6. 職人
本部を出て、少し歩いたところ。
俺の知る限りでは一番の都市部だ。
様々な商業が行われている。
赤いレンガで敷き詰められた道。
所々に佇んだ木。
人通りが多く、とても賑やかだ。
今日は、シューとユニと共に街に出かけている。
目的は、防具の仕入れだ。
クラーケンとの戦いで防具は傷つき、ほとんど使い物にならなくなっている。
そのかわり、あの魔石のおかげで硬貨をたくさんもらえたので、今までよりも良いものを買う予定だ。
道具屋と、食物屋の間にある店。
この店で今日は防具を買う。
ここは、いつも手が出せなかった店だ。
売られているのは良いものばかりで、その分値段は高価。
大抵、クラスA・Bの兵士が買い物をする場所。
店の前面がガラス張りなのが特徴だ。
木のドアを開けるとカランカランと鈴の音がなり、気前の良さそうな店員が「いらっしゃい」と言って近づいてきた。
「おーあんちゃん、今日は連れがいるのかい?」
「あぁ今日こそは、いっぱい買うぞ」
話を聞いていると、シューはこの店の常連だという。
でも、シューはいつも見るだけ見て、サブ商品のアクセサリだけ買って帰るらしい。
店員は手際よく俺達の寸法を図り、俺達の戦闘スタイルを聞くと、一度店の中に入り、防具をいくつか持ってきた。
どれが良いか聞かれた時、俺達があまりにも知識がないために、迷っていたところ、
「おっちゃんが選ぶのだったらどれでも大丈夫や。好きなの選んどけ」
と、シューはドアの近くの二つの防具を見比べながら言った。
それを聞いた俺達はデザインで選び、試着室に入った。
着てみると、どれだけ今までの防具が低級だったのかを感じる。
この防具は、とても俺の体にフィットしていて、かなり動きやすい。
試着室を出て、ユニの様子を見ると楽しそうににジャンプしていた。
ユニも気に入ったようだ。
店に入って数分しか経っていないが、俺達は買い物を完了した。
しかし、シューはまだ迷っている様子だ。
それを見て、先に店を出ようとユニに声をかけようとするとユニはアクセサリを見ていたので、一人で店を出た。
この通りをよく見ると、素通りしてた頃には気づかなかった店がたくさんある。
メガネ屋、宿屋、工具屋……ん?
工具屋に、黒い布をまとった変な人が入っていった。
気になって俺は、工具屋に行こうとした。
しかし、
カランカラン
「おー、待たせたな」
「ごめんねー」
タイミング悪く、二人が出てきた。
見に行きたかったが、仕方がない。
「じゃあ、次は食材を買いに行くか」
今日は防具だけを買いに来たと思っていたが、シューによると家の食材がもう切れているらしい。
俺達は、横の食物屋に入った。
そういえば、今日は朝ごはんを食べていなかったが、いつも料理を作っているのは誰なのだろう。
それをシューに聞くと、だいたいシューがみんなの分を作っているらしい。
理由は、エマとロンがクラスSとクラスAで、いつもダンジョン討伐に忙しいからだと。
聞かなかったが、シューは自分がクラスBだということも教えてくれた。
ちなみに、昨夜言ってた『ヒッキーちゃん』のことを聞いてみた。
「ん? あぁ、今日は家にいるだろうから、家に帰ったら紹介するよ」
今教えてくれてもいいだろ、と思ったが、まぁいい。
俺は、シューの持っているメモを見て、イモを取りに行った。
ここは兵団本部の地下。
俺達の家がある。
俺は今、右手には防具、左手には食材の入った袋を持って、シューが玄関のドアを開けるのを待っている。
「おーい、ヒッキー」
ドアを開けると、シューは、ヒッキーとやらを呼んでいる。
すると、リビングから、黒い布をまとった人が歩いてきた。
「なに?」
細々しい声。
小柄な女の子だろうか。
布から少しはみ出た髪は、茶色だ。
「こいつの名前はハシス。同じストレンジャーだ」
シューがそう説明すると、ハシスはコクっとお辞儀をした。
シューが言うには、ハシスという名前が言いにくいのと、いつも引きこもっているのとで、「ヒッキーちゃん」というあだ名になったらしい。
うん。ひどいな。
笑いながら話しているシューを横目に、ハシスは俺達の方へ歩き出す。
「作業場行ってくる」
そう言って、ハシスは家から出た。
シューに、ハシスの言う作業場のことについて聞くと、本部地下内のハシス専用の鍛冶部屋にあるらしい。
鍛冶と聞き、今日、防具屋を出たときに見た、工具屋に入っていく人のことを思い出した。
それをシューに話すと、あの工具屋は、いつもハシスが通っている場所だと言う。
確かに、あのときの黒い布と、さっきのハシスがかぶった黒い布はよく似ていた。
と言うか、同じものだろう。
とりあえず家の中に入り、リビングに行こうとすると、突然シューが止まって振り向いた。
「あ、そういえば、お前らまともな武器なかっただろ」
「まぁ、回収用のナイフしかないな」
「うん、ぼくも」
それを聞いたシューは「良いもん見せてやるよ、ついてこい」と言って俺の横を通り、家を出てハシスがいる作業場へと向かった。
鍛冶部屋は、大浴場の横の部屋だった。
鍛冶部屋に入ってみると、中にはたくさんの工具がある。
床に落ちているゴミか部品なのかわからないものを踏まないように避けながら、奥の部屋へと進む。
シューがドアを開けて、入ってみると、部屋の壁に、紫色の武器や防具が飾ってあった。
とても綺麗で、透き通っている。
よく見ると、まだ奥の部屋があった。
その部屋に行こうとすると、俺の手をシューが引っ張った。
「まだ入るな、上見てみろ」
ドアの上には、『作業中』と書かれたボードがあった。
中でハシスが武器を作っているらしい。
シューは、俺達の武器をハシスに作ってもらおうと言う。
しかし、ハシスは見た目からしてまだ俺達と同じくらいで、大人と言うにはまだ早い。
そんな子が作った武器が使い物になるのか?
と俺は思い、シューに聞いた。
俺の質問を聞いたシューは、笑って言う。
ハシスのストレンジを教えてやる、と。
シューが言うには、ハシスのストレンジは、魔石加工。
一般的に、武器や防具、アクセサリーと言ったものは、金属でできている。
弱いものは、皮や木などもあるが。
しかし、ハシスはそれを魔石を材料として作り上げるらしい。
魔石は普通、魔力を有効活用し、溶かして燃料にしたり、家具などの原動力として使われている。
ハシスのマネを普通の鍛冶屋がやると、魔石が粉々になって魔力が消え、普通の石になってしまうらしい。
そして、その魔石で作られた武器や防具は、普通のものよりも能力が2倍3倍になると言う。
クラスSの兵士以外、まず存在を知らない代物。
値段も普通のものの10倍20倍ぐらいすると。
そんな化け物級のものを作り出すのがストレンジャーハシス。
鍛冶屋の職人中の職人。
この部屋に飾ってある武器や防具が、紫色なのは魔石で作ったからだ。
「なにか用ですか?」
シューと話していて気づかなかったが、女の子が作業場から出てきていた。
よく見ると、ハシスだ。
茶色い髪のショートヘア。作業用エプロンのようなものを着けている。
シューは、ハシスに事情を説明し俺達の武器を作ってもらうように頼んだ。
俺とユニも頭を下げ、頼む。
それを見たハシスは、髪の毛を人差し指で絡めて、考える。
「ど〜しよっかな〜」
そして、条件を出してきた。
武器を作って欲しいなら魔石を持ってきて、と。
魔石は主に兵団本部が取り扱っているもので、様々な工場と契約して取引している。
そのルートで魔石を得るのは不可能に近い。
あと、たまに魔石がダンジョンの跡地に残っていることがあるが、見つけるのに時間と労力がかかる。
俺とシューがハシスに、なんとか他の方法でと交渉していると、ユニが口を開いた。
「あるじゃん。クマガリさんにもらった魔石が」
そうだ!!
あの魔石があった。
俺達は全速力で鍛冶部屋を出て、家に戻り、カバンに入れていた赤い魔石を持ってきた。
そして、その魔石をハシスに渡した。
幻想種の魔石なので、これでも大丈夫か?と聞くと、ハシスはその魔石を両手で持って驚嘆した。
「こ、これ、幻想魔石じゃない!」
今日一番の大声だった。
どうやら、俺達がクラーケンと戦ったことを、ハシスには伝えていなかったらしい。
そして、幻想種の魔石のことは『幻想魔石』というのだと。
ハシスは突然「ついてきて」といい、部屋の角の方に歩いていった。
何をするのかと思ったら、床にある出っ張りを持って床を引き上げた。
その場所は、地下室の入り口になっていた。
地下室の地下室かよ、と思いながら、ハシスに続いて地下に降りる。
するとそこは、一面コンクリートの部屋。
そして、その壁には、カラフルな武器や防具、アクセサリーがおいてあった。
「そろそろ教えてもいいかなって思ってた」
これらは、今までに発見された幻想魔石で作られたものだと言う。
幻想魔石の一部は、本部を通してハシスに届くというので、本部に渡されたクラーケンの幻想魔石も、もうじきハシスの元に渡るらしい。
そして、幻想魔石で作られたものは、主にクラスSが使うのだと。
しかし、クラスSは少なく、余っているものを、この部屋で保管しているらしい。
シューも初めて知ったらしく、エマの剣が異様に黄色く透き通った訳がわかったと言う。
「ちなみに、魔石で作られたものは『魔石武器』、『魔石防具』、『魔石アクセサリ』、総称して『魔石アイテム』って言うんだけど、幻想種魔石で作られたものは特別に『幻想武器』、『幻想防具』、『幻想アクセサリ』、総称して『幻想アイテム』と呼んでるの」
俺達は、幻想アイテムに触らないように注意し、少しの間鑑賞した。
地下室から出ると、嬉しそうに赤い魔石を持ったハシスは、俺達にどんな武器を作って欲しいか聞いてきた。
俺とユニは、共に慣れた、ナイフが良いと言う。
「わかった。ちょっと待ってて」
そう言って、ハシスは作業場に入っていった。
楽しそうに笑うハシスは、まるで子供のようだった。