魔法少女たちの憂鬱 中編
【SIDE フィールム】
ふむ、ビルに飛ばされた魔法少女らしき何かの確認に行くべきか…、
だが前線を離れるのはあまり、良い印象を与えないだろうが…。
「さて、君達二人は戦わないのかい?。」
それはこの二人も同じだろう、
一人は動物のキグルミの様な寝間着、一人は修道女の様な服で、
私と同じく、この場を動いていない。
「私ですか?、私は回復魔法が使えるのですが、攻撃系の能力が無いので、
傷を負った方が戻られればそれを癒す為に此処に居るのです。」
「ん…、私はその時の支援と防衛。」
どちらも面識は無いが、おそらく着ぐるみの方がオルビスだろう。
聞いていた服装と類似点が多い。
つまり、こちらの修道女が現地の魔法少女だろう、名は…ルイセだったか。
回復とは非常に珍しいが、それだけでこの作戦に参加は出来ないだろう。
他の魔法少女を出していない所から察するに、
此処の支部の人間は、過保護かその逆か…。
少なくとも実力不足で降ろされた訳ではないだろう、
攻撃が出来ない魔法少女を出す理由が無い。
ビルに飛ばされた何かに加え、目の前の二人の魔法少女の事を考えていると。
そのビルの方向から見慣れないが知っている魔法少女が魔獣に急速に近づき、
魔獣に攻撃を入れた。
そこで初めて、魔法少女の攻撃に晒された魔獣の姿を見た。
細かい傷は付いていれども、大きな傷は尾に開いた穴と、
たった今、紅い魔法少女が付けた傷のみで、平然としていた。
魔獣から距離を取った紅い魔法少女に、
黒いセーラー服の魔法少女が怒声を浴びせるが、紅い方は冷めた目で見ていた。
「尾に攻撃を入れたのは君だね?、
私が動きを止める、その間に一撃いれてくれないか?」
無理やり話を遮る様に私が話しかけたが、それも冷めた目で見るだけだった。
「おや?、答えてくれないのかい?。
まぁ良い。奴に攻撃出来る者に話を振るだけだからね。」
軽く煽る様に言葉を続けるが、感情的な反応は無く、無機質な印象を受けた。
「・・・、為すべき事を為す。」
少しして、そう言い残すと槍を手に再び魔獣に突撃した。
魔獣も紅い魔法少女を危険視したのか、先程と変わって警戒し、
紅い魔法少女を見据えていた。
突如として魔獣が動き、その巨体からは想像出来ない程の俊敏さで動き、
連続で攻撃を繰り出していた。
そのどれもが当たれば必殺、掠るだけで軽くない怪我を負う程の棘があった。
しかし、紅い魔法少女はそれを躱し、あまつさえ隙を見て反撃した。
だが、反撃後の着地を狙い攻撃され、浅くない負傷を負ってしまう。
「回復します!、一度引いて下さい!!」
シスタールイセが大声で叫ぶが、引こうとしない、いや。
「違う!、魔獣が奴を引かせないようだ!、奴を支援するぞ!!」
私がそう言うと、他の魔法少女達は瞬時に理解し、後退するための支援をする。
紅い魔法少女は相変わらず、魔獣の正面に立ち、戦闘を続けていた。
動くたびに血が流れ、躱す為に激しく動くと血飛沫となって噴き出す。
それでもまだ、余力はあるようで、動きに繊細さが見て取れた。
だが逆に、それが無くなれば、たちまち魔獣の餌食になるだろう。
直接的に介入した支援が出来ず、歯がゆい思いをしている中、
ピンクのフリフリで誂えた服に、ピンクの髪の色をした、
如何にもな様相な魔法少女が、紅い魔法少女の支援をしていた。
支援、と言うよりは邪魔をしてそうな感じがするのは、気のせいだろうか…。
それからも、我々は魔獣の気を引く事を優先した行動を取った物の、
大した成果には結びつかず、遂に恐れていた事態になった。
紅い魔法少女の体力に限界が来てしまい、その攻撃は魔獣に傷も負わせず、
魔獣の攻撃を躱せずに棘の付いたハンマーの様な尾をモロに胴体に当てられた。
それだけで魔獣は収まらず、尾の棘に刺さったままの紅い魔法少女を、
その場で一回転する様に地面を抉りながら引きずり回し、
勢いそのまま、近くのビルに直接叩きつけた。
「マズい!、誰かッ…、ニーサは回収に迎え!、エクエス!時間を稼ぐぞ!!」
「当然だ!、手の空いている者は私たちの支援をしろ!!」
◇◆◇◆◇
【SIDE ニーサ】
初めてのB級相当で緊張していたと言うのもありますが、
それ以上に私の参加した戦闘で、初めて死人が出る可能性が出てきたのが
余計に私を緊張させていました。
魔法少女は変身している時に、致命傷負えば変身は解除されますが、
それと同時にほぼ間違いなく気絶してしまいます。
ですが、何かが刺さったまま変身が解除されればどうなるか、
その場合は大きさによりますが、刺さった物が残る事になります。
その場にあった物を押しのけて体に残留してしまい、
変身解除後に死んでしまう可能性があるからです。
ビルの中に入ると砂埃が立ち込めており、
現状の把握がしにくく、その間に死んでしまうかと思うと、気が気でなかった。
――此処で 死 訳に いかない
瓦礫の中から呟くような声が聞こえ、風で砂埃を払うと、
今にも変身が解けそうな魔法少女が倒れていた。
「大丈夫!?生きてる!?直ぐにルイセちゃんの所に連れて行ってあげるからね!!」
口ではそう言ったが、間に合わないだろうと思っていた。
棘を抜かないと死ぬ危険性があるため、直ぐにでも棘は抜きたい。
でも棘を抜けば出血死で変身が解けてしまう、
変身が解ければ気絶して、魔獣に攻撃できる人物がいなくなる。
――・・・か、魔法薬・・・があれば。
そんな一瞬の迷いの中で、紅い魔法少女が何かを呟き、
何を言ったのか聞こうと近づくと、更に口を開いた。
「・・・火の球を出せ。」
紅い魔法少女が意味不明な事を言うが、
その内容以上に喋るたびに、ゴポゴポと口から気泡を含んだ血を流し、
足元には腹から流れた血が小さな川を作っていた。
「?!、ダメ!!それ以上喋らないで!!」
その事に驚き一瞬怯んでしまうが、
それ以上に彼女に喋らせてはいけないと思い、強く声に出すが反応は乏しい。
「・・・、いいから出せ、間に合わない。」
私の制止を無視し、再度火球を出すように口にしました。
ですが、間に合わない、という言葉に何か方法があるのかと思い、
私は小さな火球を杖先に出すと、彼女はいきなり腹に刺さった棘を抜き、
火球に傷口を押し当てました。
ジュゥゥ と肉が焼ける音と、焦げ臭いにおいに混じって、
何かが焼ける臭いが辺りに充満した。
「…、消すな、消せば私は死ぬぞ。」
思わず火を消そうとすると、その気配を察した彼女が私の腕を掴んで制止した。
制止と言うよりは脅迫でした。
私を掴んだ腕は細かく振るえ、痛みに加え今は火球の熱にも耐えており、
そんな事なら変身が解けた方が余程、楽になれたと思ってしまい、
その覚悟が無駄にしないように、焦る気持ちを抑える様に火球の制御に勤しんだ。
もたれかかる様に火を傷口に押し当てて、何分がたったのか、
もしかしたら数十秒程度だったのか分からなくなりそうな程、
緊張しており、魔法少女になって初めて、火球の制御に手一杯になっていた。
そして、体感ではようやく、と言った時に彼女が傷口から火球を離した。
彼女は私を一瞥すると槍を手に魔獣の元へ駆けて行った。
出血量に関してはニーサの主観による所もあります。




