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7. 指輪

 作業場から出てきたハシスは、少し服を汚して、何か不満げな顔をしていた。

 ハシスの両手を見ると、右手に赤いナイフを持ち、左手では握りこぶしを作っていた。

 俺とユニは、ハシスに近寄り、どんなナイフが出来上がったのかを楽しみに待つ。

 すると、小さい声で「ごめん」と聞こえた。

 ユニが「何が?」と問うと、ハシスは、二つのナイフを作るのに幻想魔石が足りなかったと言う。

 確かに、ハシスは一本のナイフしか持っていない。


「で、でも」と、ハシスは左手を開いた。

 そこには、赤いオーブがついた指輪があった。


 横を見ると、ユニが、どうしたらいいんだと言わんばかりの顔をしていた。


 一人はナイフを使えない。

 俺もナイフはほしい。

 ユニだってほしいはずだ。


 しかし、俺のストレンジはあくまで補助役、ここはユニに譲るべきだ。

 そう思い、俺は、ユニがナイフを使うように促した。

 ユニは遠慮しようとするが、俺が押し切ってなんとかユニが使うように説得した。

 ユニは「ありがとう」と言い、ハシスからナイフを受け取る。


 そのナイフは、赤く透き通り、数本の線が引かれている。

 俺とユニがナイフに見とれていると、ハシスは、俺の手を掴んだ。

 そして、謝りながら指輪を渡してきた。

 ナイフが使えないのは惜しいが、この指輪もなかなか魅力的だ。

 赤いオーブに俺の顔が写っている。


 そのまま、俺は自分の右手の人差し指に指輪をはめた。


 すると、俺の体内で何かが起こった。

 驚いている俺を見て、ハシスは口を開いた。


「幻想アクセサリにはね、バフがついているの。魔石アクセサリとか、金属アクセサリは、自分のポテンシャルに関係なくステータスが一定量上昇する。でも、幻想アクセサリは、自分のポテンシャルに応じて、割合的に上昇する。強かったら強いほど、能力を発揮するアクセサリってこと。もちろん、ポテンシャルの低い君がつけても、普通のものとは比べ物にならないぐらい上昇する。ちなみに、そのナイフは魔石のものよりも2倍ぐらい切れ味が良いのよ」


 ハシスは、まるで専門家のように早口で言う。

 いや、専門家か。


 そして、またもや話しだした。


「でも、なんか変。私は今まで幻想アクセサリを二つ作ったけど、それを着けたクラスSの子は、どっちも変化に気づかなかった。兵団本部にステータス検査所って場所があるんだけど、大体の兵士は一ヶ月に一度ぐらい検査しに行くの。それで、初めて気づいたって。戦っているときも何か違和感はあったらしいけど、クラスSは強すぎて、いつもモンスターを瞬殺するから気づかないらしいの。でも、君は驚いて気づいた。なんでだろ」


 瞬殺するなら、指輪つけなくてもいいんじゃないか?

 と思ったが、クラスSは兵士のトップとして示しをつけるため、どんな相手でも勝てるように、常に強さを求めているらしいので仕方ない。

 そして、なぜ俺が驚いたかというハシスの疑問はすぐに分かった。

 それは多分、俺のストレンジが原因だろう。


「セトのストレンジがバフだからじゃない?」


 ユニも分かっていたようだ。

 ハシスは少し驚いている。

 そういえば、俺のストレンジを教えるのを忘れていた。


「じゃあ、これが何のバフなのか分かるの?」


 ハシスが指輪を指差して聞いてきた。

 確かに俺は、バフがかかるときのような感じを体内で感じたが、それが何かはわからない。

 俺は逆に、ハシスには何のバフか分らないのか聞いてみた。


 すると、ハシスは「私には全くわからないの」と言った。


「でも、ステータス検査所に行ったら分かるんじゃないか?」


 後ろで、椅子に座ったシューが言った。


 ステータスが大きく変わるのなら、たしかにステータス検査所に行ったら分かるだろう。

 そういうことで、俺達は鍛冶部屋を出て、エレベータに向かった。


 エレベータにつくと、シューが言った。


「ヒッキー、布忘れてんぞ」


 それを聞いたハシスは、自分の体を見回した。

 黒い布を着ていないことに気づいたハシスの顔には、焦りが見えた。


「もっと早く言ってよっ」


 エレベータまで来た俺達に「すぐ来るから待って」と言って、ハシスは鍛冶部屋まで走っていった。


 



 本部二階につき、エレベータのドアが開くと、奥に人の列が見えた。


「おぉ、今日は少くないな。ラッキー」


 シューは嬉しそうに言う。


 この廊下をまっすぐ行った先にあるのが、ステータス検査所だ。

 シューが言うには、いつもは検査しに来る人が多くて混んでいるらしい。

 俺とユニは、最初の一度だけしか来たことがないので、検査所についてはあまり知らない。


 列に並ぶと、俺はハシスに聞いた。

 なぜ、黒い布を着ているのかということだ。

 俺の質問を聞いたハシスは、渋々答えた。


「怖いの、なんか。これを着ていないと」


 ハシスの顔を見ると、何か深刻なものを感じた。

 俺は、これ以上は聞かないほうが良いと思い、適当に相槌をした。


「まぁ、まぁ、ゲームでもしようぜ」


 シューのおかげで、この重い空気を脱した。


 ゲームをしていると、いつの間にか俺達の番が来た。

 ちなみに、さっきの運ゲームでは、俺が圧勝した。


 検査所の部屋に入ると、数人の関係者と、大きく丸い鉄球がある。

 検査をするには、この鉄球に自分の右手を置かないといけない。


 横では、早くも検査を終わらせたシューと、検査をしていないはシスが待っている。


 俺は、鉄球に右手を置き、数秒間経つと、手を離した。

 すぐに関係者が、ステータスが書かれているであろう紙を手渡してきたので、この短時間で、俺のステータスを検査できたのだろう。


 紙を開きながら、シューとハシスのもとへ向かった。


「指輪外してもう一回行ってこい」


と、シューが言った。

そういえばそうだ、指輪のバフを確かめるために来たのだから。


俺は、運良く、少なくなった列にもう一度並び直して、指輪を外してポケットに入れた。





二度目の検査を終わらせ、二枚の紙を見比べる。


一緒だ。


俺のステータスは、指輪を着けているときと着けていないときで、変わっていなかった。

俺が持った二枚の紙を、横からハシスが覗き見る。


「これじゃ、何のバフかわからないわね。もしかしたら、幻想種の魔石からできるアクセサリの全てにバフがつかないのかも」


確かに、ハシスが作った二つの幻想アクセサリがたまたまバフ付きだっただけかもしれない。

いや、しかし、初めて俺が指輪を着けたときに感じたものは、たしかにバフ、魔法兵に補助魔法をかけられたときと同じ感覚だった。


一旦考えるのをやめ、ユニとシューのステータスを見ると、シューは流石クラスBという高いステータスで、ユニは俺よりも、バイタリティー以外が少し高いという結果だった。


総合評価も出ていて、この結果でクラスが決められる。

シューはそのままクラスB。

ユニはクラスCに上がった。

俺は不動のD。

残念だったが、ステータスは、そう簡単に変えられるものではない。

ユニは、最初に検査したときにギリギリクラスCだったので、いまクラスCになってもおかしくないだろう。


「う〜ん。まぁ、バフの件は後にするか。家に帰るぞ〜」


シューは、前回よりも少しステータスが上がったのか、満足げにそう言った。

確かにバフは気になるが、確認する方法と分かる気配がないので、今日のところは止めておこう。

俺は、少し残念な気持ちで、二枚の紙をポケットに入れた。


ドアを開けた後、ふと後ろを見るとハシスは不満げだった。

よほど指輪が気になっているのだろう。

俺もハシスの布について気になるが、いつか知る機会があると信じて今は我慢しよう。


リビングに行くと、シューは二人用ソファを独占するように寝ていたので、俺とユニは向かいの三人用ソファに座った。

ハシスも座るのかと思って、俺とユニが端に寄って一人分空けていたが、ハシスはトボトボと自分の部屋に戻っていった。


少し休憩していると、シューが向くっと起き上がり、言った。


「そういやセト。お前の武器買わないといけねぇじゃんか」


ユニは少し申し訳無さそうにしている。

今から買いに行こうとしたが、時間を見ると、もう夜だった。


「しゃあねぇ、明日もついていってやるよ」


シューはそう言い、キッチンに向かう。

袋に入った食材を手に取り、俺達に聞く。


「今日何食いたい? 何でも作ってやるよ」


俺とユニが同時に「なんでもいいよ」と言ったので、シューは「おぉ、そうか」と言う。

しかし、俺達が「なんでもいいよ」と言ったのは、本当に何でもいいのではなく、ただ単に料理について無知だったから、だなんてシューは気づいていないだろう。







ここまで読んでくださってありがとうございます。

8話からはカクヨムで投稿することにしました。

ご理解お願いします。

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