それを人は狂気と言う
どうも、初出動、初戦闘、初負傷の同時三冠を達成した朱莉です。
いやはや、油断してしまいました。
あのテロぐるみが私は強いと、余裕だと言うので調子に乗りすぎてしまいました。
後ろから声をかけられ振り向くまでは良かったと思いますが、
同僚であろう魔法少女が口ごもる様子を見て魔獣から注意が逸れてしまいました。
跳びかかって来たのに反応は出来たのですがまさか尻尾に棘があるとは・・・。
ですが丁度良かったですね、私の望んだ三つ目の力の性能の検証が出来ました。
顔をノの字に切りつけられドクドクと血が流れ滴る感覚がします。
だというのに痛みが無いのです。
えぇ、痛みを感じない。それが私の力です。
お金を稼ぐ為に魔法少女に成ったのに、
痛みを堪えながらというのは割に合わないと思ったからこの力を望んだのですが、
想像以上にこの能力は優れているようですね。
そう思いながら顔の傷を指で撫でる様になぞりながらそんな事を思っていた
「・・・クフ、クヒヒヒヒ」
優れた膂力に、痛みをものともしない能力、小遣い稼ぎにストレス発散が出来る事を思うと、傍から見ると非常に訝しい笑みを浮かべていた。
さて、身体能力と無痛化能力はある程度は分かりました、
では次は攻撃、つまりこの槍の能力ですね。
槍を∞の字に軽く振るい、少し強めに踏み込み、脇を絞る様に槍を突き放った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【SIDE ???】
私が声をかけたせいで目の前の魔法少女が負傷してしまった。
私が…声をかけなければっ……!!。
・・・悔やむのは後でも出来るけど、早く魔獣を倒してこの人を助けないとっ!!
「なっ‼…、えッ!?、一体、何を…!?」
箒を杖に戻し、魔法を発動させるべく構えた時、紅い魔法少女がゆらりと動き。
籠手の付いた手で斬り付けられた傷口をグチュグチュと弄る様になぞり始めた。
「・・・クフ、クヒヒヒヒ!!」
冷酷そうな冷めた顔を紅潮させながら薄気味悪く笑い始めた。
その異常性に知性の低い魔獣もたじろいだのか、
すぐに跳びかかる事はしなかった。
「く…、狂ってる……。」
思わずそんな言葉が口を衝いて出てきた事に自分でも気づいて居なかった。
呆然していると紅い魔法少女が手に持った槍を振るったかと思うと、
姿が掻き消え、替わりにひび割れ、陥没した地面と、
その時に鳴ったであろう破砕音と粗い砂塵が舞った。
辺りを見回すと魔獣だった物と、それを作り上げた紅い魔法少女が立っていた。
魔獣は顎下と腹側、四肢を残し、上半分が消し飛んでおり。
身体があった場所にはそれを成した紅い槍がそこにはあった。
「…へ?、え?、何が…起こったの?」
自分の所為で傷つき、その傷を自ら抉り、消えたかと思うと魔獣が死んでいた。
そういった様々な感情が目の前の現実の把握を遅らせていた。
「・・・ンフフフフ、キィッヒッヒッヒ!!」
魔獣が塵となって消えてく様を、紅い魔法少女が空を仰ぎながら、
不気味な高笑いを上げていたのも拍車を掛けていたのだろう。
その後、笑いを止め、糸が切れたかのように俯いたかと思うと、
私の方を無表情で見つめてきた。
「ヒッ…!!」
悲鳴の様な声が漏れてしまったのも仕方が無いだろう、
だが恐怖はこれで終わらなかった。
ゆっくりと身体をこちらに向け、その一歩を踏み出した。
その歩みを見た瞬間、反射的に杖を向けてしまった。
「なっ…!?、ちがっ!、そんなつもりじゃ!!」
口では自身の行動を否定するものの、杖を持った手が震えて言う事を聞かず、
左手で抑えようとし、結果として両手で杖を向ける格好になってしまっていた。
その姿を見て、紅い魔法少女は細月の様な笑みを浮かべ、
次の瞬間には目の前にその魔法処女の顔があった。
「ッッッッ!!??」
動こうにも杖を持った両手を紅い魔法少女に片手で抑え込まれていた。
震えて力が入らない事を加味しても、万力で固定されたかのようにビクともせず、
下から覗き込まれる様に目と目が合った。
その顔は非常に端正な顔立ちで、誰もが見惚れる様な美しさがあった。
それだけに、今も尚、肉の裂け目から血が零れ滴る、大きな傷が痛ましく見える。
無機質な暗い黄金の瞳の中に嗜虐心が幽かに見える気がして
言外に「お前の所為だ」と言われているように思えた。
「あぅ…ご、ごめん…なさい。」
思わず謝罪の言葉が漏れた、すると嗜虐心が見えた瞳は無機質な目になり、
怪しく微笑んだ表情も、元の無表情に戻った。
そして下から覗き込む様な姿勢から、
背筋を伸ばして少し見下ろされるような姿勢になり、
掴まれていた両手も放されたが、上手く足に力が入らず、
尻餅をつくように座り込んでしまった。
不意に紅い魔法少女が後ろをチラリと見たかと思うと、
一瞬にして目の前から姿を消していた。
助かった事に安堵し、自身が大粒の涙を流している事に気が付き、
展開されている保護領域が消えていくのを見ていると
――プルルルル
「うひゃ!、なんだぁ、電話かぁ~、ビックリした。
えっと、もしもし、東区所属の魔法少女ソシエルです」
『あ~もしもし、真帆ちゃん?、ごめんなさいね~、こんな時間に出てもらって。
魔獣の反応は消えてるみたいだけど、もう終わったの?』
「えぇ~っと、それなんですけど、見かけない魔法少女が魔獣を倒したんですが・・・」
『見かけない魔法少女?。そう、分かったわ、
でも今日は遅いし明日にでも良ければカメラも持って来てくれない?。』
「わ、分かりました!。」
『それじゃあ、お休みなさい、まっすぐ家に帰るのよ?』
「はい、大丈夫です、お休みなさい、澄本さん。」
――ピッ
「はぁ~、戦って無いのにすっごく疲れたぁ~、
…もう一度会って、ちゃんと謝りたいなぁ。」
回を重ねる毎に文字数が減っていきます・・・。
(´;ω;`)