1. 最下層の兵士
クラスD兵士、セト。
民を守る兵士の最低クラスに位置する。
憧れて成った職業だが、同時にセトには向いていない職業だ。
しかし、クラスDには、レベルの低いダンジョンが任されるため、命の危険に侵されることは一度もなかった。
聞くところによると、最高レベルのダンジョン、いわゆるレベル5やレベル4では、たまにクラスB、クラスAの兵士が死んでいるという。
たしかに、レベルの低いダンジョンは安全だが、その分もらえる硬貨は少ない。正直言って普通の民と同じくらいの給料だ。いや、兵士は武器や防具の手入れ、回復薬などに費用が結構かかるので、正直言って使える額は普通の民よりも少ないのかもしれない。
クラスAともなると、ダンジョンに一回潜るだけで金貨数枚はもらえるらしいが、そんなことは夢のまた夢。
セトには、とりあえずたくさんのダンジョンに参加し、できるだけ多くの硬貨を稼ぐことしか頭にない。
そして今日も、レベル1のダンジョン討伐に参加するセトだった。
*
俺がダンジョンに着いたときには、既に十一人の兵士が集まっていた。
「おーい、セトー。待ってたよー」
「おそいわよー」
見ると、同じクラスDのユニとカリスがいた。
二人とも昔からの幼馴染だ。
カリスに少し説教され、俺以外は全員集まっていることを知らされる。
今日のレイドメンバーは十二人構成なようだ。
レイドメンバーは二十人構成が普通なのだが、レベル1は十人程度で十分だと言われている。
話していると、屈強な体つきのクマガリ兵士が歩いてきた。
「おぉ、来たかセトくん。じゃあ行くか、くれぐれも怪我すんなよ(ニコッ)」
クラスDの俺達が生きていけるのは、いつも参加させてくれるクラスBのクマガリさんのおかげだ。
兵士の中では、クラスDは『足手まとい』と呼ばれている。
兵士というのは、戦闘に自信のある奴らがなる職業だ。
戦闘に向いていないのに兵士になるようなクラスDが嫌われるのも無理はない。
給料的な面と、精神的な面で、兵士をやめていくクラスDは多い。
俺達のように『兵士』に憧れて強い気持ちで残るクラスDもいるが。
クマガリさんは、そんな俺達を気に入ったのか兵団本部のレベル1出現発表があると、俺達のために早めに取ってくれているのだ。
「今回は地下タイプかぁ」
「私、地下苦手だわ〜。虫が多いのよ」
洞窟のようなダンジョンを目の前にして、二人は言う。
ダンジョンのタイプは大まかに3つ。
地下タイプか塔タイプかゲートタイプ。
レベル1やレベル2、レベル3は主に地下タイプや塔タイプ。
レベル4やレベル5になってくると、異空間に飛ばされるゲートタイプが多い。
「そうかな? 僕は高いの苦手だから塔のほうがきついなぁ」
「男のくせにダサいわね〜」
他のメンバーがダンジョンに入っていることに気づかず、二人は話している。
「おいおい、クマガリさん達が待ってる。そろそろ入るぞ」
「もとは、あんた待ちだったのよ!」
「それはごめんって」
いつもどおり。そう、いつもと同じだった。このダンジョン以外は。
茶色い石でできているダンジョン。
少し湿った地面。
頭に何か落ちたと思い、見上げると、所々で水が滴り落ちている。
「地下ってなんでこう寒いのかねー、寒っ」
横で歩いているカリスは、両手で肌をこすっている。
「大丈夫か? 上着いる?」
「いらないわよ! 動けばどうせ暖かくなるし!」
どう考えても強がっているだけだが、こういう時のカリスには、あまり何も言わないほうが良い。
「はぁそうですか」
そんな雑談をしていると突然、前に歩いているメンバーが立ち止まった。
先頭にいるクマガリさんが、止まれ、と支持を出したようだ。
すると、グルルグルルという鳴き声が聞こえた。
前には薄っすらとウルフの群れの影が見える。
「ウルフだ! 魔法隊!」
ウルフを確認すると、すぐさま攻撃態勢に入る。
クマガリさんの指示により、魔法系兵士達がウルフに魔法攻撃を仕掛けていく。
魔法がウルフに直撃して、爆発する。
何匹か倒れている。
効いているようだ。
すると、二匹のウルフが横から走ってきた。
そこを見逃さず、「アタッカー!」とクマガリさんが指示する。
アタッカーが素早い動きで剣を振りかざす。
その剣は、ウルフに深い切込みを入れる。
順調にウルフを倒している。
ほどなくしてウルフの影が消えた。
俺達三人は見ているだけだが、いつ見てもモンスターとの戦いは胸が熱い。
クマガリさんにとってはウルフなんて弱キャラなのに、しっかり他のメンバーに指示し、本気で向かっているのを見て、クマガリさんの凄いさを思い知る。
「ユニ、セト! 早く行くわよ!」
カリスは、倒れたウルフのもとへ向かいながら、俺達を呼ぶ。
今までは俺達は何もしなかったが、ここからが俺達クラスDの役目だ。
戦闘では、ほとんど役に立たないので魔石回収が俺達の仕事だ。
魔石というのはダンジョンにいるモンスターの体内にある紫色の石で、様々なことに使われている、需要がとても高いものだ。
魔石回収はモンスターの体を切り裂く仕事なので、汚れ仕事だと嫌われているが、兵士の給料の半分はここから来ている。
兵士の給料はダンジョンから民を守ったという『防衛料』と、『魔石回収料』でできているのだ。
防衛料はダンジョンのレベルによって違うが、魔石回収料は取ったら取っただけ質と量に対応した額をもらえる。
レベルの高いダンジョンでは、兵士とは別に、魔石回収に特化した『回収班』が同行しているのでその人が回収するらしいが、レベル1では回収班を雇うぐらいの魔石が出ないので、兵士が自分たちでするのが普通だ。
だから、戦闘ができない分、俺達が魔石回収をする。
「僕、触るだけでだいたい魔石の位置がわかるようになってきたよ!」
「私のほうが早いけどね! ふんっ」
二人は、話しながら作業をすすめる。
「お前らは喋らずにできないのかよ」
「はぁ!? あんたが一番遅いのよ!」
「大事なのは速さよりもどれだけ魔石をきれいに取れるかだ、傷だらけの魔石は安値だから」
「わかってるわよそんなの!」
俺が思い描いた兵士の図とはかけ離れているが、これも民のためになっているのだと考えれば、誇りを持てる仕事だ。
回収した魔石を持って、クマガリさんのもとへ向かう。
カリスは、魔石を見て肩をすぼめている。
魔石の量が意外に少なかったのだ。
「まぁまぁ、まだモンスターはいっぱい出るから。クマガリさん、終わりました」
魔石を受け取ったクマガリさんは、他のレイドメンバーに進行の指示をした。
「「は〜い」」
この覇気のないメンバー達の返事が、レベル1の弱さとクマガリさんの安心感を物語っている。
ウルフの他にも、バット、スライム、蜘蛛の大群などが現れたが、クマガリさんの統率力により何事もなくモンスターを倒していった。
進んだ距離的に、そろそろボスの部屋が近い。
そう思いながら進んでいると、先頭が「行き止まりだ」と言った。
分かれ道があったか思い出すが、なかったような気がする。
メンバー達は不安なのか、ざわめいている。
それもそうだ。
ダンジョンには絶対に、ボスと言われるダンジョン内の一番強いモンスターがいて、そのボスを倒さないとダンジョンから出られないのだ。
ボスが倒されるまで、外からは入れるが、中からは出られないということだ。
ここで立ち止まっていても何も起きないからと、クマガリさんは引き返す指示をし、メンバーは先頭と後尾を入れ替えて来た道を戻っていく。
少し進むと、またカリスが口を開いた。
「なんか、また一段と寒くなってない?」
確かに、着たときよりも、少し寒くなっているような気がする。
「だから、上着いるかって」
「……いる」
カバンから一応入れていた毛皮の服をだし、カリスに渡す。
最初から素直に貰っとけばいいのに、と思うが、素直は素直でカリスっぽくない。
ダンジョンの中盤の方まで戻ってくると、先頭から「ストップ」の指示があった。
耳を澄ますと、風の音が聞こえる。
クマガリさんが風が出ているもとに近づき、こっちに振り向く。
風のせいで聞こえにくいが、集合の指示を出しているようだ。
クマガリさんのもとに行くと、クマガリさんは「ここを見てくれ」と指を指した。
見ると、ダンジョンの壁に少し穴が空いている。
「奥に何かありそうだ、魔法隊、爆発系を頼む」
俺達は少し離れ、魔法隊が魔法を壁の穴に向かって放つ。
爆発音とともに、壁がガレキになり、煙が舞う。
煙が消えてくると、その先に新しい通路が見えた。
すると突然、冷たい風が通路の奥から吹いてくる。
壁に塞がれていた通路なんて始めてみた。
他の兵士も戸惑いを隠せない中、クマガリさんは「たまにこういうダンジョンもあるんだよ」と言う。
不安を持ちながら、俺達は向かい風に吹かれながら進んでいった。
「うわぁー綺麗!」
この通路は、広い部屋に続いていた。
地面一面が氷で張り巡らされ、天井にはつらら、まるで氷の間。
その景色に気を取られ、俺達はは部屋に入っていく。
するとクマガリさんが叫んだ。
「みんな、止まれ! 何か聞こえる」
床の下を通る何かの音。
「床だ! 中央から離れろ!」
クマガリさんの掛け声をかき消すほどの大きな音で氷が割れる。
部屋の地面の中央部分が丸く割れ、下を見ると、水が満たされ湖のようになっていた。
「ふぅーあぶねー」
そうメンバーの一人が言うと、突然! その兵士が湖に引きずり込まれていった。
部屋に響く悲鳴の声。
皆が驚いた。
ほんの数秒後、落ちた兵士が湖から放り出されたように出てきた。
近くにいた兵士が声をかける。
「おい! 大丈夫か!?」
返事がない。周りのメンバーもざわつき始める。
声をかけている兵士が、脈拍を確かめ、まだ死んでいないことを確認する。
あの兵士は生きていたが、一気に空気が悪くなった。
ここがボス部屋だ、俺達は確信した。
数秒後、いきなり湖から水が沸騰したかように気泡がでてきた。
「離れろ‼」
クマガリさんがそう言うと同時に、湖から十数メートルの巨大な物体が水をおし上げて出てきた。
青い体、何本もの足、タコとイカを混ぜたような生物。
「みんな! ゆっくり集まれ……クラーケンだ」
<通貨、兵士の役について>
・この世界では全て硬貨でやりとりされている。
銅貨
銀貨……銅貨百枚分。
金貨……銀貨百枚分。
ちなみに、どの店でもだいたい、パンは銅貨十枚あれば買えるらしい。
・兵士はダンジョンに行く際、役として大まかに三種類にわけられる。
殴られ役のタンク。
剣や斧で直接攻撃を仕掛ける攻撃隊。
杖を持って魔法を使う魔法隊。
呼び方は色々あるが、種類は大体この三つだ。