聖女と山賊と海賊と… 後編
【SIDE ネム&フーレス】
鍔迫り合いの状態から、フーレスが距離を取り声を上げる。
「この紅い奴って味方じゃなかったの!?」
「それは私が言いたいってぇの!!」
フーレスがネムに背中越しに問いかけるが、
当然だがネムが答えを知っているハズも無い。
「おい!おまえぇ!、敵なのか!どっちなんだ?!」
「馬鹿正直に答える奴がいるかよ!武器を構えろ!!」
混乱したフーレスが直接紅い魔法少女に聞き、ネムに構えるように声を上げる。
「・・・、族共がそれを問うか。」
紅い魔法少女が呟くが、フーレスの望む答えでは無かった。
「イミ分かんなねぇえよ!!」
「いちいち気にすんじゃねぇ!、アイツは敵だ!」
ネムはその声と共にボルトを撃つが、容易く躱されてしまい。
緩急のある動きでフーレスに近づき、黒いナイフでフーレスのサーベルと斬り合う。
近距離で斬り合う所為で手出しがし辛く、何度か隙を見て撃つが効果は無い。
フーレスが撫でる様な上下左右の様々な連撃を紅い魔法少女は少ない動きで防ぎ、
ピストルやクロスボウのや射撃はギリギリで躱し、あるいはナイフの側面で弾く。
そうした戦闘が暫く続き、フーレスが背負った槍に持ち替えて、
すくい上げる様に振るい、紅い魔法少女は防ぎきれずに仰け反った。
フーレスはその隙を逃がさず、槍を薙ぎ払う様に振るうが、
紅い魔法少女は仰け反った姿勢を戻さず、
むしろ力の流れに沿うように身体を捻じる様に一回転しながら、
地を這う程に姿勢を低くして、薙ぎ払われた槍を躱す。
「なっ!?。え…?、い˝っ…、い˝た˝いぃぃぃいっ!!!」
しゃがみ込んだフーレスの足には地面まで貫通した小ぶりなナイフが刺さっており、
槍を伏せる様に躱した時に紅い魔法少女が投げつけていたのだった。
「フーレスッ!!」
痛みで泣きじゃくるフーレスにネムは駆け寄るが、
紅い魔法少女は跳ね上がる様にフーレスの横を抜けてネムに急接近した。
ネムは反射的に撃つが、頬を掠める程度で動きを遅くする事すら叶わなかった。
「チッ!うグッ!!ン˝ん˝~~ッ!!!!!」
紅い魔法少女はネムの口を左手で抑えて、右手のナイフで腹を突き刺した。
「あ˝ッあ˝あ˝っ!! か˝あ˝ぁ˝っ!!!! あ˝ぁ ぁ …」
刺した後にナイフを捻じり上げる様に動かし、
指の隙間から漏れた獣の咆哮の様な声を出した後、ネムは崩れ落ちる様に倒れた。
「やっ!やめ!!いやああ!!やだぁ!!やめてぇッ!!ネムを殺さないで!!」
フーレスが痛みを忘れて声を枯らすように叫び、
刺さったナイフから足を抜き、這いずって腹から血を流して動かないネムに近づく。
「ネムッ!ネムゥっ!!起きてぇ!!起きてよぉっ!!」
フーレスがネムの肩を揺するが、ネムは反応しない。
「お˝ま˝え˝ぇ˝!!絶対に殺す!!絶対だぁっ!!」
フーレスが紅い魔法少女に鬼の様な形相で睨みつけ、銃を連射する、…が。
紅い魔法少女はナイフから槍に武器を切り替えて、
手に持った銃を弾いた後に、槍の切先をフーレスの胸に当て、
数舜動きを止めた後に、深く突き刺した。
「やめっ!!き˝ぃっ!!あ˝っ!やだっ!死にた˝くな˝い˝っ!! っ・・・・・・」
槍を刺して20秒も経たずにフーレスは動かなくなり変身も解けそうになっている。
紅い魔法少女は槍を引き抜き、その場を後に立ち去ろうとした。
だがその時に背後で音がして、振り返ると倒した筈の二人の姿が無くなっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(マズいッ!マズいマズいマズい!!!!。私は未だしもフーレスが危ない)
腹を刺されて倒れたネムだったが、本当は痛みで気絶していただけだった。
肩を揺すられた時はまだ気絶していたが、フーレスの銃声で目をさまし、
完全に意識を取り戻した時には紅い魔法少女が背を向けている時だった。
ネムはすぐさまフーレスを抱えて保護領域から離脱して逃げ出した。
フーレスも腹から出血しているが、魔法少女としての身体能力でネムを運んでいる。
そしてそのフーレスだが、領域から抜けて1分もしない間に変身が解け、
運ばれている現在に至るまで呼吸が止まっていた。
本来は変身が強制的に解除されると気絶してしまうが、呼吸が止まる事はない。
だがフーレスは刺される時に、刺される事とその予想図、そして痛みを幻視した。
その所為で精神性ショック状態に陥った。
身体ではなく脳が「自分は死んだ」と思いこんでしまった
(背中越したけど体温が下がってる、脈もぜんぜん感じない。
そんな…、いやだっ!。フーレスが死ぬなんて絶対にいやだっ!!)
ネムは泣きながらフーレスを背負って支部に向かって走り続ける。
支部に近づくにつれて眩暈が酷くなり、
平衡感覚も失われつつあったが、支部の前に着く事が出来た。
「紅い奴に襲われた!!フーレスが息をしてない!!!」
ネムは壁に寄りかかりながら、残った力を振り絞って現状を説明した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【SIDE ルイセ】
(先ほどから騒がしいですね。)
救急搬送用の治療室で待機していたルイセが外の騒がしさに気づく。
「ルイセ様、少々お待ちください。確認して参ります。」
「はい、何か分かったら教えて下さいね。」
そう言い部屋を静かに出た付き人だったが、すぐさま音を立てて部屋に戻った。
「ルイセ様!ネムさんが、血塗れで、それで、フーレスさんが、変身が解けてて、
でも怪我はしてなさそうで。」
「落ち着いて下さい。怪我をしているなら此処に来ます。
すぐさま準備をして下さい、良いですね?。」
「は、はい!」
返事と同時に付き人は動きだし、
間もなく変身が解けかかったネムと変身が解けたフーレスが運び込まれた。
(変身中に死んでも変身が解けるだけなので回復する理由は特に無いんですが…、
まぁ、傷を癒せるのに怪我人を前に力を使わないのもアレなので良いですが。)
「ネムさん?すぐに傷を治しますので安心してくださいね?。」
ルイセが傷口に手をかざすが、
ネムはその手を掴み、絞り出すように掠れた声で言う
「私は…良い…、希を…助けて…、息を…してない。」
手を掴まれた事に驚き、それ以上に話の内容に驚いたルイセが、
掴まれた手を解いて希に駆け寄り診察する。
(顔が蒼白ですね…、動脈が低くなっている。脈拍は…とても弱く、そして早い、
しっとりと汗をかいていて体温も低下している…。
非常に危ない状況ですね…。)
(普段通りの魔法では治せそうにないですね…、
人を癒す為に使うのです御業らしさとか関係ないですよね。)
フーレスの状態を的確に判断してルイセは自分らしい使い方の奇跡を発動させた。
「主よ 彼の者の 傷を 癒せ ≪ヒール≫!!」
普段通りの使い方ならば、太陽の様な温かみのある光に包まれるのに対し、
今回は、冷たく、暗く、静かな月光の様な光が辺りを巡った。
寒気がする様な光が消えると、希は穏やかに眠っており、
先ほどまでの、今に命の灯が消えそうな姿は無くなっていた。
それを見届けるとネムも気が抜けたのか眠る様に変身が解け、
希の様に息をしていない、等という事も無く、眠る様に意識を手放した。
「一体、何があったのですか?」
暫くした後、眠っている二人を横目に連れて来た警備員等に、ルイセが尋ねる
「そっ…それが「紅い魔法少女に襲われた」と、
「フーレスが死んじゃう」としか言っていなかったので我々も…。」
「紅い魔法少女が…、ですか?。」
(一か月前に姿を見せた切りで音沙汰が無いと思えば、
〇〇県のアメリカ国籍持ちの魔法少女を襲撃した次は此処ですか…。
少し…、少しだけですが…、会っても無いアナタの事が嫌いになりましたよ。)
平穏を脅かされたルイセさんは朱莉ちゃんの事が少し嫌いになりました。
次話はお待ちかねの朱莉ちゃん回です。




