3. 謎の男女
レイドメンバー十二人中、四人が重症、いや、死んでいるかもしれない。
このレイドメンバーの内訳は、タンク二人、魔法隊三人、攻撃隊四人(レイドリーダー含む)、魔石回収約三人だった。
それが今では、タンクが全滅、攻撃隊も半分やられている。
それに対しクラーケンは、まだまだ倒れそうもない。
倒すビジョンが浮かばない。
そんなことを考えている場合でも、クラーケンは休まず攻撃してくる。
「魔法隊! 俺達のスピードを上げてくれ!」
クマガリさんの指示のおかげで、間一髪攻撃を避ける。
しかし、まだまだクラーケンは止まらない。
避ける。
避ける。
避ける。
さすがのクラーケンも、疲労で攻撃の速さが遅くなってきた。
だがそれは俺達も同じ。
走る。
飛ぶ。
しゃがむ。
足がもう溶けそうだ。
動け、動け、動け!
足を叩いてなんとか耐える。
スピード上昇も、後もう少しで切れる。
後ろを向くと、魔力の酷使で立つのもやっとな状態の魔法隊が見える。
もう魔法は使えそうにない。
どうする、どうする。
走りながら考える。
すると、突然クラーケンの動きが止まった。
「なんだ!?」
何かをこらえているように見える。
ドクン、ドクン。
心臓のような音が鳴り響く。
何かの液体がクラーケンの体内を動く。
「次は何をするんだっ!」
クラーケンが、横たわって口をこちらに向ける。
その瞬間、クラーケンの口から何かが出てきた。
ブシューー!!
目の前が突然黒くなった。
墨だ。
見えない、何も見えない。
「うわぁ!」
横でクマガリさんが驚いたような声を出す。
「なんですか!? 何があったんですか!」
顔の墨を服の袖で拭き取りながら言う。
「ゔうぅ」
目の前では、クマガリさんがクラーケンの足に掴まれていた。
必死に抵抗するクマガリさん。
それに加担して、俺ともう一人の兵士がなんとか足を切り落とそうとする。
(だめだ! 硬い!)
俺のナイフでは歯が立たない。
しかし、横の兵士がなんとか足を切り落とす。
開放されたクマガリさんは転倒した。
「クマガリさん! 大丈夫ですか」
「あぁ、なんとか。ありがとう」
一度後ろに下がり、攻撃の体勢を取る。
「あと二本、あと足を二本切り落せば勝てる」
(二本ならいける!)
「三人全員で行くぞ!」
「「おぉ!」」
一気に走り出す。
ギャオオー!
一本の足が右から地面を擦って襲ってくる。
「跳べ!」
下をクラーケンの足が通り、それに着いてくるように風が吹く。
二本目、またもや右から来た。
「もう一回来たぞ!」
跳ぶ。
まるで、巨大な時計の上で針に襲われているようだ。
どんどんクラーケンに近づいていく。
一本目の足が上から降ってきた。
「別れろ!」
左右に別れる。
ドゴーン!
右を通った足が俺の手がこする。
それと同時に地面の氷が割れ、俺は水中に落ちてしまった。
やばい。
泳ぎには自信があるが、こんなに混乱していると体が思いどうりに動かない。
「大丈夫か!」
クマガリさんの声が聞こえる。
(ぐぅ!)
俺の体をクラーケンの足が握りしめる。
痛くはない。
しかし息ができない。
肉が切られている音が聞こえる。
多分クマガリさん達がクラーケンの足に攻撃しているのだろう。
死ぬ。
生まれて初めてだ。
こんなことを感じたのは。
俺は死ぬのか。
何も成し遂げず死ぬのか。
「ぉぉ……」
いや、ユニを守ったか。
「とおぉぉ……」
あれは守れたと言っていいのだろうか。ユニ。
「セトおぉぉ!」
ユニ……ユニ!?
ユニがすごい速さで来ているのが声でわかる。
「今、僕が助けるから!」
すると突然、俺を抑えていたクラーケンの足の力が消えた。
ユニが切ってくれたのか。
力を振り絞って、上に上がる。
「ぶはぁっ!」
「良かった! ほら手掴んで!」
ユニが手を差し伸べる。
温かい手だ。
俺より少し小さい手。
そんな手に俺は命を救われた。
「はぁ、はぁ……ユニ、ありがとう。でも、なんで」
「分からない、あのとき僕を心配して行かせなかったのはわかってた。でも、セトが落ちたとき、勝手に、勝手に体が動いたんだ『守らなきゃ』って」
本当に助かった。
ユニが来ていないと今ごろ俺は水の中で死んでいただろう。
「セトくん! ユニくん!……どうやら話している暇はないようだ」
ギャオォ!!
クラーケンの残された一本が、ものすごい速さで近づいてくる。
(う、動かない)
今まで無視しようとしてきた疲労がここで限界を宣告してくる。
「セト! 危ない!」
走ってくるユニ。
俺を突き飛ばす。
そして小さい声で、聞こえた。
「守ってくれて、ありがとう」
と。
ユニがクラーケンに掴まれ、上に上がっていく。
俺は結局何もできなかった。
守れていたと思っていた俺はなんて馬鹿なんだ。
俺の方こそお前に守られてばかりじゃねぇか。
「くそっ」
何もできない自分の不甲斐なさを感じ、拳を握りしめ、冷たい地面を叩く。
ユニがいるのは、地上十メートル辺り。
もちろん俺には届かない。
何か、何かできないのか。
俺は、両手を合わせ神に願うしか出来ない。
(ユニを、ユニを助けてくれ!)
……すると、一瞬、ユニと俺の体が光で繋がった。
その一瞬の後。
ユニを掴んでいた足が全て切り刻まれていた。
「なんだ!?」
湯には地面に着地し、少しふらつく。
ユニをまとっていた光は消え、ユニは倒れた。
全ての足を失ったクラーケンは暴れだし、近くに倒れているユニを食べようとする。
ヒュッン!
その時、俺の右を何かが通った。
右を向いても何もない。
そして、クラーケンの方を見ると、ありえない光景があった。
クラーケンの体が、バラバラになっていた。
そこには一人の兵士。
「大丈夫ですかみなさん!」
クラーケンを倒したと思われる金髪の女の子が、倒れている兵士たちを指差し、慌てながら聞く。
「あの人たち、重症を負ってから何分経ってますか!?」
「た、多分十分ぐらい……でも、壁に寝そべっている兵士は二十分ぐらい経ってると思います」
「良かった、なら大丈夫です」
安堵した様子の女の子は、壁で倒れている人、地面にめり込んだ人、つららに貫かれた人、壁に埋まっている人のもとに順番に行き、何かを唱えた。
すると、さっきまでピクリとも動かなかった兵士たちが、何もなかったかのように起き始めた。
「「!!?」」
驚いた俺達を見て、その女の子は言う。
「蘇生術です。私は三十分以内なら、全ての怪我を直し生き返らせることができます。まぁ、結構魔力使いますけどね」
そんな言葉を聞き、兵士たちは困惑している。
「俺達、生きてる!?」
「生きてる、生きてるぞ!」
そう言って、蘇生した兵士たちは泣きながら彼女にお礼を言う。
蘇生術。
上級魔法。
クラスAの魔法系兵士が使える魔法。
回復魔法では到底直しきれない重症を負った人や、死亡した人を完全回復させる魔法。
でも、その時間は最高でも五分以内だと聞いたことがある。
「驚いたか? あの子の名前はエマ。クラスSのトップ兵士だよ」
そう言ったのは、さっきまで俺達と一緒にクラーケンと戦っていた兵士だ。
しかし、クラスSなんて聞いたことがない。
「クラスS? そんなのあるんですか?」
「まぁな」
そう言って、その男はエマに向かって言った。
「遅ぇよ、もうちょっとで死ぬところだったぜ。まぁ蘇生してくれればいいんだけどな」
その言葉を聞いて怒ったように言う。
「はい? 一人では何もできないあなたが何言ってるの?」
何故か喧嘩している。
「まぁまぁ、でも、いいのが二人見えたぜ……」
男はそう言って、俺に耳打ちする。
「なぁ、お前、さっきの戦いで何か感じたか?」
何か感じた?
「いや、特になにも」
「そうか、まぁいいよ」
その男はエマの方にに向かって言う。
「エマ! そこの倒れてる男の子、起こしてやってくれ」
そうだ!
ユニ!
俺はユニの方へ駆け寄る。
横にいるエマが、ユニの頭に手を添える。
すると、ユニのまぶたがゆっくりと開いた。
「ん、うぅ」
ユニが起き上がる。
「大丈夫か!? ユニ!」
そう言うと、ユニは困惑した様子で言う。
「ん? 別に大丈夫だよ? 僕って何してたっけ」
「良かったぁ」
ユニの無事を知り、力いっぱい抱きしめた。
すると、うしろからさっきの男が近寄ってくる。
「ユニ、くん? 君、戦闘中に何か感じなかった?」
「はい? いや、何も覚えていないです」
困った様子の男。
「二人とも何も感じてないのかぁ。まぁいい、俺の名前はシュー、よろしくな。君は?」
「俺はセト」
「セトか。そっちはユニだな。じゃあ、セト、ユニ、これからは俺達と一緒に仕事してくれ」
前触れもなく、一緒に仕事をしろというシュー。
「な、なんでですか?」
すると、横からエマが食い気味に言う。
「お願い! あなた達が必要なんです! もちろん給料は支払いますから!」
それを聞いて追い込むように言うシュー。
「命の恩人にこう言われちゃあなぁ、だろ?」
確かに、エマが来なければ、俺達は確実に死んでいた。
しかも、いつも仕事がない、と困っている俺らには断る理由もない。
「分かった、わかりましたよ。でも、なんで俺達なんですか?」
シューは、俺とユニの肩を持ち、小さな声で言う。
そして、この言葉が俺の人生を大きく変える。
「お前らには、特別な能力があるからだよ」