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2. クラーケン

「クラーケン……だと!?」


 皆がそう思いながら、すり足でクマガリさんの近くに集まっていく。


「クラーケンって、進化種だったか?」


 それを聞いたクマガリさんは、顔を横に振る。


「いいや、れっきとした幻想種だよ」


 幻想種。

 モンスターの中で一番謎めいた種。

 出現量が少ないのもあってか、特性、攻撃パターン、急所などの情報が殆どない。

 しかし、すべての幻想種に共通することが一つある。

 それはーー


「まじかよ、今日の給料えげつないことになるぞ!!」


「おぉう!! 絶対倒すぞ!」


 魔石の質。

 幻想種の体内にはレアな魔石が入っている。

 普通の魔石の十倍、ものによっては百倍の価値になる。


「す、すごい」


「でかすぎるでしょ……」


 横では、ユニとカリスがクラーケンの大きさに腰を抜かしたように座っている。


 オゴーー!!オゴーー!!

 いきなり、クラーケンがとてつもない大きさの音を出し始めた。


「みんな! しずかに! クラーケンを興奮させるな。タンク、前へ。魔法隊、俺の合図で炎系だ。攻撃隊は隙を見て足に攻撃。いくぞ……今だ!!!!」


「「ファイアーボール!」」


 クマガリさんの合図で、魔法隊の杖から大量の火玉がクラーケンに向かって飛んでいく。


 ギャオオーー!!


「効いてる! やっぱりクラーケンの弱点は炎だ!」


 クラーケンはもがきながら、足で攻撃しようとしてくる。


「タンク! 耐えろ!」


 ガギーーン!

 タンクの高重量の盾で、クラーケンの足を吹き飛ばす。

 そこをすかさず、攻撃隊たちが一斉に斬りかかる。

 クラーケンが攻撃隊の方へ向くと、すかさずクマガリさんが叫ぶ。


「攻撃隊! 一度下がれ!」


 クマガリさんの素早い指示により、クラーケンによる他の足での攻撃は、攻撃隊には当たらなかった。


(さすがだ、クマガリさん)


「セトくんたちは、できるだけ壁にくっついて!」


 すごい。

 これがクラスB兵士クマガリ。


「魔法隊! 次は雷系!」


「「はい!」」


 魔法隊の周りが光り輝く。


「「サンダラ!」」


 クラーケンが稲妻に打たれる。

 クラーケンは焦げたように黒くなった。

 すかさず攻撃隊による攻撃。

 クラーケンの攻撃はタンクが受ける。

 魔法隊の炎魔法と雷魔法。

 それが、機械のように繰り返される。


「へっ、倒れるのも時間の問題だな」


「強そうなのは名前だけかよ」


 メンバー達には、勝てるムードが漂っていた。

 ユニとカリスも倒せると確信したのか、硬貨の使いみちについて話している。


 しかし、俺は何か不穏な雰囲気を感じていた。

 たしかに順調だ。

 攻撃隊もうまく立ち回りができている。

 タンクも少しダメージをくらっているが、まだまだ許容範囲だという感じ。

 魔法隊の魔力も半分以上残っているはず。

 でも、何か違和感を感じる。


「でも、すごいわね、メンバーのみんな。もう十分ぐらい戦っているのに、陣形が全然崩れない」


「たしかにそうだな……ん?」


 十分?

 少し長くないか?

 最初のファイアーボールの効きようから考えると、普通は五分あれば倒せるはず。

 確かにクラーケンの体力が多いことも考えられるが、まるで……


「まるで効いていないようだ」


 クマガリさんが言う。


「最初の魔法攻撃、俺達は効いていると思ったが、もし『効いているフリ』をしていたとしたら、いや、『はじめは抵抗力がなかっただけ』だとしたら……嫌な予感がする」


 すると、タンクが声を出した。


「クマガリさん! こいつの攻撃、どんどん強くなってますよ!……来た! ぐふっ」


 そして攻撃隊も、


「足が固くなってきてやがる」


 ガァン!


「剣が弾かれる!」


(そうか!!)


「クマガリさん! あいつ多分、起きたばっかりだったんですよ!……ってことは、もうすぐ完全に目が覚めるはず」


 直後、地面が大きく揺れ始める。


「なんだ、なんだ、クラーケンがでかくなってきてる!」


 最初は数十メートルだと思っていたクラーケンがさらに浮き上がってきて、ひと呼吸した後には、高さは二十メートルを超えていた。

 そして、柱のような足が、一本また一本と湖の中から姿を表しだす。

 閉じていたまぶたが開き、黄色の眼球がこちらを向いている。


 ギャーーーン

 大きな鳴き声をだし、暴れ始める。


「全員、退避だ!」


 クマガリさんが指示を出すが、クラーケンの出す雑音にかき消され、全員には届かない。


「やばくない!? これ?」


 カリスとユニは怯えて震えている。

 皆が考える間もなく、クラーケンの足が、タンクを襲う。

 足と地面による摩擦で、火花が散る。


 ゴギュッ!

 聞いたこともない音を発した盾は粉砕し、タンクの兵士は宙を舞う。


「まじ……かよ」


 兵士の体は、地面にめり込んだ。

 ほとんどのメンバーが顔面蒼白になっていた。

 しかし、そこに希望の声が通った。


「落ち着け! まだ勝てる! 魔法隊、俺と攻撃隊の攻撃力を上げてくれ」


「はぃ」


 魔法隊は、震えながら呪文を唱える。


「あ!」


 杖から出た光は、何故か俺の方に向かってきて、杖と俺の体が光で繋がった。


「すみません! 間違えました!」


 クマガリさんは優しく言う。


「いいよ、落ち着いて。もう一回頼む」


 今度こそ、光はクマガリさんと攻撃隊をまとい、全員で一気に足を攻撃する。

 攻撃力上昇と、さすがのクマガリさんの力で足を一本切り落とした。


「次! いけるぞ!」


 その瞬間、足を切られたクラーケンが今まで以上に暴れだした。

 揺れる地面。

 ふと顔を上げると、


「あぶない!!」


 俺の声は届かない。

 攻撃隊の一人の体を、天井から降ってきたつららが突き刺す。


「ぐふっ」


(うっ)


 初めて見る、光景。

 レベル1しか知らない俺達にはハードすぎる。

 横では、ユニが吐き気を模様し、カリスは手で目を隠していた。

 兵士の死体に驚愕する攻撃隊達。

 そんな攻撃隊を見てクマガリさんが言う。


「見るな! 今考えることは、こいつの足を切り取ることだ!」


 それを聞き、攻撃隊たちも腹をくくる。


「私達もやらなきゃ」


 そう言って魔法隊も、攻撃に加勢する。


「ねぇ、俺達は何もできないのかな……?」


 ユニが震えながら言う。

 すると、ユニは立ち上がり、回収用ナイフを持って走り出す。


「まてっ!」


 俺はユニを追いかけて言う。


「お前のボロボロナイフで何ができるんだ! 俺に任せろ。今なら攻撃力もアップしてる。クラスCぐらいにはなってるはずだ」


 ユニの腕を引き、こけさせる。


「セト! なんで!?」


「カリスにも言っとけ、お前らは生きて、もっと鍛えて強くなって、クラスAになれ! ってな」


 泣いているユニに、俺は笑って言った。


「じゃあな」


 ユニに行かせるわけにはいかなかった。

 ユニには病弱な母親がいる。

 稼いだ給料の殆どを、母の看病のために使っていることは知ってる。

 だからボロボロのナイフを買い替えられないのも知ってる。

 親もいないし守るものも何もない俺とは、背負っているものがまるで違う。

 「守る」に憧れてなった職業。

 最初で最後の守る相手がお前でよかったよ……ユニ。


 よしっ!

 ダンジョンに入って三十分は経った。

 レベル1の最高討伐時間は二十分程度。

 生存確認をする兵団の役員も異変に気づくはず。

 助けが来るまで、コンマ一秒でも俺が時間を稼ぐんだ。


「セトくん!」


 クマガリさんが驚いたような顔で俺を見る。


「俺もやります! 攻撃力アップの効果が結構効いてるみたいで、今の俺なら少しは戦力になるはずです。助けが来るまで持ちこたえましょう!」


「セトくん……よし、お前ら! クラスDのセトくんがここまで腹くくってんだ! 死ぬ気で行くぞー!」


「「おぉー!!」」


「ありがとうセトくん、君のおかげでみんなの士気が上がったよ」


「ありがとうございます!」


 メンバーの調子が上がり、一本、二本と順調に足を切り落としていく。

 しかし、怒ったクラーケンが俺達に絶望を与えてくる。


『ギランッ』


 クラーケンの目が突然光り、太陽を直視したかのようにメンバーの目をくらませる。

 攻撃をできるだけくらわないようにしゃがむ。

 目が見えない中、近くで何か重い音が聞こえた。大砲のような音。


「なんだ!? みんな大丈夫か!」


 クマガリさんが心配そうな声で言う。

 そして数秒後、だんだん周りが見えてきた。

 ふと部屋の壁を見ると、さっきまで横にいた攻撃隊の一人が壁にめり込んでいた。


「やばいな、このままじゃ、全員……」


 クマガリさんが唇を噛んで言う。

 すると、横から誰かの声が聞こえた。


(?)「くっ、まだかよ」

 <モンスターの種類について>


兵団が種類を三つに分けています。

・ノーマル種(ウルフ、ゴブリン、など)

・進化種(ダークウルフ、ゴブリンライダー、など)

・???種

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