシュタイン騎士団で討伐に出向くことになったのだ。


 討伐部隊を指揮するのはもちろん、アレクシス様。

 全身を鎧で包み込んだアレクシス様の姿は雄々しくて、文句なしに素敵だった。

 私たち城の使用人総出でアレクシス様たちの出立を見送ったのだけど……そのとき、ちょっと気になることがあった。


 辺境伯子息を指揮官に据えた討伐部隊が、使用人たちの作る花道を通り、門の前で待つ辺境伯様と騎士団長である父のもとへ向かう。

 アレクシス様は二人に、ノルドラド山の山賊を成敗してくると告げて――ふと、私の方を見てきた。


 私はアレクシス様の婚約者として、父の後ろに控えていたのだけど……アレクシス様は私のところまで来ると跪き、「どうか俺に、祝福を」と(こいねが)ってきた。


 戦地に向かう騎士が、婚約者や妻に望む「祝福」――基本的には、額へのキスだ。

 人前だし、父が怖い顔で見てくるけれど、まあ額くらいなら……と思い、跪いたアレクシス様に顔を上げてもらい、額にキスをする。


 それだけで周りの人たちはやけに盛り上がったのだけど……皆が歓声を上げる中、立ち上がったアレクシス様が私にしか聞こえない声で囁いてきた。


『無事に盗賊どもを成敗して帰ってきたら、リーゼから褒美がほしい』と。


 ……。

 ……褒美って、何?


 そのときは状況に流されてひとまず頷いてしまったけれど、冷静になってみると、私からアレクシス様にあげられる褒美とは何なのだろうかという疑問が湧いてきた。


 なんとなく父や母に聞くのははばかられたので、経理補佐仲間である女性使用人にこっそり聞いてみたところ……彼女はくわっと目を見開いて、私の肩を掴んできた。


「リーゼ……いいこと? いくら婚約者、いくら相手は辺境伯様のご子息とはいえ、だめなときはだめ、嫌なときは嫌と言うべきだからね!」

「え、いや、そんなとんでもないものは要求されないでしょう?」


 彼女は私より二つ年長で、半年前に騎士と結婚している。


 ……ちなみに【一度目の人生】では、彼女の婚約者だった騎士は冬の襲撃で戦死している。

 婚約者を喪った彼女は経理補助の仕事を辞めて、故郷に帰っていった。


 あのときの彼女は泣き腫らした顔をしていて、毎日全身黒ずくめで過ごしていたから……無事に婚約者と結婚できて本当によかった。


 そんな、【二度目の人生】で幸せになれた彼女は鬼気迫る顔で私を見つめてきている。


「分からないわよ! ……アレクシス様って案外欲が強そうだから、結婚前だけど味見をさせてくれって申し出るかもしれないでしょう!」

「……味見」


 味見、にどのような意味があるのか、私はすぐに分かってしまった。

 だって、【一度目の人生】ではアレクシス様と……色々していたし、それなりの知識はあったし。


 確かにゲルタ王国では、結婚が確定した婚約者なら婚前交渉してもそれほど白い目で見られることはない。

 むしろ、「早く後継者を」と考えているところだったら、少しでも早く子どもが生まれた方が喜ばれるくらいらしい。


 でも、アレクシス様が、味見……?


「そ、それはないと思います」

「どうして? 私たちから見ても、アレクシス様がどれくらいリーゼに執着しているかがよく分かるくらいだし、むしろよくもまあここまで我慢しているってくらいでしょう?」

「我慢って……」

「とにかく! リーゼも望んでいるのならともかく、ちょっとでも嫌だと思ったらきっぱり言うのよ! 流されていたら、結婚してから困るからね!」


 びしっと指を立てて言われたので、私はひとまず相槌を打っておいた。


 嫌だと思ったら、嫌だと言う。

 ……確かにそれは、夫婦生活を送る上でも大切になるだろう。


 でも、だからといって、山賊退治の褒美にアレクシス様が「味見」を頼むなんて、ないよね。


 ……ない、よね?

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