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小悪魔天使は出会う

長かったので、前編と後編に分けました。そのせいか、少し短いかも・・・・。


  僕の名は、アルストロ・イルミス。イルミス公爵家の長男だ。


 自分で言うのも何だが、僕は天才だ。ある時父にそう言われてから、全てが腑に落ちた。

 なぜなら僕は現在6歳であるにもかかわらず、周囲の会話を理解し貴族社会の人間関係、裏事情すらも完全に把握することができるからだ。この子供らしからぬ喋り方もそれで納得してもらえるだろう。


 だが、そんな僕には一つだけおかしいところがあった。


  「人」というものに何の興味も持てないのだ。


 だって、人間なんて腹黒くて汚いものじゃないか。

 互いにうわべだけは笑顔で接していても、その仮面の下では相手をどう蹴落とすかばかり考えている。


 本当はそんな奴らと関わりたくないのだが、公爵家の跡継ぎという身分の僕は、自らが望まないのにもかかわらず媚びを売ろうとアリのように群がってくる奴らの相手をしなくてはならない。

 さらに僕は賢いからという理由で、かなり幼い頃から社交界に出され、人の悪意に触れ、もまれながら育った。

 そのせいで、人に対して何も感じなくなったのだ。

 ただ毎日、つまらない、退屈、を繰り返す日々。

 次第に、楽しいという感情さえなくなっていった。


 僕はそんな己を嫌悪した。家族さえも気にならない、どうでもいいと思ってしまう己に。



 そしてついにあの日、まだ空に星が残り、日も昇らない朝に僕は屋敷から逃げ出した。


最初は突発的に思いついて家を出てきたが、歩いているうちに僕は一体何をしているんだろうと思えてきた。



 


「全く・・・。僕らしくない」






 そうこうして歩いているうちに、森に入った。確かここは…アルダの森、だったな。

 

 この森の事は本で読んでいたため知っていた。確か本には、森の奥に行かない限りは資源が豊富で安全な土地らしいが、森の奥に行くにつれて、強くて危険な魔物が増えてくると書いてあった。


 そうぼんやり考えていると、目の前に洞窟があった。それも中にテーブルや椅子やベッドやらが備え付けてある。


 現在自分がいるところは森の最深部とまではいかないが、それなりに奥の方なので人が住んでいるとは信じがたい。だが、洞窟の中に入って痕跡を確かめてみるに、現在もなお人が住んでいるようだ。


 それも、家具の大きさからして大人ではなく子供・・・?いや、でもこんな危険なところに子供1人で住んでいるなんて有り得ない。


 深く考え込んでしまったからか、気づいたときにはもう日が昇っていた。すると、近くの茂みがガサガサと鳴った。ここの住人が帰ってきたらしい。

 僕は即座に子供モードに切り替えた。


 椅子に座りかわいく素直な子供を演じて待っていると、そこにやってきたのは自分より1つ上ぐらいの幼い女の子だった。身長から見てもおそらく7歳だろう。


  なんでそんなに小さい子がここに・・・?親は?捨て子なのであろうか?


 だが少女の身なりを見るに、平民では一生働いても絶対に手に入らないであろう高価な宝石やアクセサリーを身に付けている。服装も、一見地味に見えるが素材の質は相当良い。

そんな子がなぜここにいるのか。


 ・・・訳ありか。


 そしてその少女は、僕を見るなりなぜか固まった。


  「?」


 僕は人に興味がない分、僕には相手の感情がわからない。そのため疑問に思って少女を見つめていると、少女はハッとしたように再び動き出し、優雅に微笑んで僕の名前を聞いてきた。

彼女は僕にお茶を出してくれたが、その動作すら、(しと)やかで品がある。きっとどこかの貴族か大商人の娘だろう。



  「わたしはロゼット。あなた、名前は?」


  「・・・・ソ、ソルです。」


一応警戒をして、とっさに偽名を名乗った。


 なに?『さっきと喋り方が違う!』だって?

 当たり前だ。この見た目のせいもあり、子供っぽくしている方が怪しまれず、楽に生きることができるからだ。

 利用できるものは全部利用しなくては、黒いものが渦巻く貴族社会では生きていけない。


 それよりこの少女はロゼットと言うらしい。名乗った後、彼女は少し体をずらした。そのおかげで今まで逆光となり見えなかった姿がよく見えるようになり、その美しい姿に思わず見入ってしまう。


 夜空の星を散りばめたかのようにキラキラと輝く、絹よりも滑らかな銀の髪に、すべてを見通すような深く、美しい翡翠(ひすい)の瞳を持っていた。


 


      そう“翡翠”のだ。




 翡翠の瞳を見て僕の脳裏に真っ先に浮かんだのは、【カーラインの翡翠】だ。古くから続く血脈と代々受け継がれている莫大な財産。今も昔も変わらず、国内では大きな権力を有している。



 そんなカーライン家独自の特徴とも言えるのが翡翠の瞳だ。この瞳を持つ者は、カーライン家の直系血族の者のなかにしか現れない。

 翡翠といっても緑だけではなく、宝石の翡翠のようにラベンダー色や薄い青などもある。比較的そちらの色の方が現れやすく、カーライン家のものでも緑の目を持つものはほとんどいない。

 現カーライン家当主の目も緑っぽいが、どちらかといえば青だ。

 

 だが今回生まれた長女は緑の目をしていた。緑に近いほど魔力が多く、才能があることを意味しているなか、他の色が一切入っていない完全な緑の目を持つ彼女が生まれた時は、驚愕に包まれたという。


 そんなカーライン家に、最近とある噂がある。


 カーライン家長女のロゼット・カーライン令嬢が何者かに攫われた、と。


侯爵家の令嬢が攫われたなんて(おおやけ)にできないことだから、公表されてはいないがおそらく事実だろう。

 そこでこの少女が現れた。年も同じくらい。名前も一致。そして最大の特徴である翡翠の瞳を持っている。


 

    

               間違いない――――――――――――。







  彼女こそが

         

            “消えた令嬢”



   ロゼット・カーライン侯爵令嬢だ。


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