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5. バフ使い

 補助魔法、シューとロンは声を揃えてそう言った。


「補助魔法って?」


「ん? 知らねぇのか? あれだよあれ。クマガリ兵士が、攻撃力上げろだとかスピード上げろだとか言ってたやつ」


 あぁ、あのときの魔法隊が使っていた魔法か。

 いつものダンジョンは弱いボスだったので、使う機会がなかったのだろう。


「そういうステータスを上げる魔法を総称して補助魔法っていうんだけど、セトくんはどうやって使うの?」


「どうやってって言われても、まだ使ったこともないから分からないな……って、そういえば能力について何の説明もないじゃないか。なんで俺とユニに能力があると言えるのか、そもそも特殊能力ってなんなのか教えてくれよ」


 忘れてた! と思っているだろう顔をしてシューが話し出す。


「あぁすまん。そうだな〜何から言えば……」


 困ったように考え込む。


「まぁ、まず特殊能力について教えるか。うん、俺達が言ってる特殊能力ってのは、まぁその名の通り普通の人が持っていない能力、超能力みたいなもんだ。俺達はその能力を『ストレンジ』って名付けた。それで、ストレンジを持った人のことをストレンジャーと呼んでる。一旦ここまでわかったか?」


 段階に分けて説明するのか、俺達に理解しているか聞いてきた。


「あぁ」


「なんとなく」


 俺達の返事を聞いてまた話し出す。


「で、そうだな、俺の能力を教えたほうが早いか。よし、俺の能力は、異様なオーラを感じ取ることだ」


 異様?オーラ?

 本当にこれを教えられたほうが早いのか?


「どういう意味だ?」


 シューは俺の反応を分かっていたかのように言う。


「あ〜やっぱりか〜、俺の能力じゃ分かりにくいか。さっき言った常時能力ってのがあるだろ、俺の能力はそれ。俺には異様なものがオーラとしていつでも見えてる。これを信じてくれないと始まらないんだよ」


 異常すぎて頭に入ってこないが、ここは話を聞こう。


「そうなのか? 信じるから教えてくれ」


 俺があっさりと信じたのが予想外だったのか、驚いた顔を見せる。


「おぉ信じてくれるか。じゃあ最初に異様なものってのを教える。俺が言う異様なものっていうのは大きく分けて二つ。一つは、ダンジョン。あ、そうだ。お前ら、ダンジョンのレベルをどうやって見分けてるか知ってるか?」


 いきなり話が変わった。


「しらないよ。僕、それ結構気になってたんだ。どうやってるの?」


「俺も知らない」


 俺達が知らないと言った途端、シューは自慢気に話しだした。


「あれはな、ダンジョンから出る魔力の大きさから見分けてんだよ。地下、塔、ゲート。その全てのダンジョンの入り口から、モンスターの魔力が出てきてる。それを、全ての兵団支部にある、魔力測定器ってのが感じ取って本部に情報を送ってる。そんで本部がそのダンジョンのレベルを判定して、公表するんだよ」


 それを聞いてユニは感心している。


「へ〜そうなんだ〜。そんなことしてるのか。すごいね〜」


「そうだ。でも、その判定が稀に違うことがある。あのダンジョンもそうだ。あれは、別に本部のミスって訳じゃねぇ。あのダンジョンが異様なんだよ」


 異様? そういうことか。


「なるほど、それをシューの能力が感じ取るってのか」


「そういうことだ。俺はいつも本部の公表を見てる。そしてその中に異様なダンジョン、俺はエラーダンジョンって呼んでるんだが、そのエラーダンジョンが公表の中に含まれていると、見えるんだ。オーラが。ダンジョンの近くに行かずに分かるってことは、ただ単に魔力を感じ取ってるわけじゃねぇ。異様なものとして見えてるんだ。今日の朝、俺は本部の公表のレベル1のところにオーラが見えた。だからあのダンジョンに行ったんだよ。一応エマに報告してな。それで案の定、レベル1の強さじゃなかったってわけだ」


 いきなり信じられるような話じゃないが、今は信じるしかない。


「そんで異様なものの二つめ。それは、俺達ストレンジャーだ。俺はストレンジャーから出るオーラが見える」


「え、じゃあ今も俺からオーラ出てるのか?」


「あぁ出てる。でもな、不完全なストレンジャーの場合はオーラが見えないんだよ」


 また謎が増えた。


「不完全ってなんだよ」


「これも説明するのがむずいんだけど、覚醒してないって言ったほうがわかりやすいな。ここからは俺の仮説なんだけど、不完全なストレンジャーは、死に際に経ったとき初めて覚醒して、完全なストレンジャーになると考えてる。お前らもそうだ。セトは水中で溺死しそうになったとき、ユニはクラーケンに握られて圧死しそうになったとき、突然お前らの体からオーラが見え始めた。多分この仮説はあってるだろうな」


 確かに、あのとき俺は死に際にたったと思う。

 ユニも同じだろう。


「あぁ〜、シューが良いのが二人『見えた』って言ってたのはそういうことか」


 あのときの不自然な言い方を理解した。


「そう、まぁこれが特殊な能力、ストレンジってわけだ。分かってくれたか?」


 最初はにわかに信用できないと思っていたが、ここまで詳細に説明されると信じたくなった。


「よくわかった」


「うん、おもしろいね」


 すると突然、さっきまで静かだったロンが言葉を発した。


「もういいよね、こっからが本番だよ。君たちのストレンジを確かめるぞ!」


 一人だけテンションが違う。

 それを見ているシューはやれやれ、とため息をついて俺達に小声で言う。


「ロンはストレンジ好きなんだ、のってやってくれ」


「はぁ」


 疲れている俺達をおいていくかののようにロンは始めだす。


「早くやるよ! さっきも言ったとおり、セトくんのストレンジは多分補助魔法。魔法って杖みたいな武器を使わないと使えないんだけど、武器無しで補助魔法を使えるんだったら……魔法使いと言うよりバフ使いだね」


「バフ?」


 突然思ったが、ここまでの会話で、俺はどれだけ質問をしただろうか。

 どうでもいいけど。


「ステータスの強化のことをバフっていうんだよ。補助魔法デバフをかけるって感じ。まぁでもセトくんの能力がバフって決まったわけじゃないから、どうにかして確かめたいんだけど、どうすればいいかな」


 それを聞いてシューも言う。


「そうだよなー。常時系能力は自分では効果がわかりやすいけど他人に証明しづらい。使用系能力は他人に証明しやすいけど、使えるようになるまで少し時間がかかる。セトの能力は使用系能力だろうから、お前が気づくまでわからんのよな」


「そうなんだよね〜。セトくん、一回僕に、何か能力を使おうとしてみて」


 使おうとするって言っても、使う感覚がわからない。


「まぁ、やってみる」


 俺はロンに向かって手をかざし、両手に力を入れた。


「ど、どうだ?」


「ん〜、何も感じない。方法が間違ってるのかな。セトくん、よく思い出してよ、ユニくんと光で繋がった時を」


 あのときか。

 ユニと光でつながる。

 確か青の光だったような気がする。

 その前、俺は何をしていただろう。

 ユニがクラーケンに掴まれる。

 俺は祈る以外何もできない。


「ん? たしかあの時、俺は自分の無力さに絶望して、神に祈ったな」


「え、そうなの!? じゃあ同じように俺にやってみてよ」


 同じように、か。

 目を閉じる。

 両手を合わせる。

 ロンに集中する。


 すると、全員の喫驚の声が聞こえた。


「「うわっ!」」


 目を開けると、俺とロンは青い光に包まれていた。

 左に座っているシューが机に身を乗り出してロンに聞く。


「どうだ!? どんな感じなんだ」


 ロンは、目を見開いて自分の体を見回している。


「凄いよこれ。セトくんのストレンジはバフ使いで決まりだ。って言っても普通のバフのレベルじゃない。A級、いやS級のバフを遥かに超えてる。分かるんだ、動かなくても。『速くなってる』って」


 そういったロンは椅子から立ち、すごい速さでリビングを駆け回った。

 それを見て、シューが言う。


「俺にもしてみてくれ!」


「おぉう」


 目を閉じる。

 両手を合わせ、シューに集中する。


「ん? こないぞ」


 目を開けると、光にまとわれていないシューが残念そうな顔をしていた。


 すると横から、楽しそうな声でロンが言う。


「なんか制限があるんじゃない? バフをかけられるのは一人まで、とか。ねぇセトくん、もう一回僕になんかのバフをかけてみてよ!」


 そう言って、静かに椅子に座った。


 そのロンにバフをかけようとする。

 すると、また喫驚の声がした。


「うわぁぁ、すげぇ」


 またシューが机に身を乗り出す。


「ど、次はどうなんだ!?」


 ロンは、握りこぶしを作る。


「力がこみ上げてくる、強くなってる」


 嬉しそうにキントレをしているロンの横で、俺は一応シュートユニにもかけようとしてみるが、うまくいかない。

 やはりロンにしかかからないのか。

 落ち込んでいる俺達の横から、また楽しそうな声が聞こえた。


「やっぱり一人限定なんだよ! 一人にバフを複数かけれる、セトくんのストレンジはこれだよ! じゃあ、また俺に何かかけてみて!」


 ロンを見ていると、これからの生活が疲れるものになる気がしてきた。


「はぁ、わかったわかった」


 俺は眠くなりながら目を閉じた。

 このまま寝てしまいそうだが、我慢して集中する。


「あれ? こないなぁ」


 ロンが疑問の声を出した。

 目を開けると、全員疲れ切った様子でソファーに座っている。


「ん〜、かけられるバフは二つまで、とかなのかな」


 ため息をつくロン。

 左横に座っているシューは首を掻きながら言った。


「まぁ、だいたいわかったから良いわ。次はユニだな」


 早く終わらせたいのか、ロンにしかバフがかからないから暇なのか、俺の番を終わらせユニの確認に移った。

 俺達の視線がユニに集まる。


「セトみたいに何か覚えてないのか?」


 ユニは「何も覚えてないけどな〜」と困った表情している。

 そういえば、エマがユニを起こしたとき、ユニは記憶が朦朧としていた気がする。

 この様子じゃ何も出ないだろう。


 ロンにかかっていたバフが切れる程度待ち、シューは「今日はもう諦めよう」と言ってソファーを立ち、目をこすりながら部屋に戻っていった。

 シューも眠いのだろう。

 それを見て、ロンも「残念だね」と部屋に小走りで行った。


「ほんとに僕に能力なんてあるのかな」


 独り言のようにつぶやいている。

 俺もストレンジなんてさっきまでは信じられなかった。

 そんなものは物語の中の話だと思っていた。

 しかし、さっきの出来事のせいで嫌でも信じてしまった。

 俺は最後の確認として自分の頬をつねり、痛いことを確認する。


「あるさ、シューが言ってるんだから。ゆっくり時間かけて見つけていこうぜ」


「うん。そうだね」


 俺達も部屋に戻り、ベッドに飛び込もうとした瞬間。


(ーーん? 俺達風呂入った?)


 そんなことが頭をよぎった。

 すると、突然ドアが開いて、二人の男の影が見えた。


「おいおい、お前らもう寝ようとしてんのか?」


「今から風呂行くよー」


 ユニの方を見ると、ユニも俺の顔を見ていた。


「「はぁー、いくか」」


 今日の夜はまだまだ続きそうだ。

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